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月曜九時のシンデレラ

登場人物一覧

レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)
蒼剣
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子

●シュミレーション・ドラマ
 その日、ドラマ・ゲツクは憂鬱だった。
 いや、厳密に言えばその可愛らしい眉根を寄せ、難しい顔をした彼女は決して嫌がっている訳では無い。
 唯、圧倒的に分からなかった。

 ――約束、明日な。丁度暇だから付き合えよ――

 ローレットのギルドマスターにして成り行き上始めた剣術(らしきもの)の師匠であるレオン・ドナーツ・バルトロメイの言葉は、薄々それを覚悟していたドラマに改めて衝撃を与える事となっていた。
 調べれば誰でも分かるような通り一遍の知識なら持っている。言葉自体は知っている。

 デートとは、日時や場所を定めて男女が会うこと。
 具体的には、一般に食事、ショッピング、観光や、何かのイベント、夜景などを楽しむ、といった内容であることが多いが、これらの行為そのものよりも、それを通して互いの感情を深めたり、愛情を確認することを主目的とすること。

 魔法の箱を使うまでもなく、叡智の捕食者たるドラマさんは賢くそんな事は百も承知である。
(……しかし、これはそういう問題では。ええ、そういう問題ではないのです……)
 だが、実際の所――デートの作法何て分からない。
 深緑(アルティオ=エルム)の森の中で過ごして100年。
 男の子と遊んだ事は無かったし、第一実際興味も無かった。
 誰が呼んだか102歳児とも称される純真無垢なる彼女の事、生真面目なその性質も相俟って『想像もつかぬ未知』に対して難しい顔をするのは仕方のない事実なのである。
 難しい顔をしたドラマは時間を確認し、まだ待ち合わせまでは幾ばくかの余裕がある事に安堵した。
 諸問題は一つずつ片付けるべきなのだ。まずは、ええと……
(そう、レオン君の最初のオーダーは『可愛くお洒落をしてくること』でした)
 ドラマにとって最初の問題は比較的簡単だった。
(レオン君の事ですから……)
 きっと布地を減らしたら喜ぶに違いない、と思うけれど。
 それは余り好みでは無い。となると、私が可愛いと思う服だけれど、とドラマは逡巡する。
 例えば、そうだ。コレを着て行ったら、きっと――こんな風だ。

 ――こんな恰好をしてみましたけど、どうでしょうか?

 ――ああ、いいね。オマエらしくて可愛いよ。

「……っう、くっ……言いそうです……」
 心臓に悪いから辞めてほしい。
 咳払いをしたドラマの顔は自然と赤くなっていた。
 最近暑いからだけど、きっとそれだけだけれども。確かにレオンは自分の好みに関わらずそんな風に言うだろう。
 なので、この問題は解決とする。何か問題でも?
(そう、次です。次はええと、デートの作法……でしたっけ)
 第二問目は厄介だ。
 レオンは意地悪なので、時に難しい事を云う。
 以前、話をした時は「誘いやすい顔をしろよな」とか無茶な事を言われた記憶がある。
 あれで立場のある人だから、相手が『万が一にも乗り気じゃない』と困るから、なのだろうが。
(私は別に乗り気でも……)
 自分で考えて自分で言い訳めいてみるドラマの百面相は忙しい。
 レオンが見ていたら間違いなくからかわれるそんな彼女の可愛げは一つの寄る辺を見つけ出した。
(そうだ、本には確か――)
 小説に御伽噺。経験は無くとも、幾らでも参考に出来る話はあるではないか。
 大好きな本の中で――恋人達は一体どんな風だっただろうか?
「……」
 恋人達は。
「……………」
 こいびとたちは。
「……………………こ、こいっ……」
 言葉の途中で絶句したドラマはぶんぶんと頭を振った。
 あの師匠は基本的には碌でもない。目につく可愛い子――自分は兎も角――には息をするように「デートしよう」だの何だのと言っている。従ってこのデートはデートであっても恋人とかそんなものではなく、ああもう。
 目がぐるぐるのアイコンを参照すべきな程に煮詰まったドラマはもう一度頭を振った。
 恋人は兎も角、デートの作法というものは中々の難題である。
 円滑なコミュニケーションを図り、互いに楽しい時間を過ごせるようにすればいいのか。
 例えば、そうだ。きっと、こんな風に違いない――

 ――あの、レオン君。私は、その経験が無くて……作法というのは良く分からないのですが。

 ――ああ、いいよ。気にすんな。全部俺に任せとけ、今日は損はさせないから。

 ――ありがとうございます。でも、退屈させたら困るかな、と思って。

 ――あのねぇ。小鳥ちゃんを足に止めるのはリードする男の甲斐性なのよ。それに。

 ――それに?

 ――本当に、オマエと一緒で、俺がつまんないと思う?

「……っ、くっ……」
 心臓に悪い。
 心臓に悪いから辞めてほしい。
 言いそうで、余りにも言いそうだった。
 息を吐くようにとんでもない台詞を投げかけて来る、その癖、こちらの反応を見ては意地悪をする人なのだ。
 そういう人なのだ。今日は暑いし、そういうのは真に受けないに限る、と。
 ドラマはすーはーと二度、三度深呼吸をした。
 気が付けば約束の時間までもうすぐである。
 服は決めたし、作法はレオンに丸投げすれば良いと(半ばやけ気味に)開き直った彼女は一人小さく呟いた。
「別に乗り気でもないですけど、別に……」
 言葉の後半は掠れて聞こえない。
 聞いたのは彼女の部屋を埋め尽くす――彼女が大好きな本達だけだ。

●シチュエーション・ドラマ
「――ああ、いいね。オマエらしくて可愛いよ」
「……どうも、ありがとうございます」
 昼下がりのレガド・イルシオン。
 日常たるローレットから離れて『待ち合わせ』をするのはいよいよ非日常を感じさせるワン・シーンである。
 何時もの何処か野性味のある――ついでにだらしない雰囲気とは打って変わり、今日のレオンは実に晴れやかで小ざっぱりとしたものだった。服装等は何時もの延長線上で変わらないが雰囲気が違うのはデートだからなのだろうか、とドラマは一人考える。
「……本当に言うのですね」
「あん?」
「いえ、こちらの話です」
 シミュレーション(笑)はどうやらそれなりに的確だったようで、そんな事実にドラマは少し安心してしまう。
(多分)薄着のリクエストだから、と一応汲んで。『暑いから』少し薄手のワンピースを着たドラマもまた、本人に自覚があるかどうかは別にして何時もよりは華やいだ雰囲気だった。
 そんな『おめかしした』彼女を少し眩しそうに、目を細めて眺めるレオンは満足そうである。
「それで、今日はどうするのでしょう?」
 その、経験が無くて……と続ければ想像と似たような展開になりそうだ。ドラマは、だからしない。
「ま、一応アテはあるからな。任せときなよ」
「上手にリードして下さいね」
「信用出来ない?」
「信頼はしています」
 信用と信頼が別物なのは良く言う話だ。
 しかし、こればドラマの言葉遊びである。実際の所、信用もしていたりする。
 ……と言うよりも他ならぬ彼女のこと。レオンがレオンで無ければ『デート』なんて――
「ほら」
「……はい?」
 腕を差し出すレオンにドラマは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。
「えっと、それは、どういう……」
「デートだからな。腕位組むもんなの。それとも手でも繋いどく?」
「……っ……」
 平然と言うレオンにドラマは軽く息を呑んだ。
 賭けてもいい、これは彼の手管で意地悪なのだ。
 短い付き合いだけど――そう短くも無い気がする程にそんな事は分かっている。
 狼狽える自分を見て、きっとあの意地悪な――悪戯っ子のような顔で笑うのだ。
 だから、そんな事は許さない。
「……分かりました」
「へぇ?」
 手を繋ぐよりは腕を組む位の方がやりやすい。
 覚悟を決めたドラマが不恰好に自分の腕を取る――と言うより下手くそ過ぎてしがみつくに近い――のを眺めたレオンはそれはそれで満足そうに「くくっ」と笑い、
「じゃ、行くか。お姫様」
 そんな風に彼女に告げた。

●ドラマ・クライマックス
 果たしてドラマ・ゲツクなる102歳児にとって初めてとなった『デート』なるものは楽しい時間になった。
 不良でやくざ不真面目極まりない気配り屋――何ともややこしい属性を持ったレオンは、ドラマが何を好み、何に喜ぶかをやはり熟知していたのだろう。
 ギルドマスター等やっていると情報も早いのだろう。レガド・イルシオンの裏通り――知る人ぞ知る露天市はラサのサンド・バザールには遠く及ばずとも、中々興味深い品物が揃う場所であった。
「特に今日は良かっただろ」
「……はい」
「今日は珍しい古本が集まってるって聞いたからな」
 小さな胸に一冊の本を抱くドラマは何事でも無いかのようにそう言ったレオンの横顔を見上げた。
 彼は昨日こう言ったのだ。

 ――約束、明日な。丁度暇だから付き合えよ――

 丁度、暇だからなんて。最初からそうすると決めていた癖に。
 自分に設えたような場を用意しているのだから、そうに決まっているのに簡単にそう言う。
「ま、別に損はしなかっただろ」
「……分かっていて、聞かないで下さい」
「生憎と性分でね。オマエに言わせると楽しいだろ」
「すぐそういう……」
 ドラマは唇を尖らせてから不意に小さく噴き出した。
 嗚呼、もう馬鹿馬鹿しい位に――最初から嫌ではなかったのだ。難しい問題を解く事も、こうしてからかわれる事も。師匠がどれ位本気かは知れないけど、嫌な筈は無かったのだと――自分でも呆れ返る位に遅く、遅く。今更気付いて、逆におかしくなってしまったのだ。
「困った顔もかわいーね」
「はいはい、そうですね」
「拗ねた調子も、これまたいい」
「レオン君が誘う位ですからね」
 何時になく丁々発止と言葉を返すドラマにレオンは少し驚いた顔をしていた。
 彼にそんな顔をさせた事が少し誇らしく、溜飲を下げたドラマはそれが嬉しい。
「レオン君は年上を少しは敬うべきです」
「年上、ね」
「……何ですか」
「何でも」
 他愛のないやり取りは楽しく、全く気楽で――デートの緊迫は何処へやら。
 日常の延長にあるそんなやり取りも得難く、何とも良いものだった。
「さて、お姫様。この後は」
 時間も少し遅い。そろそろ夕食の時間も近いだろう。
 ドラマの知識の中ではデートとは食事を共にするものと分かっている。
 さりとて。
「飯は何処で食うか。あ、それとも俺の部屋とか来る?」
「部屋で食べるのです? 別にそれでも良いですけど」
「うん、いい返事だ。オマエらしい。でもそこそこそれはあぶねーからな?」
「――――はい?」
 食事を共にするものとは知っていても、その先がどうとかそういうのは一切関知しない未知の世界だ。
「俺はあんまり真面目じゃないからね。そうそう、アレだよ。
 ロレトレでオマエには護身を学べって教えたよな。それで剣術の真似事を仕込んでる訳だが。
 究極的に言えばこれもその延長かねぇ。102歳児に教える、悪い大人に安心してついていっちゃいけません――」
「――――」
 ここまで言われて初めてドラマは『その可能性』に気が付いた。
 顔を赤くした彼女は「もう! レオン君!」とポカポカと分厚い胸を叩いていた。
 彼女とて、分かっている。そういう気ならレオンは敢えて口にすまい。
 故にこれは戯れで、故にこれはデートの一幕に過ぎず。
 故にこれは――

 ――まだ、きっと。自分がからかう対象に過ぎないという事実で。

「ご飯は、お店で頂きましょう!」
「はいはい、店は用意してるから期待してなよ。そう苦手なもんは無かったよな」
 予想通り、そんな風に言うレオンにドラマは小さく嘆息した。
 現実はドラマみたいに甘くない。
「また、デートしような」
「……」
「あれ? 嫌なの?」
「……嫌では、ないですけど……」
 ……いや、実際の所。ドラマよりも甘いのかも知れなかった――

  • 月曜九時のシンデレラ 完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 難易度
  • 冒険終了日時2019年05月31日 02時20分
  • 登場人物2人

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