PandoraPartyProject

SS詳細

汝、自らを知れ

登場人物一覧

咲々宮 幻介(p3p001387)
背で語る
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進

 始まりはちょっとした小競り合い。売り言葉に買い言葉の末、辿りついたのは武器での語り合い。
「嗚呼、じゃあもういいです。決闘しましょう、決闘!」
 リディアの口から零れ落ちた其の言葉。理解するまでに数秒も要らなかった。
「……本当に、其れでいいんだな?」
「はい、良いでしょうとも! 嗚呼そうだ、手加減なんてしないで下さいね? 後で言い訳なんか聞きたくありませんから」
 後にリディアは其れを選んだことを後悔する。
 彼が何故始末人と呼ばれるのかの理由を、其の身を以て理解することになる――


 秋も終わり、色付く紅葉が散り往く頃。
 色を変えていく色彩を、季節を味わうためにリディアと幻介は散歩に繰り出すことが多かった。ので、しばしば遭遇してしまう訳で。
 長身とはいかずとも、若干目線上の幻介に不服そうな顔をしたリディアは、ぷりぷりとふくれっ面をしながら近づいてきた。おや、と零す前に其の赤く染まった瞳を見る。どうやら頭に血が上っているようだ。其処迄思わせる程、酷いことはしていないのだけれど。
「ま~た会いましたね!」
「嗚呼、そうだな。にしても何日も顔を合わせるとは……もしかして暇なので御座るか?」
「其れはブーメランってやつですよ活き餌侍! 全く……折角一人で楽しめると思ったのになあ」
「生憎だが其れは此方もでな。良ければ今宵くらいは此の場を譲って頂きたいので御座るが」
「はぁ?! だめでーす、私が先に来たんですからね! 貴方が何処かへ行くべきなんです!」
 神威神楽にて依頼を受けた二人。其々宿は違うものの、聞いた紅葉の名所は同じだったようだ。依頼場から近い宿をとると考えれば、まぁ当然ではあるのだけれど。
 ぷうぷうと頬を膨らませたリディア。其れをみてやれやれと肩を竦めた幻介は、はぁとため息を零した。
「理不尽にも程があるだろう。第一、理に適っていないで御座るよ」
「むう……!」
 冷静に、淡々と。齢にして凡そ十の差がある二人。所謂お子様、未成年、思春期真っ盛りのリディアにとって其れは侮辱にも近しいもので。
「嗚呼、じゃあもういいです。決闘しましょう、決闘!」
 リディアの口から零れ落ちた其の言葉。幻介は理解するまでに数秒も要さなかった。
 『決闘』。リディアが軽々しく口にした其の言葉。幻介にとっては真逆の意味合いを持つ其れ。
 空気が変わった。当のリディアを除いて。世界が一変してしまうかのような。
「……本当に、其れでいいんだな?」
  御座るなどといった口調は使わず、あくまでフランクに。気取る必要はないと理解しているからこその壊された口調。そして其れは、『仕事』が始まる合図でもある。
「はい、良いでしょうとも! 嗚呼そうだ、手加減なんてしないで下さいね? 後で言い訳なんか聞きたくありませんから」
 興奮か。勝利を確信しているのか、或いは。高らかに笑ったリディアに対し、眉を顰める幻介。彼女と彼にとって、其の意味は大きく異なっているからだ。
「受けないでもないが、」
 と、幻介。軽く前置いて。
「――本当に、『本気』で良いのだな?」
「はいっ、勿論ですとも!」
 朗々と笑うリディア。解った、と軽く呟いた幻介。
 全ては、其処から始まった。

●ある男の血脈
 闇討ち、暗殺、お任せあれ。
 血肉を啜り骨を絶つ。
 其れこそが我等咲々宮の存在理由――


「じゃあ、向こうで――」
 リディアが人の通るであろう道を外れた、丁度いい空き地を指した。が、其れを言い終えるよりも先に幻介が動いた。
 くるりと背を翻したリディア。鉄と鉄の継ぎ目たる鎧の横。脆く、錆びやすい其処。先ず、一蹴り。
「ぐっ……?!」
「……」
「卑怯ですよっ、向こうで始めるんじゃ……っ!!」
「甘い、な」
 左足の蹴り。次いで、左を軸とし、前に軸足としていた右足を上げ、蹴落とす。くる、くる。葉が回転し落ちるように、あまりにも自然なターンで。勿論油断していたのだから、軽快にリディアの後頭部は蹴られ、軽い身体が枯葉の山へと飛ばされる。
「ったぁ……!!!」
 ふるふると頭を振る隙を残さない。其れが始末人たる彼の戦い方だ。
 走り乍らも抜刀し、歩幅を合わせて、壱、弐、斬。
「っぶなぁ……」
 はらりと金糸が零れ落ちる。首だけを執拗に狙う太刀筋。幾つか攫われてしまったけれど、転がってでも逃げればいい。最終的に生きていればいいのだ。
「ちょ、ちょっとタイム、此れって只の決闘ですよね?!」
 声を挙げるリディアの言葉を無視して、幻介は容赦なく刃を叩きつける。白い肌に幾つも、赤い糸をつけて。リディアが立ち上がることを許さぬように、剣戟の雨は降り注ぐ。
 けれど。やられてばかりではいられない。
 熟練の技に抗う対抗手段は愚かしい程の無鉄砲とほんの少しの若さ。言い換えるならば、新しい後継者。其れは技でなくとも良い。志があれば、道など違ったって構わない。大した問題ではない。
「よくも、まぁ」
 たった一つ、必要なのは。
「やってくれましたね……!!!」
 生き残りたいと願う、意志。


 剣を構え跳ね起きたリディア。ギリギリと火花を散らしながら立ち向かうが、男の力には敵わない。其れでも、何とか膝をつき立ち上がる。
「伊達にお兄様と訓練を、してません、よッ!!!」
「ほう、そのようだな」
 一度冷静に、とまではいかなくとも落ち着いて。距離を取る選択をしたリディア。幻介は淡々と頷いて。
「今度はこっちから行きますよ!」
 剣を握り直し、攻めの姿勢を見せた。
 紅葉が、銀杏が散る世界を、幻介めがけて突き進む。が。
「甘い、な」
 地の利を活かしてこその戦場たれ。冷静に見据えた幻介は、刀を構えるや否や、地を抉るように斜め切り、宙へと赤黄の二彩を躍らせた。
「なッ!!」
 土混じりの地面。目を開き続けようものなら土が目に入るのだから、閉じるのは反射であり防衛本能だ。其の隙をついて幻介は突きに転じる。刀とは思えぬ武器使い。刀すらも彼の指の一本のようだった。
「ッ、ああ!!!!」
 遠慮のない殺し合い。
 否、一方的な虐殺だ。
 鎧が無ければ貫通していただろう鉄の雨。太腿は、脛は、突かれ、抉られ、斬られ。立てば立つほどに血が滲んで、力が入らない。けれど嗚呼、此処で折れてしまえば、殺されてしまうのだ。そう本能が告げていた。
 R.O.Oとは違う。混沌は、パンドラが0になってしまえば死んでしまう。もう生き返ることはできない。もう、生き残ることは出来ない。
 彼が始末人を名乗るのならば、何度でも其の刀で首を斬るのだろう。何度も何度も、何度でも。そうすることでしか、首を取れないと理解しているから。
 けれど。彼は恐らく、望んでいるのだろう。
 反撃の一手を。
 その証拠に、今は攻撃を止め、淡々と見据えている。首に鎌をかけることなど容易いのだと嗤う死神の顔をして。
「はぁあああああ!!!!」
 けれど。なら。抗いたい。
 生きていたいと、吠え続けよう。
 震える足に鞭打って駆け出した。が、頽れる。其れを見越して、突きを入れる。
(私だって、私だって、まだ……!)
「甘いといっているんだ」
「がはッ?!!」
 顎への容赦のない膝蹴り。頽れることを見越していたかのように綺麗に蹴り上げられ、跳ねる身体。其の隙を見逃さず、鎧の脆い点を突くように鞘と刀での二刀流を繰り出す。もう立つことが出来ないようにと執拗に足を痛めつけられ、靴を潰され、足の裏を痛めつけられて。鎧を壊されて。
「まだ立ち上がるのか。面白いな」
 ならば、と。踏み込んだ先、剣が飛んでくる。構え、踏み込み、耐える。かと思いきや。
「っ?!!」
 剣と刀をぶつけた其の勢いに任せて、刀についた血で目くらましを試みる。
 リディアの顔にはべっとりと己の血液がつき、またもや見事に攪乱されて。
「くっ、卑怯ですよ!!」
「何とでも言うがいい。其れが決闘だろう?」
 あたかも当然のように、幻介は壁として、脅威として、敵として立ち塞がり続けた。其の表情はリディアの瞳に涙が溜まろうとも、声を挙げようとも、痛い痛いとこぼれた声を聴こうとも、眉一つ動かすことは無かった。
 そうやって、彼は。幾多の人間を殺してきたのだ。
「なんだ、もう終わりか」
 そう聞こえた時、幻介の表情はやけにさめざめとしていた。その言葉は淡々と。織り成されたすべてが、がっかりだと訴えるようだった。
 そうだ。此の男は、多くは語らなかった。
 そうあれと仕込まれているのだろう。そうあることが彼なりの礼儀なのだろう。侮っていた。
 刀が降ってくる、としか形容が出来なかった。普段仲間として戦っていた筈の彼の背を見ることはもうできないのだろうと、錯覚してしまう程に。
 裏咲々宮一刀流『参之型』水絶、改式。我流で生んだのだと語った彼の笑顔を覚えている。シンプルながらも素早い彼らしい設計のその技も。
 裏咲々宮一刀流『伍之型』虹光。変幻自在、分身したとしか形容できない魔法のようなその技も。
 裏咲々宮一刀流『肆之型』華嵐。剣舞を盗み見、編み出した其の鮮烈乍らも美しいその技も。
 其のどれもを、味方として見ていたけれど。敵に披露される其の技の数々を知り、見ていたからこそ、倒せると踏んでいたけれど。
「ッ、く……」
 今は彼の敵として。其の技の苛烈さを、全身で味わっている。血まみれで、一方的に刃が肌を撫でる。立ち向かおうものならば其れ以上で帰ってくる。逃げようものならば圧倒的機動で走り出し、逃がすものかと執拗に追いかけられる。何処までも。何処までも。
 始末人の仕事とは対象の消滅。対象を消し去り、掃除することこそが役目。
 思い出した時、身体には鳥肌が立ち、背筋には冷や汗が垂れた。
 言葉にならなかった。彼は屹度真剣に、リディアを殺そうとしているのだ。
 そうすることが正しいと思い、彼は刃を振るっているのだ。
「あ、ああ、あ、あ」
 震える腕で剣を手繰り寄せる。鎧も、足も。何もかもボロボロだ。腕も顔も傷だらけで、立ち上がったところで逃げ切れるはずがない。またあの突き技をくらうのだろうか? 其れとも何か別の手だろうか?
 ぐるぐると思考を汚すネガティブ思考。
 その時、リディアは直感で理解した。

 ――――――死ぬ。

 本能が告げていた。
 幻介の其の容赦のない太刀筋に。刃の嵐に、逃れることが出来ないのだと。此処で死んでしまうのだと。
 痛む足を引き摺って逃げる。プライドも身体もずたずたに引き裂かれた。けれど、其れを許すようなリディアではなかった。負けっぱなしで死んでしまうくらいなら、一矢足掻いてでも。そう思って。
 けれど。
「――よもや、卑怯とは言うまいな?」


 立ち上がった剣は、軽い一蹴りで簡単に飛ばされてしまった。支えが無ければ倒れてしまう程に叩きのめされたリディアをわざわざ蹴り飛ばし、其の金糸を乱雑に掴んで引きずった。
 髪を掴み、其の金髪がぶちぶちと音を立てるのもお構いなしに、ぶら下げて。
「いや、喚きたくば喚けば良い。その頃には、そっ首跳ね終えているだろうが」
「っ……」
「……」
 ぱ、と手を離した幻介。其の儘リディアをおぶると、表情も顔色も変えぬまま、其の刃の訳を零した。
「お主の戦いは素直過ぎる」
 ぐ、と下唇を噛むリディア。
 確かに、戦いの先々で何度も、頭の中を読まれているかのように、行動を防がれたことがあった。
「……そのような戦い方では、いつか命を落とすぞ……?」
 ぴとり、首筋に口付けた銀刃が嗤う。薄皮を絶ち、じわりと血がにじんだ。
 其れでも。嗚呼。私は。
「ッ、わたし、私は……!!」
「……拙者に殺されそうになっておいてか」
 嗚呼、そうだ。
 今生きているのだって、幻介の慈悲に近い。
 簡単に、殺されてしまうかもしれなかったのだ。
(悔しい……)
 ぐ、と手を握る。どうしようもない。己の弱さは、誰にも変えることは出来ない。
 等間隔で刻まれるリズム。心地よい温度。いつの間にかリディアは、眠りについていた。


「……あれ、此処は?」
 目を覚ますと、其処は病院だった。
 わざわざおぶって幻想迄帰ったらしい、丁寧に点滴も包帯も施され、いかに自分が彼に打ちのめされたかを理解できる。
 わざわざ見舞いの品までよこしたのだろう、丁寧にうさぎの形に切られたりんごが枕元に置かれていた。
(悔しい……!!!!)
 しゃくり、しゃくり。
 りんごを荒っぽくかじり、噛み砕き、飲み込んで。
 ベットに乱雑に倒れ込む。が。
「でも、本当に、その通りだ」
 目を閉じる。ありありと思い出された、あの圧倒的な剣術。手も足も声も出なかった。其れ程までに完成されていたのだ。
(……次は、絶対に負けない)
 窓の外に広がる空は澄み切っていた。屹度、誓いを刻むには良好の日だ。
「よし、こうなったらお兄様にしっかり鍛錬の相手をしてもらおうっと」
 退院までは恐らくまだかかるだろう。そして屹度、見舞いには兄も忌々しい幻介も来るに違いない。
 屹度、身を以てでも理解をさせたかったのだろう。致命傷になるところだけは避けられている。あまりにも器用な気遣いだ。

「嗚呼、じゃあもういいです。決闘しましょう、決闘!」
「……本当に、其れでいいんだな?」
「はい、良いでしょうとも! 嗚呼そうだ、手加減なんてしないで下さいね? 後で言い訳なんか聞きたくありませんから」

 思い返せば、あまりにも馬鹿だ。彼の実力を知らないわけでもないのに、易々と決闘だなんて意気込んで。そして、勝てると思ってこのザマなのだから、笑うしかないだろう。でも。まだ心は。志は、折れてなどいない。だから。
「次は、ぎゃふんと言わせてやりますよ!」
 赤い瞳が煌々と輝いた。
 其れはまるで、あの日の紅葉のように。

  • 汝、自らを知れ完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2021年11月21日
  • ・咲々宮 幻介(p3p001387
    ・リディア・T・レオンハート(p3p008325
    ※ おまけSS『知りすぎたから』付き

おまけSS『知りすぎたから』


(今頃は、眠っているで御座ろうな)
 手加減を知らない。しない。
 そうでなければ死んでしまうのが、此の世界だから。
 江戸時代に入る直前、群雄割拠の時代。剣一本で生き抜いた生存戦略を、彼女の細い身体に刻み込んだ。
 たった一人に向けられる本物の殺意を教えるべく刃を向ける。『如何なる手を用いられようとも挫けず負けず、生き抜いて欲しい』。『仲間に刃を向けられようとも、太刀筋は鈍らぬように』と、幾多の願いを込めて。
(更に言えば、あの頃、)
 依頼人の卑劣な策に嵌まり、相棒にして最愛の彼女を亡くしたあの日。
 あの後悔を知っているからこそ、もう何も失いたくはないし、後悔はしたくないのだ。
 二度と大事な仲間を亡くさない為に。

 けれど、望んで切ったわけでも。ないのだ。

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