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七彩の祝祭・破
登場人物一覧
●楽しいだけじゃ終わらない
「腹も満たせたようじゃな」
「おう! やっぱじいちゃんの飯が一番だわ」
「やなぁ。私もなんかもう満足したわ!」
「おいおい、まだこれからだぜ?」
楽しげに笑った陽往。瞬いた真那。客の足がある程度落ち着いたので休憩に入った善吉は、驚いたような顔をして真那を見る。
「なんじゃ、ハルから聞いとらんかったのか」
「いや、俺も言ったと思うんだけどな」
「聞いた覚えないで? 言ってないと思うんやけど!」
「じゃあわりぃ。伝言してねえな」
半分は心からの謝罪であろうが、きっともう半分は否だ。ぽりぽりと後頭部を掻いた陽往の表情は笑っている。
やれやれと肩を竦めた善吉と真那。善吉がペットボトルで小突けば、陽往は咳払いひとつ、本題へと入った。
「射的が有名でさ、このお祭り」
「ほほう!」
やはり銃使いということもあり、射的ともなればこころ擽られるというもの。わくわくとした様子で立ち上がった真那ににやりと笑みを浮かべた陽往。
「でな、この景品ってのがまた別格でなあ」
「ちょ、焦らさんといてや!」
「でもこの方が気になるだろ?」
「くっ、ようわかってる……商売人向いてる!」
「そりゃじいちゃんのとこで面倒みて貰ってるからそれくらいは……貢献しないといけないだろ。じゃ、なくて。その景品ってのがなかなか凄いんだ!」
「ほうほうほう!」
ぱあっと瞳をきらきら輝かせた真那を確認した陽往は、得意げに息を吸って。それから。
「きゃあああああああ!!!!!!!!!!」
「えっ」
「何?!」
「なんじゃ?」
せっかくの溜めを台無しにされて少しへこむ陽往、大声に驚く真那と悲鳴に瞬いた善吉、三者三様。悲鳴だと理解するまでわずか三秒、顔を見合わせた三人。
「のうハル、これは普段通りか?」
「いいや、こんなことはじめてだ。なにかトラブルがあったに違いない!」
「うーん、気になるけど景品はまたあとで。ハル、行こ!」
「おう! じいちゃん、店頼んだ!」
「元々わしの店じゃ、行ってこい!」
混乱して不安げな顔を見せる村の民。その中には陽往の顔見知りだっているわけで。小さな弟妹や、母だっているかもしれないしなんならあの悲鳴の主が家族の可能性だってある。もしもそうだとしたら。陽往の背中を冷や汗が伝う。
「……ッ、真那!」
「うん!」
阿吽の呼吸とでもいうべきか、陽往の声に頷いた真那は地を蹴る速度を上げて駆け抜けていく。万が一の為にと背負ってきた銃がこんなところで役に立つかもしれないなんて。皮肉ったように笑う陽往。その背を追う様に、真那は苦い顔をしていた。
●祭りの影
「な、なんだあれ……」
「私に聞かんといてや!」
恐らくはゴブリンか。こんなところに生息しているとは思って居なかったし、知らなかった。
「大丈夫ですか!」
「は、はいっ、でも小さい子が……!」
「あなたの子供さんですか?」
「いいえ、ちょうど、キミの小さい子のような……」
「まさかッ……!」
沢山いる弟妹。その中でも陽往の背に憧れていた。
「光汰……!!!!」
「……ハル、落ち着き! きっとゴブリンなら、まだ殺してへん。光汰くんだってまだ生きてる。私らがしっかりして、ちゃんとやるべきことができたらその確率は上がるはずや!」
「……ああ」
震える身体を落ち着ける。頬に乾いた一発。真っ直ぐと前を見据える陽往の姿。
「よし、行くぞ!」
「おっけー!」
ゴブリンたちを前に、戦闘が始まった。
●
「おらぁっ!!」
陽往の双銃が唸る。吠えるヴァナルガンド、噛みつくフローズヴィトニル。
「真那!」
「任せとき、援護する!」
「おう!!」
「グァアアアア!!!!!」
「うるせえっ、光汰を返せ!!」
正確無比な弾丸がゴブリン達の眉間を確実に貫いていく。それは怒れる炎の証明。陽往は吠える。己の怒りを。憤怒を。糧にして。
「ハルっ、前出過ぎ!!」
「ああもうっ、解ってるってば!!」
「もーーーーーーっ」
マーナガルム・ファングが支え、マーナガルム・ロアー改が切り裂く。二対の銃は決して敵を逃しはしない。
陽往が撃ち漏らした敵を逃がさないように殲滅していく。村の人々に被害が加わらないように。これ以上怖い思いをする人が増えないように。
「これでとどめだ!」
陽往が最後の弾丸を放つ。ゴブリン達を倒しきったとき。気が付けば辺りには村人が集まっていた。
「ハル!!」
「光汰が……光汰を探すのを手伝ってくれ」
「わかった」
「ハルとそっちのお嬢ちゃんはありがとう。あとは俺達に任せて、ゆっくり休みな」
「でも、光汰が……」
「あれだけいたゴブリンを二人で倒したんだ。少ししたら話も聞きたいしな」
「でも……」
「ハル、ここは従ったほうがいいと思うわ」
「……そうかよ」
小さく呟いた陽往。その肩は震えていて。そのときばかりは、陽往が真那よりも何歳も小さい子供の用に思えた。
●
「お、お兄ちゃん」
「光汰!!!」
大人たちが見つけてきたのだという光汰は、後から分かった話だが、悲鳴を上げていた女性を守るために身を挺したらしい。なんでもその女性は妊婦だったのだとか。
「それにしても、今回の祭りは君達に助けられてばかりだな」
「射的やりたいんだけど、値段まけてくれたりしない?」
「あはは、それでいいなら!」
「あとは全部のお店をただにしてもらったり……?」
「もちろんさ。村人に被害が出なかったのは君達のお陰だからな」
あっけなく通っていく要望に、陽往も真那も瞬いて。
「そういえば、この時期ってゴブリンはあんまりでない時期じゃなかったか?」
「最近は祭りの食べかすを狙ってモンスターが出ることが多かったんだ。陽往はちょうど召喚されてなかったけど、まだ小さかったから知らなかったんだな」
「ち、ちっさくねーし! 俺だって自警団やってたんだぞ」
「……そうか、陽往がか。それもあって、周りのモンスターたちをけん制することが出来ていたのかもしれないな」
だが、陽往のいない今。それが当たり前ではなくなってしまった結果起きたのが、今回の事件というわけだ。
「……案外、良いことばっかりじゃないのかもしれないな」
「でも、ハルがイレギュラーズになってなかったら、あの人たちも助けられへんかったかもしれんから。それはいいことやろ?」
「真那……」
陽往は声を震わせた。
真那は笑みを浮かべて、手を差し出した。
「今日の私達の目的はおっちゃんの手伝いやし、はよもどろ。もどって驚かせよ!」
「……おう!」
かくして、村を襲った事件は無事に事なきを得たのであった。
おまけSS『次回予告』
次週、最終回!