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2月の空騒ぎ

登場人物一覧

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー

●2月の空騒ぎ
 空気はまだ寒く、日が落ちるのも早い。吐く息は白く、手袋を直しマフラーを巻き直す。日向葵(p3p000366)がサッカー部の仲間と帰りにコンビニに入る。そこでそれは目に入った。

「おっ。そうかもうすぐバレンタインか」
 コンビニの入り口に入ってすぐ。バレンタインのチョコレート特設コーナーだ。安価ないわゆる義理チョコ。友達にあげるちょっと面白いジョーク系のチョコレートから高級チョコレートまで。ハートのあしらわれたPOPが目立つ場所だ。まだ設置途中のようで所々空間が見える。
 仲間は少し浮き足立ったような様子だが、それに対して葵はクールだ。
「ああ、チョコが貰える季節っスね」
 何か聞き捨てならない台詞が聞こえたがきっと気のせいだろう。サッカー部の仲間たちは今年は何個貰えるかなあ。0個は悲しいよな。本命欲しいよな〜。などと盛り上がりながらコンビニで買い物を済ませる。
 葵はナッツのエナジーバー、コーラなんかを手に取りながら。
「(何で皆ソワソワしてるんスかね……?)」
 などと考えていた。

●バレンタインデー
「な、なんじゃこりゃああああああ!!」
 教室の叫び声の主はサッカー部の仲間。嫌な予感はしていたが的中した。
「声でか」
「いや何で冷静なんだよ葵! すげえ数のチョコじゃん!」
「食べ切れるっスかねえ」
「そうじゃねえだろ!」
 葵は小さくて綺麗な紙袋に入ったチョコや市販の板チョコまで両手で抱えていた。
「やばいっスね。チョコ入れる袋忘れたっス」
「そう思って。はい! 大きな袋と。こっちは私から」
「お、クロエ。サンキューっス」
 渡すものを渡してプラチナブロンドのクロエと呼ばれた吸血鬼は去って行った。
 葵がクロエから貰った袋にチョコレートを移し替えている間に新たな来客が現れた。
「あの……日向先輩……」
 顔を赤らめもじもじしている女の子。あきらかに葵に好意を寄せている健気な後輩だ。サッカー部の仲間はアニメでしか見たことねぇなあなどと考えていた。
「これ……! 受け取ってください!」
「うっス。ありがと。アンタ、名前は?」
「あっ、えと。私澪って言います……! それじゃあ!」
 精一杯の気持ちを振り絞った澪は廊下へと向かう。そこでは澪の友達だろうか。
「がんばったね!」
「やったじゃん」
 と声をかけて励まし合ってる。澪は涙目だ。

「なっ……」
 仲間がわなわなと震えている。
「ペッッ!!!!!」
「急に唾吐いてどうした」
「いや唾吐くだろこれ!」
 葵の鍛え上げられた筋肉。身長も高い。普段はクールだが無表情ではない。時折見せる笑顔にキュンと来る女子はいるのだろう。試合中も得点を取りまくる、とあればまあモテる条件がそろっているのだ。
「こっちでも得点王ってか!」
「何の得点王なんスか。どうしたっスか……」

 日も暮れ。放課後のサッカー部の練習が終わり帰路に着こうという時。葵は両手で紙袋まみれになっていた。紙袋からははみ出そうなほどのチョコレート。口には早速チョコレートを食べておりもぐもぐしている。こういう部活終わりに甘いものはありがたい。紙袋をどさりとベンチに置く。
「買い物帰りかよペッ……!!」
「もが。挨拶代わりに唾を吐くなっスよ」
「どうせ貰った奴のことも覚えてねぇんだろ。罪な男だぜ」
「そんなことないスよ」
 葵がチョコをいくつか見せる。
「こっちは美雪。この薄い紫のはクリスティーヌ。エディットから貰ったのは赤と黒のリボンっすね。芽衣は市販のアーモンドチョコで。杏はこの缶のやつ」
「え、葵。お前全部誰から貰ったか覚えてるのか……?」
「? そうっスけど」
 お返しをするために覚えている。そういう理由もあるのだが。基本MFである葵は視野が広い。MF。ミッドフィルダー。サッカーフィールドの中央に位置し時にアシストパスや攻めの一面を見せる。加えて司令塔の役割も持つ。味方の中央に位置するMFが支持を下したほうが連携が取れやすい。
 さらに言えば葵の打つ砲弾のようなボールも勝利に貢献している。彼がサッカー部キャプテンでエースストライカーであるのは部の仲間たちも認めている。
「やべ。見直した。やっぱすげえわお前」
「どーもっス」

●ホワイトデー
 葵の姿はデパートのホワイトデーコーナーにいた。マシュマロにクッキー、マカロンといったお菓子や紅茶コーヒーぬいぐるみなどが並ぶ。
「えーと予算的にこのぐらいっスね……」
 学生である葵の資金は限られている。学校以外はサッカーに力を入れているのでバイトはしていない。葵としては全員にお返しをするつもりだ。となると選ぶお返しは。
「へぇ。今こんなのもあるんスね」
 リボンのついた小さな箱を選ぶ。

「ねぇ、ねぇ澪。日向さんから何貰ったの……?!」
「ま、待ってよお……」
 きゃあきゃあと歓声をあげながら葵から貰ったお返しを友達に見せ合う。水色のリボンのついた小箱開ける。中には3つほどのカラフルなキャンディーが。
「うそ……」
「え……。キャンディー?! やったじゃん澪!!」
「うん……うん!」
 葵の学校や地域ではホワイトデーのお返しに意味を持つとされていた。例えばマシュマロ。すぐに消えてしまうことから気持ちになぞらえて「あなたが嫌い」マドレーヌは貝の形が縁起がいいことから円満を意味し「あなたと仲良くなりたい」そしてキャンディーは「あなたが好きです」
 女子の間では当たり前の意味だが。もちろん葵は知らない。

「お、何だ。また買い物帰りか?」
 休み時間。葵が大きな紙袋を提げているのを見てサッカー部の仲間が声をかける。
「ああこれバレンタインのお返しっスね」
「へー。何あげるんだ?」
「飴っスね」
「飴……。えっ、飴って確か……」
 あなたが好きです。じゃなかったか? 意味。
「?」
「……あのさ。全員に飴やってんのか?」
「そうっスけど」
「……」
 それは義理みたいなものでは? 100本のバラの花束をチョコレートをくれた女子全員にお返しするみたいなことをしている。
 例えば葵がモテるとわかった上で最愛の一人になれないと理解してるならまだいい。だが教室で懸命にチョコを渡してきた澪なんかはどうだ。ましてやもしもこれが初恋だったら。男の自分でも傷つくのが安易に想像が付く。サッカー部の仲間は自分は気持ちをないがしろに出来ないと思った。
 ああ、わかった。こいつはサッカーのMFとしては優秀だが恋愛に関してはとことん駄目なのだ。つまりは『恋愛に鈍感』もしくは『サッカー馬鹿』である。
「……はぁ。お前いつか刺されるな」
「何でっスか……」
「俺には葵ポジションは無理だ。ま、がんばれ……」
「ええ……」
 こいつなら刺されそうになっても持ち前のフィジカルでひょいと避けそうなのでまあなんとかなるだろう。そんなことを仲間は考えていた。

  • 2月の空騒ぎ完了
  • NM名7号
  • 種別SS
  • 納品日2022年01月28日
  • ・日向 葵(p3p000366

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