SS詳細
乙女と友情とソリッドブック
登場人物一覧
本日はローレットからの依頼もないお休みという訳で――リースリット・エウリア・ファーレルは
「希望ヶ浜学園の他にもこのような街並みがあるんですね……!」
「その通り! 希望ヶ浜辺りもほんの一部に過ぎないのよ」
リーリスリットは、あまり再現性東京の方へ赴いた事がない。見る物全てが新鮮といった様子で、彼方此方へ目を奪われている。
対して、ワルツは再現性東京の常連だ。庭場のように勝手知ったる街。浮き立つ気持ちはあるものの、一歩引いた態度でリースリットの案内役を果たそうとする。
「気持ちはわかるけど、ね。ここはまだまだ入口に過ぎないわ」
ワルツに肩を叩かれ、リースリットは我に返った。先程までの姿を思い返し、気恥ずかしそうな笑みを浮かべる。向き直ると改まって、
「今日は、お願いしますね」
「
二人がいる場所は再現性東京の中でも『2010街』と呼ばれる――
リースリットが文化祭で訪れた事のある『希望ヶ浜』もこの地区に含まれる。元は異界の文化、とはいえ若者であるリースリットが受け入れやすく、
「ワルツさん、あのカエルの卵が入ったような飲み物はなんでしょう?」
「あれ? アレはタピオカドリンクね。最近の
「たぴ…おか…?」
「タピオカってのは植物のあれをこうして固めたヤツで……ええい! 飲んだらわかるわよ!」
「……そうですね!」
という訳で、手始めにタピオカドリンクへ挑戦する事に決めた二人。
リースリットはミルクティー、ワルツはフルーツジュースのフレーバーを注文する。慣れた様子でストローからタピオカを吸うワルツに対し、リースリットは――苦戦していた。
「ぷはっ、これ、難しいですね……」
「思うに、リースは力の入れ方がなってないのよ。初めての太いストローにビックリしてない?
力が足りないか、逆にストローを底にピッタリ付けたまま吸ってるか。覚えはあるわよね?」
「はっ、確かにその通りです!」
「こう……タピオカの少し上で吸ってみて、力が足りないってなったここぞ! って時に力を入れればいいのよ。やってみて」
「はいっ……!」
ワルツに言われた通りにストローを調整し、ちぅと吸ってみる。何かを引っ張ろうとしているが力が足りない――この感覚、これが「ここぞ」というタイミングなのだろう。思い切って、力を込めると面白いくらいにすぽっと口内へタピオカが収まった。
見た目から思っていたのとは違う、歯応えはあるのに容易く噛み砕けるほどに柔らかい。不思議な食感だ。一度ハマれば後は病みつきという訳で、ワルツが呼び掛けても返事をしない程度には夢中で吸い続けていた。
●
「あんなにハマるなんてね」
「うぅ……申し訳ありません。なんてはしたない所を……」
「いいのよ私も楽しかったし。それより――うん、やっぱ似合ってるわね!」
場所を変えて、二人は
リースリットに練達風の服装を色々着て欲しいというワルツの申し出によるものだが……選んでもらった服装は兎に角ズボンの丈が短い。ワルツの普段着に近い印象があるのは悪くないが、自分が着るのとは話が違う。
「嬉しいですけど……足元が落ち着かないような……!」
「えー、なんで? 普段から結構足見せてる方だと思うけど」
「足を布で囲んでいるかで違うんです……!
それに、あの、今の時期だと私には寒くて……」
「んー、それなら仕方ないわね。また夏頃に着てもらうとして……」
「買うのは確定なんですか?!」
「逆に聞くけど……いらない?」
「……少し、気になります」
「じゃあ決定」
結局、
「ワルツさん! あれ、どうですか?」
「ん? いいけど――」
という訳で、ワルツが着る事になったのは白を貴重にピンクのふりふりが付いたドレス風のワンピース。確かにワルツの普段着とは離れたスタイルだが――
(魔法少女みたいで悪くないわね)
と、満足気。その上この衣装、
そして、片割れを着ているのはリースリットだ。
「似合ってますよ、ワルツさん」
ワルツが思いの外受け入れているのはちょっと想定外だが、お揃いの服装ができてご満悦。所謂「双子コーデ」というのも親友と着る衣装にぴったりだ。
「このまま出かけてみます?」
「いいけど、そろそろお昼でしょ? 折角の新品を汚すのも悪いわ」
「あっ……そうですね」
偶然にも、このタイミングでリーリスリットの腹の虫が鳴った。
バツの悪そうな顔でお腹を押さえる彼女と目が合う。お互いに可笑しくなって、つい笑ってしまった。
●
気に入った服の会計を済ませ、ワルツが見繕った
何事もなく雑談しながら話していた――はずだったが、ここでワルツの足が止まる。
「…………」
「どうしました?」
「い、いや――あのね、ちょっと野暮用!
あそこ、少し歩けばお店あるから先寄ってて!!」
それだけ告げて、突如ワルツは何処かへ走り出す。
取り残されたリースリットは、言われた通り店内で待とうと思ったが初見の店に一人で入るには気が引けるし――何より、ワルツが何を気にしていたのか知りたいと思った。
(こっそり追いかけてみましょう)
ワルツは矢鱈と周囲を気にしている様子だが、リースリットのいる真後ろへは目が届いていない。それだけ焦りが強いとも言える。
それから大きめの看板――に囲まれたその狭間。ともすれば気づかずに通り過ぎてしまうようなビルの中へ入って行く。入口には看板があった。
――『TADIのあな』と。支店と書かれているのだから、大元は有名チェーン店なのだろう。
後に続くように中へ入る。入って直ぐに見えたのは沢山の本だ。店名だけでは全く想像できなかったが、ここは書店なのだろう。
(欲しい本があれば、言ってさえくださればお付き合いしましたのに――)
友がどんな本を好きか把握できる楽しみもある。何故隠すような真似をしたのか少し、不満に思いながらワルツを探しに辺りを見回す。
この時、リースリットは違和感を覚えた。これらの本は彼女の知っている書物よりも遥かに
(これは――)
そして、
表紙の隅に書かれた「18」の文字にすら気づかずに――
●
一方その頃、
(う、うひょーー!! リースが表紙の本がこんなにたくさん……!
これはけしからん!! 親友の私が直々に回収及び検閲しないと……)
新刊に夢中になっていた。
実は彼女、リースリットには隠していたが百合好きのオタク。そしてこの世界では人気のある
とは言えこんな事、親友にバレれば気持ち悪がられる事は目に見えている。こうして彼女に隠し買いに行く程度の理性はあった。しかし――
「――――きゃあ!」
「――この声!」
そして
「わ、ワルツさん……これ……」
「ち、違うのよーー!! 私はこんな本に全然興味は……」
「きょう…み……?」
「う……あ……
一応、趣味がバレる事態はなんとか回避できたワルツだったが人生で「死」を覚悟した瞬間五本指には入りそうなぐらい、生きた心地はしなかった――と後に語たったとかなんとか。
おまけSS『◆後書き』
初めまして、この度四周年SSを担当させていただきました樫木間黒です。
美少女(?)同士仲良く再現性東京にお出掛けという事で、初めての事に驚かされてばかりのリースリットさんと先人風を吹かせるワルツさんのお二人を生き生きと書けるように意識しました。ご期待に添えられれば幸いです。
薄い本についてはそうですね。提案がありましたからね。不幸な事故です(棒)。
固い友情はこの程度で揺らぎませんからね。きっときっと。
終始緊張しながら書いたので楽しんでいただければ私も嬉しいです。
それでは、四周年おめでとうございます&リースリットさんとそのご友人ワルツさんに幸あれ!