SS詳細
星月夜オステオペルマム
登場人物一覧
海の沖合いと同じ色の髪をいつものようにまとめて、少女は使用人と馴染みのデザイナーを振り替える。
「さあ、今日はどのような洋服を貢ぎに来たのじゃ?」
この少女の名はデイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)。海洋王国の名門家がひとつ、クラーク家の末娘。
育ちゆえ、つい尊大な態度を取るが根は寂しがり屋なだけで可愛らしい少女だ。今日は何人かいるデザイナーの1人に秋物の服を見繕わせる日だった。
「はい、まずはこちらのワンピースをどうぞ」
渡されたワンピースはコットン素材の優しい薄萌葱でマキシ丈が大人っぽい。それに白い花が舞うカチューシャとくるみボタンのイヤリングとリングのセットが清楚におさまる。
「ほう……大人な妾に相応しい装いじゃ」
次はと急かせばデザイナーがまた違う服を出す。イヴァアール色に優しい緑の細いストライプシャツワンピースと、緑のヘッドドレスリボンが可愛く健康的な組み合わせだ。
「最後に胸元を少し開けて大振りネックレスをしますね。とても引き締まりますよ」
「なるほどな。他は?」
デイジーがさらに次を催促する。調子の出てきたデザイナーが頷いて今度は上下ものを出す。
赤と青のスチューワート風チェックのリネンシャツに黒のレザー風フリルスカート、太めのバングルを合わせたヘルシーでカッコいい組み合わせだった。
「これまでと趣が違うな。こういう服もあるのじゃな……」
興味深いのか、その場でくるくるとデイジーが回る。楽しくなったのか、にっこり笑ってブイサインを送る笑顔は年相応で可愛い。
「それから、こういうものもお持ちしました」
黒で薄手のボトルネックセーターでピンクのスカートにはなんと、美味しそうなお菓子のイラストが散りばめられていた。裾にも小花のレースが配してあって大変可愛い代物である。
「これは面白い!お菓子じゃ!!」
デザイナーがそれに得意な顔をして小物を説明しながらつけていく
「アクセサリーも遊びましてレースのつけ襟ですがムスクテールという形になります。それに壺のカラフルなブローチを合わさせていただきました」
それは全て、デイジー・リトルリトル・クラークを表す小物だった。全身を可愛く、気品良くまとめたコーディネイト。デイジーがうっとりと微笑む。
それにデザイナーがほっと安堵してお次も可愛いものを用意させていただきましたと準備する。
「星が連なるボーダーのロングTシャツに大きなリボンを両肩へ。スカートは6段のティアードでご用意しました」
着せて説明しながらラメが煌めく星の髪飾りとネックレス、サムリング。さらに反対側の手へピンキーリングが小さな手を飾り立てる
「瞬く星がテーマか。確かに可愛いのう」
ええそうですとデザイナーが頷いて、次の用意を整え始める。
「パーティーなど、フォーマルな場面を想定したものもご用意しました」
まず渡されたワンピースは中華襟の二枚重ねで白無地のインナーワンピース、その上に黒のグラスオーガンジーでカタバミを裾に刺繍していた。小物も刺繍と同じカタバミにシトリンとパールの石の玉すだれがついたクリップとゴールドパールのチョーカー、金のフィンガーブレスレットだった。
「お茶会など、カジュアルなパーティーにいかがでしょうか?」
使用人の言葉にふむとデイジーも頷いては次を試着する。出て来たのは黒の変形襟のゴシックドレスシャツにダークシルバーのロングジレを合わせて巻きスカートつきハイウエストロングスカートはシルバーとバイオレットのダイアゴナル・ストライプが美しい。大きなアメジストが埋まったベルベットチョーカーと手袋が色気を生む。
「良い、良いな。美しい妾に相応しい気品だ」
夜会があればこのような格好が相応しくなるかと、とデザイナーが言って最後で御座いますと告げる。
ひとつ頷いて促すとリボンタイつきブラウスで背面に月を意匠化した刺繍の冠が鎮座し、勢いの良い波をバルーンスカートで表した衣装が持ち出された。珊瑚礁のつもりだろう、淡いピンクから白へ移ろうコルセットが嵌められ、キラキラと光るサテンのシュシュが手首とお団子にした髪へ。海洋王国の王女が如く雰囲気を持つ愛らしくも高貴な組み合わせであった。
「デイジー様の持つ雰囲気に合わせた一品を、と思いまして。本当は夏にお出ししたかったのですが、構成に時間がかかりまして。申し訳ございません」
デザイナーが恭しく頭を下げて謝罪する。それに構うなとだけ告げて、これまでの洋服たちを振り替える。
「はてさて……どうするか……。迷ってしまうのう…………」
部屋中を埋め尽くしたどれもが、デイジー・リトルリトル・クラークが為に用意されたものであるゆえに、彼女に似合うと判断されたものしかない。日常的に着るもの、ちょっと特別な日に着るもの。その全てに、愛がつまっている。
「良し、わかった!全部買うぞ!!」
笑って小さな王女は決める。その愛を、妾を思う心を買おう。