PandoraPartyProject

SS詳細

手に取れ、覚悟を決めろ、引鉄を引け

登場人物一覧

コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
耀 英司(p3p009524)
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「しかしまぁアンタ、こんな血生臭い依頼も受けるんだな」
 仮面越しに聞こえてくる僅かにくぐもった声に修道服姿の女は顔を上げて怠そうな瞳を向ける。
「一緒したのが釣りとVDMの時だぞ? そう思っちまっても仕方ねーと思うんだ! だからその刺激的な眼光を柔らかくしてくれ!」
 スーツに身を包み漆黒の仮面に光の艶が流れている。耀 英司は手を広げ大仰なポーズを取りながらシスターを宥めにかかる。
「怒ってねぇ。得物弄ってる時は大体こんな顔してんのよ」
 重量感ある鈍色のハンドガンを手元に置きながらため息をつき返答するシスター……コルネリア=フライフォーゲルは走る荷馬車の中、揺られながら進んでいく道を覗き見ながら。
「その言葉、全部返してやるわよ。あんだけ釣りと遊園地にはしゃいでた野郎がこんな雑草狩りに参加するのねって」
 街から村へ送る荷馬車を狙った強盗が頻発しているから退治してほしいとローレットに出された依頼。情報屋の少女がその場に居合わせた二人を呼んで成立と相成ったのだ。
 現在幌の中で揺られているのは囮として動いているこの荷馬車を呼び水とし、誘い出して討伐という特段変わり映えの無い作戦の為である。
「オーケーオーケー、お互い様ってやつだな。こうものどかな旅路が続くとどうにも口が寂しくなって話し相手を求めちまうんだ。シスター、少し話でも聞いてくれねぇか。懺悔だよ懺悔」
「なぁにが懺悔よ。悔い改めたい事がある素振りが欠片もないじゃないの。せめて演技ぐらいしなさいよ」
 安物の紙巻煙草にオイルライターで火を灯す。コルネリアにとっての了承に英司はまたも大仰な仕草で喜びを表し仮面の下にあるであろう見えない唇を動かして。
「まさかもクソもねぇがシスターが扱う得物ってなぁその銃なのか? そしてもしかして俺が話しかけてなけりゃ正に今……手入れをするところだったんでは?」
 懺悔どころか質問してきてんじゃねぇかと心中で笑いながら首肯する。
「そうねぇ。盗賊出没の想定ポイントまではまだあるし、使ってないブツでも弄ろうとしてたところよ」
 一旦任務が始まればそこは既に戦場になり得るフィールド。得物をばらして整備などは既にローレットで終わらせている。コルネリアが触ろうとしていたのは予備の隠し銃であった。
「生憎アタシのはデカブツでねぇ、こりゃただの予備。まさしくのどかな旅路の為の暇つぶしよ」
 言いながら拾い上げた銃を手慣れた動作で銃身や薬室をクリーニングしていく。汚れが原因で部品に鈍りが生まれ意図せぬ動作、スラムファイアが起こる可能性も出てくる。決して怠ってはいけないメンテナンスなのだ。
「……おぉ」
 先程から静かだと思ってたら小さく息を飲む声を聴いた。どうしたのかと顔を上げてみれば英司が一人で何を納得してるのか、頷きを繰り返しながらコルネリアの手元をじっと眺めている。
「おいおい……メチャクチャ扱いがサマになってるじゃねーか。こりゃなんだ、俺にはわからねー動きしてるわ」
 大袈裟な、と呆れれば釣りと遊園地の時にはこんなこと出来ると気づけなかったと返され、思わず笑みを吹き出しながらそりゃそうだと答える。
「そりゃ商売道具でありアタシの命を預けるモンだし、アンタだってそうでしょ」
「確かにその通りなんだがよぉ。テメェにできない事ってのは何割か増して凄いと思わん? あ、そうだ」
 手入れも終わり二本目の煙草から煙が出始めたぐらいに。
「折角だし道中指導してくれよ。チャカを扱った経験はあるが、正規指導受けたのは随分と前でね。なぁに礼はするさ。な、頼むよシスター、カミサマも行けって言ってる!」
 僅かな驚きと戸惑いを視線で返し、逡巡したのは一つの考えから。
「アタシは傭兵であってインストラクターじゃないの、扱えはしても指導者なんかには……」
 言った所で英司から視線を外し、数瞬で戻すと。
「言っておくけど基本的な事をちょろっと口出しするぐらいだからね」
 僅かでもこれで生き残る術が、確率が上げられるのなら。悪くない暇つぶしではないのかと口には出さずに。
 揺れる幌馬車の中、実弾を弾く訳にもいかないので主に構え方や弾道、射程が如何ほどのものかというレクチャーになってくる。
「成程、やっぱ近すぎても当てづらいってことなんだな」
 創作映像や漫画のように格好良く敵を撃ち抜くというのはそう簡単な事では無いということだ。特異運命座標イレギュラーズの身体能力であるならば可能であったとしても、覚えておいて損は無いだろう。
「アンタの戦闘技術と同じね、それがアタシにとっての銃というだけ。付け焼刃で敵う相手だけじゃないもの」
「そうだな……その通りだ」
 自身の金色の力、それを制御するのは力だけでは足りない。足りないから技術で補わなければならない、その為の基礎。
「ともかくありがてぇ、後は実践で使えりゃ御の字だな! 礼はそのうち……」
 一瞬下がった英司の声のトーンに気づいたか気づいてないか。コルネリアは首を振って応える。
「こんなんレクチャーにもなってないわ。手が掛からな過ぎて教科書読み上げただけみたいじゃないの」
 そうは言っても返せないというのはただの重しであり荷物だ。だからこの後に続くのは。
「依頼が終わったら酒場で一杯奢りなさい。それでいいわ」
 このシスターは対等を好む。肩を並べるならば尚更に。
「了解。ツマミはサラミとソーセージでいいか?」
 それでチャラだと笑い、また少し二人に沈黙の時間が訪れる。
 流れた時間をみるにそろそろ目標の地点の筈だがと英司が御者に声を掛けようとしたその時、静かな空間の中で自然界で発するには歪な破裂音が響き渡る。
 英司もコルネリアも聞き慣れた、日常から外れた不協和音が。

 しゅ、襲撃ー!

 御者の叫びを境に雰囲気が変わる。淀みない動作で英司が御者の首根を掴んで引き寄せる。幸いにして弾丸は肩を掠めただけで軽い出血と火傷になっているだけだ。
 先に幌から飛び出したコルネリアが銃を構え空間の把握を行う。
「どうだシスター」
「五人、木陰と岩陰。チャカ持ちね」
 パニックになっている馬のハーネスを外し、合流する英司と確認を取る。
「オーケー……様子見てきてんのはあれか、狙ってる荷物ダメにしたくねぇってやつかな」
 恐らくは、と返しコルネリアは英司に合図をして幌を盾にする形を取りながら後退する。
「(無暗に撃ってこないってのは多少頭の回る奴が居るか……)」
 この膠着をどうするか、緊張張り詰める中で英司が幌の死角からコルネリアに合図をする。事前に決めていた簡素なハンドサイン。
 任せろ、と。何か考えがあるのだろう、ならば信ずるが吉。どこか自分と似た臭いのする男に賭けてみるのも悪くはない。
「サンキュー、シスター。んじゃ、おっぱじめようか」
 足に力を込めて地面を踏み込む。前屈み気味の姿勢で蹴りだすスタートダッシュは迷いなく盗賊達の方へ向かう。
「フライングじゃないの。スポーツなら失格よ?」
 英司が走り出すと同時、コルネリアが視認していた木に銃口向けて引き金を引く。額に穴を空けた盗賊が崩れ落ちる音が止まっていた時間を動かしていく。
 発砲音と仲間の断末魔、此方に向かってくる男の存在により明らかな動揺が見られる盗賊達は対応に数瞬の遅れを取る。英司にとってはその一瞬が助けとなるのだ。
「おいおい、判断が鈍っちまってんのかい? チャカなら素手に負けないとか……」

 ––思ってんじゃねぇよな。

 コルネリアに気を取られていた岩陰に潜んでいた男が眼前に迫る英司に気づくももう遅い。咄嗟にシスターに向けていた拳銃を英司の方へ変えようとするも、予測していたかのように英司の膝を当てられて阻まれる。当然構えなおすより拳を喉元へ振り下ろす隙は少なく。
「じゃあな」
 その盗賊が最期に見た光景は仮面の男と、その拳に纏う稲妻の一閃であった。
 様子を伺っていたコルネリアが口笛を吹く。クラヴ・マガ、一切の無駄が無く制圧する武で実戦的であり殺傷力の高い力。彼女が知る由も無いが英司が元居た世界で修めた技術だ。
 相手の出鼻を挫くカウンターは成功したが戦闘は多勢の方が有利というのはどこも変わらない。如何に特異運命座標イレギュラーズといえどその理論自体は変わらないのだ。
 この集団での統率者だろうか、残り二人より早く混乱から戻った盗賊が英司に銃口を向けてトリガーを引こうとする。コルネリアが対応しようにも残りの盗賊達との銃撃で反応が遅れる。
 気づいた英司が足元で息絶えている男の手に握られていた銃を取り躊躇なく撃つ。
「がぁっ!?」
 流石に先手は盗賊にあり、黒い仮面に弾着の衝撃が伝播する。わき腹を掠め灼熱の痛みを発するも命に別状は無い程度だ。それよりも。
「弾がでねぇ!?」
「安物掴まされてんのねぇ。英司!」
 弾丸ばら撒き一人始末したコルネリアが英司の元へ駆け寄る。渡すのは一丁の銃、馬車内で整備していた予備の物。
「構えなさい英司、レクチャー、忘れてないでしょうね」
「勿論だマム、当てたら褒めてくれよ?」
「馬鹿ね、当たり前の事をして褒めるほどアタシはやさしくないのよ」
 軽薄な言葉に宿る殺意の意思が火薬と鉄屑に宿り呆然とする盗賊の喉を貫く。思考の暇も与えずに全てを奪う応酬はここで決着を迎える。

「親玉……では無かったんだな」
「組織となってんのは厄介ね、この先の事はローレットに応援を頼んで潰すしかないわ」
 その場で取らなかった命は後の憂いを絶つ為に。聞き出した情報は既に纏めてある。
「神に祈ってるのか……?」
「依頼は捕縛じゃなくて討伐なのよね」
 出血多量で息も絶え絶えとなっている男を見下ろしコルネリアは煙草の紫煙を燻らせながら。

 男に向けた銃のトリガーを引く。

 かくして依頼を完了させた二人はローレットに報告を持ち帰り、その足で酒場へと向かうのであった。

  • 手に取れ、覚悟を決めろ、引鉄を引け完了
  • NM名胡狼蛙
  • 種別SS
  • 納品日2022年01月31日
  • ・コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315
    ・耀 英司(p3p009524
    ※ おまけSS『それは生命を奪う道具なのだから』付き

おまけSS『それは生命を奪う道具なのだから』

「俺がやってもよかったんだがなぁシスター」
「なにがよ」
「最後の後始末」
「……いいのよ。アタシがやるべき、んにゃ、やりたかったからやっただけで」
「そりゃシスターだからか? 神の元へ送ってやる的な」
「んなわけないでしょ。ただ、名前を知ったからにはアタシがやらないと思っただけで」
「名前? あの盗賊の?」
「違う。そいつの子供と妻」
「盗賊なのにぃ?」
「色々あるんでしょ。アタシ達にも、あいつらにも」
「それでそれがなんの理由に?」
「記す為に。アタシが奪った命を忘れない為にかな。誰の手でも無くアタシが送らないと」
「送らないと?」
「背負うものが分散しちゃうでしょう」
「……随分と難儀なシスターだなぁ」
「うるさいわねぇ」
「ははは! 悪い悪い、今日は一杯奢らせてくれよ。勉強代としてな!」
「二杯、二杯よ」
「こ、こいつ……!」

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