PandoraPartyProject

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ちいさな手

登場人物一覧

オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護

 出会ったのは数か月前、女はウタ・アルドレッドと名乗り、誰しもが振り向く美少女だった。
「あ、いたいた! オウェード様!」
 駆けだす少女。群衆は少女の弾んだ声に引き寄せられるように、待ち人を見つめ、呆気に取られたように不自然に立ち止まった。矢のように伸ばした視線に様々な感情を含みながら。
「そ…そんなに…は…走らな…なっ…くても…わ…ワシは大丈夫じゃ」
 オウェード=ランドマスター(p3p009184)は両手を突っ張るように伸ばし、火照った顔で口ごもった。少女のワンピースの裾がひらりひらりと、甘い誘いのように揺れている。
「やだ! 今日はオウェード様とデートだもん。少しでも長く一緒にいたいって思っちゃ駄目なの?」
 少女は唇を可憐に尖らせる。
「あ…あ…わ…ワシだって…ほ…本当は長くい…いたい」
 オウェードは目を泳がせ、不自然に喉を鳴らした。少女を見た途端、心臓は暴れ、汗が吹き出し、唇は震え──頬は薪をくべた暖炉のように熱くなっていく。だが、それは少女という存在にオウェードにとって、とても自然なことだった。
「オウェード様、顔真っ赤で可愛い!」
 少女は尖らせた唇を途端に真横に広げ、楽しそうに笑っている。オウェードの言葉に機嫌を直したのだろう。少女は木漏れ日のように眩しくてあたたかなワンピースを纏い、黒色のハンドバッグにチャコールブラウンのショートブーツを履いている。
「あ…う」
 オウェードはそわそわと何度も背筋を伸ばしちらちらと少女を見つめる。本当に、美少女に磨きがかかっている。
「オウェード様」
「ど…どうしたのじゃ?」
 オウェードは息を吐き、困惑した様子で少女を見下ろす。少女は
「オウェード様はあたしが大人になってもデートしてくれる?」
「そ…それは…あ…当たり前じゃ。な…何を言うのかのう。う…あっ…ちょ…ちょっ!?」
 オウェードは顔を赤らめたまま、身体を大袈裟に震わせる。そう、少女がオウェードの手に触れ、強く握り締めたのだ。小さくて柔らかな手。オウェードは少女の手を見つめ、身構える。
「本当に?」
「約束するワイ」
「嬉しい、ありがとう」
 少女は微笑んだ。とても綺麗な顔で。

 オウェードと少女は、街を彷徨う。少女はオウェードにあれこれねだり、オウェードの両手は少女のプレゼントでいっぱいになった。大きな紙袋が揺れている。
「お母さん、今日、カレーがいいなぁ」
 少年の大きな声。すれ違った親子に少女は、無意識に目を細めた。
「に…荷物をお…お前さんのへ…部屋には…運んでもい…いいかのう?」
 オウェードは立ち止まり、少女の横顔を眺める。黄昏。少女の顔が少しずつ見えなくなっていく。
「オウェード様、あたしもそれをお願いしようと思ってたの。じゃあ、こっち! 狭いけど近道なの!」
 少女は笑い、指を差す。オウェードは頷く。それは終わりを意味するのだと思った。
「オウェード様、あのね」
「なんじゃ?」
 赤い顔が尋ねる。
「好き」
 少女の濡れた声が聞こえる。
「ん…あ…」
 オウェードは目を見開き、抱き着こうとする少女を真っすぐ見つめる。冷たい風が吹いた。
「!?」 
 少女はびっくりする。オウェードが身を捻り、パッと真後ろに下がった。少女のプレゼントがオウェードと少女の足元に転がっていた。
「計画は完璧だったのに……あんた、どうして避けたの」
 動揺が血のように溢れ出す。彼女がオウェードに触れることは叶わなかった。オウェードは完全に少女の動きを把握していた。黄昏の中で少女の短刀が浮かんでいる。
「さ…」
「さ?」
 少女は小首を傾げた。
「殺気がずっと出ておったワイ」
 オウェードは言った。オウェードは、少女が何者であるかを殆ど理解していた。だから、少女とのデートを楽しんでいるというよりも、少女の殺気に緊迫し──それを赤面と口ごもりで隠すことにしたのだ。
「油断しているのはあたしってことね……」
 低く唸る少女。業火のような憎しみが濁った瞳の中でぬらぬらと踊る。
「ああそういうことじゃ」
 オウェードは少女を見据え、構えの姿勢を取った。明らかな体格差とオウェードの構えに少女は動けないようだった。油断も隙も無い。飛び込んだ瞬間、どうなるかを少女はきちんと理解しているのだろう。少女の手足は震え、苦しそうにはあはあと呼吸を乱している。
「帰らなきゃ、帰らないと! 手紙も書いてしまったのに……」
 少女は恐怖の檻に囚われ、叫んだ。
「ちゃんとやらなくちゃ……ああっ!」
 少女は俊敏に動き、オウェードの喉元を狙う。短刀が鈍い光を放った。オウェードには短刀を目で追うことは容易だった。ただ、それは少女の動きでは決してなかった。躊躇いもなく、少女は人を傷つけることが出来るのだろう。
「ああッ! ううっ!」
 少女は踏み込み、狂ったように吠える。ああ、きっとすべてをこの一撃に。少女の気迫にオウェードは応えるように動き出す。
「…ワシが終わらせよう」
 そう、少女の悪夢は此処で終わりにしよう。これからはきっと。オウェードは目を細め、少女の攻撃を受け止め──攻撃の勢いを瞬く間に、破壊力に変える。感じる、柔らかな肉。くぐもった声と唾が少女の唇から吹き出す。少女はくるくると転がり、俯せに倒れ込んだ。苦しそうな声が聞こえる。
「もういいのう、お前さんたち!」
 オウェードが声を張れば、隠れていた衛兵が一斉に少女を囲みだす。
「オウェード様、大丈夫ですか!? お怪我はありませんか!」
 衛兵の一人が叫んだ。
「ああ大丈夫じゃ…」
 銅のコインが少女から溢れ、オウェードの足元に散らばっている。
「彼女はやはり」
「間違いない…彼女が密偵じゃ」
 オウェードは言った。先程の赤面と口ごもりが嘘のように思える。
「しかしアドラステイアからじゃったとは思わなかったのう…」
 オウェードはコインによってすべてを理解する。少女は動けず、悔しそうにオウェードをねめつけている。少女にとって、オウェードを始末することはアドラステイアの立場から言えば、大手柄であったのだろう。
「ざ…残念じゃったのう…わ…ワシも…しゅ…修羅場と鉄火場を…く…くぐり抜けてきたからのう…」
 少女を見つめるオウェード。その顔は真っ赤に染まっている。もごもごと歯切れの悪い口調に衛兵が振り返った。
「……」
 オンネリネンの少女は家族をただ、想った。オウェードに出会わなければよかった。オウェードは少女を赤い顔で見つめている。すべては此処少女の調査依頼から始まったのだ。

 幻想のI街の宿屋に年端も行かぬ女が寝泊まりしている。艶やかな黒い髪は奇麗に切りそろえられ、青い瞳は深い海の底に似ている。宿屋の主人は訪ねてきたオウェードにそんな話をする。
「夜中にこそこそ出かけてるみたいでよ。なんか、変なんだよなぁ」
 宿屋の主人は、オウェードを知っていた。だから、突然、現れたオウェードに少女のことをペラペラと話したのだ。
「日中、彼女はずっと部屋の中にいるのかね?」
 青髭を撫で、オウェードは尋ねる。
「図書館で借りた本を部屋で読んでいるようで、三日に一回は図書館に行くようだよ。帰ってくるといつも、分厚い本を抱えてさ。凄いんだよ。アンタも行ってみればいい。ちょうど、外出中だからさ。きっと図書館にいるよ!」
 オウェードは頷き、少女がいるであろう図書館に向かった。そして、件の美少女は熱心に本を選んでいる。オウェードが近づけば、気配を感じたのだろう。少女は何かをさっと隠し、オウェードに笑みを浮かべる。
「わわ、素晴らしいです! それから互いの目的の為、あの少女とオウェード様は時間をかけ信頼関係を築いていったのですね!」
 衛兵の一人がオウェードを見つめうんうんと頷く。衛兵に誘われ、オウェードは喫茶店にいるのだ。
「ああそうじゃ。策には策とはよく言ったものじゃな…ガハハ! 今回は役得な依頼じゃったのう!」
 メロンサイダーを飲むオウェード。
「しかしながら…アドラステイア! 必ずワシ…いやワシらローレットが潰し、開放してやるワイッ!」
 オウェードは決意し、まだ見ぬ少女達をしっとりと想った。ただし、本命はであり、本気で想っている恋する乙女であることを忘れてはならない。勇者選挙で序列七位の功績持ち、彼女から「黒鉄守護」という称号を(コッソリと)授かっている。

 真夜中、不快な機械音が聞こえる。

 ──撤退、撤退。
 ──しくじった□□□は諦めよ。

 不愉快な旋律が空間を支配する。少年少女達は頷き、通信機器をリュックにしまい、闇夜を駆ける。彼らはまた、密かに活動を続けるのだろう。

  • ちいさな手完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別SS
  • 納品日2021年11月14日
  • ・オウェード=ランドマスター(p3p009184

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