PandoraPartyProject

SS詳細

異世界行ったらラブコメしたい!

登場人物一覧

ルドラ・ヘス(p3n000085)
迷宮森林警備隊長
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
流星の狩人

 日向ひゅうが 瑞葉みずははどこにでも居る高校生だ。ボーイスカウトの経験もあり、趣味はアーチェリー。昔から太陽には妙な縁があるような、ないような……そんなことを考えながら過ごす彼の好きな花は向日葵だ。
 何時だって太陽の事が付いてくる少年に突飛な運命が舞い込んだのは偶然か、はたまた必然か。
 混沌世界への召喚いせかいてんいによって彼の運命は大きく捻じ曲がる。どこにでも居た高校生は、職業を狩人と称して一端の冒険者として活動しているのである。

 ――ヒュン、と。軽い音を立てて矢が宙を飛んで行く。
 その軌跡を眺めながら今日の迷宮森林は平和なのだと瑞葉――いや、混沌世界では彼は名を改めた。どうやらファンタジー世界。名前はそれらしい方が親しまれるだろう――ミヅハ・ソレイユはぼんやりと思った。深緑の自然豊かさに惹かれ、大樹ファルカウの居住層の片隅に領地を構える事としたミヅハは迷宮森林の初めての散策に出掛ける準備を整えた。
 荷を背負う彼へと不用意に出歩けば迷子になるかも知れないと幻想種達には口を酸っぱくして言ったが……方向感覚は良いつもりだ。それなりに。
 それにファルカウほど目立つものは此の森にはない。大丈夫だと手を振って悠々と歩き出したは数時間前。
「……どこだ?」
 見事に迷子になったのだ。ううんと首を傾いだミヅハ。怖いもの知らずと言えども、何処か分からず帰り道も分からないとなれば『詰んだ』と言わざるを得ない。
「腹減った……」
 呟いてから近くの岩へと腰掛けてミヅハは頭を抱えた。出掛ける前に弓の鍛錬をしていた幻想種達は森林警備隊の一員だろうか。彼女達の言うことを聞いておけば良かったか。
 余所者には厳しいとはよく言われる国だが、厳しいのは人じゃ無く『森』なのではないかとさえミヅハは思えた。
「どーしよ」
 そう言えども答えが出るわけが無い。取りあえずは此処で何とか雨風を凌いで誰かが通りかかるのを待つしかあるまいか。
 岩の上でごろりと横になれば、木々の間から太陽が覗いている。暖かく、自身を照らしてくれる日差しだ。そのぬくもりに包まれるようにして――

 ―――――
 ―――

「おい……おい? ……大丈夫か? しっかり……」
 誰かに体を揺さぶられている気がする。ミヅハはゆっくりと瞼を押し上げれば、そこには灰色のショートヘアに勝ち気で釣り上がった青い瞳の幻想種が立っていた。
 確か――遠目から見たことはある。そう、此れは森林警備隊の……。
「良かった。どうした? 迷ったのか? 安心してくれ。私はルドラ・ヘス。迷宮森林の警備隊長をしている。
 貴殿は……イレギュラーズだろう? ファルカウで幻想種達が噂をしていた。散策に出掛けて帰ってこない少年がいる、と。まさかそれが貴殿か?」
 くすりと笑ったルドラにミヅハはかっと頬を赤らめた。初対面である彼女に笑われてしまった――年頃の男子であるミヅハにとって、女性に笑われるのは何とも度し難いイベントだ。
 頬を赤らめて「そ、そのう」と呟けば「いい、迷う場所であるのは確かだ」とルドラはミヅハの頭をぽんぽんと撫でた。どうにも、子供扱いされている気がしてならない。
「こ、子供じゃねえんだけど……」
「すまないな。私にとっては幼子と同じで……。貴殿は旅人だろう? 幻想種とはこの様な外見をしているがずっと長い時間を生きているんだ。
 もしかすると貴殿の両親、いや、祖父母よりも私の方が年上かも知れないな。……だから、許してくれ。つい撫でてしまった」
 揶揄うように笑うルドラにミヅハはむうと唇を尖らせる。どうにも子供扱いされ続けている。屈強な男であればまた違うのだろうがまだまだ少年のなりをしたミヅハはルドラには可愛らしい子供のように感じられてしまったか。
「子供じゃ無いところ、見せてやるぜ!」
「ん? ……其れは私の弓だが――」
 ルドラの弓を取り上げれ、矢を番える。落ちてくる木の葉へと狙いを定めたミヅハの様子をルドラは黙ったまま見つめていた。どうにも、その目が『子供が何かする様子』を見ているようで不服だ。ミヅハは葉を撃ち抜き、どうだと言わんばかりに振り向くが――「ああ、凄いな」
 手を叩いて笑ったルドラにミヅハはそうだろうと胸を張りながら、どこか腑に落ちなかった。彼女に自分の実力を認めさせなければ狩人になどなれっこない。
 それがミヅハ・ソレイユが森林警備隊隊長のルドラと出会った日である。
 あの日から、彼女を見かける度に弓の鍛錬や狩人としての在り方を質問した。自身が優れていないとは思わないが、ルドラは自分よりももっと優れた女性であるという認識があったからだ。彼女の背を追いかけて、彼女を追い抜かしたときに「どうだ?」と言ってやりたいのである。

「ソレイユ殿は努力家だな」
「ミヅハ。ソレイユは呼ばれ慣れてないんだ」
「……ああ、そうだった。貴殿は名前で呼ばれた方が良かったのか。済まなかった。
 んん……ミヅハは努力家だな。隊員達にも見習って欲しいほどだ。貴殿が幻想種であったなら私の隊に欲しかったが――
 旅人には多種多様の種があるが貴殿は……生憎、まだ幼いからな……」
「だから、子供じゃないって! これでも一応、青年って言える年齢ではあるんだぞ」
「私が『おばあさん』なだけなのかもしれないな」
 唇を尖らせてブーイングを送ったミヅハにルドラは肩を竦めて悪かったと笑った。彼の努力を馬鹿にしているわけではない。殊更に子供扱いをしているわけではないが、然うして唇を尖らせる様子が可愛らしいのだ。自身等よりもずっと英雄と呼ぶに相応しい特異運命座標という存在が森林警備隊に入りたいと考えてくれる。ただ、それだけで喜ばしいと言えよう。
「ルドラには何時も子供扱いされてばっかりだな。仕方ないのかも知れないけどさ」
「仕方ない。時の流れが貴殿とは違うのだ。……幻想種とはそう言う生き物なのだから」
 肩を竦めたルドラにミヅハは「けど」と呟いた。彼の中で、彼女の印象が変わったのはあの出会いの日だったか。あの時、太陽の日差しの下で此方を見て笑った彼女に子供扱いされたくなかったのは確かだが――それ以上に、どうしても好ましく思えたのだ。
 屹度、ルドラの中では子供。それか森林警備隊を目指したいと考えているだけの存在とでも認識されているのだろうが。
「何時か、森林警備隊に入れたら子供扱いしないでくれよ?」
「……ああ、考えておこうか」
 くすくすと笑うそのかんばせにミヅハの心臓はどきりと音を立てた。これは森の狩人である彼女への憧れだけではない。つまりは、そう、一目惚れと呼ぶべき現象なのだ。
 森林警備隊だって憧れては居るが、一番の目的は彼女の側に居ることだ。それを恋と呼ばずに何と称するか!

「ルドラ」

 名前を呼べば「どうかしたのだろうか」と此方を見るあの美しい青い瞳に、どうしようも無くときめいてしまう。
 一体全体、こんな『異世界』にまで召喚されて樹海よりも尚も深い迷宮森林に住まい狩人になった自分が、『別の種族』に恋をするなんて誰が想像していただろう。
 過去の自分に会えたなら言ってやりたい。お前はもうすぐ世にも奇妙な経験をして異世界に転移して、ても凜々しく美しい女性と出会うのだ、と!

  • 異世界行ったらラブコメしたい!完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2021年11月27日
  • ・ルドラ・ヘス(p3n000085
    ・ミヅハ・ソレイユ(p3p008648

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