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古木・文(p3p001262)
文具屋

●そんな大層な場所ではありません
「こ、ここが……」
 文がゴクリと喉を鳴らす。練達にあるとかないとか噂の巨大なスーパーマーケット。その名もアデプトコ。名前の由来は国家名であるAdept・Corporationのその略。本家なんて知らない。なんのことかな。
 アデプトコはなんといってもまずその大きな見た目が威圧感を与えていることは誰の目から見ても明らかだ。でも興味を持っていしまったなら行かざるを得ない。
 沢山のものが売っているスーパーマーケットと耳にしている文は、その威圧感に思わず身をすくめた。とりあえず目についた装備、またの名をカートを握って扉を潜り抜ける。
「わぁ……!!」
 そこは、まるで迷宮のようだった。
 高く積まれた商品の数々。天上はそれを受け入れて尚高く、シンプルな色合いの内装は倉庫と形容するのが正しいだろう。小洒落た店にあるのが美であるならばここにあるのは自由。うっすら積もった埃すらも愛嬌に変えてしまうほどの棚、棚、棚!
「へぇ、本当になんでもあるんだなぁ……」
 カートをがらがらと押しながらとりあえず近くにあった観葉植物コーナーへ。なんでそんなものがあるのか? 練達だからです。
 入り口はちょっといらないかもな、でもあったらいいかもな、というものを置いている事が多いのでついつい見入ってしまったりするのだとかなんとか。諸説あり。
 ラサあたりで見たことのあるサボテンから、深緑が原産だと噂の木の苗木までなんでもある。が、手入れが大変なことは解っているので名残惜しい気持ちはありつつも足早に観葉植物コーナーを去る。
(今日の目的は美味しいジャムの探索なんだから……しっかりするんだ、僕!)
 ジャムを買うだけならばかごで良かったのではないか。しかし此処に来るならばやはりカートを押したいのが少年心というもの。折角来たんだから、という理由付けでかごを手に取るのをやめたのは彼だけの秘密。
 知り合いに聞いたところ様々なジャムが大量に置いてあるらしいこのアデプトコ。ジャムコーナーに無事に辿り着く前に。
「ああ……!!」
 無事に誘惑に負ける。そのコーナーの名前は文具コーナー。実は捕まると一時間なんて平気で吹っ飛んでしまうコーナーなのである。
 恐らくは練達の発明品であろう大量生産された見慣れぬペンやら、ラサのキャラバンが取り扱っていそうなインクの類やらなんやら。深緑の木々より作られたのだという木製の色鉛筆はなるほど
手にしっとりよりそう心地だし、しかも色も豊富ときた。こんな誘惑に屈さない強者がいるならば教えてほしいものだ。
(……まぁ、いつか使うかもしれないし)
 そのいつかはたいてい使わないのである。
 がしかし浮かれてしまった彼にとってそれは最早通じない。修学旅行先で龍の絡みついた剣のキーホルダーがやけにかっこよく見えて記念購入するものの帰って駅を見たら同じものが売っていたときのショックを彼は知らないのである。
 依頼を頑張ったご褒美なのでいい。そんな購入品。色鉛筆と沢山のインク、シーリングワックスとそのスタンプ、封筒と表紙が好みのノート。小さめのカートがもう埋まってきてしまった。
「……買い過ぎかな」
 大正解である。しかし今日はいいのだ。日頃のご褒美だから。


「もう誘惑には負けないから……うん。大丈夫」
 とはいいつつも目的のジャムコーナーに辿り着く前に焼き菓子コーナーに辿り着いてしまった。もう駄目だ撤退したほうがいいと早鐘を打つ理性の文に圧勝する強欲の文。ちょっとだけ見て帰ろう。そうすれば買わない筈だ。
 なんて思っていたのもつかの間、美味しそうなフィナンシェにマドレーヌにカップケーキ。これを家にあるコーヒー豆たちと組み合わせて楽しんだなら、どれだけ午後が彩られることだろう。
「よし」
 即決。
 今日はついつい手が伸びて買ってしまったりしなかったりする日。この時の文はどうやって持って帰るかは考えていないのであとで後悔するのだがそれはまた数分後。
 買いすぎると体型維持に差し支えるのでお徳用のまとめられたものを手にとってすみやかに撤退する。
「まずいな……これは、楽しすぎる……」
 まずいとは気付きつつも買い物は楽しいもの。なので懐がダメージを負うけれど選りすぐりはやめられない。
 今回諦めたものはまた次回買えばいいし、お気に入りを作るのもだいじ。よって少しずつ。のつもりがもうカートのなかは満員状態。これではジャムコーナーに辿り着く前に溢れてしまいそうだ。
「……あ、諦めるべきかな」
 悩む。
 でも帰って全部食べきる自信はあるし、どれも大切に使うことだろう。
 なら買ってしまえばいい。
 そして文、気付く。
「下にかごを置く場所があるのか……」
 サイレント修正。上のかごは空っぽだ。下にかごを置いたからである。
 これでよし、とカートをジャムコーナーへすすめる文の頭の中に、後悔の二文字はなかった。

「こ、ここが……あの……!!」
 知り合いより沢山のジャムがあると教えてもらった、あのジャムコーナー。ついに来た。壁一面、否、棚一面に綺麗に陳列されたジャムの瓶は見ていて心地いいものがある。
(苺にブルーベリー……りんごにアプリコット。ピスタチオ?! こっちはぶどうに小豆にミルクジャムまで……!)
 他にもライムやカシス、はたまたいちじくなど無難なものから奇を衒ったものまで様々だった。
(うわぁ、悩むなあ……よっつ、いやみっつまでだ……我慢するんだ、僕……!!!)
 ここで調子に乗って買いすぎたらあとで痛い目を見る。わかっている。わかっているじゃあないか。それなのにカートには欲に負けてジャムの瓶がいつつ輝いている。どうして。
 カートの中に誇らしげに輝くジャムの瓶。たくさんある種類の中から厳選したものだ。いつつに絞って尚諦めたものがあるのだからもうどうしようもない。
 カートをレジまで運びながら、文は考える。
「……しばらくトースト生活にすればまあ、いいかなあ……」
 考えて、気付く。
(今家、トースト用のパンなんてないんじゃないか……?)
 レジはすぐそこだというのにあの迷宮の中へと逆戻り。むしろ戻るために理由をつけたのかもしれない。
 場所は知らないので中をぐるりとまわっていく。心がゆらいでも何も買わないようにカートを強くぎゅっとにぎって。
「……あった」
 色んなものを我慢してパンコーナーに進まなくてはならない心苦しさと言ったら! こころなしかやつれたような気もするがきっと気のせいだ。
 そうやって今度こそレジにたどり着きお会計を手早く済ませて、文は気付く。
(…………これ、どうやって持ってかえるつもりだったんだろう、僕)
 はぁ、とため息をつく。袋で持って帰るには少々割れ物が多い。けれど手で持って帰るよりは安全だろう。しかしまず持ちきれるか、腕が保つかもわからない。
(買い物は計画的にしないとなあ……)
 小さくため息を一つ。たまの奮発は悪くはないけど、それでも後のことを考えておかなくてはならないと身にしみた。
「そういえば、段ボールは貰えるんだったっけな……聞いてみよう」
 あれほど緊張していたのに、吹き飛んだお金と共に緊張もどこかへ飛んでいってしまった。
 ……この後、アデプトコの中に戻り再び誘惑に負けそうになったのは言うまでもない。

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  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2022年01月09日
  • ・古木・文(p3p001262

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