PandoraPartyProject

SS詳細

王子様は、現れない

登場人物一覧

セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補



 無辜なる混沌フーリッシュ・ケイオス幻想レガド・イルシオン。貴族の悪意が渦巻くこの国では特異運命座標イレギュラーズの本拠地ローレットがあるとあって様々な仕事が飛び交っていた。
 中でも貴族からの仕事はこのお国柄珍しい事ではない。善良な貴族から子供達や貧しい領民を助けて欲しいと呼びかけられる事もあれば、悪辣な貴族からはあの一族の暗殺、追放、濡れ衣など……それは決して少なくもない。
「はぁ……」
 質素な部屋でため息をついたのは『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)。とある貴族の調査でこのお屋敷に客を装い忍び込んでいたのだが──

「お前……何か変だな?」
「え? そ、そうで御座いましょうか?」
「ここのメイドの証であるアレを見せてみろ」
「え……アレ?」
「……奥の部屋へ連れていけ」
「え、ちょ、ちょっと!?」
 確か依頼人から「メイドの証であるアレ」と言われたら「アレだなんて、何を言ってるんですか」と答えるように言われていた事をセリアが思い出したのはその後だった。

 ──
 ────
「はぁ失敗しちゃったぁ……」
 連れて来られた質素な部屋に押し込められた彼女はその部屋のベッドに腰掛けて足をぶらぶらとさせる。正直言って暇だ。
「何かされちゃうのかなぁ……」
 貴族の裏の顔なんてタカが知れている。ひたすら悪辣極まれりな顔を持つ者も居れば、女に下品な笑みを浮かべて迫る者も居ると聞く。
 後者だったなら私はどうしたらいいのだろうか……なんて物思いにもなるもので。
 そもそもだ。こんな、こんな……ハートマークの穴が臍やお尻に開いたチャイナドレスを来てここに来てしまっているのだ。これは最早「食べて下さい」と下品な貴族には連想されかねない。いや、そう思われているかもしれない。ああ、なんでこんな格好で来てしまったんだろう! と、彼女は眉間のシワをむにむにと抑える。
 特にお尻の方が大きく開いてる事は沈痛の気持ちが否めない。そもそもどうしてこんなデザインのチャイナドレスが生まれてしまったのか……絶対そういう趣味でしょう?! 可愛かったから着ただけだけど! と、セリアは自分の中でボケとツッコミを繰り返しながらウンウンと悩ましげに。
 この屋敷の主なんかが来て何かされてしまうのだろうか。ああ、あんな事とか、こんな事とか! はたまたもっと凄い事? いつか流行った子供が見ちゃいけないタイプのドウジンシって本みたいな展開になっちゃうんだ! 嗚呼、嗚呼! どうしたらいいのよ! 
 そう暫く激しく悲劇的ヒロインのように悩んでいたのだが、体感的に一時間経った頃、セリアは何か起きないの?? と、若干飽き気味になってきた。
「すぐ何か来るものだと身構えてたけど……何これ暇すぎ……」
 何かあったのかなぁ? と窓の外を見ようとしていた時だった。

 ──ドカッ!!
「きゃ?!」
 突如乱暴に開いたドアにセリアは驚いて声を上げた。
「なにしてんだ、お前」
「…………あ、あはは……」
 扉を開けたのはこの依頼にセリアと同行していた仲間のうち一人の少年だった。ドジを踏んだ仲間へ冷たい視線を送る少年に、頬をポリポリと掻いて笑ってごまかすセリア。そんな彼女に少年は思いっきり深くため息をついた。
「見張りに金握らせてきたから、急いで逃げるぞ」
「……ねえ」
「……なんだ?」
 助けに来てくれた少年の服の裾をセリアはそっと掴み、そのまま彼をじっと見つめる。
「怪しまれるとまずいし、やることやってく? ……なんて」
 あれだけ待ったのにただ戻るのは何となくつまらないと思ったのか、セリアからそんな冗談のような軽率な甘い言葉がふと零れて。この際どい格好をしたセリアの言葉なら本気に捉えられてもどうしようもない言葉だと言うのに彼女の唇から零れ落ちてしまったのだ。
 そんな言葉を聞きピクリと動きを止め振り向いた少年にいきなりがしっと肩を掴まれ、彼女は思わず目を閉じる。ああ、やっぱり彼も男の子だねと思いかけたところで──
「いっっっったー?!」
 セリアの脳天に少年からのげんこつがめり込み、彼女はこれでも控えめに叫んだ。
「……急いで逃げるぞ」
「ただの冗談だったのに……」
「今はじゃれ合ってる場合じゃねーだろ」
「…………はぁい」
 二人は急いでこの部屋から出る。
 今回もまたつまらない事になったなぁとセリアはそっとため息を着く。だって少しだけ、ほんの少しだけ……妄想は散々したけど本当に少しだけ……そんな展開があるかも……とか。
 そっと頬を膨らませて心の中で残念な気持ちが広がる。

 この少年が運命の何かだなんて全然思わないけど、ただ誰か私をどうにかして欲しい……なんて、心のどこかで何となくそう、なんとなーく。
「また馬鹿な事考えてるのか? 仕事に集中しろよ」
「な、バカって何よ!!」
 年上に対して失礼しちゃう! セリアと少年はそのまま屋敷の廊下を駆け抜けていった。

  • 王子様は、現れない完了
  • NM名月熾
  • 種別SS
  • 納品日2021年11月21日
  • ・セリア=ファンベル(p3p004040
    ※ おまけSS『おまけSS『拗らせられた心』』付き

おまけSS『おまけSS『拗らせられた心』』



(なんだよ、『やることやってく?』とか)
 特異運命座標イレギュラーズの仕事、その仲間である彼女にそんな甘い言葉を言われて少しだけ戸惑った。
(大人ってやつはいつもそうだ)
 子供だからってバカにしやがって……
(俺の事、弄ぼうとしやがって……)
 ほんの少しだけ可愛いと思っていた女性にちょっとだけ動揺した自分が悔しくてしょうがない。
 こうやって大人はみんな俺を子供扱いしようとするんだ。
(あんた達の思い通りの反応してたまるか!)

 ただちょっと、ほんの少しだけ。ドキドキしてしまった事なんて……絶てぇ言わねぇーからな!!

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