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仙薬娘々のエピローグ

登場人物一覧

観音打 至東(p3p008495)
観音打 至東の関係者
→ イラスト

 まずいことになたアルねーコレ。ア、ハジメマシテ御客様。わたくしは『桃天娘たおてぃえんにゃん』、元・四海沸玻璃光仙女しかいふつはりこうせんにょの現ウォーカー、桃天娘にございマス。
 たおは嘗て、世界の仙道薬道を極め、数多の命を奪いそれ以上の命を救い、伝説的薬師とも呼ばれた仙女でしタ。練達あたりの隠語では『ちいと』言われるですか、まあそんな感じの、ええ、マフィアとかそゆお客様モ、ええ。
 それがなんの因果か、あの観音打の最凶の末嫁、至東様と同じ『混沌』に召喚され、なんだかんだありまして、こうしてお店など構えるフツーのお薬屋さんとして生活しておりマス。よく効きますから、貴方も如何アルカ?
 サテサテ、まずいこと言うのはですガ――いえ、至東様は日頃から大変よいお客様。緊急時用のクスリとかいかがわしくないフツーのゴム製品とカ、月イチくらいでまとめてお買い上げいただけるのデ、たおはホクホクデス。
 ……そのですネ、至東様、『ユーレイ』が大層お嫌いなのだトカ。
 ウーン、これ本当マズイことヨ。たおは前の世界で、裏稼業に『ユーレイ士』やておりまシタ。
 ユーレイ。幽霊でもゴーストでもキョンシーでもゾンビでも尸解仙でもレヴナントでもなく、ユーレイ。
 死するさだめのニンゲンの魂を、生前からの投薬でエンバーミングして作り出す、生身のある新種族。
(ア、もちろんこの『混沌』には適さない業のようですので、今のたおはタダのお薬屋さんですヨ)
 そのユーレイに……至東様の元旦那サンである獅子郎様を作り変えたこと……ウン。
 ――バレたらたおのカラダがヤバい。そう、たおの直感告げています。
「アー……至東様? ユーレイになにか、嫌な思い出あるアルカ?」
「そうですネー」
 たお、必死の思いで至東に探りいれマス。傾向と対策、コレ生き残る秘訣アル。
 すると至東様、真剣な表情でこち見マス。
「――今の『あるアルカ?』っての、すごく可愛いのでワンモアセップリーズ」
「やーアルよ」
 マジでやーアルよ。至東様、この手の冗談に乗りますと、それはもう後で物凄いコトをシてきますカラ。
「残念ですネ。なら後で個人的に実力行使で引き出しましょうネーグフフ」
「ロックオン回避! ロックオン回避アル! 今日は夜に大口のお客様、たおを指名で来てるアル!」
「えー」
「えーじゃないアル。とゆか、今はたおの質問ターンアルよー。
 ……そこまで至東様がユーレイをお嫌う理由、元ユーレイ士として気になりマス。
 確かに、おクスリは高価で、けして天下万民を救う業ではありませんでした。それでも少なからず、英雄と呼ばれた方を生きながらえさせ、人生の楽しみをさし上げられたコト、たおは一切後悔しておりません。なにせ……」
「……生前の能力のほぼ全てを失う、から」
「それアル」
 これは、アッチの世界の魂魄論アルが……。
『肉体と魂、そのどちらもが揃っているからこそ、人は業をふるえる』
 コレ、基本にして大きな壁。四海沸玻璃光仙女とはいえ、この壁は絶対でした。
「戦い、傷つき、それでも戦い、感覚のほぼ全てを失ってなお、戦い続ける英雄たち……。
 死してヴァルハラに迎えられるだけが、はたして英雄たちの人生なのか……。
 そーじゃない。そーじゃないと、たおは思います。叫びます」
「桃君……」
「たおは仙女ですが、善人じゃありません。喜びのカタチを人より多く知っているだけの、時に悪も成そう俗物アル。
 だからこそ、思うのです――」
 
「――春の日差し、夏の喧騒、秋の美食、冬の静寂。
 愛しい人との逢瀬。見たこともない絶景。何の邪魔もない旅。
 知らない人たちの穏やかな生活。役目を終えて朽ちていく建物。四ツ辻の影。山の向こう側。
 海を超えて次の岸辺へ。風を切って空前の高度へ。この道の先、その先、その先の先。
 ……それらを見られない人生なんて。
 英雄としての名誉を引き換えにするほどの、ものなのでしょうカ――」

「…………」
 ――はっ。イケナイイケナイ、つい、たおは自分語りに夢中になてしまいましタ。悪い癖アルネ。
「業を失った英雄が、凡人として第二の生を踏み出す……ええ、桃君の言う通り、それは良いことなのでしょう」
 お? 至東様乗てきたアルね。めづらし。
「ただ……桃君は容量用法だけ伝えて、後は一切のアフターサービスをしない人ですから。
 ――あの世界に新生したユーレイの多くが、私のいた『暮六晩鐘』に殺されていたこと。
 それを、意識的に無視しているように思えてならないのです」
「哎呀、痛いトコ突かれたネ……」
「じゃあ次は気持ちいいトコ突きますヨ? 奥の上の方でしたっけ? グフフ」
「ぼっ、防御姿勢ー! 至東様お目々がマジアル、真面目アル!」
「くひひ、桃君は可愛いですネー。ムラムラしてきました♪」
「アン!」
 たおはもーカウンター裏に引っ込みます。バックヤード……は……接客中なのでさすがに……哎呀。
「もう……。それで、あの、至東様?」
「はいな」
 ……踏み込む決意を。たおは決めましタ。今の私は何の後ろ盾もない、ただのお薬娘々。
 今後、たとえば至東様個人の庇護を受けるとしたら……いえ、そうでもなくとも。
 相互理解、これゼッタイ必要アル。
「ユーレイを殺めたから、ユーレイがお嫌いなのですカ?」
「殺めて後悔があるとすれば、それはユーレイにだけ、ですから」
 ――ゾッ。と、しました。

「貴人を斬り獣を斬り、尚生きながらえるなら日々とは弔歌。
 血の染みた茎を変えたとて、刃は依然曇るがまま、いずれ朽ち果てよう……。
 ……嗚呼、仙女よ。だとしても、愛が私を生きさせるのです。
 愛の誓いが。愛の思い出が。愛のとりとめの無さが、行き先の無さが」

「あの。
 至東様のポエム全然わからんアルよ。勉強なさたらどうカ?」
「はいしとーちゃん死にましたー! グワーッ(断末魔)」
 至東様勝手に死んだアルネ。はあ、これで夜中に腰が抜けて仕事にならなくなる自体は回避できたアル。
 まあ、でも、その……至東様のお気持ち、聞かせてもらえたのは前進ですね。
 至東様個人のことは、嫌いではないですし。

おまけSS『尸解薬仙のプロローグ』

 そんな感じで、今日も無事お昼のお仕事終えましタ。後は、夜中の大口のお客様、ですが。
 なにかすごく嫌な予感しかしないのは、きっと気の所為アルよね。
 ――ネ?

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