PandoraPartyProject

SS詳細

そして友となる

登場人物一覧

耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
猪市 きゐこ(p3p010262)
炎熱百計

●その出会いは突然
 まさか、こんなことになるなんてね。
 猪市 きゐこ(p3p010262)は『あの日』を思い出せば、いつもそんな思いを抱いてしまう。まさか、自分が異世界へ飛ばされてしまうなど、あの日実験をしていた自分は思いもしなかった。蒸気の世界でいつもどおり魔術実験をして、何だかいけそう……! と思ったけれど、結果は失敗。こうして違う世界に飛ばされていなければ、きゐこはどうなっていたことか――。
 浮かびかけた思考を、ふるりとかぶりを振って追い払う。身体の弱体化や環境の違いがあるけれど、きゐこはこの混沌という世界に。そしてそれはもう、なのだ。過去を振り返るよりも、大切なのは今をどう生きるか。新しい場所での生き方を探ることや、この世界でしか知り得ない知識を集めることの方がきゐこの性にもあっている。何故ならきゐこは根っからの叡智の探求者知りたがりなのだから。
「何をするにもまずは知識よね~」
 知識は力である。軽い足取りで幻想王国の石畳を蹴ったきゐこは手を伸ばし、今日も情報を集めるべくローレットの扉を軽やかに開けた。
 様々な情報は、ローレットに集まってくる。この地に来てから人に尋ねて回ったところ、どうやら自分と同じ特異運命座標イレギュラーズと呼ばれる人たちがローレットなる酒場ギルドへと集まっているという事を知った。そしてそこで得られるのは実に膨大な知識であった。依頼の報告書を読み漁れば、この世界で起きた過去の事件、そしてこの世界に住まう様々な人々の事を知ることが叶った。
 この種族が先日道端で見掛けた人かしら。特徴が一致するわ。……この特徴の人はまだ見たことがないわね――と調べるうちに、きゐこは鬼人種ゼノポルタという種族が居る事を知った。
 鬼。その言葉はきゐこにとっても縁深い。自然と伸びた手が自身の小さな角へ触れたのは、鬼人種の特徴にも角があると記されていたから。
 惹かれた興味出来れば会ってみたいと思った好奇心そして違いを知りたいと思った知識欲
「えーっと、ローレット登録者で一番活躍されている鬼人種の人は……」
 受付で借り受けた報告書をめくれば、何度も目にする名前があった。
「うんうん、この人が強そうね♪ 依頼をよく受けている練度の高い人ってことは、ローレットにもよく顔を出すのかしら?」
 偶然会えたら嬉しいし、話を聞かせてもらえたらもっと嬉しい。
 けれど人探しをするには知っておくべきことがあった。
「それにしても……澄んだ、恋? 何と読むのかしら?」
「すみれ、と読みます」
「すみれさんかぁ~」
 これで名前を呼ぶことが出来るし、他の人にも『澄恋さんを見掛けませんでしたか?』と尋ねることも出来る。
 教えてくれてありがとうございますと告げようと、きゐこは振り返り親切な人を見ようとした。
「はい、わたしが澄恋です。わたしに何か御用でしょうか?」
 白無垢を纏う乙女の頭上には、綿帽子からは大きくて立派な角が覗いて。
 にこりと柔らかく微笑むかんばせに、きゐこは思わずヒュッと息を飲み込んだ。

 まさかのご本人ーーーーーーーー!?

 びっくりした。それはもう。
 いやだって、会えたらいいなとは思っていたけれど、真後ろに居るだなんて(しかも本人に名前の読み方まで教えてもらうだなんて)予想外もいいところだ。
 驚きに寸の間固まっているきゐこを澄恋(p3p009412)はじいっと静かに見つめている。大きな紫水晶アメジストのような瞳は魅力的で、きゐこは吸い込まれるような心地となった。この淑やかさを体現したようなひとが屈強な鬼人種ゼノポルタとは信じがたい。それに、いい匂いもする気がする……って、ハ! いけないいけない! お待たせしているのだわ!
「わ。えっと、初めまして、すみれさん! 私、あなたに聞きたいことがあって、良ければ教えて……あっ、順序が逆ね。時間は空いているかしら? 良ければ色々と教えてもらいたい事があるのだけれど!」
 流石に心の準備ができていない。慌てながらも時間を貰えないかときゐこは問うた。
「あっ、勿論、今日が難しければ気軽に断ってくれていいの。また後日、暇な時にでも教えてもらえれば……」
「大丈夫ですよ。この後の時間は空いております。か弱いわたしでもこなせる依頼はないかと見にきたのですが、どれもわたしには難しいものばかりでしたので……」
 頬を押さえて瞳を伏せる澄恋はいかにも儚げで。
 儚げだからこそ、きゐこは少しアレ? と違和感を覚える。この人、かなり強いはずなのでは? か弱い? か弱いってなんだっけ? 報告書が間違っているの?
 頭の上に疑問符が沢山浮かび上がるきゐこの眼前で、やはり澄恋は嫋やかに微笑む。
「わたしでお答えできる事でしたら、お答えいたします。ええ、実はわたし、質疑応答には少し慣れているのです」
 勿論、婚活的な意味で。互いの自己紹介、趣味や特技等の話は必ずするので慣れている。
 しかし、きゐこはそれを知らない。先程浮かんだ疑問は何処かへ消え去り、嫌な顔ひとつせずに微笑む澄恋はなんと出来た女性なのだろう……ときゐこはパッと表情を明るくした。
「本当? 良かった! それじゃあ、何から聞こうかしら?」
「あの」
「なぁに、すみれさん」
「もし宜しければ、甘味を口にしながらお話しませんか? 実は……誰かと行ってみたいなと思っていたお店が近くにあるのです」
 話をすれば喉も乾くことだろう。良ければと微笑む澄恋の提案に、きゐこは勿論と大きく頷くのだった。

●この出会いは必然
 先導した澄恋が足を止め「こちらです」と示したのは、ギルド・ローレットからもほど近い場所に位置するパンケーキ専門店であった。外観はこの王都の町並みから外れない、白塗りの西洋風の佇まい。ナチュラル色の強い木枠に嵌められた窓は大きく、落ち着きのある店内の様子をよく見せてくれる。通りに面した出入り口前には小型の黒板が置いてあり、手書きイラスト付きで『本日のおすすめ:三種のチーズのフロマージュパンケーキ』等と記されていた。
 客が入りやすい工夫がされているせいか、食事時を外した時間帯であっても店内はそれなりに賑わっている。
「私は『本日のおすすめ』のフロマージュパンケーキをお願いするわ♪」
「わたしはこちらの苺のをお願いします」
 注文が来てから焼くのでお時間頂きますと告げた店員へ先に紅茶を持ってきて欲しい旨を告げ、ふたりは自然と眼前に腰掛けた相手を見つめた。
 ぱっちりと開かれた紫と、目深にかぶったフードの下からチラリと見える紫。
 綿帽子から覗く長い立派な突起と、緑のフードから覗く小さな突起。
 似ているようで異なる個性を持つふたりは『オニビト』と『鬼人種』。住んでた世界も異なる、列記とした異なる種族だ。
「改めて自己紹介させてもらうわね! 私は猪市 きゐこ。こことは異なる世界……蒸気の溢れる世界から召喚されてきたオニビトよ」
「まあ。蒸気、ですか?」
 豊穣にはない文明だ。澄恋は脳裏にヤカンやお鍋から立ち上る湯気を思い浮かべた。他国で蒸気で動く機械を見ていたとしても、あまり身近なものではない。
「それで、まだこちらに来たばかりの私には知らないことが多くて……鬼人種の事や混沌の事、それからローレットの仕事の事を教えて貰えると嬉しいわ!
 第一に知りたいのは勿論鬼人種のことだ。だから教えてくれそうな鬼人種のひとを探していたのだと、きゐこは澄恋に明かした。
「そういうことだったのですね。では、わたしの知っている範囲での鬼人種のことをお教えいたしましょう」
 そうして澄恋の口から語られるのは、神威神楽の話。
 鬼人種と精霊種の話が掻い摘んで語られれば、きゐこの瞳はフードの下で丸くなった。話の途中で店員が紅茶を置いていったが、話にのめり込んでいたきゐこは全く気にならなかった。
「そういった訳で、わたしも外の国へ来たのはそんなに昔ではありません。一年と少し前くらいでしょうか……。きゐこ様よりも少しだけ先達、ですね」
 イレギュラーズになってからは、澄恋は旦那様を求めて外つ国を渡り歩くようになった。ローレットで気になった依頼を受け――けれども世界はか弱い女性が一人で生きていくには厳しい。
「生き抜いていくために色々とやっていましたら、良い経験も積めました」
 その過程の報告書があなたの目にも触れたのでしょう。
 ふわりと花咲くように柔らかく微笑んだ澄恋が紅茶へと口をつけ、話を置いた。
「オニビトと鬼人種……特徴は似ているのに、在り方は違うのね。ちなみに私の種族オニビトは、元世界での……多分、略奪者で妖怪な鬼が根源なのかしらね?」
「略奪者、ですか?」
「ええ、きっと。昔、昔の話。ご先祖様のお話ね」
「きゐこ様は、元の世界ではどんなことをしていらっしゃったのですか?」
「私は魔道士をしていて、魔術の研究をしていたわ」
「魔術……魔法、ですか?」
「興味があるかしら?」
「ええ、少し」
 紅茶へと花唇を落としていた澄恋がゆっくりと茶器を降ろし、唇を淡く開いた。
「わたしはプロの花嫁なのですが」
「ええ」
 姿からしてそれっぽい。きゐこの知らない衣装だが、花嫁が白を纏う文化はきゐこも知っている。プロとは? と思わなくもないが、世界が違えば色々と違うのかも知れないので、きゐこは浮かびかかった疑問を飲み込んだ。
「それで、結婚するために運命の相手である旦那様を人体錬成でつくろうとしておりまして」
「ちょっと待って?」
「はい?」
「ちょっと聞き間違えちゃったみたいだから、もう一度言ってもらってもいいかしら?」
「ええ、良いですよ。結婚するために運命の相手である旦那様を人体錬成でつくろ」
「待って。待って。旦那様を? 人体錬成?」
「はい」
「結婚するために?」
「はい」
 問う度に、澄恋はさも当然な顔をして頷いた。理想の旦那様が世界に居ないのなら、理想の旦那様は己が手で作るもの。間違いない。
(聞き間違えじゃなかったわ!?)
 共通点を見つけた気がして少し舞い上がってしまったことを、きゐこは後悔した。この話題は掘り下げるべきではなかったのだ……!
 しかし、天はきゐこのことを見捨てなかった。「お待たせしました~」の声とともに女神が現れ、ふたりの眼前にふっかりと焼かれたパンケーキを給仕していったのだ。
「わあ、とっても美味しそうだわ♪」
「温かい内に頂いてしまいましょう」
 話題と空気を切り替えることに成功したきゐこは笑顔でパンケーキを切り分け、とろりとフロマージュが溢れるパンケーキを一口。
「美味しいわ!」
「ふふ。こちらも美味しいですよ、きゐこ様」
 誘った店に素直に喜んでくれたのが嬉しくて、澄恋は紅茶に溶けた砂糖のように甘く微笑んだ。
「よければ、一口召し上がりませんか?」
「素敵な提案ね、すみれさん! ――って、えっ!?」
 きゐこが是を唱えれば、早速切り分けた一口を澄恋が。流石プロの花嫁。食べさせてくれるようだ。
 フォークへと顔を差し出そうとするとフードの下から顔が覗いてしまう。それが恥ずかしくて瞳を伏せながらも、きゐこは生クリームがたっぷり乗ったパンケーキを頂いた。
「ん、おいしい……。ではすみれさん、こちらもどうぞ」
 その味は羞恥心に耐えて口にしただけの価値はあった。お返しにきゐこは自分のパンケーキを切り分け、澄恋を真似て「あーん」の形で差し出した。
「ありがとうございます」
 髪を押さえた澄恋が瞳を伏せて口を開け、口内へとパンケーキを迎え入れる。その僅かの間に見えた歯に――、
「すみれさんの歯は鋭いのね」
 私は八重歯なのと何気なく口にしたつもりが――澄恋はパッと袖で口元を押さえた。
 顔が、真っ赤だ。
「あ、ごめんなさい……?」
「いえ、その、恥ずかしくて……」
 両袖で赤くなった顔を隠しつつ、ツツ、と視線を反らす姿が可愛くて。
「実は私も、」
 身体や角が小さいことがコンプレックスなのだと、会ったばかりなのに明かしてしまう。出会ったばかりの他人にこんなこと、普段だったら絶対に言えやしないのに。
「わたしたち、気が合いそうですね」
 柔らかく菫色が細まって、咲う。
 その後もふたりは、異なる種族のこと、異なるふたつの世界のことを語り合う。
 いつしか好き苦手を語り合う頃には、ふたりは――。

  • そして友となる完了
  • GM名壱花
  • 種別SS
  • 納品日2022年03月10日
  • ・耀 澄恋(p3p009412
    ・猪市 きゐこ(p3p010262
    ※ おまけSS『本日のパンケーキ』付き

おまけSS『本日のパンケーキ』

●三種のチーズのフロマージュパンケーキ
 三段重ねの猫の顔型パンケーキに、三種のチーズのフロマージュがふんだんにとろりと掛けられている。チーズは濃厚だが、くどくなりすぎないのはソースに合わせて焼かれたパンケーキがほのかに甘いため、甘さと塩っぱさがマリアージュしているからだろう。
 ミントの葉のとなりには、小さなシロップ容器。中には金色のシロップ――蜂蜜だ。チーズに飽きてきたら掛けると味変になる。常連客は初っ端から掛けるし、オプションで蜂蜜追加もしているようだ。

●春風のストロベリーパンケーキ
 三段重ねの猫の顔型パンケーキに幻想産『こいおとめ』を惜しみなく並べ、店主が何度も改良を重ねたストロベリーソースがとろりと掛かっている。甘酸っぱいソースは塩気を足して焼かれたパンケーキとよく合い、隣に山のように盛られている生クリームを添えても最高だ。
 こちらにもシロップ容器がついている。中身は二段目三段目用のストロベリーソースと、メープルシロップ。たっぷり掛けて染みさせて食べるのが美味だと、常連客からの人気が常に高いパンケーキ。

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