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SS詳細

Directer's Cut !!

登場人物一覧

ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

●Let's play

「おいおい、何処へ行こうって言うんだ?」
「離席を許した覚えは無ェぞ」
 ある者は憐れみをこめた視線を送り、ある者は厄介事に巻き込まれる前に、そそくさとテーブルから離れていく。
「そうなのか?」
 品の良い、けれども明らかに初心者と分かる客の肩を柄の悪い男たちが両側から押さえつける。
「敗者は勝者の言うことに絶対服従。此処のルールだ」
「そうなのか」
 勝負の女神は微笑まない。
 静かに運命と確率の行方を見守るのみ。
 この卓には「イカサマ禁止」という小さなおまじないがかけられているが、ただ、それだけ。カードの初心者と百戦錬磨のディーラーでは勝負になどならないが、当人が正々堂々とした勝負を望んだのだ。
「ならば仕方ない。賭け金が無くなったので次のゲームからは臓器を担保に賭けるとしよう」
 忍び笑いが漏れる。
 先程まで、テーブルでは一方的な私刑が繰り広げられていた。加虐的な笑みを浮かべたディーラーは他の客に目配せし、次のカードを並べていく。
「臓器を売る覚悟はできたか?」
「最初からその心算だが」
 飄々と、しかし何を今更と言った不可解そうな風情でルブラットは告げる。彼が感情らしい感情を見せたのは久方ぶりのことだった。
「そうでなければ、席に座れないのだろう?」
「??」
「??」
 お互いに何か盛大な思い違いをしていたが、言葉を交わして齟齬を正すような間柄でもない。
「んで、どうするね」
「では腎臓を追加で賭け金に。ダブルダウン」
「終わったな、アンタ」
「いや、そうでもないようだ」
 足して21。
「……はっ?」
 呆然と呟いたのは誰の声だったか。
「漸くここのやり方を理解した。つまりは確率と統計の遊戯なのだろう、これは」
 ルブラットは指を組み合わせ、預言者のように呟いた。
「諸君、お待たせした。ようやく私もルールの把握ができたようだ。ではゲームを続けよう」
 今や逆転した立場で宣告する。
「確か、敗者は勝者の言うことに絶対服従なのだったか。ひぃふぅみぃ……素晴らしい献体の提供に感謝する」


●Special sweets!!
 
 瓶詰のスノーボールクッキー、すみれのクリームが入ったチョコレート、アンズジャムのプレーツェル。
 決められなかったので全て買う事にした。
「あらぁ、それ、素敵な仮装ですね!!」
「……」
 無言の中に嫌悪感を滲ませるという匠の技を披露したルブラットは、カウンターに乗せられた菓子を紙袋に入れた。
 本日、このように言われたのは何度目だろうか。呪われた日なのだろうか。
 にこやかに告げる菓子屋の売り子にとっては誉め言葉なのかもしれないが、言われた側は訳も分からないまま、じわじわと染み出る不愉快な気持ちを募らせている。
「失礼する」
「ありがとうございましたー!!」
 ちりんとドアベルの音を後ろ手に、空気の冷たくなってきた通りを足早に歩く。
 今日は菓子が安い。ついでに種類も豊富だ。それと引き換えに心の中の平穏がじわじわと蝕まれている、そんな気がしてならない。
 抱える包みには紫や赤に黒といった毒々しい色から、オレンジや黄金といった収穫祭の王道色までが雑多に詰め込まれている。
 幸福とは大抵、カップケーキに大きな板のチョコレート、瓶詰のミントキャンディーにとろけるキャラメルのような形をしているものだ。ここぞとばかりに買いこんだ甘味が腕の中で満足そうにコロコロ笑った。
「少し買いすぎたかもしれない」
 そういえば興味深い菓子を見つけるたびに、購入していったような気がする。
 これだけあるのなら顔馴染みとなった廃教会の連中に分け与えても良いかもしれない。
 ルブラットはそう思い、足を路地へとむけた。廃教会への近道にも慣れた。もう迷うことはない。
 すると、路地の奥から小柄な悪魔や幽霊が飛び出してきた。
「トリックオアトリート!!」
「とりっくおあとりーと!!」
 笑いながら足元を駆け抜けていく、異形の群れ。いよいよルブラットの眉間の皺(見えない)は深くなった。
「……何だ、あれは」
 もしかして自分はあれらと同じような存在に見られていたのだろうか?
 背筋が凍るような、おぞましい推測を即座に廃棄する。
「いや、まさかな……」
 そうして、するりと。黒猫のように路地の闇へと溶け込んでいった。

  • Directer's Cut !!完了
  • NM名駒米
  • 種別SS
  • 納品日2022年01月13日
  • ・ルブラット・メルクライン(p3p009557
    ※ おまけSS『祝事多き月(黒塗り部分)』付き

おまけSS『祝事多き月(黒塗り部分)』

「映画、観た事ないの?」
「映画」
 ルブラットは微動だにせず、その単語をオウム返しで口にした
 邪気の無い機械のようなその行動は、ルブラットの知識にその単語が無いとき。またはその知識に興味を抱いて説明を求めているときの動きだとマーレボルジェは理解している。
「大きな動く写真よ。劇みたいなモノね。この監獄にも映画館があって……しまった畜生」
 普段なら優越感に浸り、マウントを取りながら自分の知識を披露するマーレボルジェだったが、この時ばかりは違った。途中でしぶい顔――酸っぱい林檎を食べた時などに見るアレだ――と同じ顔になってしまった。
 恐らく彼女は何かとんでもない失言をしてしまったのだろうと、ルブラットは理解していた。しかし、どこに失言があったのかを判断する材料が足りない。故に自分の知りうる範囲内でルブラットは会話を続けることにした。
「映画館、あるいはキネマという単語には聞き覚えがある。恐らく二度三度、その建物の前を通ったことがあるのだろう。だか実物を見た事は無い。この監獄にはそのような物まであるのだな」
「そうなんですよ!!」
 会話に入ってきた第三者の声を丸っと無視したルブラットは「これは誰かね」とマーレボルジェの方を見た。
「コレは映画蒐集家。害虫よ」
「どうも、はじめまして!! 新しく収監された方ですか? 今日暇ですか? 映画見ていきますか?」
「いいや、私は彼女の面会人だ。映画に興味はあるが、今日は彼女と会話をすると決めている」
「そうですか、残念……いや、待てよ。マーレボルジェちゃんとお友達ってことは倫理観ヤバめの方ですね、やったー!! 今度やばいホラー映画一緒に見ましょうね!! ソーダとかピザとかポテチとかキャラメルポップコーンとか白黒映画とか用意しておくので!! では!!」
 また、と手を振りながら廊下の奥へと消えていく映画蒐集家の勢いにつられ、ルブラットは何となくソレにむかって手を振った。
「この監獄は飽きないな」
「アレと同類にするな」
「分かった。ところでキャラメルポップコーンとは一体何だ?」

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