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Another Ends...
登場人物一覧
<コレクトル>剥製美食学>第2章
●Another Side:B
「鹿ちゃぁん、どこにいるのぉ?」
ごり、ごり、ごり。
狂った帽子屋がいない代わりに狂った斧が地面を抉る。
ハートの女王も剥製蒐集家も、綺麗な首が大好き。美しい獲物が自分の部屋に並ぶ日を、今か今かと舌舐めずりして待っている。
迷路のような不思議な森は、見習い魔女の小さな箱庭。
ポシェティケトは魔女だ。
魔女といっても、東の魔女みたいな善い魔女だ。エメラルドの靴は持ってないけれど、森の新芽を傷つけない素敵な蹄をもっている。
不思議の森に住むのはヘンテコで愛らしい生き物たちばかり。
空飛ぶ食器がイチジク入りのケーキをサーブし、ラベンダー色の旅行鞄が優雅に歩く。
野薔薇の蕾はお茶会の準備に大忙し。その上では、金色の小さな妖精とコウモリが"eat me!!"の歌で踊っている。
「どこなのモン・シュシュぅ、出ておいでぇ」
招待されたお茶会に、蒐集家は血塗れの斧を携えやってきた。
礼儀がなっていない、と魔女は腰に手を当てる。
ヒトにはヒトの考え方。
シカにはシカの考え方。
鹿はどちらも知っているから、あなたのことだって霧のように抱きしめられるわ。
「ねえ、恐ろしいあなた。胴の長い犬をご存知かしら?」
蜂蜜を食むように深い森の主人は告げた。その言葉は霧にまぎれ、どこから届けられたものか分からない。
「とても素敵なレストランでお会いしたの。それにキラキラ光る蝙蝠さんにも」
「あ?」
それを聞いた剥製蒐集家はぎろりと目をむいた。
血の臭いがいっそう濃くなる。
鹿は好きや嫌いが分からないけれど、悪い魔女のお話や怖い狩人のお話はよく聞いた。
だから「このあと、どうすれば良いのか」を知っている。
物語の終わりはいつだって、牙と爪と、ちょっと残酷な獣のお愉しみで幕を下ろすのだ。
●剥製END『壁の上のかわいい仔』
まっかなお茶にガラスの目。
綺麗なお洋服を着たのにティーカップの水鏡にうつるワタシは浮かない顔。まっしろなお顔。
どうしてかしら?
どうぞお気をわるく、しないでね。
まっしろなレースはふわふわ雪のよう。髪飾りは霜の日に、音を奏でるから大好きよ。
まっかなバラの蹄をありがとう。
苺の色をしたお靴のこと。
昔、箱庭のお姉様のお庭で見た色にそっくりだったの。
でも残念なこともお伝えしなくちゃ。
せっかくアナタのお
これじゃあ遊びに行けないわねぇ。
あらまあ、クララったら。どうしたの?
そんなに怖い顔をしなくても、お茶の時間は逃げたりしないわ。
ワタシのちいさな騎士。かがやくお星さま。金砂のコットンパフさん。
硝子の中からでも、ワタシの声は聞こえるかしら?
折れた牙と、折れた角。
ワタシたち、時計の短針と長針みたいにお似合いね。
それで……ごめんなさいね、蒐集家さん。
ワタシたち、一体何のお話をしていたのだったかしら?
そうそう、森に住む魔女の話だったわね。
えぇ、えぇ。鹿はフェアリーテイルを謳うが得意なのよ。
まかせてちょうだい。鹿の特技、たっぷりお聞きになって。
まずはワタシの大切な
たいていの昔話は「むかしむかし、あるところに」から始まるのよ。
おまけSS『サンドイッチはいかが?』
「これ甘すぎよ。太ったらどうしてくれる」
たっぷりクリームとフルーツのサンドイッチを、マーレボルジェは不機嫌な顔で食べている。
「そう?」
鹿は微笑み、優雅な仕草でお茶を淹れた。湯気をまとったルビー色が陶器に満たされると、自然な手つきで目の前の人物へ差し出した。
「これくらいがお好きかと思ったのだけど」
「嫌いだとは言ってない」
ソーサーを受け取るとマーレボルジェは噛みつくようにポシェティケトを睨みつけた。
ポシェティケトはくすくす笑う。
「そうね。太るほど食べて下さるのなら、嬉しいわ」