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蒼穹へ、ニライカナイより

登場人物一覧

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍

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()…心情なので僅かにエコーがかかっていると嬉しいです
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リーデル「マイセン」

リーデル「ほら、マイセン。泣かないで。姉さんが傍にいるわ」

マイセン「(姉さんが笑っている。そうだ。これは幸せだった頃の夢だ。俺達が深緑の木々に護られて、ただただ幸せに笑っていた頃の、夢だ)」


***
【時間軸:過去、深緑にて】

マイセン「姉さん? 姉さんー? ……ったく、何処行ったんだ? もうすぐ昼ごはんだってのに……姉さん! リーデル姉さん!」
リーデル「呼んだ?」
マイセン「うわっ!? び、吃驚したあ」
リーデル「うふふ、ごめんなさい。たまたま私を探す貴方を見て、ちょっと驚かせたくなっちゃった」

(葉が擦れる音)

リーデル「もうすぐお昼ご飯だから呼びに来たの?」
マイセン「そうだよ! 姉さんが珍しくいないから呼びに来たんだ。姉さんって本当にこの湖が好きだよな」
リーデル「ええ。晴れた日に空が映るのが好きなの。……ねえ、知ってる? マイセン」
マイセン「え?」
リーデル「この森の外には、湖よりもっともっと大きな“海”というものがあるんですって。何処までも遠くに続いてて、果てが見えない湖なんだそうよ」
マイセン「……果てが見えない湖? 本当にそんなものが?」
リーデル「ええ。いつか行ってみたいわ。きっと、晴れた日には空が映って綺麗なんでしょうね。魚もきっと、此処にいるような小さなものではなくて――私達が抱えきれない、大きなものがいるかも!」
マイセン「……うーん。何日分の食料になるかな」
リーデル「まあ、マイセンったら食べる事ばっかり! うふふ、お昼ご飯を食べましょう? お腹減ってるんでしょう。姉さんには判るわよ」
マイセン「姉さんを探してたら余計にお腹が減った」
リーデル「ごめんなさい。ふふ。ちょっとお昼ご飯分けてあげるから、許してくれる?」
マイセン「そんな事しなくったって、許すよ」

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マイセン「(俺達は海が残酷だなんて知らなかったんだ。ただ、湖のように穏やかで、静かに俺達を見守ってくれるものだと思ってた。事実は違った。海は余りにも残酷で、俺達の事なんて一つも考えちゃくれなかったんだ)」

マイセン「(その年のグラオ・クローネが近付いていた。俺は当然、姉さんにあげる贈り物を探した。深緑にも市場はある。其れは他の国に比べれば随分と小さくて、売っているものも果物や野菜といったものばかりだったけど……その日は違った。他の国から帰ってきた同胞が、土産を売っていたんだ)」
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マイセン「あれ? お前、確か……」
行商「おう、覚えてくれてたか? 3年ぶりだな。随分と大きくなったじゃねえか、マイセン」
マイセン「そう言うお前はちっとも変わってないな。やっぱり他の国の服着てる」
行商「これはな、幻想って国の服だ。触ってみるか? 生地が軽くて着やすいんだ」
マイセン「やめとく」
行商「つれねえなあ。姉さんは元気か?」
マイセン「元気だよ。……姉さんなら、お前の服にも触ってみたりするんだろうな」
行商「ははは。お前の姉さんは外に興味津々だからなあ」
マイセン「(溜息)……で? 今日は何を売ってるんだ?」
行商「もうすぐグラオ・クローネだろ? だからプレゼントになるような装飾品が主だな。そうだ、マイセンも姉さんに買って帰ったらどうだ」

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マイセン「(其れはとても魅力的な誘いに聞こえた。俺の小遣いには限りがあったから、其の中で足りそうなものを目を皿にして選んだ。姉さんは海に憧れている。……俺が手に取ったのは、跳ねる魚のペンダントだった)」
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行商「おお。イルカのペンダントか」
マイセン「い……いるか?」
行商「知らないか? 海でな、よくぴょんぴょん跳ねる魚なんだ。其のシルエットが可愛いだとかなんとかで、イルカのアクセサリはよく作られているな」
マイセン「……確かに、丸っこくて可愛いな」
行商「だろ? 買うなら無料で包んでやるよ」
マイセン「じゃあ、買う」
行商「はっはっは! お小遣いで暮らしてる少年は大変だからな! よーし待ってろ」


***


マイセン「姉さん」
リーデル「あら、お帰りなさいマイセン。随分と遅かったわね」
マイセン「ごめん、ちょっと市場に寄ってて。……あの、姉さん」
リーデル「うん?」
マイセン「……これ」

(かさ、と包みの音)

リーデル「……(驚くような沈黙)……これ、私に?」
マイセン「うん。……開けてみて。多分、姉さんの好きなものだから」
リーデル「良いの? じゃあ此処で開けちゃうわよ?」

(がさがさ、と包みの音)

リーデル「……! まあ! これは魚? 丸くて可愛い」
マイセン「いるか、って言うんだって。海で跳ねるのが可愛いって、外の世界で言われてる」
リーデル「そうなの……マイセン、ありがとう! 付けて貰っても構わないかしら」
マイセン「…うん」(幸せそうな感じで)

(ちゃらり。鎖の音)

リーデル「わあ……! どう、マイセン。似合うかしら?」

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マイセン「(姉さんの耳には、母さんの形見の青いイヤリング。首元にはイルカの水色のペンダント。青い色の其れらは、白い肌をしている姉さんに良く似合っていた。何も知らなかった俺は、自分が選んだプレゼントを誇りにすら思った)」
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マイセン「……すごく、すごく似合ってる」
リーデル「うふふ! ……あのね、マイセン。私からも贈り物があるのよ」
マイセン「え?」
リーデル「ちょっと待ってて! 取って来るわ」

(ぱたぱた、スリッパの音)

リーデル「お待たせ。はい、これ。グラオ・クローネの贈り物」
マイセン「……これは?」
リーデル「実はね? マイセンが会った行商さんにお願いしていたの。こういう品物があったら仕入れておいてほしい、って。いいタイミングだったわね」
マイセン「……あけても、いい?」
リーデル「勿論!」

(かさ、と包みの音)

マイセン「……羽根?」
リーデル「鳥の羽をモチーフにしたペンダントよ。なんだかマイセンの真似っこみたいになっちゃったけど、私の方が先に買ったし、おあいこよね?」
マイセン「……わあ……うん、姉さんの勝ちだよ。」

(ちゃらり、鎖の音)

リーデル「あ!」
マイセン「え?」
リーデル「私に付けさせてくれなかった!」
マイセン「え、付けたかった?」
リーデル「さっきは私がマイセンに付けて貰ったんだから、今度は私がマイセンに付ける番でしょ? もう! マイセンったら自分でつけちゃうんだから。もう知らないわ」
マイセン「ええ……? ご、ごめんって姉さん」
リーデル「つーん。知りません」
マイセン「ごめんって、今外すから」
リーデル「外しちゃ駄目」
マイセン「ええー……?」
リーデル「……。ぷっ! ふふ、あはは! 良いわよ、そのまま付けて置いて。ごめんなさい、意地悪しちゃった。姉さんだと思って大事にしてね?」
マイセン「なんだ、意地悪か……勿論だよ。姉さんも、其のペンダント……俺だと思って大事にしてくれる?」
リーデル「勿論よ! でも私はマイセンから離れないわ。ずっと一緒にいる。たった一人の家族だもの、独りぼっちになんてしやしないわ」
マイセン「姉さん……うん。俺も、姉さんとずっと一緒にいる。いつか強くなって、姉さんを守れる戦士になるよ。どんな困難からも姉さんを守ってみせる」

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マイセン「(俺は本気だった。辛い事や悲しい事、何なら天災からだって、姉さんを守るって信じてた。姉さんを俺が護るんだって。……けれど突然、姉さんは幻想に嫁いでいった。送った手紙は帰って来ずに……俺達は、互いの無事を祈るしかなかった)」

マイセン「(姉さんは幸せに生きている。そう信じるしかなかった。信じていなければ、俺は一体何を信じればいいんだ? 姉さんは幸せな筈だ。だから俺も、姉さんを心配させないように強くなるんだ。そう、思っていた。……思っていた、のに。――姉さんは、死んだ。何もかもを失って、命を辛うじて拾い上げたら世界の敵だと誹られて。そして、呆気なく死んだ。俺が深緑の外で出会った姉さんは、肌よりも白い骨になっていた。そうして帰ってきたのは、母さんの形見のイヤリングと、……イルカのペンダントトップ。それだけ。たったそれだけだった。)」

マイセン「(俺は姉さんを弔った。海を厭うように、深緑の森にひっそりと墓を建てた。姉さんは森で生まれたから、森で眠るのが一番いい。そう思ったんだ)」
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【時間軸:深緑、現在】


マイセン「……姉さん」

マイセン「今年も、グラオ・クローネが来たよ。来るたびに思い出すんだ。姉さんが俺に羽根のペンダントをくれた、あの日の事。……俺は姉さんに、イルカのペンダントをあげた。姉さんは海に憧れて、なのに海は姉さんに酷い事しかしてくれなかった。姉さんの大事なものを全部取り上げて、姉さんを世界の敵にした。……なんであの時俺は、イルカを選んだんだろう。もっと他の、花のモチーフとか、あったのに」

マイセン「……姉さん。……俺は、生まれ変わっても姉さんの弟でいたい。其れで、今度こそ海から、姉さんを守るんだ。俺がいつ死ぬかは判らない。死ぬまで生きてみようと思う。……でも、生まれ変わっても絶対一緒だ。また姉さんと俺は、姉弟として……」

マイセン「……リーデル姉さん」(絞り出すような声で)

マイセン「(俺は、包みから取り出したペンダントを姉さんの墓に手向ける。……鳥の羽のペンダント。俺が貰ったデザインとよく似たもの。姉さん。姉さんは、飛ぶんだ。海に奪わせたりなんかしない。姉さんも、俺の知らない姉さんの家族も、鳥のように羽ばたいて――海の向こう、遙かなる果てを目指して欲しい。そう思っている。もう辛い思いをしなくて良い。もう悲しい思いをしなくて良い。もう、誰も姉さんを傷付けられない。)」

マイセン「……また来るよ。来年のグラオ・クローネに」

マイセン「(俺がいつ死ぬかは判らない。いつか死が迎えに来るまで、生きてみようと思う。あいつに“姉さんを忘れるな”と俺は言った。俺も姉さんを忘れないだろう。あのとき俺に無邪気にペンダントを渡してくれた姉さんは、確かに、世界に愛されていたんだ。姉さんはいつだって、誰かに愛されていた。もう誰にも――姉さんを世界の敵だなんて、言わせやしない)」

マイセン「(いつか俺が死に迎えられたら、……海を跳ねる魚のように、風を切る鳥のように、姉さんが迎えに来てくれるだろうか)」

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実はボイスドラマの脚本を作るのは初めてでして……どのように書けばいいのかかなり苦心しながらの作成でした。
不備や見づらい所、台詞として起用し辛いところなどがありましたら容赦なく編集して頂いて大丈夫です。
資料ではリーデルさんは情緒不安定との事でしたが、恐らくそれは旦那様を失ってからなんだろうな…? と考えて、深緑での彼女は少し元気なお姉さん、という感じに仕上げてみました。多分二人とも10代の頃の出来事なんじゃないかな、とイメージして書きました。
残り物にするのは後々の設定に影響するかと思ったのですが、こう、なんか、対比させたくて……海というものに絶望して捨てたかったけど、弟を捨てられなかった。ペンダントトップだけが残っていたあたりにそういう執着が現れていればいいなと思います。

うまく情緒を抉れていれば良いのですが(言い方)ご注文ありがとうございました!

  • 蒼穹へ、ニライカナイより完了
  • GM名奇古譚
  • 種別SS
  • 納品日2022年03月01日
  • ・十夜 縁(p3p000099

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