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秒速の女騎士、痛みに堕つ!? ~ンクルス、愛の献身編~
登場人物一覧
●親愛×聖女=くそやばい
「へ……?」
『秒速の女騎士』中野 麻衣(p3p007753)は一瞬、その音が自分から出た物だと気づけず反応が遅れた。
ゴキリ、と肉の中で骨が折れる鈍い音。考えが追い付く間もなく右足からジクジクと染み出すような痛みが押し寄せ、あまりの辛さに目を見開く。
「あ、ぁ、うそ……わ、私の、ぁ…ひっ、い゛ぁあ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!」
「よかったぁ。痛くなかったらどうしようって、ちょっと心配しちゃったよ」
断末魔のような麻衣の悲鳴を耳にして『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)はのほほんとした笑顔のまま、折れた麻衣の足をベッドの上に乗せた。拘束された残りの四肢がガチガチと枷を鳴らして暴れ、赤い痕を麻衣の肌に残していく。
(どうして、こんな事になってるっすか……? 痛い、痛いぃっ……)
骨折の痛みと大切な友人からの暴力に状況の整理がつかない。ひぃひぃとベッドの上で痛みに喘ぐ麻衣へ覆い被さるように迫ったンクルスは、コツンと麻衣の額と自らの額を重ねてみた。
「ぃひゃい!」
「んー。お熱が出てるね。麻衣さんは旅人だけど、人間種みたいな見た目だし……怪我したら発熱する性質は同じなのかな?」
その行為には優しさがあった。少なくとも嫌われて傷つけられた訳ではないと悟った麻衣は、涙を零しながらンクルスの赤い瞳をじっと見つめる。
「ンクルスさん、どうしてっすかぁ……」
「ビックリした?」
「驚いたというよりも――ぃ゛っあぁあああ!?」
言葉を紡ぎ終えるよりも先に、ギチギチと胸を強く鷲掴まれて悲鳴があがる。
「だって。麻衣さん最近、元気なさそうだったから」
皆の前でニコニコしながら、敬語でひそかに距離を置いて。背伸びして一緒に買ったお服も棚の奥にしまい込み、襤褸を纏って引きこもり。
世間は麻衣の心の変化になかなか気づいてくれないけれど、ンクルスは彼女の心の機敏を感じ取り、手を差し伸べようと思ったのだ。だから――
「麻衣さんが気持ちよくなるために、いっぱい痛いのをプレゼントするね!」
「いやいやいや、ちょっと待って欲しいっす!? どうして私が痛いのを気持ちよく思うって……」
「境界図書館でね、友達を励ましたいって境界案内人さん達に相談したんだ。そうしたらね?」
『麻衣? 嗚呼、あの
「って、ロベリアさんが」
「どういう見立てっすかーーーー!?」
麻衣が混乱するのも無理はない。彼女からしてみれば、ロベリア=カーネイジは『ライブノベルの仕事を斡旋してもらった境界案内人』という認識でしかないのだ。
本の収蔵のために異世界であらゆる責め苦を体験させられ、仲間の女騎士達と共に快楽堕ちさせられた記憶は記憶操作で封じられている。
依頼の後に温泉で癒された事も相まって、その時の事は「女騎士仲間で頑張った後に、サッパリしていい気分で帰ったっす!」と"楽しい思い出枠"にカテゴライズされている始末。
当人ですら気づいていない性癖を見抜かれたとなれば、不審がるのも当然である。
「この枷もね、ロベリアさんがオススメしてくれた道具なんだよ。『ご自宅のベッドでも簡単取り付け! おまけに暴れるほど手首を傷つけて最高です☆』っていう売り文句で!
ちゃんと麻衣さんのお家のベッドにも取り付けられたし、宣伝に偽りなしだよね♪」
「あの境界案内人、余計な事しかしないっすね!?」
「……余計?」
ピタリ、とンクルスの動きが止まる。不安げな彼女の表情は、まるで雨の中ダンボールに捨てられた子犬だ。大切な友人のしゅーんとした姿が麻衣の心に突き刺さる。
「余計な事だったかな。もしかして、気持ちよくな――」
「気持ちいいっす! 意識とびそうになるぐらい、さっきの骨折も気持ちよかったっす!!」
「本当に? よかったー♪」
(あああああぁ! ヤバいっすよぉ!!)
あんな姿を見せつけられたら、誰だって否定せざるを得ない。今更くつがえす事も出来ず、麻衣はまず、バクバク高鳴る心臓を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。
……できるだろうか、自分に。与えられる痛みへ従順に、気持ちよくなる様に――
手を離されてもジクジクと痛む胸にもどかしさを感じ、小さく身じろぐ。確かにこの切なさは、触装と戯れてた後と似ているかもしれない。
「じゃあ今度はこっち! 左足にするね」
「ひっ!? そんな事されたら歩けなくなっちゃうっすよぉ!」
「心配しなくても大丈夫だよ。ほら」
ゴギンッ!!
「ひぃぎゃうぅううううーーー!?」
「今度はね、折らずに脱臼させてみたんだ。麻衣さん、骨折とどっちが気持ちいい?」
「あ……ぁへ……」
だらしなく口を開けたまま涎をこぼして喘ぐ麻衣は満身創痍だったが、ンクルスは無邪気な笑顔で手を叩く。
そう、ここは麻衣の自宅で寝室には二人きり。止める者は誰もおらず、唯一あるのはナチュラルボーン邪悪の境界案内人が残した余計すぎる助言の数々。
「そっか、言葉にできないくらい気持ちよかったんだね!」
「~~~っ!!」
「じゃあ今度は……」
うーんと、と持ってきた荷物の中から分厚い教典のような黒革の本を取り出し、パラパラと捲って並ぶ文字とにらめっこをするンクルス。
『せっかくだから、いろんな方向で苦しめてあげたら?』と彼女がロベリアから受け取ったのは、秘蔵のSM教典だ。文字を指でなぞりつつ、追った通りの文面を声に出してみる。
「『痛くしてあげている時の"痛い"や"止めて"という言葉は、気持ちよくしてあげられている証拠です。本当に止めて欲しい時のためのストップワードを決めておきましょう』……すとっぷわーど??」
(そ、それさえ決めて貰えたら、まだ救いが――)
「ロベリアさんからのアドバイスも添えてある。『ただし麻衣さんの場合は必要ないから、難しい事を考えなくていいわよ』だって!
よかったぁ、ちょっと複雑になってきそうだもんね♪」
(鬼っすかーーー!!)
「あ、これなら私も得意かも」
「……ふぇ?」
頭の上にピコーンと豆電球を浮かべたンクルスは、さっそく準備に取り掛かった。
まずは鎖の長さを調節し、痛みの連続で呆けた麻衣の上体をベッドの上でゆっくりと起こす。ふにゃっと豊満なンクルスの胸が麻衣の背中にあたり、ひっつかれたのだと麻衣はそこでようやく気が付いた。
抱きしめられれば柔らかくて、ほんの少し温かい。ンクルスの責め苦は時折、こうして優しさをのぞかせる。しかし癒された気分になって身を任せると、抱きしめていた手が徐々に麻衣の身体をお腹から胸、鎖骨、首へと這って――最後にぐるんと首へ腕をまわされた。
「へ? ぇ、ぐぎぇ!?」
「こうやって腕で首を絞めるのって、プロレスだとよくやるから。麻衣さん、こういうのも気持ちいい?」
「ぁがががが! ギブ!ギブギブっすぅううぅ!!」
最初はポスポスとベッドを叩いてギブアップを示す麻衣だったが、プロレス慣れしたンクルスには人間の本当の限界が感覚で分かるのだ。
この程度では人は死なない。ましてや頑丈な特異運命座標なら猶更だ。もっと苦しめられるとばかりにきゅうきゅう締め上げ続けて、麻衣の顔が赤くなるのをじっと待つ。
「うぅ……ぁ…へぁ……はぁっ…」
酸欠で脳がまわらず、とろんとバターの様にとろけだす思考――ンクルスの思惑通り、それは麻衣にとって、ある種の快感だった。
首絞めから解放された後に、空気を胸いっぱいに吸い込む刹那。その時の気持ちよさはひとりで得難いものだ。自分の首を絞めたところで、心の奥底に眠る生存本能がどうしても加減をしてしまう。
『こんにちは! 今日はね、私から麻衣さんに、とっておきのプレゼントを用意したんだよ』
小一時間ほど前、麻衣の家の玄関先でそう話したンクルスをぼんやりと思い出しながら、麻衣は幸福感を噛みしめた。
(そっかぁ……。この苦しみも、ンクルスさんだから私にプレゼントできる……優しさ、なんすね……)
脳に酸素が回らなければ正常な判断は遠のくもの。麻衣は自分の気づきを一ミリも疑わず、首元にかけられたンクルスの腕に自分の両手をそっと添えた。
「もっと……もっと欲しいっすぅ……ンクルスさんの、プレゼントぉ……♡」
「それじゃあ、神経がいっぱい集まってるっていうし、今度は手の指を一本ずついくね! まずは中指っ」
ベキィ!!
「ひょああぁあああ゛ーー♡」
「次は、小指をゆーっくり……」
パキ……ペキ、ペキペキペキ……!
「い゛、っあ゛、ぁうぁああぁらめっ、らめっすうぅうう♡」
「薬指は、横にひといきにポキッと!」
ポキン!!
「ひにゃ゛ぁあああああーーーーーーッツ♡♡」
「あ、でもちょっとずつだと麻衣さんも飽きてきちゃうかな?」
「へ、ぁ……?」
「教典にも『緩急をつけて責めるのが大事』って書いてあったんだよね♪ ここは豪快に――」
「あっ、あっ、待っ――」
ボキッ!! ゴリゴリゴリゴリィッ!!!
「ぁぎゃあぁああぁあーーーーーー!!!♡♡♡」
ビクビクッ! と麻衣の身体が電撃を受けたようにベッドの上で大きく痙攣し、しんなりと力を失いシーツに沈む。
そんな彼女の折れた左腕を持ったまま、攻め手のンクルスはというと――至って邪気のない笑顔!
「今は治りやすいように関節を中心に折ってるけど、再生あるともっと痛いの堪能できるよ?
骨が粉々になるように中で複雑骨折させたりとか……あれ? 麻衣さん、麻衣さーん」
ようやく彼女が気づいた頃には、麻衣は白目を剥いたまま意識をすっかり手放していた。
その後、ンクルスは彼女が完調するまで甲斐甲斐しく看病し、すっかり気をよくした麻衣は「結果的には悪くなかった気がするっスね」なんて幸せな気分に浸るのだった。
――めでたし、めでたし。うふふふっ!
By.ロベリア=カーネイジ