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『ドラマ・ゲツク』デッキセット
登場人物一覧
『夢知らぬ幻想』ドラマ・ゲツク
本を読んだ。今日はこの一冊。
本を読んだ。今日はこの本棚のこの一段。
本を読んだ。今日はこの本棚。
本を読んだ。今日はこの区画。
本を読んだ。今日はこの一室。
日に日に増えていく彼女の読書記録。調べれば調べるほどわからない。魔術書、指南書、何でも読んでいる。だからこそわからない。
彼女は何を知りたかったのか。何を調べていたのか。
このままでは世界一短いハーモニアの偉人伝になってしまうのではないか。それとも彼女の読んだ本の題名を並べて世界一長いハーモニアの偉人伝になるか。
この記録を最後までたどることが出来れば少しは彼女の知りたかったことがわかるのだろうか?
―偉人伝記者の手記―
ビブリオフィリア
ドラマはある一冊と出会う。読み終わるころには不思議なことに紙の色、装飾まで覚えてしまっていた。普段ならすぐに隣の本を手に取り読み始めているのだが、大きな地図の載った本を探して読んでいた。それをたっぷり時間をかけて冒険譚と見比べながら読んでいく。その日は数える程度の本しか読めなかった。
次の日には冒険譚と地図を見比べながら生物図鑑を片手に、それが終われば植物図鑑。こんな地形かな? この動物かな? こんな植物かな? と想像を膨らませながら読んでいく。気がつけば羊皮紙の香りとインクの香りを感じるほど顔に近づけて読んでいた。その日は数冊しか読めなかったのか心残りであったので寝る間も惜しんで何冊か読んでから眠りについた。また別の日ではロープの結び方が詳しく載ったサバイバルの本を読む。本を修復するための糸を使ってロープを結ぶ練習を実際にやってみたり、応急処置の練習をしてみたがこれがなかなか難しかった。全て理解するまでに本を何冊か読める時間を使ってしまったし、指や手が痛くなってしまったが充足感にあふれていた。今日の寝る前のお供は外でも出来る簡単料理の本。
今日は周辺の地図と生物図鑑、植物図鑑を見比べて読み進めていく。食べられる植物や動物の記事を見つけてどんな味なんだろうと想像しながら読んでいたらお腹が空いてきてしまう。お昼を食べたら次は何を読もう。何を知ろう。強くなる外へのあこがれに比例するかのように本を読む。本を読むたび世界が強く強く彩られていった。
『夢見る幻想』ドラマ・ゲツク
夢を見ている暇はない。夢を見る暇があるのならばもっともっと本を読もう。しかし、もしも夢を見るならば――
もしも好きな夢がみれるならばどんな夢を見るのだろう?
無限に本を読む夢? これはきっと違う。望んでいる事ではある。だけど違うとはっきりと言える。
憧れの冒険譚をなぞるような冒険をする夢? それができたらどんなに素晴らしいだろう。でもまだ何か引っかかる。
旅に出て、いろんな人とお話出来る夢? あぁ、きっとこれだ。この夢を見よう。
そこではっと目が覚めてしまう。ほんの少しの睡眠であったが頭も体もすっきりと活力がみなぎってしまっている。
夢にまで見ようとする。そろそろしっかりと自覚するべきなのだろう。
今のドラマの実現させたい夢は外の世界への旅になっていた。
『叡智の捕食者』ドラマ・ゲツク
嵐の王。書に記録された理不尽。それを止めるには本を身に着けておけばいいらしい。希少なものほど効果を見込めるな……ただし、絶対にお勧めはしない。俺だったら嵐に巻き込まれた方がましだって思えるからさ。
何故? ってそんな事きくんじゃねぇよ。お、俺はタダのチンピラだぜ? なに? のチンピラがローンしてまで稀覯本なんて買わない? い、インテリチンピラなんだよ。いいだろ! へ、へぇ、あの子が同じの持ってたへぇ。偶然ってあるもんだな。うん。ち、ちげぇってカツアゲされてねぇって! 善意で差し上げたっていうか寄付しただけで! ちょ、超怖かったからマジで! これオフレコで頼むから、え? なに取り調べって全部きろくとってんの? 聞いてないって
―色んな所を剃刀負けした悪漢の取り調べ記録―
『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク
本と出合う。お話が終われば片付ける。
冒険譚と出合う。お話が終わっても原点であり続ける。
人と出会う。お話が終わればまた明日。
師匠と出会う。お話が終わっても教えてもらいたい。
日に日に増えていく、人とのかかわり。知れば知るほど知りたいことが増えていく。どんなお話をしよう? どんなお話をすればいいのだろう? だからこそ読書はやめられない。
明日の話題に、依頼の良い解決案。知りたい事、調べたいことが多すぎる。
ドラマの物語はまだまだ始まったばかり、大樹ファルカウ内部にある書庫にこもった約百年は数行、数ページで語れてしまうかもしれない。しかし、旅に出てからの生活はきっと数冊分になっている。これからも物語は増えていくのだろう。
彼女の冒険譚がまた誰かのドラマを生むのだろう。