SS詳細
ラブリー*ラブリー
登場人物一覧
高く澄んだ大空と大海が同じ色をした、それらを窓から眺められる場所に建てられた海洋のホテル、そのレストラン。
大きな耳を揺らしたのは煌めく白髪を編んだフラーゴラ・トラモント (p3p008825)、明るく笑んで背後を振り返る。
「ヨタカさん、ありがとう……!」
振り返った先に歩いて来たのは、フリードリンクを両手に持ったヨタカ・アストラルノヴァ (p3p000155)。
ヨタカはテーブルへコップを置いてフラーゴラの向かいに座り、どういたしまして、と返して外の景色を眺めて一息ついた。
「デートは紫月から誘ってくれる事が多いから、今日は楽しみだったんだ」
「…ワタシも、二人の話が楽しみだったんだー……!」
今日、この二人の目的はお互いの想い人へのデートプランを検討しつつ、想い人の惚気を話し合うものだ。
この店はペアシートなるものがあり、グラオ・クローネの時期には灰色の王冠を模した二人がけソファになる。
とはいえ、それは本番で座りたいからと二人はペアシートに近い、背の高いガラステーブルの席にした。
二人で注文を決め、店員が下がったところでさっそくフラーゴラがヨタカへ商人との馴れ初めを聞き出す。
「元々俺は……星になりたい……いや、輝きたいって意味では一緒だが、ステージに立つよりも……母の待つあの星々の世界へ逝ってしまいたい、そう考えていた時期があったんだ……」
そんな風に人生を諦めていた頃、出会ったのが商人(p3p001107)だったのだという。
最初こそ胡散臭いと感じたが、その優しさやユーモラスな振る舞いとあっと驚く魔法でどんどん魅力されたんだと、ヨタカが頬を掻く。
それを聞いたフラーゴラは両頬に手を宛てて、きゃあと黄色い声をあげた。
「…ちょっと良くない印象から好きになっちゃうの、わかる……! ワタシもそうだった……!!」
うんうん、とフラーゴラは脳裏に想い人との出会いを思い出して深く、力強く頷いた。
フラーゴラが冒険者デビューの時に水先案内人としてやって来たのが想い人だった。
その時の想い人は「妙な事を言わない様に」とローレットから厳命されていたため、かなり寡黙だったのだ。
フラーゴラが実際のその人がだいぶ愉快でお喋りな人だと知ったのは、それからしばらく後だった。
ヨタカは素敵な出会いだと微笑んで頼んだランチセットのメイン料理をシェア用の皿へ移す。
「それで、ずっと一緒にいれたらと思って……告白したんだ、俺から」
同じように自分が頼んだメイン料理をシェア用の皿へ移していたフラーゴラの頬に赤みが増す。
移し終えてそそくさと佇まいを直して聞く姿勢を整えると、それからと先を急ぐ。
そんなフラーゴラにヨタカはクスクスと笑って食事を促す。
「……ねえ、そういえばこういう食事って商人さんともする…?」
「するけど……最近は息子も交えてが多いかな…………」
養子に引き取った男の子がいるんだ、と軽く説明してヨタカは普段の食事は分担して作っていることを明かす。
それにフラーゴラはやっぱり一緒に暮らせるのは羨ましいなと呟いた。
フラーゴラと想い人は、まだまだフラーゴラの片想いのようなものだ。
想いは告げていて、イベントがあれば二人で出向いたりするが明確に付き合っているかと言われると何とも言えなかった。
「…でも、プレゼントは全部、ワタシの目の色の宝石とかそういうのなの。意外にロマンチックなんだよね………えへへ……」
嬉しそうに笑うフラーゴラをヨタカはまるで兄のような気持ちで見つめていた。
食事を終え、次に二人が向かったのは先の大号令が後、ついぞ叶った越海を記念して作られた海の資料館だ。
ここには大号令の歴史の他、海の特徴や棲んでいる魚の紹介に室内プールなどもあった。
他にもいくつかのアトラクションが設置してあるようで、楽しそうな声があちらこちらから聞こえた。
「こういう所は紫月、結構楽しんでくれそうだな……。トラモントはどう…………?」
フラーゴラは案内図を見て、食べ物や雑貨を売っているアーケード区間なら楽しんでくれそうだと答え、そちらも見に行くこととなった。
ポップで活気に溢れるアーケードはお土産物から、新鮮な魚介類や野菜が並んで地元民の姿も見える。
「……みんな楽しそうだし、フィッシュバーガーは好きかも…! あ、あれ良いねえ……!!」
フラーゴラが指差した先には宝石掘りとの看板があった。挑戦してるのは子どもが多いが、若い女性も見える。
ああいった冒険心をくすぐるものなら、フラーゴラの想い人も乗ってくれそうな予感がしたのだった。
「あ、ここのサンデー可愛いよ。海の生き物の形したクッキー乗ってる……」
ここまでたくさん歩いたし、休憩にしようとヨタカが提案してフラーゴラと二人でパフェへ足を踏み入れる。
店内はそこそこ混んでいたが、雰囲気の良い内装だった。
二人はさっそく、入る前に店前で見たサンデーとパフェを頼んで席で落ち着く。
「…そういえばずっと聞きたかったんだけど、番ってどういう感じ……? 普通の夫婦とは違うの………?」
温かい紅茶を飲みながら、フラーゴラが口を開く。先の依頼で二人の関係を聞いてからずっと、気になっていたことだ。
夫婦と番。名前が違って形も違ってそうなそれは、いったいどんな関係なのかしらと、フラーゴラの恋心はドキドキしていた。
「うーん……番と夫婦の違いかー……。俺もちゃんと考えたことがあったわけじゃないけど…………」
一方でホットココアを飲んでいたヨタカも番という言葉を頭の中で転がしてみていた。
商人が互いの関係をそう呼ぶから、そのまま使ってきたが普通の夫婦とどう違うかは考えたことがなかった。
改めて商人と自分の振る舞い方を思い出して見る。
「………名前、かなぁ。あ、ほら紫月って、俺に限らずちゃんと名前で呼ぶことはないだろ……?」
大雑把に男性なら何々の旦那、女性なら名字か称号で何々の方、という風に呼び分けていることはヨタカもフラーゴラも知っている。
相手が幼かったり親しい方だと名前で呼ぶことは度々あるがそう頻繁ではないと記憶している。
その中であだ名とも言うべき特別な名前で呼ばれる者はもっと少ないように思う。
「普通の夫婦だったら、名字を揃えたんだと思うんだけど…でも紫月が特別な名前で呼んでくれて、俺もそうやって呼んで良いって関係は毎日幸せだなぁって……」
好きな人が特別な名前を用意してくれて呼び会うのは、口に出しただけで幸せだよと、ヨタカが笑みを浮かべればフラーゴラも釣られて微笑んだ。
好きな人の名前を呼んだだけで強くなれる気持ちはフラーゴラにだって分かる。それが自分だけが呼んで良いものだったら、きっと思っている以上だろう。
「後はそうだなぁ……。魔術的な儀式をしたおかげかな、仕事で離れていても『絶対帰るんだ』って思えば良いから離れてても大丈夫になったかな。俺は」
「……素敵だねぇ。ワタシも、そんな風になれるかな………?」
届いたパフェ、その登頂に鎮座するアイスクリームを銀のスプーンでつつきながらフラーゴラは未知へ登り詰めんとしている想い人の背中を瞳の裏に描いた。
そんな、ピュアで可愛らしい恋を一生懸命にするフラーゴラへ、ヨタカは応援していると告げた。
もうすっかり空は夜のカーテンを引っ張り出してきた為か、施設のイルミネーションが目映い光を放つ。
二人でそれらを眺めながら出口を抜けると、街灯にも灯りが着いていた。
そうして二人、最初に待ち合わせをした場所に戻ると一際目立つ銀髪の麗人が佇んでいた。
ネイビーのスタンドカラーコートにアッシュグレーのストレートパンツを合わせた武器商人、その人だった。
先に気付いたフラーゴラがヨタカの腕をつつき、振り返った商人が柔かな笑みと共に二人へ歩き出す。
「紫月、迎えに来てくれたのか……?」
「夕方になって冷えてきたからね」
商人は駆け寄ってきたヨタカへ首に巻いたストールを巻いてやり、フラーゴラにも軽く挨拶をする。
それから三人で話をしながら、馬車を待つ。
やがて2頭立ての馬車が停留所に停まったのでフラーゴラが途中で降りることを了承して貰ってから乗り込む。
「……それじゃあ、またねー………!」
「ヒヒ、今度はダブルデートでもしようじゃないか」
「いいね、それ。じゃあ今度また」
住居兼店舗となっているギルドへフラーゴラを降ろし、手を振って別れる。
そのままヨタカと商人が暮らす住居へ向かう馬車の中で商人がヨタカの方へ身を寄せる。
きゅ、とヨタカのジャケットを握る商人の手をヨタカが掬い取り、暖めるように包み込む。
「それで、トラモントの方とのデート下見会は楽しかったかぃ?」
「ああ、次のデートを楽しみにしていてくれ」
ヨタカのその言葉に商人はふ、とはにかんで包まれた手をひっくり返して、ヨタカの小指を拐って指切りしたのだった。
ヨタカもまた、その小指をゆらゆら揺らして約束を誓う。
今日の夕飯はどうする、なんて相談をして二人は光が溢れる家の扉をゆっくり閉めたのだった。