PandoraPartyProject

SS詳細

雪が紡ぐは温い夢

登場人物一覧

メルナ(p3p002292)
揺らぐ青の月
メルナの関係者
→ イラスト


「はぁ……寒いなぁ」
 悴んだ手に吐息を吹きかければ、赤らんだ指先は僅かな温もりに触れる。
 最近流行りだと言われるケーキ屋。あの店に行ったのは、確かあの日のことだっけ。
 ある雪の日のことだった。そうだ。シャイネンナハトも近い頃だ。
 この時期になると、思い出されるのはある少女のこと。メルナが彼女――サリアと出会ったのは、丁度今日のような雪の日のことで。
 サリアと出会ったメルナは、紆余曲折あり今では話題のあのケーキ屋でお茶をしたりなんかしたのだ。
(ふふ、なんだか懐かしいな。サリアは元気かな? 最近は話を聞かないけど、サリアもきっと元気だよね)
 冬風が吹いた。雪乗せて吹く寒風は、思わずマフラーに顔を埋めてしまうほどに冷たい。
 丁度あの日も、今日のように寒い日のことだった――


 その日、メルナは依頼を探していた。幻想某所に有する小さな村。最近モンスターが活発化したとかなんとかで、ローレットは討伐を依頼されたのだ。
 その村から提示された報酬は相場よりも低く、あまり受けたがるものはいなかった。同じ仕事量や負担でもさらに高額で報酬を受け取ることができるものがあると解っているからだ。けれどメルナがそれを引き受けることにしたのは、呪いにも似た憧憬の輝きをその心に焼き付けていたから。
(お兄ちゃんなら、きっと『こう』するだよね)
 痛いのだって苦しいのだって嫌だ。怖いのなんてもっと嫌だ。それでも憧れの兄ならば、きっと困っている人を見たら飛んでいくだろう。どんなところにだって。己の危険も顧みず。
 だから、メルナも『そう』するのだ。兄の代わりに召喚されたのだから、それくらい当然だと己に言い聞かせて。
「すみません! あの、この依頼を受けたいんですけど――」

 ――結果から言うと、この選択は『メルナ』にとっては大正解になる。
 後に友人となるサリアと出会うからだ。
 依頼を引き受け、適当に荷物をまとめて出発する。これまで通りのルーティンに迷いも間違いもなく、ただいつものように兄の背を追い求め続ける。お兄ちゃんならきっと、こうしたはずだから。
 戦い方も、在り方も、すべてを模倣し、救わんとする。己の道に間違いはないのだと、そう思っているから。

 その村は、深い森の奥にあった。
 馬車も通ることができないようなでこぼこの道を進む。これは誰も受けないはずだと、心のなかでメルナはつぶやいた。一通り歩く。果てしない距離を。否、きっとその距離はしれている。けれど馬車に乗りなれている幻想の民が、舗装すらもされていないこのでこぼこの土道を好むかと言われれば否なのだ。服も靴も土に汚れ、土が靴の中まで侵入してくる。その感覚はあまり心地良いとは言い難い。
 けれど。お兄ちゃんならこうするはずだから。だから進まなくては『いけない』。
 頬を、額を伝う汗を手の甲で乱雑に拭い、靴の中に入った土を捨て。そうして、ペースを上げるように早足で歩き進んだ。
 急がなくては。きっと困っているはずだから。だから進まなくては。迷っている暇なんかない。一人でも多くの人を、兄の代わりに救うのだ。
 はぁ、はぁと荒くなる呼吸を置き去りにして突き進む。その甲斐あって、なんとか村にたどり着いた。枯れつつある村されど再興を諦めてはいない。そんな村。きっと兄ならばその手助けをしたことだろう。だから、メルナもそうするのだ。
(よし。頑張らなくちゃ)
 ぐ、と手を握る。声を張るのはあまり得意ではない。それでも、か細い声では聞こえないから。兄ならばきっと、溌剌と。太陽のように笑って見せるはずだから。小さく息を吸って脈を整える。次に、大きく息を吸って、声とともに吐き出した。
「すみません。ローレットから来ました、特異運命座標イレギュラーズのメルナです! モンスターの討伐とのことですが、お話を聞かせていただけますか?」

 村長曰く、モンスターは少し離れた果樹が多く生息する地を住処としてしまったらしい。もともとはそこは縄張りではなかったのだとも付け加えて。何人かの村人は襲われ、死者も出ていることから討伐を依頼したのだという。
「わかりました。お話を伺った限り、東の方でしたよね。今から行ってきますね!」
 笑みを浮かべ。その動きもおそらくは兄の模倣だ。もはや無自覚に近いけれど。
 背負った大剣を構えながら、東へと直進するメルナ。やがて教えられた果樹の群生地に辿り着く。言われた通りの縄張り、あるいは塒であった。
「……悪いけど、あなた達にはここで死んでもらわなくちゃいけないの」
 理解されるはずもない言葉を虚空へと落とす。無意味だと解っているのに。
 銀纏う刃は獣の身体を引き裂き、別った。武器持たぬ人々だけを襲う利口な獣であったのだ。だからこそ、日頃から剣を握り、手のひらが固くなろうとも剣を振るい続けたメルナのような『本職』の人間には弱い。
 思ったよりもあっけなく終わってしまった戦闘。己の血を流すことなく終わってしまった戦闘。はぁ、と息を吐き、メルナは周囲を巡回して戻ることにしたのだった。

「おお、助かりました! お怪我はありませんかな?」
「はい、平気です。近くをついでに見てきたんですけど、もう巣はなさそうでした。もしまたモンスターが出たら、私にご連絡くださいね!」
「優しいお嬢さんですなぁ……ぜひまた貴女にお願いしましょう。もっとも、こちらからお支払いできるお金は少ないのが心苦しいのですがな……」
「いえいえ、お金なんて気にしないでください! 誰かの役に立てることがとっても嬉しいので!」
「よくできたお嬢さんで、きっと親御さんもさぞかし誇らしいことでしょうな。少々お待ち下さい、報酬を取ってきますので」
「あっ、はい。わかりました!」
 パタパタと部屋へ戻っていった村長の背を目で追いながら、メルナは村を見る。
「ん……?」
 ふと視線を感じた気がして、後ろを振り返れば、小さな数人の子どもたちがメルナのことをきらきらした瞳で見つめていた。笑みを浮かべて手を振れば、わぁっと歓声が上がる。意を決したようにその中のリーダーであろう少年が頷けば、子どもたちはメルナを取り囲んで。
「す、すみません! あの、聞きたいことがあって!」
「うん? ふふっ、どうしたの?」
 背丈に合うようにかがめば、興奮したような表情で顔を見合わせて。たまらずその中のひとりが声を上げた。
「お、おねーちゃんって、あのローレットの特異運命座標イレギュラーズなんですか!」
「ば、ばかっ、おねえさんだろ! ……あ、えっと、ですか!」
「私? うん、そうだよ。私もローレットの特異運命座標イレギュラーズの一人なんだ」
「すっげー!」
「本物だぁ!」
 無邪気な少年少女達は、メルナに次なる質問を紡ごうとしていた。
「おや、すみませんな。村の子供達です。あのモンスターの被害者の中には、何人か子供も含まれていましてな……」
 寂しげな笑みを浮かべた村長。子どもたちも俯き、やがて心を紡ぎ出す。
「おれ、レオナが……あ、おれの妹なんですけど、レオナが怪我して帰ってきたとき、すっげー悔しくて……だから、おねえさんにはすっごく感謝してるんです」
「わたしも。お兄ちゃんが、わたしをかばって、ひどい怪我をしたから……」
 兄と、妹。
 どこでもありあえるその関係。
 妹を庇う兄の姿は、きっとどこでも変わらぬのだろう。だからこそ、心が揺れた。
「子供たちもこれで安心してあの果樹のところへ行けますわい。メルナさん、本当にありがとうございました」
「ありがとうございました!」
「ありがとう、おねーちゃん!」
「これは僅かですが此度の報酬と……村に伝わるお守りです。三つほどお渡ししますので、ご家族や友人にお渡しください」
「わ、ありがとうございます……!」


 雪が降り始めた。手を振りながら、あたたかな村を出たメルナ。穏やかな気持ちで帰路につく。が、それだけで易々と終わるような平凡な一日ではなかった。
 しんしんと積もり始める雪を見ながら歩いていたその時。
「きゃあ!!」
「ッ――」
 悲鳴が、耳を擽ったのだ。
(行かなくちゃ)
 お兄ちゃんなら。きっと。
 その背を押したのは太陽の輝き。悲鳴の方角へとひた走る。そして。
「大丈夫ですか!!」
「っ――逃げて!」
「ううん、助太刀しますっ!!」
 メルナが大剣を構える。二人の――メルナとサリアの出会いだった。

 見たところ不意打ちを襲われたらしい。が、致命傷はないようだ。メルナ同様大剣を構えたアタッカーらしい。
 それなりに腕もあるようで、背を取られぬように牽制もしていた。
 敵は見たところ先程倒してきたモンスターのリーダーらしい。体格も大きく、そう簡単には倒せなさそうだ。だからこそ先程の依頼は簡単だったのだろう。ギリ、と歯がなった。不甲斐ない。
「私は右から攻めます!」
「であれば、左を」
「それじゃあ、行きますッ!!」
 踏み込み、だっ、と地を蹴る。力をためて飛び出せば、その銀糸は流星が如く煌めいて。薙ぎの一撃。銀の軌跡は敵の腱を傷つける。
「グアアアアアアアア!!!!!」
「はぁッ!!」
 少女も負けてはいなかった。フランブワン、と囁かれたその一撃。どん、とフランシュベルが地を叩く音と同時、敵は青き炎に包まれる。
「畳み掛ける――ッ!!」
 ザン、と剣を地に突き刺した。メルナより一直線に奔る光。地が揺れ、光の刃がモンスターの身体を突き刺す。やがて花弁のように光刃は消えて。
「ブルーレッ……!」
 そして、少女が身をひねり敵を斬り潰す。突き刺した刃を持ち替え、力いっぱい引き上げる。敵は骨すらも残さずに燃え、消えていった。
 荒い呼吸を整えれば、戦いは無事に終わり。少女は騎士の礼を添えて。
「私の名前はメルナ。怪我はない?」
「サリアと申します。……改めて、救援に感謝致します。メルナ」
「ふふ、そんなに気にしないで! 当然の事をしただけだからっ」
「であれば……その。宜しければなのですが……この後少々、お時間頂けないでしょうか? 助けて頂いたのです、叶うなら礼をしたいと思い……」
「うーん、それじゃあお言葉に甘えちゃおうかな。最近気になるケーキ屋さんがあるから、そこまで行かない?
 それに、念のため護衛、って訳じゃないけど……ね。どうせ今日はもう予定もないから!」
 納得したのだろう、うなずいたサリア。二人は一緒に街まで向かうことにした。


「ここ! ここだよ! 一人で入るにはちょっとハードルが高くて……えへへ」
「む……こちらですか? 本当に?」
「そうだよ! ここが美味しいんだって最近買ってる雑誌には書いてあったの」
「ふむ。では行ってみましょうか、メルナ」
「うん、行ってみよう!」
 見た目が少々大人びているのだ、この店は。少し入るのには勇気がいるのだと照れくさそうに笑ったメルナに、サリアはうなずいた。一人ならば怖いかもしれないが、二人ならばきっと。
 なお二人が今滞在しているのは恐ろしい未開拓の地でも敵陣の本拠地でもなく、ただのケーキ屋である。
「サリアちゃんは何が好き?」
「なんでも好みます。甘味ならば、特に。でもそうですね……ショートケーキにします」
「あ、ショートケーキも美味しそうだよね! う、うーん」
「好きなだけ悩むといいですよ。時間は、まだまだあるのですから」
「でも悩んでたら決められないような気がしない? う、うう、じゃあ私はフルーツタルトで決まり!」
 サリアが手をあげれば、店員がやってきて注文を聞く。ありふれたやり取りだ。
 店員が慌ただしく戻っていった後、幾ばくかの時間が与えられた。二人は今日出会ったという溝を埋めるように、互いを知っていく。
「そういえば、なんであの森に居たの?」
「私は、傭兵団に所属しているのですが。そこに依頼が入ったのです。最近モンスターが急増していると」
 メルナとサリアは、依頼人は違えど同じモンスターを討伐していたようだ。メルナも同じモンスターを倒していたことを告げれば、サリアはあまり変化のない顔を驚きで染めて。
「そうでしたか、それは驚きです。稀な縁というのでしょうか、それを感じますね」
「そうだとしても、どうしてサリアちゃん一人だったの?」
「実は、私の恋人が務めるはずだった依頼だったのですが、別の依頼が立て込んでしまったようで」
「そうだったんだ! いいなあ、恋に仕事に、頑張ってるんだね」
「いえ、そんなことは。彼が優しすぎるだけです」
「あ、さらっとのろけられちゃった。ふふふっ!」
 そうこうしているうちに、ケーキが届く。店が水の代わりに出しているのだという紅茶を口に含めば、オレンジの香りが口の中を広がって。
「うわぁ、紅茶も美味しいなぁ」
「はい、とても。ケーキもとても美味しいですよ、メルナ」
「ほんと? それじゃあいただきます! ……わ、ほんとだ! 人気が出ちゃいそうなくらいに美味しい!!」
 独特の酸味を持つキウイや葡萄、オレンジに苺を、クリームの甘さが見事に調和を促している。ふわふわと振りかけられた粉砂糖は外を往く雪のようだった。
「こんな寒くて雪まで降ってる日に、あったかい紅茶と美味しいケーキなんて贅沢だね?」
「はい、そう思います。シャイネンナハトのケーキも売っているようですから、持ち帰って彼とも食べようかと」
「わ、それいいね! 私も今日は奮発しちゃおうかなっ」
 穏やかな笑い声が店内を包む。
 メルナとサリアはケーキを買い、連絡先を交換してその日は別れたのだった。


(あの日からちょくちょく手紙を書いたりはしてたけど、最近サリアちゃんに連絡をとってないなぁ……)
 ともにケーキを食べたあの店を眺めて、ふと、思う。
「そうだ、今日は帰りに便箋を買いに行こう。それで手紙を書くなんてどうだろう?」
 うん、名案だ。
 そうと決まれば話は早い。雪道をかけるメルナ。
 願わくば、再び、二人の道が交わらんことを。

  • 雪が紡ぐは温い夢完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2021年12月19日
  • ・メルナ(p3p002292
    メルナの関係者
    ※ おまけSS『願いを込めて』付き

おまけSS『願いを込めて』

「あ、そういえば、これ。依頼でもらったけど、余ってるからあげる!」
「これは……ミサンガ、ですか?」
「うん。依頼をくれた村の人がくれたんだ。モンスターを倒したのはサリアちゃんも一緒だから、サリアちゃんと恋人さんにあげるね」
「そんな……申し訳ないです、メルナ」
「いいの! おごってもらうんならこれはお礼だよっ、気にしないで!」
 溌剌と笑ったメルナに、ゆるゆると頷いたサリア。
 これをつけていれば、再びあったときも、また笑い会えるだろうか。

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