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尻尾の感触が忘れられない
尻尾の感触が忘れられない
登場人物一覧
夏の避暑地で私は鹿ノ子の尻尾を毛虫と間違えて掴んでしまった。
本当に毛虫だと思ったし、鹿ノ子を助けてやらねばと必死だった。
尻尾だとは思わなかったのだ。
本当に申し訳ない事をしたと思っている。
今まで見た事は無かったから存在するとは思ってなかったのだ。
確かに角が生えているのだから、妖憑だとは思っていたが。
柔らかい毛の感触は今でも手に残っている。
流石に邪念が過ぎるので、この事を親友の灯理に相談したのだが。
優しい微笑みで「大丈夫だよ、遮那」と言われてしまった。
全然、大丈夫ではないのだが。人ごとだと思って面白がっておるだろう。
私は割と真剣に悩んでいるのだ。自分がおかしいのではないかと。
それに、鹿ノ子に対して失礼ではないか。尻尾の感触が忘れられないなどと。
いや、あれは不可抗力だ。
何も不自然ではない。吃驚して忘れられないだけだ。
印象が深くて海馬に深く刻まれてしまったのだ。
はぁ。鹿ノ子に会いたいのう。
早く来んかのう。
私は其方の笑顔が見たいのだ。
楽しくお喋りをしていると癒されるのだ。
けっして、尻尾を触りたいとかは思っておらぬ。
いかん、執務に集中せねば。
堂々たる男になるためにも、今は頑張らねばならぬ。
よし。次の資料は、と――