PandoraPartyProject

SS詳細

きらきら輝く金平糖、これで貴方を教えてくれないか

登場人物一覧

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

●月下に咲く紅い華
「やれやれ……ようやっと始末できたわねぇ。依頼はこれにて終わり、報告は明日にしてさっさと帰って酒でも飲みましょ」
 街から外れた海が見える崖近く。コルネリアが得物である拳銃をしまい軽く背を反らす。
「やだなぁ、僕はまだ飲めないって」
 軍帽をかぶり直しながら苦笑して答えるランドウェラにそうだっけぇ、と気の抜けた声で返しながら彼の横を通り過ぎて街へと続く道を進もうと。
「まぁたまにはいいじゃない。いいもんよぉ酒は? 疲れてる時に飲むと五臓六腑に染みわたって気持ちよくなれるんだから!」
 これから酒場に行けるという高揚感なのかひたすら明るい彼女の背中を見詰める形で歩く。
「仕方ないなぁコルネリアは、いいけどさ。僕は何食べようかなぁ」
 了承と受けとったコルネリアは笑いながらからかうような声で貴方に。
「なんでもあるし好きなだけ好きなもん食いなさいよ。夜はまだ始まったばかりだしね」
 浮ついた声に違和は無く彼女そのもの。イレギュラーから外れ日常に戻ってきた証。

「そうよ、ランドウェラ、アンタの好きな甘味……」

 夜空に浮かぶ月の優しい光が二人を照らし、日常への道を照らしていた。

「こんぺいとうだっけ? あれも途中の菓子屋にあったから買いに––」

 しかしそれは脆くガラスのようで。あっけなく崩れてしまうもの。

「好きだったわよね? 金平糖」

 瞬間、地に映る二人の影は重なり、金属同士が打ち鳴らされて発生した火花と金切り音が新たな非日常を生み出していく。
「……どういうつもりか聞いても?」
 横薙ぎされたハルバードを握った拳銃の背で弾き受け流す。コルネリアは声を荒げる事もせず真顔で己の背後を歩いていた者。ランドウェラに疑問を投げる。
「ちぇっ、そう上手くいかないかぁ。いけると思ったんだけどなぁ」
 悪びれもせずいつもと変わらずの口調でハルバードを担ぎなおす。自然と互いに距離を取り対峙する形となった。先程までの弛緩した空気が張り詰め、否、このランドウェラという男だけは何も変わっていない、最初から今ここまで同じなのだ。歳相応とは言えない何処か幼さを内包した笑みは無邪気とも読ませない誤魔化しとも見える。
「どういうつもりかと……聞いているっ!」
 それは銃口を向けられても変わらない、担いだハルバードを構えなおして息を吸い、吐き出すと同時に足を踏み込み駆ける。手に持った斧槍を振りぬいてコルネリアの身体を二つに裂かんとする豪速の刃が彼女の胴を。
 月が照らす影の数が三つとなる。一つはランドウェラ、一つはコルネリア、そしてもう一つは割断された彼女の下半身––。

●太陽の下で咲くアネモネの花
「久しぶり。コルネリア」
 特異運命座標イレギュラーズの拠点、ローレットにてランドウェラ=ロード=ロウスは人懐っこい笑顔で話しかける。
「おーう、一緒するのは随分久しぶりねぇ。よりによって初対面がアレか……言っても互いに依頼同道したぐらいであんま話せなかったけど」
 椅子に座っていたコルネリア=フライフォーゲルが声の主に振り返って挨拶を返す。咥えていた紙巻煙草の先端を灰皿に押し付けると足で隣の席を軽く蹴り椅子を押し出す。どうやら座ったらどうか、という歓迎の仕方らしいがここらに彼女のずぼらさがでている。
「ゆっくり話す前に入れ替わっちゃってたもんね、やっぱ勝手が違う武器だと戦いにくいよ。僕は刀だったからまだよかったけども」
「魔法の魔の字も知らないアタシが魔導書持ってもねぇ」
 二人の初邂逅は一風変わった依頼の中、その場に居た者達が持っている武器を交換させて賊に応戦するというもの。ランドウェラは刀、そしてコルネリアは魔導書を持って戦闘に挑まないといけない状況となった。
「でもコルネリア結構楽しんでなかった? すごい暴れてた気がしたけど」
「そりゃあアンタどんな場面でも敵は待ってくれないしやるしかないじゃないの」
 確かにノリノリで突撃してた自覚はあるのか、わかりやすく渋面を作って話を逸らす。
「仕事の話するわよ、仕事の。……今回はツーマンセルなのねぇ」
「逸らしたー」
 「うるせぇ」と小突き合いしながらテーブルに雑に放っておかれた依頼書を手に取る。
「どんなのだったっけ」
 僅かに変わった二人の空気の流れは仕事に対してスイッチが切り替わった証。
「魔物の討伐だけど……ははぁん、二人組で動けってなぁそういうことね」
 持っていた依頼書をランドウェラに渡すと、椅子の背もたれに寄りかかり天井を視線を送る。
「うげぇ、これもしかしなくてもこれから行く街に潜り込んでるよね」
「そうねぇ、向こう着いたらもう気ぃ抜けないわ」
 その後、二人で意見を出しながら作戦を決めていく。時には雑談やジョークを交えながら、互いに会話が途切れなかったのは久しく会っていなかったからか。
 夜が更けてもローレットの店内は変わらず照明と喧騒で溢れている。流石に人は少なくなっているが、仕事終わりであろう男達の集団が入店すれば用意されているテーブルがまた埋まってしまった。
「そう言えば聞いてみたかったんだけどさ」
「ん……」
 コルネリアが生返事で返すのは酒も少なく追加オーダーを入れるか迷っているから。
 そんな彼女の様子が言わずとも分かることに笑いながら彼は口に出す。
「君の言う『悪』ってなんだい?」
 二人の中で何かが変わる。しん、と静かになる席は周囲の喧しさもあって異様に思える位に。ランドウェラは気にせずに続けて。
「悪い事をする? 誰かに嫌われることをする? それは誰かの為、それとも自分の為なのかな」
 ただ聞きたいから聞く。気になったから聞く。幼さが見せる興味への欲求。無邪気と字の通りランドウェラに邪な理由なんて無いのだ。コルネリアが自らを善い人間では無いと名乗っている事に対してのクエスチョンでしかない。
「……さぁて、アタシ自身テメェを悪だとは……あぁ、悪党とかは言ってるかもしれないわねぇ。間違いなく善人では無いわ」
 僅かに言葉が詰まったのはどう言葉にすれば良いか迷った為。
「シスターなんて皮だけやってやってると勘違いされるのよ。迷える者の為への献身、カミサマを信じ、慈しみを持ってるだとか」
 自己満足の殻に籠っている自覚はあれども、コルネリアがシスターを辞めることも無い。
「ふふ……シスターをやってあげてる……優しいんだね君は。誰かの懺悔を聞き、誰かの罪をそのカミサマってのに届けるんだろう? その『誰か』って所に特定の人が居ない」
 ランドウェラの言葉に更に言葉を詰まらせるコルネリアは何か言い返そうとするも。
「…………聞きたいことが何だったのか忘れてしまった」
「あぁん? なんだそりゃ……」
 ランドウェラのあっけらかんとした言葉に毒気を抜かれたコルネリアは逡巡含ませた渋面から呆れ顔へと変えて。
「また思い出した頃に聞いてみるとしよう。なんかあったんだよな」
「なんでそんなん聞くのよって言う前に当人が忘れてちゃ世話ないわよ……」
 こんなやり取りもありながらローレットも店仕舞いの時間が近づいてくる。あれだけ騒がしかった店内もコルネリア達を除いて誰も居ない。外はまだ夜の暗闇が広がっているが、二人の出発はこれからだ。
「さぁて、そろそろ行くかぁ」
 大きな欠伸を手で隠すほどにはコルネリアもまだ人としての尊厳を捨ててはいないらしい。ランドウェラもつられて欠伸が出そうになるもなんとか噛み殺す。
「今から出発して昼頃には着くかな」
「そうねぇ、馬と言っても荷馬車だしちょっと遅れるかもしれないけど」
 今回は訳あって特異運命座標イレギュラーズという身分は隠して、旅のシスターとその護衛という設定で現場まで向かう。
 外に出ればまだ吐いた息も白く濁り空気に流れて消える。暖かな季節にはまだ少し遠い。
 身を震わせながら二人は外れに停めてある幌馬車の元へと向かうのであった。

●鏡に映る砂糖細工の花
 目的地である街まで約一日と数刻。到着した頃には既に日も落ちかけていて、朝から仕事していのたのであろう大人達が家路や酒場に向かっている光景を見かける。
「とりあえず腹ごしらえから始めるかぁ」
「あ、ちょっと寄りたい所あるんだけどいいかな。すぐ戻るから先に酒場に向かってていいよ」
 初めて訪れる場所で飯屋か酒場が無いか見渡すコルネリアにランドウェラが言う。
「んじゃ席取っとくわ」と、コルネリアは特に理由も聞かずに酒場に向かって歩き出す所を目で追えば、通り過ぎようとしていた誰かを捕まえて場所を聞いている姿が見える。
 見送った所で彼も目的を遂行する為にある場所を探そうと、振り返る。
 するとそこ、ランドウェラの直ぐ後ろで己をと目が合った。
「えっと、どうしたのかな?」
 暫く見つめあってから見られていたのは気の所為では無かったとおずおず声を掛けてみる。
「お兄さん、さっき一緒に居たお姉さんと来た旅人さん?」
 質問に質問で返された時はどう返せば良いのだろう、と疑問を抱きつつ「そうだよ」と返してあげれば朗らかな笑顔で此方の手を掴もうとする。
「何か欲しいものでもあった? 案内しようか!」
 手に取られようとした黒腕を咄嗟に庇い左手で少年の手を取る。
「うぅん、じゃあお願いしようかな。甘味屋ってある?」
「あるある! 僕もよく行くよ! お兄さん甘いの好きなの?」
 無邪気にぐいぐい来るもんだと横目で少年の方を眺めれば。
「あぁ……さっき一緒に居た連れに言うと何時も食べ過ぎって言われるんだよね」
「へぇー、お兄さん大きいのにそんなことで怒られるんだねぇ。甘いものでは何が好きなの?」
 大きいのには余計である、甘くて美味しいお菓子は万人に好かれるものだ。
「そうだなぁ……特にこれと言われると」
 少し考える素振りを見せて、夕日が射している筈なのに不思議と影の薄い少年に向けて。

かな」

●貴方は私、私は貴方
「なんで! なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!! この女はお前の連れだった筈ではないのか!!」
 話は冒頭から続く。割断されたコルネリアだったものは大地に溶けながらもまだ彼女の形を留めていた。
「この前の道でコルネリアと二手に別れた時、あっさり引っかかって君がやって来た時は笑うの我慢するのが大変だったよ。さっき振りだね、菓子屋まで案内してくれ助かったよ」
 最初から分かっていたのだ、手配書と嫌に馴れ馴れしい一部の街人の対応で。
 幌馬車で旅人と名乗った事も、街で菓子屋を探すと分かれたのも、見知らぬ少年に案内されていた時も、そして先程全てのピースが揃っていたのだ。
「偽装は完璧だった!! 全て模倣した!! 今この時この身体はコルネリアという者出会ったハズなのにぃ!!」
 今までもこうやって何も知らない旅人を食い物にしていたのであろう。そして擬態していた少年も又、元は生者として街で暮らしていたのだ。
 だがそれもここで終わり、叫ぶに叫ぶものだから一つ種明かしをしてあげよう。
「コルネリアはね、僕がこんぺいとうを好きというどころか……甘い物を好むという事を知らないんだ。僕達は互いに何も知らない、好きな物も、どんな人なのかも」
「嘘だ! でまかせだ!」
「ははは、君に嘘だと言われるとなんか変な気持ちになるね、仮に嘘だとしても君にはなんら関係は無いのに。ねぇ、君はなんて呼べば良いのかな。手配書にはドッペルゲンガーとか書いてあったけど、とても名前の通りの恐ろしさは見えないんだよな」
 呻くドッペルゲンガーは確かにコルネリアの身体で、声で、表情で、彼女と言われれば判別がつかないであろう模倣であった。
「アタシは! ワタシは! わしは! おレはぼくはあなたは!!」
 ランドウェラが内心興味を持ったのは、ここまで人間のソレと近い憤怒をこの魔物が発露させていること。
 もう少し眺めていたいが油断は己を滅ぼす。悪あがきで撃ってきた弾丸をハルバートで弾き、上段で構えて振り下ろそうとしたその時。
「お粗末なモノマネだったわね」
 甲高い音が響き、焦げ臭い匂いが鼻につく。槍斧を構えていたランドウェラがゆっくりと得物を下ろすと、にこやかにコルネリアへ笑みを向ける。
「お疲れ様、そっちは大丈夫だった?」
「ん? あぁ、アンタそっくりの顔した奴がこんぺいとうだとか甘味だとか騒いでるわ、そもそもクッソ目立つ右腕黒く無かったし、杜撰過ぎる芸だったわねぇ。かくし芸にもなりゃしない」
 二人が分かれた先、コルネリアの方にも同じ魔物が現れていたのだろう。
「ちょっと話してたけど思ったよりは面白かったんだけどなぁ」
 ジワジワとシスター服や身体は黒く汚泥の様に溶けて大地へ染み込んでいった。元より実体を持たず、獲物の姿を借りて擬態していた魔物だったのだろう。
「アンタねぇ……まぁなんか叫んでたお陰でアタシの方も早くここに着けたんだけども……いいわ、仕事は終わり……さっさと酒場へ行くわよぉ、腹減ったわ」
 コルネリアは軽くストレッチを行い、溶けた魔物の跡地に落ちていた本体であろう結晶を拾って保存する。
「ねぇ、コルネリア」
「あん?」
 背を向けて歩き始めるコルネリアを見つめ、先程と同じ構図となったランドウェラは声をかける、今度は親しみを込めたソレで。
「そういえば君は僕の好きな物って知ってる?」
 歩みを止めて怪訝そうな顔で彼を見やり。
「……なんだっけ、知らねぇけど。そういや甘いもんとかなんか言ってたっけ? さっきの魔物と」
「あぁ、そうそう。こんぺいとうが好きなんだ。どう? 食べる?」
 「はぁ?」と呆れ顔になるも差し出された甘い砂糖の塊を一粒口に含むと。
「まぁうん……こんぺいとうねぇ……どうしたのよいきなり」
 また先を歩き始めたシスターの隣に立ち並び歩く。
「僕は君の事を知らない、だから知ろうとするのは『悪』なのかな?」
「それは……」
 彼が言う『悪』と彼女が己を示す『悪』の意味合いは恐らく違うのであろう。
「そして先ず知りたいなら、自分の事も言わないとね。それがフェアというものさ」
 コルネリアを知りたいから己の事も教える。さて、先ずは酒場に行ってこんぺいとうというお菓子について語らなければならないな。
 楽しみだなぁ。口に出してみればコルネリアは怠げな表情でランドウェラを見る。
「んならアタシはそのけったいな黒い腕について聞いてもいいのかしら?」
 困った、仕返しされてしまった。さて、どう躱したものかなと悩みながら、二人は街へと戻るのであった。

  • きらきら輝く金平糖、これで貴方を教えてくれないか完了
  • NM名胡狼蛙
  • 種別SS
  • 納品日2022年03月04日
  • ・ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788
    ・コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315
    ※ おまけSS『カルカリ甘い砂糖の粒』付き

おまけSS『カルカリ甘い砂糖の粒』

「ねぇ……」
「ん、なんだい?」
 賑わう酒場も夜が深ければ客も次々と帰る。騒がしい店内も今やコルネリアとランドウェラだけ。
「こんぺいとうについては分かったから……また、明日にしない……?」
「なんだい、ここからが良い所なのに。まだまだ店は畳まないって聞いたし話そうよ」
 こんなに元気な事ってある? コルネリアはしょぼしょぼした目で引き攣った笑みを浮かべる。
 気づいてるのかないのか、ランドウェラは元気な声で話を再開する。
「(やれやれ……黒腕の事はまた今度ね)」
 困ったようだがたまには悪くないと追加の酒をオーダーしたコルネリアは、暫く楽しそうな彼の話をツマミに程よい酔いを楽しむのであった。

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