PandoraPartyProject

SS詳細

ダサTフレンズ

登場人物一覧

耀 英司(p3p009524)
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天閖 紫紡(p3p009821)
要黙美舞姫(黙ってれば美人)

●ウラハラストリートにて、雑誌記者いわく
 再現性原宿2000。正面通りから駅を挟んで真裏にある千駄ヶ谷というエリアには、通称ウラハラストリートなるショップ密集ゾーンがある。
 このゾーンを20年かけて歩き続けたファッション雑誌記者クモトリーヌは、12月のある昼下がりに天恵を受けた。
 当時っぽく言うと、『ビビッときた』のである。

 ダメージジーンズに底の分厚い革靴。どっしりとしつつもスリムなスポーツマン体型をしたその男は額にかけた手をふぁさぁっと前髪をかき上げるかのように動かした。フルフェイスタイプの仮面をしているにも関わらずである。
 その仕草の爽やかさといったら。千駄ヶ谷に吹く初夏のごとき風になびく白Tシャツの裾もゆるやかに靡こうというもの。
 クモトリーヌの脳裏にはボサノヴァミュージックが流れ、スゥっとカメラレンズが引き寄せられるかのように目元へと構えられる。
 思わず連写してしまったシャッター音に気付いてか、仮面の男はチラリとカメラの方を見た。
「オイオイ、俺がハリウッドスターに見えるか? ポンティアックのファイヤーバードを乗り回すとでも?」
「あ、ああ……いや、すみません。つい」
 カメラから目を離したクモトリーヌが改めて仮面の男の顔(?)を見た。
 見て、視線をちょっと下にさげた。
 Tシャツには『散る美学』と美しい書体で書かれていた。
「…………あれ?」
 さっきまでふいていた爽やかな風とボサノヴァが消えた。
 仮面かつクソダサTシャツの男――耀英司はクモトリーヌの前までどこか洗練された姿勢で歩み寄ると、フッと仮面の上からでも不思議と分かる細やかな動きでもって笑みを浮かべた。
 片手を差し出す。握手の構えだ。
「読者モデルを探してる記者、ってとこか。どうだい? なんなら俺を海沿いで撮るっての、も――」
 表情がスゥーっと真顔にも取ったクモトリーヌがスゥーっと流れるように遠ざかっていく。
 英司はぽりぽりと頭を(仮面のうえから)かくしぐさをして、フウと声を出して分かりやすく肩を落とした。

 さっきはどうかしていた。逆光のせいだろうか。あんなクソダサTシャツの男にうっかり名詞を渡しそうになるとは。
 クモトリーヌは首を振り、うっかりとった写真をどうすべきか考えながらウラハラロードをとぼとぼと歩く。
 そんな彼の耳に。
 リリン――と、鈴の音が響いた。
 まるで暑い夏の日、どこか遠くで揺れた風鈴のように。
 あるいは優しげなカフェの扉を開いたウェルカムベルのように。
 ハッと顔をあげると、自転車に跨がる一人の女性が目にとまる。
 幻想的な絵画から抜け出たかのような白くかすむようなプラチナブロンドが風にのって広がり、前を見つめるオッドアイの瞳の向こうにふわりと蝶が舞うさまを幻視した。
 そのまなざしはあまりにも優しく、自転車のペダルをこぐ足取りはあまりにも軽く、まるで蝶が舞うかのようにふわふわと、夢をみるかのようにゆっくりと蛇行しているようにすら見える。
 現に見よ。彼女の背には蝶の四枚羽根が畳まれ、明け霞む夜空のごとく深いグラデーションをたたえているではないか。
 クモトリーヌの脳裏にはチルポップミュージックが流れ、スゥっとカメラレンズが引き寄せられるかのように目元へと構えられる。
 思わず連写してしまったシャッター音に気付いてか、蝶の女――天閖紫紡はチラリとカメラの方を見た。
「こんにちはっ。撮影ですか?」
 こちらを見たときにぱぁっと開いた目に、うっかりと吸い込まれそうになる。
「すみません、つ、つい。お詫びします、自分はこういう――」
 懐に手を伸ばし――た所で紫紡はママチャリのブレーキをギッとかけた。
 なんかいやな予感がして、吸い込まれそうな瞳から一旦失礼してやや下へと視線をおろす。
 Tシャツに『酒と女は混沌の華』と豪快なフォントで描かれていた。
「…………あれ、まただ」
 さっきまでさしていたまぶしい光もチルポップも消えた。
 蝶の羽根かつクソダサTシャツの女が自転車からシャッと熟練の下り方をし、こちらへと妙にファンタジックかつ洗練された足取りで歩み寄ると、カゴから取り出した扇子でスッと長い前髪を払った。小さく蝶の幻影が散り、空へと消えていく。
 片手を出す。握手を求める構えだ。
「これから買い物だったんです! 服を見に行くんですが、一緒にいかがで、す――」
 表情がスゥーっと真顔にも取ったクモトリーヌがスゥーっと流れるように遠ざかっていく。
 紫紡は一旦その姿を目で追ってから、パチパチンと扇子をワンアクションだけ開閉させた。

●クソダサTシャツは惹かれ合う
 ある日のことである。それは運命の出会いと言って良かった。
 ウラハラストリートに並ぶ、やけに客の入らないTシャツ専門店の中で彼と彼女は出会った。
 ボーイミーツガールではない。
 ダサTミーツダサTである。
 仮面にジーパン。そして『もぶ』ともったりした書体で書かれたTシャツを着た英司。
 ホットパンツにキャップ。そして『酒は飲んでもノマノマウェイ』と書かれたダボシャツを着た紫紡。
 二人は互いのシャツをじっと見つめた後、洗練された足取りで歩み寄り、無言のままガッと握手を交わしたのだった。

「まさか、こっちの世界の人間にも、クソダサTを愛する文化があるとはなぁ!
 ダサTは生き様だ。ソウルを感じる!」
 そう言いながら、ハンガーラックにぎっしりつまったシャツを高速でぱぱぱぱっとめくり続ける英司。
 向かい側で全く同じようにぱぱぱっとやる紫紡は、目を瞑って頷いた。
「出会いは運命っ。クソダサTシャツとの出会いも、然り――!」
 まるで魂で感じ取ったかのようにつかみ取るシャツ。
 さながら熟練のDJがレコードショップから魂の一枚を探り当てるさまにそれは似ていた。
 『仮面一本漢道』と白く書かれた黒Tシャツ。
 オォウと呟く紫紡の後ろでは、英司が『ZASSOUMUSHAMUSHAKUN』というロゴとイカれたキャラクターイラストのシャツを掲げていた。
 黙って交差させ、受け取る。
「nice choice」
「me to」
 めっちゃいい発音で言い合うと、二人は目にもとまらぬ早き替えによってTシャツを着用。奥でずーっと腕組みしていた店主にコインを投げると、着たまま二人は店を出た。

 店を出ると、こちらを見て立ち止まりスゥーと目元にカメラを寄せた雑誌記者がいた。
 顔を見合わせ、そして洗練された足取りであゆみより、スッと握手のサインを出す。
 雑誌記者ヤヴェド・クモトリーヌはハッとした表情でカメラをおろすと、自らも黙って名詞を取り出した。

 去って行く雑誌記者を見送りながら、名詞をポケットにしまう英司。
 あの人なんだったんだろうて顔しつつも、紫紡は振り返った。
「そういえば、さっき渡していた名刺……英司さんっ、もしや芸名ですか!?」
「芸名……ま、そうかもな」
 新たに名刺を取り出し、二本指に挟んで差し出す英司。
「俺は怪人H。静かな夜の番人。仮面の怪人さんだ」
 受け取った名刺をまじまじと見つめ、顔をあげる紫紡。
「エッチなひと!」
「えっちなひとじゃあねえ!」

 末永き、ダサTフレンズの誕生であった。

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