寝息の聞こえる距離で

登場人物一覧

「おやすみボディ」
　スリープモードに入ったボディの黒髪を撫でる。
　ここの所、どうも調子が悪いように思えてならないのだ。
　屍機の姿から雛菊へと変化出来る様になって、うまくコントロールが行かない部分があるのかもしれない。
　人間だって季節の変わり目で体調を崩すものだ。ボディだってそうかもしれない。
「こっちの方が熱計りやすいか」
　そっとボディの額に手を当てる。屍機の時よりも少し温度が高いような気がした。
　子供は眠くなると体温が高くなるけれど、ボディはどうなんだろうかと首を傾げる。
　サラサラと流れる黒髪。その隙間に見える長い睫毛と整った顔立ちを可愛いと思う。
　布団の隙間に見える大きな胸も白い肌も美しいと思う。
「……」
　けれど、ボディは俺の親友で男だ。
　俺が守ってやらなくても大丈夫な程、強くて賢い。俺にとってのヒーローだ。
　大切な憧れ。失いたくない人。
　雛菊の姿になっていると、そこへ更に湧き上がる感情がある。
　それを言い表す言葉が見つからない。
「……重いわ」
　自分の思考が重くて嫌になる。こういうのは苦手だ。適切な距離感が分からない。

　小さく溜息を吐けば少し白い息が部屋に散る。
「寒い」
　春の兆しが見える頃合いなのに、夜になるとこんなにも寒い。
　早く良くなれよと頭を撫でて、ボディの部屋を後にした。