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Another Ends...

登場人物一覧

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
謡うナーサリーライム

<コレクトル>剥製美食学>第2章

●Another Side:B
「鹿ちゃぁん、どこにいるのぉ?」
 ごり、ごり、ごり。
 狂った帽子屋がいない代わりに狂った斧が地面を抉る。
 ハートの女王も剥製蒐集家も、綺麗な首が大好き。美しい獲物が自分の部屋に並ぶ日を、今か今かと舌舐めずりして待っている。
 迷路のような不思議な森は、見習い魔女の小さな箱庭。
 ポシェティケトは魔女だ。
 魔女といっても、東の魔女みたいな善い魔女だ。エメラルドの靴は持ってないけれど、森の新芽を傷つけない素敵な蹄をもっている。
 不思議の森に住むのはヘンテコで愛らしい生き物たちばかり。
 空飛ぶ食器がイチジク入りのケーキをサーブし、ラベンダー色の旅行鞄が優雅に歩く。
 野薔薇の蕾はお茶会の準備に大忙し。その上では、金色の小さな妖精とコウモリが"eat me!!"の歌で踊っている。
「どこなのモン・シュシュぅ、出ておいでぇ」
 招待されたお茶会に、蒐集家は血塗れの斧を携えやってきた。
 礼儀がなっていない、と魔女は腰に手を当てる。

 ヒトにはヒトの考え方。
 シカにはシカの考え方。
 鹿はどちらも知っているから、あなたのことだって霧のように抱きしめられるわ。

「ねえ、恐ろしいあなた。胴の長い犬をご存知かしら?」
 蜂蜜を食むように深い森の主人は告げた。その言葉は霧にまぎれ、どこから届けられたものか分からない。
「とても素敵なレストランでお会いしたの。それにキラキラ光る蝙蝠さんにも」
「あ?」
 それを聞いた剥製蒐集家はぎろりと目をむいた。
 血の臭いがいっそう濃くなる。
 鹿は好きや嫌いが分からないけれど、悪い魔女のお話や怖い狩人のお話はよく聞いた。
 だから「このあと、どうすれば良いのか」を知っている。
 物語の終わりはいつだって、牙と爪と、ちょっと残酷な獣のお愉しみで幕を下ろすのだ。


●剥製END『壁の上のかわいい仔』
 まっかなお茶にガラスの目。
 綺麗なお洋服を着たのにティーカップの水鏡にうつるワタシは浮かない顔。まっしろなお顔。
 どうしてかしら?
 どうぞお気をわるく、しないでね。
 
 まっしろなレースはふわふわ雪のよう。髪飾りは霜の日に、音を奏でるから大好きよ。
 まっかなバラの蹄をありがとう。
 苺の色をしたお靴のこと。
 昔、箱庭のお姉様のお庭で見た色にそっくりだったの。
 でも残念なこともお伝えしなくちゃ。
 せっかくアナタのお人形ともだちになれたのに、何故だかちっとも足が動かないの。
 これじゃあ遊びに行けないわねぇ。
 あらまあ、クララったら。どうしたの?
 そんなに怖い顔をしなくても、お茶の時間は逃げたりしないわ。
 ワタシのちいさな騎士。かがやくお星さま。金砂のコットンパフさん。
 硝子の中からでも、ワタシの声は聞こえるかしら?
 折れた牙と、折れた角。
 ワタシたち、時計の短針と長針みたいにお似合いね。

 それで……ごめんなさいね、蒐集家さん。
 ワタシたち、一体何のお話をしていたのだったかしら?
 そうそう、森に住む魔女の話だったわね。
 えぇ、えぇ。鹿はフェアリーテイルを謳うが得意なのよ。
 まかせてちょうだい。鹿の特技、たっぷりお聞きになって。

 まずはワタシの大切なママと森のおうちのはなしから始めましょう。
 たいていの昔話は「むかしむかし、あるところに」から始まるのよ。
 

  • Another Ends...完了
  • NM名駒米
  • 種別SS
  • 納品日2022年01月07日
  • ・ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802
    ※ おまけSS『サンドイッチはいかが?』付き

おまけSS『サンドイッチはいかが?』

「これ甘すぎよ。太ったらどうしてくれる」
 たっぷりクリームとフルーツのサンドイッチを、マーレボルジェは不機嫌な顔で食べている。
「そう?」
 鹿は微笑み、優雅な仕草でお茶を淹れた。湯気をまとったルビー色が陶器に満たされると、自然な手つきで目の前の人物へ差し出した。
「これくらいがお好きかと思ったのだけど」
「嫌いだとは言ってない」
 ソーサーを受け取るとマーレボルジェは噛みつくようにポシェティケトを睨みつけた。
 ポシェティケトはくすくす笑う。
「そうね。太るほど食べて下さるのなら、嬉しいわ」

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