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自分からは冬服を着ないならプレゼントしちゃえば良いんですよ
登場人物一覧
エルス・ティーネは思い描く。
恋する乙女のように──否、恋する乙女として空想する。想像する。考察する。どんな服を着ていれば愛しいあの方の隣で自信を持てるのか。自身の服を選ぶ過程で常に付き纏う命題である。そして、それを満足に選ぶためには
だから今日もエルス・ティーネは思い描くのだ。愛しいあの人が着ているだろう様々な装いを。
◆赤犬の冬服(妄想)
彼の方はいつも涼し気な顔をしていて、冬にうんと着込む姿はあまり想像できないのだけれど。毎年の冬だっていつもと同じ姿で平然とこちらを揶揄って──あんな風に『こんな感じ』と聞きながら抱きしめて──あんな風に『いただきます』だなんて──そんな、そんな──!
想像があちらへこちらへ思い出へと飛んでしまう。いけないわ、ダメよエルス。このままではまた使い物にならなくなって──。軽く頬を叩く。結局することは妄想なのだけれど、きっとこちらの方が建設性があるのだ。
それにそれに、もっと暖かそうな格好をしている彼の方を見てみたいと思うのも事実であって。ラサらしい冬の服を着て頂くならどんな格好になるのだろう。
砂埃を防ぐための赤いマントは冷風を防ぐ暖かそうなフード付きのケープへ。きっと端にはフリンジのようにファー飾り、フードにも手触りの良いファー。太腿辺りまで広がる裾は風に棚引き羽飾りを揺らす。胸元で閉じられたケープはきっと頭からすっぽりと被るタイプだが、途中から開いた裾が腕の可動域を狭めない。何の毛皮か白に近いクリーム色のファー、赤を基調とした布には黒いラインが大きく引かれている。布の端や黒ラインの傍に配置された白と青の幾何学模様がケープを重く見させない。
ケープの下はあまり見えないかもしれないけれど合わせるなら黒い服だろう。白と青の刺繍が縦に入る黒い服。
合わせているのは黒いパンツ。太腿あたりのサイドにグレーのラインが入り、赤紐で編み上げている。可動域を優先するためのゆったりとしたシルエットだが、赤紐で動きやすく締めあげられるようになっているに違いない。
砂の上を行くのに軽い靴は履かない筈で、足元はがっしりとした黒いショートブーツ。留め具のベルトが足の甲を走っている。
きっと随所には赤や金のアクセサリーを付けていて、額にはいつものバンダナを巻いているのだろうけれど、時にはフードで隠れてしまうのかも。
あの鮮やかな赤い髪が見えなくなってしまうのは残念だけれど……そんな素振りを見せたら、きっとまた揶揄われてしまうんだわ!
なんて、なんて、こんな感じかしら。
時には練達風の服や幻想風の服を着た姿に思いを馳せてしまいつつ、今度はそれに似合う自身の服に迷い始める。
やはり揃いのようなケープは外せない。こちらは黒を基調に赤のライン、青と白の模様で色違い。彼の方のものより丈短くファーを外して、より身軽に見せようか。
黒い服も揃いにしつつ、腰に巻くベルトには青と白の幾何学模様。裾や端々に青いラインを入れて統一感を出す。共に戦うならばパンツルックが良いけれど、隣で歩くならばスカートに。馬に乗るならば……キュロットにタイツを合わせ、乗り心地と可愛さを両立したい。
足元のショートブーツも低めのヒールで歩きづらくないように。
彼の装いが脳裏に浮かべば、自分の姿もすぐに決まる。もちろんそれが自身の想像上、ということを忘れてはいけないけれど──。
どんな服を着ていても気持ちが変わることはなく、それを着たあの人の方が重要で。だからどれほど想像の翼を羽搏かせても実物にはかなわない。
きっと空想の中の姿よりもずっとずっと素敵で、格好良くて。また見惚れてしまうに違いないのだ。