PandoraPartyProject

SS詳細

うさぎさんとトラさんのおしごとっ!

登場人物一覧

道子 幽魅(p3p006660)
成長中
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣

●お仕事しよう?
 まだ忙し気な昼下がり。
 ギルド・ローレットにある通常依頼と別のイベント等求人広告が載っている掲示板を『トラージャーハンター』ソア(p3p007025)は悩まし気に見ていました。
「ああ、食べたい、どうしてもこのウサギさんを食べたいぞ! でも二人ペアかあ、募集は今だけみたいだしどうしよう……」
 彼女が目を奪われているのは"とある広告"の報酬に並んでいる『ウサギのジュエルボックス』なるお菓子詰め合わせの文字。
 ソアの尻尾と耳は忙しなく揺れています。
(うーん。何とか参加したいなあ!)
 しかしその広告に記された求人内容曰く、応募はソロ参加不可。
 何ともソアにとって悩ましい条件。どうにかできないかとキョロキョロ……移した視線の先、ふわりと揺れる薄紫の髪。
(料理教室の案内だ。そろそろバリエーション増やしたかったし……行ってみようかなぁ……?)
 鮮やかな薄紫の中に垣間見せる儚げな瞳は、今はソアと同じ掲示板へ興味ありげに視線を注いでいるように見えます。
 ソアは大きな目を輝かせました。

(この美味しいものを見る目……間違いない、きっとボクと同じだ! それによく見ればとても綺麗な人!)
(……あれ? 隣の子、すごくこっちを見てるけど……とりあえず気にしないように──え?)

 一方の『自称空気』道子 幽魅(p3p006660)が別の貼り紙を見ていたとも知らず。
 すすす、と離れようとした彼女に一瞬で肉薄する虎っ娘。気がつけば、ぽふりと両手を肉球に包まれていました。
「わあ、ボク感激しちゃったよ、一緒に行こう! 二人なら合格間違いなしだね!」
「っ……!?」
 急に手を握られ、跳ねるような思いで目をチカチカさせる幽魅。
「その反応、やっぱりそうでしょ! こんな幸運なことってないよね!」
 混乱に目を瞬きさせた彼女の姿を、目を輝かせている物だとソアは勘違いしてしまいます。
「うん! 今日の募集締めきっちゃう前に早く行こう、ええと、確か幽魅さんだ! ボクはソア、よろしくね!」
 しっかりと手を繋いだ彼女は大手を振って何処かへと向かいます。
(え? 合格……? よろしくって……何が? 何が起こってるの……? どうなってるのぉ?!)

●うさぎさんと
 ──勢いでお菓子店まで拉致された幽魅はその仕事内容に吃驚仰天。
 ソアが目をつけたのは兎を模した焼き菓子の販売促進を目的にバニーガールコスチュームで店頭に立ち、道行く人に商品を勧めるキャンペーンガールでした。
 ……それも王都の一画、商店街の催しで行われる『スイーツ祭』なるイベントの一つ。通称"花道"に参加するらしいのです。
 手にした薄い布地のレオタードやウサ耳を見下ろす幽魅は全身を震わせていました。
(なにそのイベント……! この衣装、ここで着るの……? 無理無理無理! 絶対に……!)
「あんたねぇ、ウチはウサギで攻めるんだよ? それ使わないんじゃバニーじゃなくてトラじゃないかい」
「そんなこと言わないでよ、だったらトラのお菓子も作って! 衣装が似合えば良いんでしょう、なら大丈夫!」
「……あの、わ、私……これを着るのは……」
「そこまで言うなら更衣室で着替えて来な! 似合う以上の物が無ければ駄目だ、開店まで時間が無いんだからね。さぁ早く!」
「ひぃっ! は、はぃぃ……!」
 屈強筋肉女子系店主の凄味に気圧された幽魅は勢いで返事してソアと共に逃げ出してしまいます。

 場面は変わって更衣室。
(どうしてこんな事に……うぅ、帰りたい……)
「他にも綺麗な人がいたね! なんだか華やかでわくわくしてきたなあ……!」
(でも、あの子……楽しそうで、何かに期待してるし……悲しませるのは、悪いなぁ……)
 虎耳を弾ませ、あっという間に際どいレオタードを着てお尻から突き出した尻尾を揺らすソアの姿を目で追いながら幽魅は悩みます。
 やがて、痛む良心がカリカリと胸を掻くのに眉を下げた幽魅は、意を決してキャンペーンガールを引き受ける事にしました。

 しかしいざ着替えてみると……幽魅はその表情を真っ赤にしてしまいます。
(……やっぱり恥ずかしい……! 無理……こんな私が着ても、需要もないし……醜いだけだよ……)
 ボディラインが露わとなるレオタード。きゅっと結ばれた首元のリボンタイ、フリル多めの付け袖。
 ウサ耳を垂らしぷるぷる震える様は、ある種ウサギらしさが醸し出されていましたが、幽魅はそれを教えてくれる鏡すら見れないでいました。
 と、そこへ。
「わあ、幽魅さん! とってもキレイ!」
「……ぁ、え……?」
 絶望に差し掛かる太陽の声。
 顔を上げた幽魅の視界一杯に咲く向日葵の双眸、互いの髪がふわりと重なり、こつんと。小さく額がぶつかりました。
「大丈夫? お顔が真っ赤だよ? うん……熱は無いみたいだね。さあ! もう始まる時間だよ。一緒に行こう!」
「え……っぁ、あ……はい……っ」
 またもや手を引かれ連れ出される幽魅だった──けど、今度は少しだけ落ち着く事が出来たのでした。

●トラさんと
 此処は泣く子も黙る大人の女の園。武を極めし幻想の戦乙女達が集いし "花道" ──!!
 近年、退役した元女性兵士や屈強な女性が開いたスイーツ店が密かに話題になっている事を、ソア達は知らない!
 屈強! 華蓮! そこに求められているのは磨き上げられし『美』! スイーツ祭? 例え商店街の日和った連中が親睦を深めると言っても戦乙女の名が『勝利』以外を赦さない!
 というわけでバニーを雇い入れる傭兵策を取った元花屋のマダム・マグナムはソア達を拍手で出迎えたッ!
「病欠になっちまったウチの看板娘の代わりが果たして務まるか……と思っていたけどね。
 合格だよアンタ達! 他の軍人上がりのヴァルキリー共が雇った女豹なんか目じゃないね! ウチの看板は任せたよッ!!」
「任せて店長さん! ボクはこれでも人間を勉強してるんだ! 大丈夫、きっと出来る!」
「フ、よく似合ってるじゃないかいそっちの娘も──衣装の方が負けちまってるよ」
「え……? ぁ、ありがとう……ございます……」

 SO……二人はとってもCUUTE──!
 刻は昼下がり、町は昼休み、これからランチタイム!
 昼餉を報せる鐘が次々に鳴り響く中、試食用の焼き菓子載せたトレイを片手に。トレイを持たされたソアと幽魅の二人は店先へと繰り出す。
(他のお店からも、私達みたいな女性が沢山……仮装の催しとは違うみたいだけど……)
「わあ、あちこちから良い匂いがしてきたね。ボク達も張り切って行こう!」
「えっ……と。で、でも、どうすれば……」
「店長さんに色んなポーズ習ったから教えてあげる! まずはこう、手をついてちょっと屈んで──」
「こここっ、これ……! な、何だか……胸元、が……おちつかなっ…」
 集まる視線。
 幽魅バニーのギフトによる存在感の薄さは圧倒的プロポーションによって塗り潰された。

 ── おい、あれ ──
 ── ヒョーッ! とんだ可愛いウサギがいるじゃねえの ──

「(コソコソ)もうお客さん来てるよっ、幽魅さんが綺麗だからだね。 ようし、ボクもうんと可愛いポーズ頑張ってみよう!」
「そ、そんな……私なんて……ふぇっ? あ、試食です……か? どど、どうぞ……っ!」
「こんにちは♪ 新発売のウサギのジュエルボックス、キラキラしててとっても美味しそう! ──……いかがですか?」
 SO……花道を往くのは男性だけじゃない。甘い秘密に手を伸ばすのは、女子もまた等しく。
 燦々とした日輪が如き笑顔に添えられたわがままティガー、女豹のポーズを繰り出す虎娘の唇に挟まれたウサギのクッキーは『あなた』を映して──

 ── お姉様、あれを ──
 ── 素敵。彼女達から無垢なオーラを感じるわ ──
 ── とっても美味しそう…… ──

「幽魅さん、いっしょに写真撮りたいって! えへへ、がおー!」
(うあぁあぁぁぁ……っ、どんどん人がきて……囲まれっ……やっぱりもう、だめ…かも……)


 互いの胸元にウサギとトラのクッキーを乗せ、密着して撮影に応じる幽魅達。視線も次第に熱を帯びているのが伝わってくるにつれて再び彼女の顔が真っ赤になっていく。
「おねーさん! うさぎのおかしくださいっ」
 そこへ駆け寄って来る少女。人の波がザザァと割れた今、ソアではなく幽魅に向けられた小さな掌が試練を与える──!
「……っ」
(にこにこ)
「あ……ありがとう、ございます……これ、どうぞ……」
「ボクからもどーぞ! マグナムさんのお菓子はとっても美味しいから、気に入ったらもっと食べに来てね?」
 恐る恐る、或いは優しく差し出した幽魅のクッキーを手に取る少女。
 次いでソアが屈んでトラ型のお菓子も渡すと少女は満面の笑顔を浮かべて走り去って行った。

「ふぅ」
 空になったトレイを爪の先でくるくる回すソアが一息吐いて振り返る。
「こうやって人と触れ合う機会ってあんまりないから、なんだか新鮮で楽しいね! あ、追加ありがと……え? お客さん増えてるんだって、やったね幽魅さん!」
「……そう、ですね……で…でも、皆さん……笑顔で…楽しい……かも……」
 追加の焼き菓子を運んで来た兎耳の店員から受け取るソアの傍らで幽魅は静かに微笑む。
 人に流されやすい性質の彼女でも、今日初めて会ったソアという少女がここまで連れて来なければ自らこうしてバニーガールになる事もなかっただろう。
 感謝とは、少し違う。
 今も恥ずかしい思いは強まるばかりだが、『来なければ良かった』とはもう思わない。

「それじゃ幽魅さん、次はこんなのどうかな! この兎のぬいぐるみをボクと幽魅さんので挟んで──」
「はさ…………ぅ、あ……っ!? そ、それはあの、ちょっと……」

 甘い菓子の薫る昼下がり。
 幻想の夜明けがスタンディングオーベ―ションする中、彼女達のお仕事は続くのでした。

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