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月夜の絹湯
登場人物一覧
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――カポーン。
風呂桶がタイルに当たる音が響いた。ほっこりと白い湯気がのぼってゆく――。
規則正しく並べられたタイル風呂の奥には、ガラスの扉を一枚挟んで露天風呂が用意されている。
露天風呂は和を思わせるような岩風呂の景観が続き、『絹の湯』と書かれていた。どうやら乳白色の湯であり、美肌効果や疲労回復効果があるようだ。少しとろみがあるのがポイントだ。あと舐めたらちょっとだけ塩っぽい。
空は漆黒の闇に、目映い星々がきらきらと輝いている。満月のオレンジ色の光が、優しく地上を照らし――。
「どうしてこうなった?」
『太陽の弟子』メルトリリス(p3p007295)は露店風呂の隅で膝を抱えて座っていた。とまあ、メルトリリスは片腕が無いので片腕で膝を抱え込む姿という事だ。
『二人しかいないの。もっとお風呂を、広くつかってもいいと思うの』
『溶融する普遍的な愛』Melting・Emma・Love(p3p006309)は、ちゃぷちゃぷと風呂の真ん中で湯を愛でながら手を振った。
詰まる所、二人は依頼の後である。
まだ幻想の拠点には帰れていない。
前回、二人は依頼の終わりに宿に泊まった。そこでひと悶着あったのだが、そのまま温泉に泊っているのだ。
「まあ……たまにはこういうので躰を休めるのも必要な作業ですよね」
『そう根詰め過ぎなくてもいいと思うの』
「そうかなあ……、だって今だって魔種が暗躍していると思うと、こんな事してる時間でさえ勿体ないと思ってしまうのですよ」
『魔種は今――』
そういえば最近深緑や傭兵のあたりが騒がしいなあとMeltingは思ったのだが。
『まあまあ、今は魔種が動いている気配は少ないと思うの』
と咄嗟に嘘をついてみせた。
メルトリリスは依頼の報告書は逐一拝見しているから、それが嘘だとわかっていたが。
「そうかなあ」
と、Meltingがメルトリリスを気遣うのを受け入れる為に、甘い嘘は受け止める事にしたのだ。
「にしても、二人だけだと静かですね。温泉だからもっと人が多いのかと思っておりました」
『嬉しい事に貸し切りみたいなのです。なんでかはわかりませんが』
「まあいいじゃないですか、こういうのなんていうんだろう、怪我の巧妙?」
『そんな感じなのです』
なんやかんやメルトリリスはMeltingの隣に座った。それは心の距離が近づいたともいえるのだろう。
「って、Meltingの下半身から下って、液状になっていたよね確か」
『旅人だからそんな感じなの』
『そういえば、お背中流すの。この世界の人間は二息歩行が多くて逆にびっくりなのです』
「確かに常識が違うもんね。ってそうじゃなくて、液状していた下半身がお湯と同化してない!? 大丈夫!?」
『温泉成分も吸い取っちゃうLoveなの。明日からLoveも美肌効果に疲労回復効果があるLoveなの』
「万能ですね。じゃなくて下半身溶けたりしてませんか!?」
『確かにそろそろ一度出ないと、のぼせちゃうかもなのです』
「うんじゃあ一回出ましょうか」
湯を出た時、Meltingの躰の形状が意地されているか心配になるメルトリリスであった。
二人はそれからシャワーがあるところまで歩いていく――どうやらきちんと歩く……もといMeltingはしっかり進行しているので、何故かほっとしたメルトリリスなのであった。
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―――
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Meltingの泡の付いた手がメルトリリスの背中を撫でる。小さな躰ではあるが、小さな傷がいくつもついていた。
『どうしてこんなに傷だらけなの』
「んー……騎士修行かな。ロストレイン家は女性でも男性と同じように育てられるし」
『でも女の子に傷は勿体ないの』
「そうだね、兄がよく守ってくれていたような、気がする。ま、まあ十一年前の事だからうろ覚えだけどね」
『そういえばメルトリリスはおいくつなのです?』
「んー内緒」
『どうして、です?』
「んー……子供と思われるのは嫌、みたいな?」
傷跡をなぞるようにMeltingの指は動いていく。その表情は少し悲しいものになっていた。
やはり少女の身体に複数の傷は勿体ない。Meltingの身体は傷ついても傷の形状をすぐに無くせるかもしれないが、人間という種族は皮や肉が元に戻らない事が多い。それはなんとなく、傷つきやすい生物という事なのだろうか。
そんな心優しいMeltingの、考えている事も知らず。メルトリリスは、Meltingがどうして傷ごときで悲しむのかはよくわかっていなかった。騎士なのだから仕方ないじゃないか――それがメルトリリスの言い分なのだろうが、普遍的ないたいけな少女の思考がメルトリリスにはフィットしないらしい。
「あんまり傷つかないように気を付けるよ、腕が飛んでいかないように」
『もう腕が、一本しかないじゃあないですか』
「あはは、足もあるよ、二本も!」
『からかってるの~?』
「そんな事ないですよ!」
する、っとMeltingの腕がメルトリリスの胸のほうへと回された。
突然の刺激的な感覚に、思わずメルトリリスは驚きつつ、
「ふにゃっ!」
と甲高い声で鳴いた。
『悪い子はお仕置きしちゃうのです』
身体の線をなぞるように腕を動かして、じわじわと追い詰めていくように刺激を与えながら、Meltingは楽しそうな笑みを浮かべ、そして口の端を舐める。まるで目の前に美味しい料理でもあるかのようだ。いや、実際皿の上の羊はいるのだろう。
「今此処お風呂だから~!」
叫び声に至らずとも、メルトリリスは一応ばかりの講義の声をあげた。
だがそれも嫌よ嫌よもなんとやらというものであろうか。さらっとMeltingは首を横に振ったのだ。
『TPOは関係ないのです』
「ご都合主義だこれ~!」
という訳でいつもの展開は始まっていく――。
ローションの代わりともいえるが、泡であわあわのMeltingの腕はぬるぬるとメルトリリスの身体を滑っていく。擦れば擦る程泡は大きくなっていき、そしてその滑らかな感覚も終わるところを知らないものへとなっていく。
特に、ふくよかな胸の形を確認するように曲線を撫でれば、メルトリリスの身体は正直に震えているのが楽しいのだ。次の刺激が欲しいと身体は求めていて、どうやらとてもくすぐったいのであろう。だが口にしてほしいとは言わないのはメルトリリスである。
『可愛いのです。いっそ、もっと大きな声で鳴いてもいいのです』
「それは負けた気がして、なんかいやだ――はうっ」
僅かに耐えるように震える、そんな反応に、Meltingの心が満たされていくような感じがした。
この満たしていく心の形はなんだというのだろうか。
例えば、支配欲。
この手で一少女の身体を好きに出来る事の高揚感か。
例えば、愛情。
この手で愛する事が満たされていくものか。
まるでコインの裏表のような感情を一心にぶつけられる相手がいるのもまた、嬉しいことなのだろう。
ともあれここは温泉だ。
メルトリリスはこういった開けた場で裸を晒すのもそうだが、少し口にするのは恥ずかしいような行為に顔を柘榴や林檎のように真っ赤にしている。
「はわわ、公共の場でこういうのは恥ずかしいよ……!」
『大丈夫なの、誰もいないの』
確かに周囲には二人以外の誰もいないのである。が。
「防犯カメラとかー!」
『練達じゃないから時代が追い付いていないの』
「抜き打ちで見回りとかー!」
『従業員さんは眠らせてきたの』
「いやそれ結構聞き捨てならないやつ~!! ひゃ~!!」
既にメルトリリスの身体は泡であわあわでいっぱいであわあわの中をMeltingの腕がはっていく。
ぬるぬると滑りながら、Meltingの中に溶け込んでいる成分はメルトリリスを更なる快楽へと引き落としていくのだ。誘惑か、それとも最早既に落ち切っているのか、メルトリリスはMeltingの腕を拒む事は無いのだ。
ともあれ、段々と下へと移っていく腕がそれ以上下へといかないように、やんわりとした抵抗で止めようとするくらいの行動はあった。だがそれも吹けば飛ばされてしまうくらいに非力なものだ。メルトリリスがMeltingの腕を止めようとすれば、Meltingはそれを更に絡ませて強引に滑っていく。マッサージである。
「ひゃぅぅ、そこ擦っちゃ、あぅ、ん、だめッッ」
傍から見れば一体どこを触っているのかよくわからないが、
『ここがお好きだって知ってるの』
「んふぅうっ、はわ、……す、好きじゃ、ないもん……ひあ!!」
そのどこを触っているのかの疑問には、
『ほら……もう、こんなになってるの……』
「なってないもん~!!」
愛らしい少女二人にしか分からないところだ。
「ん、ぅっ、あっそこっ」
いやこのゲームは全年齢だから、あえて判らないほうが、この物語を読んだ人間が勝手に想像するだけであって、
『もっと強くしたほうが、いい刺激になるの』
「揉めば大きくなるものでもないんだぞ~!!」
心がそんな穢れたりとかしていない限りは、絶対に何も起きていないように感じているはずである。
『まあまあ』
Meltingがシャワーをかけて、泡を流していく。
泡がどんどん消えて流れていく頃には、メルトリリスはタイルの上に膝立ちで腰が上がった状態でびくびくしていた。顔は真っ赤にして地面にキスするように顔を突っ伏しながら。
『今度は普通に洗うの!』
「今のは前菜的なやつだったみたいに!」
『ふふん、違うのです。今のは軽いマッサージなのです』
「なるほど、マッサージ……!!」
再び丁寧に泡を作ったMeltingは、ケーキのスポンジの上に生クリームを伸ばしていく要領で、メルトリリスの身体に泡を伸ばしたのであった。
「ところで、洗ってもらってるから、洗い返したいなって思っているのだけど、その身体は洗えるのかな」
『試してみるのです?』
「うん、面白そうだからやってみようか」
『ちょっと楽しみなのです』
どういう風になったかは、また二人だけの秘密なのである。
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なんやかんやあって、再び露天風呂の中に沈んでいた二人。
再び冒頭と同じように、メルトリリスは膝を抱えて、Meltingは楽しそうにお湯を愛でている。
『楽しかったの!』
「躰洗ってマッサージってなんだか天義的には赦されないお店みたいになってたよ!!」
『混沌一の宗教国家には内緒にしておくのです』
「んもー」
薄く笑ったメルトリリスの手前で、Meltingはメルトリリスの膝に座るように向き合った。
赤色で透明な指先が、メルトリリスの顔の輪郭を少しずつ撫でていく――。
『でも……さっきの続き、したくないです?』
「……んん。これまた凄いことを言い出しますね……!!」
Meltingの身体にはきもちよくなる成分が溶け込んでいるらしいのだ。
シャワーであれだけMeltingの腕に弄ばれた――もとい、沢山マッサージされたとなると、メルトリリスの身体が成分に侵されて火照っているのは紛れも無い事実という事になる。
「……そういうえっちなのは、お答えできないよ……」
『でも、きっと躰は正直なのですよ』
「生理現象と心は別かもしれなかったら……?」
『嫌なものは受け入れないのです』
「確かに、筋は通ってるけれど」
ここで、今までメルトリリスはあまりしなかったような行動に出る。
メルトリリスはMeltingの躰を岩場へと追い込み、そこで壁ドンの形のようにMeltingを抑えたのだ。
「でもやられてばかりっていうのも、癪なのですよ」
『あらら?』
メルトリリスはMeltingの耳元でそう囁き、その小さな耳を食んだ。もちろん甘噛みだ。
手はMeltingの形を品定めするように、ゆったりと動き始め、そして胸を弄ぶようにしている。だがどこか手慣れていないようで、ぎこちなく。しかし初々しい感じはあった。どうすればいいのか迷いがあるところも、Meltingはクスっと笑ってしまうようなものを含んでいる。
「たまには、逆もどうですか? いつもいつも、私はやられてばかりですから」
『? Loveはメルトリリスと逢うのは最近で初めましてなの』
「ンンッ、それはその――!」
まさかここで出会う前に夢の中で何度かお会いしていて、そのたびに体を弄られていた――なんて言っても信じてもらえるものか。メルトリリスはそうえいばと、あれが夢であったのを忘れて居たが、Meltingは夢を知らない。
そんな記憶の違いに、Meltingは不思議そうにメルトリリスを覗き込んでいる。
「わ、忘れてください。今のはそう、えと、ち、違う人でした!」
『違う人ともこういうことを、しているの?』
「そーーーーーーーーーーいう訳じゃあないんだけどーーーーー!!」
『ふふ。面白いの。でも、Loveは愛したいの』
『よし、煙に巻けた』とメルトリリスは小さくガッツポーズをした。
「むむ、満足できなさそうと申すのですか?」
『そんな事ないの。Loveは愛する事で欲求を満たすの』
「むつかしいですね」
少しずつ、蛇が岩場をはっていくように。Meltingの指先は下からメルトリリスを捕らえていく。
絡みつくように腕を細いメルトリリスの躰に纏わりつけていき、やがて一点を擦りするようにして、温泉の水の面に波紋をつけていく。
「ん、うっ……さっき、似たような事したじゃあないです、か……」
『まだ、足りないの。欲望的なもので、おいしいと、もっともっと欲しくなっちゃうものなの』
「そういうものかね……」
沸々と湧いて出てくる愛情にMeltingの思考は支配されているのだろう。
そういう生き物なのだ、愛のために息をし、愛を描けばMeltingのかたちとなる。
自分としても特殊な愛情に好かれたものだと、メルトリリスは少しずつMeltingの事を受け入れていくのであった。
「ううっ………上がってからも、ベッドでもまた、やるんでしょう」
『それはその時に考えるの』
背中から手をまわすように、Meltingはメルトリリスの躰をゆっくりと抱きしめた。
感度が高くなっているからだは、そんな単なる戯れにも感じてしまうほどにぴくりと動いていく。
またこの湯も白いために、白い湯の中で何が起きているかなんて二人以外には判らない。
規則的に動く白湯の挙動は人為的なもので、そこにメルトリリスの鳴き声が重なっていた。今、この場には二人だけの空間がただただ広がり、そしてそれは月と星だけが見つめていた。
「あっ、ひぅっ、そこ、やあっ……そんなとこ、触っちゃ、ンッ、だめ、だよっあっ」
『可愛いの、もうこんなに真っ赤になっているの』
「どこみてるの……はわ、そ、そんな広げちゃ、や、やあっ、はうぅうっ」
『大丈夫なの』
「なにも大丈夫だったことはないよお! ひぁ、んっんくっ」
『またシたいの』
「い、今してるのに~!?」