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なんでもない日の密かな商談
登場人物一覧
幻想南部のブラウベルク領――その中心地、ブラウベルク。
その領主屋敷に新田 寛治(p3p005073)は訪れていた。
事前のアポイントメントは当然。スムーズに中に通された。
「お嬢様、お連れいたしました」
「はーい、どうぞ」
秘書らしき女性に連れられて少し進んで行くと、ひとつの部屋で立ち止まる。
少しだけ待ってから、女性が扉を開けて、少しだけ頭を下げて通してくれた。
「こんにちは、新田さん。お席へどうぞ。……例のお話でしょうか?」
微笑みを浮かべる『蒼の貴族令嬢』テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)と長机を挟んでソファーに座る。
「はい。先日、ご提案いたしました『肖像画』について、具体的な服装の提案をお持ちいたしました」
「ありがとうございます。ではさっそく見せていただけますか?」
ぽふりと手を打つテレーゼに対して、寛治は服装案の資料を3つ提示していく。
そこへ、秘書がかちゃりと紅茶とカップを置いた。
「こちらの紅茶、うちの領内でとれるやつなんです。どうぞ」
「ありがとうございます」
受け取ったカップから漂う香りに目を閉じて楽しみ、一口。その後、そのままそっとカップを置いて本題へ。
「さて、それでは一つ目はテレーゼ様の髪色と合わせた水色のビキニと、シースルーパレオです。
最近は王道ですね。水着としての魅力と、サマードレスのような淑やかさを両立するデザインです。
パレオをスカートのようにカーテシーをすれば、貴族らしさも演出できます」
「なるほど……涼しそうですね。この色合いも私と似せるのでしたら良いかもしれませんね。ちょっと動きづらそうですけれど」
ふむふむと真剣そうに見ながらじっと見つめている。
「続きましてはこちらの背中開きのワンピース。後ろからのアングルに、魅せる背中が映えると思われます。
普段は身体のラインをお見せにならないテレーゼ様ですが、夏の陽光に合わせて見せつけて差し上げましょう。
小娘となめてかかる相手を黙らせる効果があります」
「舐めてかかられるのはもうこりごりですからねえ……実際に殿上人な方々もいますけれど」
何か思い出したのか、一瞬、げんなりとした表情を見せるテレーゼに、寛治は最後の一つを提示する。
「では、こちらが私の推し案なのですが。
肩紐の無いバンドゥビキニに、タイサイドのボトムを合わせるこちらなどいかがでしょうか。
色もブラックで締めて、大胆なデザインに。8月に20歳を迎えるテレーゼ様の大人の魅力を表現します」
「大人の……魅力……あります?」
不思議そうに首をかしげるテレーゼに、寛治はググっとさらに進めていく。
「ポーズも攻めていきたい所。
前のめりになり胸元を両腕で挟んでアピールなんてどうですか?」
「そ、それはちょっと恥ずかしいかもしれませんけれど……というか、全部水着なんですね」
改めて全部の案を純繰りに見たテレーゼが少し照れくさそうに頬を染めながらふと。
「一応ドレスの提案もありますが……」
そう言って差し出されたのは正装用のイブニングドレス案。
深く切られたネックラインと、胸と背中の大きく開いたローブ・デコルテ。肘まであるレースの手袋、髪色と合わせた濃いめの青を基調とした物だ。
それを少しばかり興味深そうに眺めた後、テレーゼはふむ、と少し考えた後、そっとドレス案を机に置いた
「これは今回は止めておきます。イブニングドレスは頑張ればいつもの衣装で行けそうですし、流石に今の私にはあまりにも大人っぽい気もしますし」
「ええ、これからまさに水着の季節が始まろうというところですから。それがよろしいかと」
「水着の季節……夏ですねぇ暑いのはあまり好きではないのですが、こういう衣装でなら涼しめそうです」
うんうんと頷いて、3つの衣装案を眺めながら少し悩んで見せるテレーゼを見ながら、寛治は紅茶をもう一口。
「そうですね……この中だと私も、最後の水着が良いかもしれません」
そう言って感じが推す3つ目の案を少しだけ寛治の方に寄せる。
「大人になれている気はあまりしませんけれど、
よく考えたら今までの姿を映すだけなら別に肖像画にする必要もないですよね」
何やら納得したようにテレーゼが頷いた。
そういうテレーゼの表情は若干、大人っぽさのある衣装に少しばかりの羞恥を見せる。
「それでは、こちらの案で行きましょう。
ポーズは先程の前のめりになる形でよろしいでしょうか?」
それを受けるテレーゼが、こくりと頷いた後、自らの紅茶を一口。
「そろそろ、お菓子も欲しいですね……」
そう言ったところで、秘書の女性が扉の向こうから声をかけてきた。
「ちょうど来たようですね」
寛治がクイっと眼鏡を差しなおしたあたりで、テレーゼの返事を受けた秘書が中に入ってきた。
紅茶に合わせたケーキのようだ。
「りんごのケーキです。どうぞ。こちらもうちの名産品です」
そう言った秘書は、再びその場から立ち去っていく。
「衣装に着せられてる、なんてことにはなるのは流石に恥ずかしいですし。
大人っぽく頑張ってみませんと」
「それがよろしいかと」
テレーゼの言葉に頷いた寛治はより詳細に詰めていく。
それを聞くたびに少女は少し照れてみたり、好奇心からか目を輝かせてみたりしつつ。
二人の商談は夜遅くまで続くのだった。