シナモン一瓶分の博愛

登場人物一覧

聞き慣れぬ挨拶が蔓延し、国全体が浮かれている。
シャイネンナハト……二ヶ月前の悪夢（ファントムナイト）を思い出すな。

降誕祭が別の祝祭と化している点については甚だ遺憾だが、私の信仰心が揺らぐほどの事でもない。むしろ、この祝祭が謳う『戦いを禁じる』という趣旨は好ましいと言える。

故に私は祝おう。
甘味は心を潤す。無垢なる幼子とて、それは同じだろう。
袋に詰めたら次の店へ行くぞ。
シュトレンはいくつ在っても良い物だ。

おまけSS『クリストシュトレン、十ニ本』

「かがやかんばかりのー」「メリークリスマス」
「この夜にー」「メリークリスマス」
「旦那からの圧が強い」

　幼児たちは不思議そうな顔で、いつもお菓子をくれる白いお医者の先生を見上げた。あいさつを遮られた自らの口に自分の人差し指を突っ込んだ者もいる。
「メリークリスマスって言いな」
「めりぃ、くりすます？」
「うむ」
　何故か上機嫌な年長者の耳打ちをそのまま繰り返すと、手のひらにジンジャークッキーが降ってきた。
　子供は学びが早い。
「メリークリスマス？」
「メリークリスマース」
　集まってきた廃教会の子供たちが聖歌（キャロル）の如く聖夜を祝えば、満足そうにルブラットは頷いた。
　白い袋の中には甘い贈り物がたくさん。

　―― Have a merry Christmas！！