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いくさばに生くる

登場人物一覧

加賀・栄龍(p3p007422)
鳳の英雄

「加賀准尉。尾薙の兵は何を思い、何の目的で我らと戦っているか分かるかね?」
『はっ、大佐殿! 自分には解りかねる質問であります!』


 現在、我が祖国たる鳳圏は隣国である尾薙と戦争状態にあった。俺の目の前に立つ大佐殿は前線指揮官に当たるお方だ。一兵卒から叩き上げで今の地位に成り上がった英傑である。
 その大佐殿のお言葉に対して、俺は答えを持っていなかった。しかし、自身のやるべき事はいつ如何なる時も心得ている。


『しかし、尾薙の雑兵どもが何を考えていようと我々がやる事は変わりません! 祖国のためにこの命尽きるまで戦う所存であります!!』
「それだよ、加賀准尉」


 大佐殿が柔和な笑みを浮かべた。


「尾薙の兵士達もまた、彼らの祖国のために戦っている。祖国のために命を捨てている。それが彼らの、何よりの望みなのだよ」


 何をおっしゃりたいのか、失礼ながら理解が出来なかった。


「——叶えてあげなさい、速やかに」


 大佐は表情を崩す事なく続けた。


「彼らは尾薙のために死にたいと、そう心から願っているのだ。叶えてあげなさい。君達はただその手助けに行く、それだけのことだ。そうだろう、加賀准尉」
『はっ、その通りであります、大佐殿!』
「善行は気持ちの良いものだ、他の兵にも伝えておきなさい。君には無用な心配だが、新兵はそうもいかないからね』


 その通りだ。情けないことに、“大”鳳圏兵たる自覚がまだ足りていない新兵は多い。


『君には期待しているよ。迅速に、そして確実に彼らの願いを達成させてきなさい」
『了解しました、必ずや遂行いたします!! 全ては我が祖国のために!!!』


 やはり大佐殿は恐ろしく、そして頼もしいお方だ。
 本日の交戦は終始、鳳圏優位の状態で進行した。


『我突撃ス! 我突撃ス!』


 高らかな宣言とともに刀を振るう。敵兵の剣を手首ごと刎ね飛ばし、返す刀で首筋へと振り下ろした。
 既に三人を斬り捨てた。血と油でギトギトの刃こぼれした刀では一刀両断とは行かない。しかしそれでも構わない。
 一度で駄目なら二度。二度で駄目なら三度。もはや鈍器に近いなまくら刀で敵兵を打ち据える。
 打ち据える。打ち据える。打ち据える打ち据える打ち据える打ち据える打ち据える。


『戦果ぁ! 我、敵ヲ撃滅セリ! 我、敵ヲ撃滅セリ!!』


 結局首を断つことは出来なかったが、この敵兵は二度と立ち上がる事はない。
 無残に撲殺された味方を見て恐れを成したのか、周囲の尾薙兵が俺に飛びかかってくる事はなかった。——不愉快だ。


『戦友の仇を取る度胸も矜持もねえ連中が戦場(いくさば)に出てきてんじゃねえ、屑野郎どもがぁ!!!』


 戦果、尾薙兵七名。我、敵ヲ撃滅セリ。


「いやぁ、今日は上々だったな、戦果は十分ってもんだ」
「大佐様々だな、ハナタレの新兵どもがイッパシの顔になりやがった!」


 ゲラゲラと大口を広げ、唾を飛ばす戦友達。正面に座っていた連中が文句を言っているのが聞こえた。
 尾薙兵の撤退を以って、この度の交戦は終結した。
 互いの奮戦健闘を称え、無事を喜び祝い合う男達。今宵は宴だ、誰も彼もが美酒と勝利に酔っていた。


「おい、栄龍。なにシケた顔してんだ、飲まねえのかよ。腹でも痛えのか?」


 乱暴に肩を組んできた男は、栄龍と戦場を同じくして戦い抜いた一人だ。横目で顔色を覗くと、酔っ払いの馬鹿面が見えた。
 その顔には、一欠片の翳りも見当たらない。


「いらねえってんなら俺が……」
『触んな馬鹿野郎、俺の酒だ! 今から飲むつもりだったんだよ、今から!!』


 今日、同僚が一人死んだ。尾薙兵三人を道連れにした名誉の戦死であった。
 祖国のために死ねたのだ。本望だろう。俺とて、祖国の礎となれるのなら、死ぬ事など少しも怖くはない。誓ってそれは本心だ。
 だがしかし。だが、しかしだ。死ねば、もう酒を飲む事は出来ないだろう。そして同僚の死は、他人事ではない。明日は我が身、ここに居る誰にでも訪れる終わりの時だ。
 そう思うと、戦地に持ち込まれるような一山いくらの安酒でも、格別に美味い名酒のように感じられた。


「しかしあの大佐殿は飲まねえのかねぇ、宴の席であの人見たことねえぞ?」


 そう言って笑っていた男が、翌日俺の隣で、斬り殺されていた。

  • いくさばに生くる完了
  • NM名Wbook
  • 種別SS
  • 納品日2019年09月09日
  • ・加賀・栄龍(p3p007422

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