PandoraPartyProject

SS詳細

運は尽きたのさ

登場人物一覧

オーガスト・ステラ・シャーリー(p3p004716)
石柱の魔女
ヨランダ・ゴールドバーグ(p3p004918)
不良聖女

 ――天義での戦いは熾烈だった。
 『強欲』の魔種……いや、魔種という存在とは次元が文字通り違う『冠位』を称したベアトリーチェとの一大攻防。ともすれば天義という国が消滅しかねない程の攻防は――数多の要因の果てに天義へと勝利を齎した、が。
「あの~……一つ聞いてもいいですか?」
 それは天義の独力だけに非ず。参戦したローレット――イレギュラーズ達の助力もあってこそである。聖都の内外、各所で行われた激戦は易くなく……誰しもが傷を負った。深くも浅くも。
 そしてここにもその一人。決戦の地より帰路に付いている魔女……オーガスト・ステラ・シャーリー (p3p004716)がいた。彼女の身には幾つかの傷が見られ、頬には煤も付いている。が、負傷こそしているが動くに支障がないのは幸いであり、だからこそ会話を行うだけの余力がある彼女は。
「なんで――私を『相棒』にしたのか」
 隣にいるヨランダ・ゴールドバーグ (p3p004918)へと言葉を紡ぐ。
 横目で見据えた金色の聖女。彼女――は、口元から白き煙を揺蕩わせて空へと吐息を一つ遊ばせている。タバコだ。服装からして聖職者と思わしき者がかような俗を嗜んでいてよいものか……などという些細な問題は捨て置くとして。
「ん――? なんだいシャーリー。今更アタシとの相棒関係にご不満でもあるのかい?」
「いやぁそういう訳じゃないんですけどねぇ。純粋に、ふと思っただけと言いますか……」
 シャーリーとヨランダは互いを『相棒』とした付き合いがある。それは単純に依頼・仕事でのみの関係……ではなく常日頃からの付き合いも含めて、だ。シャーリーの住まいである『灰かぶりの館』にヨランダが菓子を持って個人的に訪れた事もある。
 だがしかし、だ。彼女達は互いに幻想種であるという繋がりはあれど、性格や一個人の在り方すら一致している点が多いという訳ではない。シャーリーは気質として基本的にゆるやかな人物であり、内向的と言える面が強い。
 対してヨランダは豪気にして社交的。酒もタバコも嗜んでチンピラ……不良シスターと呼ばれてもなんのその。博打もすれば、他者と関わるに遠慮する気質はなく。
 ともすれば水と油とも言うべき相違点があるのだが――
「よくもまぁ、成ったものですよね」
 相棒という隣に佇まう関係に。
 訪ねられればお茶を出すし、冗談も言うし、そして共に同じ戦場に出る事もある。先も述べたように一個人の性質として異なる点が少なくないにも関わらず、だ。非常に端的に述べれば『馬が合っている』――そういう事なのであろうが――

「シャーリー」

 と、その時だった。思考に耽っていた魔女へ、ヨランダが声を。
 咄嗟。反射というかなんとなし、特に意識せずに彼女の方へと視線を向けれ、ば。
「あ、いッ――たッぁ!?」
 額。中央に走る衝撃、背後側に傾く後頭部。
 ヨランダのデコピンである。一切警戒していなかったのもあるが、やたら痛い。骨に残る……!
 悶える魔女。そんな彼女にヨランダは苦笑しながら。
「馬鹿だねぇ、小難しい事なんて考えなくていいんだよ。アタシ達がバディを組んでるのなんて、さ」
 そう理屈を求めた結果ではないのだと。
 共にいる、隣にいる。背中を任せられる。
 それらに具体的な理由などシャーリーとの間には『ない』のだ。
 例えば力があるから共に在るのならば、もっと力を持った者が現れた時鞍替えするだろう。
 趣味が合うから在るのならば、より深く趣味が合う者が現れた時も。
 性格が合う、酒が飲める、年が近い、その他云々――
 理由をもってバディを組んでいるのならば、それはいつか必ず『上書き』されてしまう関係だ。
「だけどさ。違うだろ」
 例えば仮にそういう『組むべきメリットのある』人物が目の前に現れたのだとしても。
 ヨランダはシャーリーだけを相棒とするだろうし、シャーリーもまたヨランダだけだろう。
 この世にいる『どこぞの誰か』では駄目なのだ。なぜなら、彼女とバディを組んでいる理由は。

「――気に入ったから」

 それ以外に他は無い。
 思ったのだ。『ああこの人物がいい』と。他と比べてではなく、彼女『が』いいのだと。
 その時抱いた感情は、百万の理由があろうと決して上書き出来るモノではなく。
 代替など出来ない。ある種、唯一無二と言っていいかもしれず。
「それ以外に何かあるのかい? いや、必要なのかい?」
「な、ないです、けれ、ど……おぉ、う……痛いですよぅ……」
 おっと。全力には程遠い程度の威力で放ったつもりだったが、予想以上に入っていたか。
 決戦の最中に負った傷の痛みなど忘れる勢い。
 額を抑え続けるシャーリーの様子に、しまったしまったと思った故に。
「ははは! 悪ぃ悪ぃ。ほら、もちっとで休める場所に辿り着く筈だからよ。とりあえずそこまでなんとか頑張ろうさね」
「うう~……早い所帰り付いて、ヨランダのさんのクッキーが食べたいです……そうしたら痛みも早く引くかも……ああドラ=ヤキももう一度食してみたい所です……」
「んん、それぐらいなら――って待った。まさか菓子の為に痛みの振りをしてるんじゃないだろうね?」
 さぁ、ヨランダさんの気のせいじゃないですかね~? と、口元に手を当てて微笑むシャーリー。
 全く。本当に痛がっているのか、そうでないのか。やれやれ――
「――本当に調子のいいバディだね」
「ふふふーふ。私と相棒になったのがヨランダさんの運の尽きですよ、諦めてくださいね」
「何言ってんだか」
 この世は広い。数多の人々は星の様に溢れており、交差する事なく終わる星もある。
 それなのに二人は出会った。必然か、偶然か。そんな事はともあれ。
 魔女と聖女――それぞれの縁の糸が紡がれたのは。
「それこそ『運がいい』ってなモノだろう」
 出会いの運に総量があるのなら、それはきっと全部相棒にやったのさ。
 運が尽きたというのならある意味当然の事だから。
「これからもよろしく頼むよ――シャーリー」
「こちらこそ、ですよう。ヨランダさん」
 シャーリーの、ふとした一言から始まった会話であったが。
 彼女も別にこの関係性に疑問を呈している訳でなく。共に在れる事に充足している。
 ああ、さて。帰路まであと幾つか。帰り付けば紅茶でも淹れて飲み干したい所であるが。
(――ヨランダさんの事ですから、こういう時はお酒の方がいいですかねぇ)
 下戸な魔女。されど偶の機会には、聖女の酩酊と共にあるもやぶさかでなく。
 聖女もまた、そんな魔女を気に入っていた。
 戦勝の時。生命在りて帰還するこの瞬間。この関係がこれからも続く事を祈って。
「ああ全く……タバコが旨いものさね」
 白い煙が揺蕩っていた。

  • 運は尽きたのさ完了
  • GM名茶零四
  • 種別SS
  • 納品日2019年09月21日
  • ・オーガスト・ステラ・シャーリー(p3p004716
    ・ヨランダ・ゴールドバーグ(p3p004918

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