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SS詳細

月曜九時の赤ずきん

登場人物一覧

レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)
蒼剣
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子

●だってしょうがないじゃないじゃないですか
「オマエ、寝ないんだっけね」
「こんな時間まで起きているレオン君の方がおかしいんですよ」
「楽しかったからねぇ。ついつい」
「子供みたいな事を言って!」
 秋口も深まれば夏の気配はすっかり何処かへいってしまった。
 昼間はまだ暖かだが、夜も更ければ静かな森はしんしんとした冷たさを抱え始めるものだ。
 自分からすれば故郷を思わせる何処か懐かしい風景だが、彼女の丁度対面で焚火を弄るレオン・ドナーツ・バルトロメイにとってもそうだろうか、とドラマはふと考えた。
 高名な冒険者である彼はすっかりインドアの都会派を気取っている。それが何を思ったか突然キャンプをする等と言い出したのが今回の全ての発端だ。
「レオン君は街の方が好きだと思っていました」
「普段はね。でも、若い頃を思い出すから――実はこういうのも嫌いじゃないよ」
「腰の痛くなかった頃のアクティブなレオン君ですねぇ」
「お見せ出来なくて残念だ。オマエなら顔ぽおっとなって見惚れちゃうのに」
「……や、辞めて下さい。なりませんから!」
 語るに落ちたドラマの耳は激しく動き、頬は赤く染まっていた。
 焚火の明かりではそこまでは判然としないからまだ救いなのだが――
「……ん、ン! コホン! 兎に角、お誕生日ですから……確かにたまには良いのではないかと!」
 咳払いをしたドラマに「ありがと」と応じたレオンはくすくす笑っている。
 それはドラマがたまらなく好きな顔で、同時にこの上なく悔しい顔でもある。
「ただ、何時もいきなり過ぎるから……」
 この言葉ばかりはトーンが小さく、それはドラマの本心を物語っている。
 丁々発止としたやり取りはドラマの『慣れ』が産んだものだ。
 どぎまぎして口を利けなくなるような関係ではないけれど、彼女の小さな胸には何時も炎が揺れていた。
 それは例えば健気さだったり、『年齢相応』の愛らしさだったり、時に痛みややきもちだったり――
(色々計画していたのに!!!)
 誕生日はムードのある場所で何とか二人に、等と思っていたドラマの思惑を嘲笑うかのように忙しない一日は大騒ぎの内に終わったものだった。

 Q:どうしても二人きりになりたい相手が居ます。
   その人物は人気者で、今日は彼の誕生日です。
   当日彼はイベントを開催しました。周りには山程人が居て、気の置けない友人達との時間を愉しんでいます。
   果たして少女(103)はどうしたら彼と二人きりになれるでしょうか?

(だから、しょうがないじゃないですか――)
 ドラマ・ゲツクは深い、深い溜息を吐き出した。
 彼女を叡智の産物、過去の世界へ誘う不眠のギフトインソムニアは今日は彼女の恋を応援する武器へと姿を変えていた。
 
 ドラマが最速で導き出した実に合理的な戦略は草木も眠る頃まで彼の近くに居る、という判断だった。
 そのチャンスが訪れるまで粘れば良い。自分は出来るのだからそうすれば良い。
 それは全く合理的な手段の出力であり、その合理性を彼女に追及させたのが恋愛ひごうりのかたまりである事は嫌という程明らかだった。
(――しょうがないじゃないですか。好きなんですもん)
 人間はしばしば『非合理的な合理性』を愛好するものだ。
 パチパチと火花を爆ぜさせる焚火を茫と見つめながらそんな事を考えたドラマも普段ならば「人間ではありませんが?」との訂正をしそうな話ではあるが。
 実際問題、目の前でくだらない話をする低い声が長い耳をくすぐる度に彼女の顔は綻んでいる。
 ともあれ、あくまで重要なのは『高度な知的活動を可能とした社会性の動物が、非合理的に合理性を追求しようとする部分』であろう。
「……我ながら、随分と粘ってしまいましたが、全部レオン君が悪いのですからね?」
「はいはい、そうだね。俺が悪いね」
「……………思っているようには見えないのですけど!?」
「いや? 思ってるよ」
「じゃあ、何が悪いと――」
「――って所じゃないの?」
「……」
「……………」
「……………………」
「訂正は?」
「特にありませんけど!!!」
 可愛らしい愛弟子の表情にレオンは相好を崩して遂に大きな笑い声を上げていた。
 幻想種の年齢はあてにならないものだが、ドラマはまるで少女のようだ。
 少なくともこの赤ずきんは百戦錬磨の狼をあしらえるまで、まだまだ長く時間が掛かるのだろう。
「レオン君」
「うん?」
「お誕生日、おめでとうございます――」
 言いたい事は山程あったが、ドラマはその全てを辞めにした。
 胸が一杯になる位に静かな森に二人の声だけが際立っている。彼は言葉遊びが好きだけれど、自分が出来るとは思えなかった。
 何でも分かったような顔をするレオンが『もしかしたら』分かっていないかも知れない想いが一言に込められていた。

 ――後何回、こうしてお祝い出来るのでしょうか?

 大半の人間種はどう頑張っても百年と少し位しか時間がない。
 ドラマは年若い幻想種だが、その齢は既に百を数えている。特に長命なリュミエともなればその桁さえ変わるだろう。

 ――あなたはしっていますか? 長くを生きる私達の感情の鮮度は『鈍い』のです。

 人間ならば一生の恋をしても何十年で昇華する事も可能だろう。
 人生の最後、今わの際に過ぎ去った思い出に満足して逝く事だって可能だろうに。

 ――私はたかだか数十年で、貴方を諦められない。

 幻想種が人間に恋したら、時間は有閑な呪いで、残酷だ。
 あのリュミエがそうだったように、自分もきっとそうなのだ、と確信していた。
(だけど……)
 この何年かのどのシーンを切り取ったとしても、ドラマは『これ』を無かった事にしたいとは思えなかった。
 
 意地悪な所も、低い声も、ごつごつした手もみんな好き。どうしようも無い位に、好き――
「……おい」
「ふぇ!?」
 我に返ったドラマの目の前、至近距離にレオンの顔があった。
 気付けば対面に座っていた彼が隣に移動を済ませている。
(心を読むような人ですけど――)
 まさか本当に読んでいる訳ではあるまい。
『そんな事にさえ気付かない程に浸っていた』ドラマは内心を知られない事に少なからず安堵する他はない。
「な、何ですか。レオン君――」
「――何ですかじゃねぇよ。ほら、寒いだろ」
 レオンが差し出したのは温めた珈琲だった。
 問う事もせず、自分の好み牛乳多めのカフェオレで出してくるのが何とも言えずに彼らしく。
 受け取ったドラマはカップで手を温めるようにしながら何とも言えず、幸せな気分になっていた。
「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとよ」
 繰り返した言葉には先程のような悲壮感はない。
 長くて短いこの幸福な時間、この夜をドラマは噛み締めている――他には誰も居ないから。
「ねぇ、レオン君」


 ――大好きですよ。

 他には、誰も居ないから。

  • 月曜九時の赤ずきん完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 納品日2022年01月12日
  • ・ドラマ・ゲツク(p3p000172
    ・レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002

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