SS詳細
リースリットにすりすりする本R
登場人物一覧
================================
これは同人サークル『表ファンド』にて配布された同人誌『リースリットにすりすりする本R』の内容である。
混沌世界に実在する人物団体なにかのイベントのたびに人類の目を癒やしてくれるハーモニア剣士とは関係ありませんったらありませんぞ!
================================
俺の名は新田 催!
普通の高校生だったのは二年前のこと。
大学生となった俺はネットで偶然手に入れた催眠アプリで幾人もの女子大生たちの痴態を露わにしてきた。
経験を重ねこの力を自在に扱えるようになった俺にもはや隙は無い。
俺は生まれ変わって戻ってきた。リベンジの時だぜぇ、リースリットぉ……!
「おはよう……新田くん。肩に、ハンドスピナーついてますよ……」
秋の葡萄酒畑のごとく黄金色の長髪。
腰に届くような髪が短いスカート丈に重なってさらさらと揺れていた。
彼女の名はリースリット。PPP学園で俺と同級生だったリースリットは私立ファンド大学に入学した。そのことを二年間にわたるストーキングで見抜いた俺は偏差値99というハードルを乗り越え同じ大学に合格。今ではまともに話せるだけの仲になっていた。
ククク、リースリットォ……お前はまだ知らないだろうなァ……俺があの日のリベンジを企んでいることをォ……。
「うち、屋上あるんだけど……焼いてかない?」
槍サークルの活動を終えた帰り、たまたま一緒に歩いていた俺の一言にリースリットはきょとんと目を丸くした。
我ながら強引すぎる誘いに、しかしリースリットは笑みで答えた。
こちらを安心させるような、心を溶かすような笑みだった。
「……いいですよ」
耳から脳にしみこむような、甘い蜂蜜のような声が、俺の脳を痺れさせる。
お互いそれ以上なにも言わずに、夕暮れを見送るみたいに川辺の道をあるいていく。
永遠のようにすら思えた時間は過ぎ、気付けば日は暮れている。俺が一人暮らしをするアパートの前に、リースリットが立っていた。
夢にまで見た光景だった。ごくりとつばをのみ、ポケットをまさぐる。
「あれ、鍵どこかなー。ちょ、ちょっと見てくれるー? ここ、ここなんだけどー」
天才的な演技をしながらリースリットの注意をひき、俺はポケットからスマホを素早く取り出した。リースリットの眼前に翳したのは催眠アプリ画面。一秒と立たずに、リースリットの顔はぼんやりととろけた。
「フ……落ちたな」
あとは催眠ワードを囁くだけだ。
俺はリースリットの耳元に唇を近づけ――
俺の名は新田 停!
19年間のストーキングによって幼なじみであるリースリットの大学を突き止めた俺は部外者のフリーターにも関わらず大学の槍サークルにそしらぬ顔で潜入していた。
目的はただ一つ。ネットで手に入れた時間停止アプリを使ってリースリットにあんなことやこんなことをすることだ!
だというのに……リースリットぉ! 俺というものがありながら新田 催なんかと一緒に帰りやがって。許せねえ! 奴がスマホを見せたその瞬間に時間を止めてやったぜ!
「ククク、リースリットぉ……今からお前が男の前でどんな姿をさらすことになるのか楽しみだなあ?」
きっとこうなるに違いない。
あっ動けない!
↓
新田にすりすり
↓
気持ちいい!
↓
俺満足
↓
世界中の病気が消える
さあ俺の可愛いリースリットぉ、世界中を健康にするために新田すりすりしろぉ!
停止した時間の仲でリースリットの胸元のボタンへと手を伸ばす。
19年間待ちに待った瞬間が――
「待ちなァ!」
がしりと俺の――新田 停の手首が掴まれた。振り返ると、停止したはずの時間の仲で新田 催が俺の手首を掴み、そしてにらみ付けていた。
「そいつは俺のすりすりだ。汚い手を離せ」
「俺の他に……停止した時間の中で動けるやつがいたとはな……!」
催の手を振り払い、飛び退く停。
通信教育でマスターしたカポエラの構えをとる停に対して、催は通信教育でマスターしたムエタイの構えをとった。
「リースリットのすりすりは渡さねえ!」
「それはこっちの台詞だぜ!」
互いのラッシュがぶつかり合い、拳と拳が正面から激突する。
すさぶ嵐の中で、二人は同時に眼鏡の位置を中指で直した。
「催ィィィィィィ!」
「停ィィィィィィ!」
再び停は飛び退き距離をとると、リズミカルなカポエラキックで催の顔面を狙った。
空を裂くような鋭いキックはしかし、全身をひねるようにして突き出した催の肘によって迎撃される。
息つく暇も無くスピンし、もう一方の肘が停の脇腹を狙うも停は己のスピンした勢いを更に加速することで肘の直撃を流した。
二人は距離をつめ、至近距離でにらみ合い、停止した時間の中ですれ違う。
コンクリートブロックを蹴り上げ、空中で停止したそれを掌底によって発射する催。
アパートの柱を蹴って駆け上り、ムーンサルトキックによってブロックを蹴り落とし粉砕する停。
二人は再び接近し合いさらなるラッシュ。ラッシュに次ぐラッシュ。漢の叫びが魂よりこだまして、互いの顔面へと拳がクロスする。
粉砕される二つの眼鏡。崩れ落ちる二人の男。
ドサリと音をたて倒れた二人を残し、時間はいつまでも停止し続ける。
そんな中で。
「……ばかなひと、ですね」
それまで停止していたリースリットは軽やかに動き、自らの髪をぱさりと払った。
ゆっくりと歩き出し、落ちた二つの眼鏡を拾いあげる。
レンズが砕けフレームのひしゃげたそれを大事そうにたたみ、そして己のポケットへと滑り込ませる。
そして代わりに、ポケットからスマホを取り出し顔の位置へと翳した。
『時間停止アプリ』と書かれた画面には、再生ボタンが表示されている。
倒れた二人を背に、コツコツと足音をたてて歩きながら、スマホの再生ボタンを親指でタップする。
道路を横切ろうとして停止していたスクーターが再び走り出し、止まっていた夜の風が思い出したかのようにリースリットの金髪を靡かせる。
「「ハッ!?」」
眼鏡を失った新田 停と新田 催が起き上がり、全く同じ動作で『めがねめがね』てしはじめた。
「二人とも。……おなか、空いてませんか?」
振り返るリースリット。瞬きをする新田ーズ。
とろけるような甘い声で、リースリットは微笑んだ。
「……いいおにく、食べにいきませんか。二人のおごり、で」
スマホと一緒に、トランプカードを広げるみたいに二つの財布を出してみせるリースリット。
慌てて自分のポケットをまさぐった新田ーズは、それが自分の財布だと直感した。
「「リースリットぉ……」」
「行きますよ」
再び歩き出すリースリット。新田ーズは『ハイ!』と言って立ち上がり、走り出した。
やっぱりリースリットは最高だぜ!
もう時間停止アプリも催眠アプリも必要ない。
走ろうぜ――血の涙を、流しながらな!