PandoraPartyProject

SS詳細

乙女と友情とソリッドブック

登場人物一覧

リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者

 本日はローレットからの依頼もないお休みという訳で――リースリット・エウリア・ファーレルは親友なかよしのワルツ・アストリアと共に再現性東京アデプト・トーキョーを訪れていた。

「希望ヶ浜学園の他にもこのような街並みがあるんですね……!」
「その通り! 希望ヶ浜辺りもほんの一部に過ぎないのよ」
 リーリスリットは、あまり再現性東京の方へ赴いた事がない。見る物全てが新鮮といった様子で、彼方此方へ目を奪われている。
 対して、ワルツは再現性東京の常連だ。庭場のように勝手知ったる街。浮き立つ気持ちはあるものの、一歩引いた態度でリースリットの案内役を果たそうとする。
「気持ちはわかるけど、ね。ここはまだまだ入口に過ぎないわ」
 ワルツに肩を叩かれ、リースリットは我に返った。先程までの姿を思い返し、気恥ずかしそうな笑みを浮かべる。向き直ると改まって、
「今日は、お願いしますね」
まっかせて」


 二人がいる場所は再現性東京の中でも『2010街』と呼ばれる――原型モデルとなった都市から比較的最新の状態を反映している地区だ。その中でも、ここは若者向けのブランドショップや遊び場が多く集まっている。
 リースリットが文化祭で訪れた事のある『希望ヶ浜』もこの地区に含まれる。元は異界の文化、とはいえ若者であるリースリットが受け入れやすく、隔絶ギャップを感じにくい場所から触れてもらおうという配慮だ。
「ワルツさん、あのカエルの卵が入ったような飲み物はなんでしょう?」
「あれ? アレはタピオカドリンクね。最近の流行りトレンドだって」
「たぴ…おか…?」
「タピオカってのは植物のあれをこうして固めたヤツで……ええい! 飲んだらわかるわよ!」
「……そうですね!」
 という訳で、手始めにタピオカドリンクへ挑戦する事に決めた二人。
 リースリットはミルクティー、ワルツはフルーツジュースのフレーバーを注文する。慣れた様子でストローからタピオカを吸うワルツに対し、リースリットは――苦戦していた。
「ぷはっ、これ、難しいですね……」
「思うに、リースは力の入れ方がなってないのよ。初めての太いストローにビックリしてない?
 力が足りないか、逆にストローを底にピッタリ付けたまま吸ってるか。覚えはあるわよね?」
「はっ、確かにその通りです!」
「こう……タピオカの少し上で吸ってみて、力が足りないってなったここぞ! って時に力を入れればいいのよ。やってみて」
「はいっ……!」
 ワルツに言われた通りにストローを調整し、ちぅと吸ってみる。何かを引っ張ろうとしているが力が足りない――この感覚、これが「ここぞ」というタイミングなのだろう。思い切って、力を込めると面白いくらいにすぽっと口内へタピオカが収まった。
 見た目から思っていたのとは違う、歯応えはあるのに容易く噛み砕けるほどに柔らかい。不思議な食感だ。一度ハマれば後は病みつきという訳で、ワルツが呼び掛けても返事をしない程度には夢中で吸い続けていた。



「あんなにハマるなんてね」
「うぅ……申し訳ありません。なんてはしたない所を……」
「いいのよ私も楽しかったし。それより――うん、やっぱ似合ってるわね!」

 場所を変えて、二人は服飾店ブティックに来ていた。
 リースリットに練達風の服装を色々着て欲しいというワルツの申し出によるものだが……選んでもらった服装は兎に角ズボンの丈が短い。ワルツの普段着に近い印象があるのは悪くないが、自分が着るのとは話が違う。

「嬉しいですけど……足元が落ち着かないような……!」
「えー、なんで? 普段から結構足見せてる方だと思うけど」
「足を布で囲んでいるかで違うんです……!
 それに、あの、今の時期だと私には寒くて……」
「んー、それなら仕方ないわね。また夏頃に着てもらうとして……」
「買うのは確定なんですか?!」
「逆に聞くけど……いらない?」
「……少し、気になります」
「じゃあ決定」
 結局、親友ワルツが勧めてくれた服装である事や好奇に抗えず頷いてしまう。しかし物静かな着せ替え人形でられるリーリスリットでもなく、試着室の中から店内を見渡し――ある洋服に目を留めた。
「ワルツさん! あれ、どうですか?」
「ん? いいけど――」

 という訳で、ワルツが着る事になったのは白を貴重にピンクのふりふりが付いたドレス風のワンピース。確かにワルツの普段着とは離れたスタイルだが――
(魔法少女みたいで悪くないわね)
 と、満足気。その上この衣装、左右非対称アシンメトリーで設計されており対になる衣装が存在する。
 そして、片割れを着ているのはリースリットだ。
「似合ってますよ、ワルツさん」
 ワルツが思いの外受け入れているのはちょっと想定外だが、お揃いの服装ができてご満悦。所謂「双子コーデ」というのも親友と着る衣装にぴったりだ。
「このまま出かけてみます?」
「いいけど、そろそろお昼でしょ? 折角の新品を汚すのも悪いわ」
「あっ……そうですね」
 偶然にも、このタイミングでリーリスリットの腹の虫が鳴った。
 バツの悪そうな顔でお腹を押さえる彼女と目が合う。お互いに可笑しくなって、つい笑ってしまった。



 気に入った服の会計を済ませ、ワルツが見繕った飲食店レストランへ足を進める二人。
 何事もなく雑談しながら話していた――はずだったが、ここでワルツの足が止まる。
「…………」
「どうしました?」
「い、いや――あのね、ちょっと野暮用!
 あそこ、少し歩けばお店あるから先寄ってて!!」
 それだけ告げて、突如ワルツは何処かへ走り出す。
 取り残されたリースリットは、言われた通り店内で待とうと思ったが初見の店に一人で入るには気が引けるし――何より、ワルツが何を気にしていたのか知りたいと思った。
(こっそり追いかけてみましょう)
 ワルツは矢鱈と周囲を気にしている様子だが、リースリットのいる真後ろへは目が届いていない。それだけ焦りが強いとも言える。
 それから大きめの看板――に囲まれたその狭間。ともすれば気づかずに通り過ぎてしまうようなビルの中へ入って行く。入口には看板があった。
 ――『TADIのあな』と。支店と書かれているのだから、大元は有名チェーン店なのだろう。
 後に続くように中へ入る。入って直ぐに見えたのは沢山の本だ。店名だけでは全く想像できなかったが、ここは書店なのだろう。
(欲しい本があれば、言ってさえくださればお付き合いしましたのに――)
 友がどんな本を好きか把握できる楽しみもある。何故隠すような真似をしたのか少し、不満に思いながらワルツを探しに辺りを見回す。
 この時、リースリットは違和感を覚えた。これらの本は彼女の知っている書物よりも遥かにのだ。しかも表紙に見覚えのある人物が描かれているような気がする。その中で、が描かれた表紙を見つけるのは時間の問題だった。

(これは――)

 そして、その本を手に取ってしまう。
 表紙の隅に書かれた「18」の文字にすら気づかずに――



 一方その頃、尾行けられている事に気づかずまんまと入店したワルツは――

(う、うひょーー!! リースが表紙の本がこんなにたくさん……!
 これはけしからん!! 親友の私が直々に回収及び検閲しないと……)

 新刊に夢中になっていた。
 実は彼女、リースリットには隠していたが百合好きのオタク。そしてこの世界では人気のある特異運命座標イレギュラーズ薄い本同人誌の題材にされるという宿命を背負っており――ワルツの親友リースリットも例外ではない。というか人気だ。実際に以前『リースリットにすりすりする本』なる本を買った。内容はとんだハズレ成年向け詐欺だったが。
 とは言えこんな事、親友にバレれば気持ち悪がられる事は目に見えている。こうして彼女に隠し買いに行く程度の理性はあった。しかし――詰めが甘い理性はあっても

「――――きゃあ!」
「――この声!」

 有り得ないはずリースリットの声。「まさか」とは思い慌てて声の元へ駆けつけるワルツ。
 そして予想通り最悪な事に、「既刊」の棚の前でへたり込むリースリット。その手には一冊の本。持ち主の顔面は半泣き且つ真っ赤――ここから導き出せる結論はただ一つ。

「わ、ワルツさん……これ……」
「ち、違うのよーー!! 私はこんな本に全然興味は……」
「きょう…み……?」
「う……あ……ぷええ~~~~墓穴掘ったーーーー!!」

 一応、趣味がバレる事態はなんとか回避できたワルツだったが人生で「死」を覚悟した瞬間五本指には入りそうなぐらい、生きた心地はしなかった――と後に語たったとかなんとか。

  • 乙女と友情とソリッドブック完了
  • NM名樫木間黒
  • 種別SS
  • 納品日2021年11月11日
  • ・リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984
    ※ おまけSS『◆後書き』付き

おまけSS『◆後書き』

 初めまして、この度四周年SSを担当させていただきました樫木間黒です。
 美少女(?)同士仲良く再現性東京にお出掛けという事で、初めての事に驚かされてばかりのリースリットさんと先人風を吹かせるワルツさんのお二人を生き生きと書けるように意識しました。ご期待に添えられれば幸いです。
 薄い本についてはそうですね。提案がありましたからね。不幸な事故です(棒)。
 固い友情はこの程度で揺らぎませんからね。きっときっと。

 終始緊張しながら書いたので楽しんでいただければ私も嬉しいです。
 それでは、四周年おめでとうございます&リースリットさんとそのご友人ワルツさんに幸あれ!

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