PandoraPartyProject

SS詳細

勝手な期待と個人の自由

登場人物一覧

相川 操(p3p008880)
助っ人部員

●gift
 —―才能。
 それは誰しも一度は憧れ、そして嫉妬するものでもある。
 その程度なら分かり易い。なぜならそこにあるのは「羨望」だから。
 本当に厄介なもの。それは他人様からの感情嫉妬ではなく、持つ者であるが故の本人の無関心無責任なのかもしれない
 
 まずはこの話における主役スター—―相川操の話をすべきだろう。
 彼女は一言で言うと「運動の天才」だった。
 テニスやバレーボールといったメジャーな球技から、剣道や柔道といった武道、果ては水球やハンドボールなどのマイナーなスポーツでも、大体一度見たらルールを覚えることができる。
 説明されたことに対する理解も一発。要領もよく上達も早い。
 多くの女子運動部が、彼女の存在を欲した。
 操がいれば大会の優勝が間違いないという部活から、人数がどうしても足りないから数合わせでも良いから出てほしいという部活まで、それはもう、様々な目的で。
 しかし、そんな天才なのに—―いや、天才であるが故なのか、操はあるものが決定的に欠けていた。
「え……相川さん、どういうこと?」
「どういうことって、言葉の通りだよ。明日からあたし来ないから」
「来ないから、じゃなくて……なんで」
「うーん……なんでって言われてもなぁ。強いて言うなら、飽きたからって感じ?」
 もちろん、操自身には悪気はないのだ。
 興味の範疇で、面白そうだったから手を出しただけに過ぎない。
 自分が何をしようが、はっきり言って自分の自由。だから、やめるのも別に自由。
「……相川さんにはさ、部員とかコーチとか……他の人に迷惑かかるって考え、ないの?」
「そうだねぇ。あたしを当てにするのも、その人が勝手にやってることって感じだし?」

 これは、そんな才能を持つ者だった人に対する関心がない少女の、とある夏の日のお話。

●助っ人のお願い
「ん? 何? そんな大真面目な顔して。」
 どこにでもある中学校の、とある3年生の教室。
 窓際の後ろから2番目の席で、帰り支度をしていた操はクラスメイトの男子に声をかけられる。
 開いている窓からは7月の生ぬるいそよ風が吹き、ボーイッシュな彼女のショートヘアを優しく揺らす。
 声のする方を見ると、五厘に剃られた綺麗な頭の野球部の男子が申し訳なさそうに多少口ごもっている。
「……その……お前さ、スポーツとか、得意だろ?」
「あぁ、そういうこと」
 瞬時に操は、相手が何を言わんとしているのかを理解する。
 目の前の彼が言わんとしていることはただ一つ。「助っ人として参加してほしい」ということだ。
 数多の運動部に所属してきた彼女は、この空気には慣れっこである。
 必要とされている、いてもらわないと困るんだけど、どこかよそよそしいその態度。
 だからと言って、彼女がそれを気に留めたことは一度もないわけなのだが。
「ただ、一つ気になるんだけどさ。……男子の野球チームに入って試合をするってことかな?」
 女子でソフトボールの大会に出てくれ、は聞いたことがあるが、男子の野球部の助っ人という話は聞いたことがない。
 操のそれは普通の反応だろう。
「そうなんだよ。そうなんだけどさ、どうしても、やりたい試合なんだよ。」
「ふーん。なに? そんなに大事な試合なんだ?」
「あぁ。実は……」
 操は聞こえているが深くは聞いていない。
 ひとまず、今の状況はこうだ。
 彼が所属している男子の草野球チームが、別の強豪チームとの練習試合をすることになり、それが3日後に控えている。
 しかし、彼の所属する草野球チームは弱小チームでタダでさえ人数もギリギリという状況なのだが、最悪なことにチーム内唯一のピッチャーがこのタイミングで体調を崩してしまったのだ。
 ピッチャー本人は這ってでも試合に来ると言っているのだが、発熱・咳などの症状を鑑みたときに他の選手たちに移してしまうからということで監督に止められている。
 もちろん、この練習試合そのものをキャンセルするという話も上がったのだが、本番の大会前に一戦でも多く場数をこなしたいため、キャンセルだけは避けたかった。
 ということで、今目の前にいる男子生徒が何とか代わりを見つけて来るから、ということで声をかけているのが操というわけだ。
「それで、あたしに男子のピッチャーとして、試合に出てほしいってわけね。」
「すげー、こう、ずるいことしてるし相川にも失礼なこと言ってるってるのは分かってんだ。分かってんだけど」
「いいよ」
「……え?」
 想定外の返事が返ってきたことにうろたえる男子と、すました顔で快諾する女子。
 傍から見ればかなり異様な光景に見えるだろう。
「なに、そのびっくりした顔は? 手伝ってほしいから声かけてきてるんでしょ」
「でも……いいのか?」
「別にいいよ。それに……」
 少しにやりと笑うと、操は彼に向き直る。
「それに、男子の試合に混ざるのも、なかなかに面白そうだしね。だから、いいよ」
 よっこらしょ、というと、彼女は通学かばんを肩にかける。
「とりあえずいったん帰ってから、川沿いのグラウンドに行けばいいかな?」
「あぁ!! よろしく頼む!!」
 にこやかな笑顔は、頼んだ彼からはとても頼もしく見えた。

●善戦、されど……
 操は、たった3日しかない練習でも期待通り、いや、それ以上のスピードでめきめきと上達した。
 ピッチャーは初めてということだが、ストレートは勿論のことカーブやスライダーといった変化球もこの3日間でマスターしていた。
 そして迎えた試合当日。コンディションや他のメンバーのモチベーションも上々。
 いざマウンドへ向かおうとしたその時、3日前に操に声を掛けた男子が「ちょっといいか?」と小さく手招きする。
 ベンチの陰で、彼は操に耳打ちする。
「いいか、もう一回大事なことだけど、あくまで今日、お前は『男子』として試合に参加してるんだからな」
「あーはいはい。わかってまーすよ。まぁこういうのってバレなきゃ良いとは思うんだけどね」
 まぁ気をつけとくよ、とグローブを装着し、改めてマウンドに向かった。

 試合そのものはボロボロに負けた—―と思われたのだが、チームメンバーの勝ちにこだわる打線と守備、そして操から繰り出される多種多様な球種による好投もあり、強豪チーム相手への食らいつきを見せていた。
 そして9回裏、相手チームが一点リードで迎えた最終回。
 相手のピッチャーは、層の厚い選手の中でもエース級で、全国各地の名門校からスカウトが来るほどの選手だ。
 しかし、想定以上に球数を投げたこと、そして弱小と侮っていたチームから追い上げられていることに対する焦りも相まってか、8回あたりから投げる球にもミスが増えてきていた。
 2アウトから2者連続フォアボール。ランナー1、2塁。
 打ち取れば勝ち、打たれれば負け。相手チームの監督はタイムを要求。
 30秒の短い時間、相手チームのベンチからは暑い会話が漏れ聞こえてくる。
「……交代するか?」
「いいえ!! 投げさせてください!! お願いします!!」
「……わかった。確実に仕留めてこい」
「はい!」

 30秒が経過し、強豪チームの投手エース弱小チームの助っ人ルーキーが相まみえる。
 一つ深呼吸の後、大きく振りかぶる。
 相手にしてみれば落ち着いて仕留めるための一球を投げたつもりなのだろうが、あと一球という焦りからコントロールがわずかに乱れる。
 操はそれを見逃さなかった。
 「ここで、打ち返せば……ッ!!」
 カンッ!!
 完璧なタイミング。打ち返しの小気味いい音が場内に響く。
 そしてピッチャー返しとなった球はそのまま—―
 
 相手投手の肘に直撃した。
 
 ブツッ、という不釣り合いな音が小さく聞こえる。
 苦痛に顔を歪め倒れこむ彼を尻目に、操は一塁へ悠々と走っていくが、遊撃手が素早くカバーし落ちたボールを拾って一塁へ投げる。
「……ア、アウト!! 試合終了!!」
「オイ!! 誰か……!! 誰か救急車!!」
 呆然とする審判に、慌てふためく場内。
 混乱を他所に、操は他を手伝うでもなく、何食わぬ顔でベンチに戻ってくる。
 相手選手に、声も掛けずに。
「なぁ、相川、お前、行かなくていいのかよ」
 いつかの男子が、血相を変えてこちらを見ているが、彼女はそれを気にすることはない。
「あたしがあの子の所に行って、何か状況って変わるの?」
「変わるとか変わらないとかじゃねーだろ!! 普通さ、謝りに行くだろ?!」
「えー、でも不慮の事故じゃん。しょうがないよ。」
 一人だけ場違いな空気感の操に、彼は何も言うことができなかった。

 —―週明けの月曜日、学校中このことで大騒ぎだった。
 相手チームの投手は、大怪我でもう野球を続けられないこと。
 男子のフリをしていた操だったが、球場でトイレに行く際、女子トイレに入ることを目撃されていたこと。
 もちろん、正規のチームメンバーでなかったこと。
 そして、—―怪我を負わせてしまった選手に謝罪の一言もなく、会場を後にしていたことが、この事件の批難に拍車をかけているようだった。
 このことを気にしていたのはその試合に直接かかわっていた当事者だけではない。
 学校だけではなく近所でもこのことは噂になっていたので、操の両親もこのことは嫌でも耳に挟むことになる。
 最も、その当の本人の操は、全く気にも留めていないのだが。

 両親の勧めもあり、進学先は少し遠めの高校に変更した操だったが、この一件は高校でも彼女に付きまとうことになる。
「ねぇ……相川さんって、『あの』相川さん?」
「らしいよ。ありえないよね。怪我させてたら普通謝りに行くよねぇ」
「運動部の先輩方はなんかめちゃくちゃ有難がってるけどさー、人としてアレだよね」
「あれかな? サイコパス、ってやつ」
「うわー!! かもしれないねぇ」
「どっちにしろ友達にはなりたくないよねー」
 そんな陰口が聞こえてくる。しかし、操はそれを一切気にかけたことはない。

「だって、投げるって選んだのは自分でしょ? あたしがとやかく言えることでもないじゃん」
 しょうがないよ、事故だもの。
 言わせたい人には言わせていればいい。
 謝ったところで、どうしようもないんだから。

 ポロリとあくびを一つ零し、今日も彼女は助っ人として運動部に顔を出す。
 勝手に期待されている、その場限りの助っ人として。

  • 勝手な期待と個人の自由完了
  • NM名水野弥生
  • 種別SS
  • 納品日2021年11月02日
  • ・相川 操(p3p008880
    ※ おまけSS『とある医者のメモ書き』付き

おまけSS『とある医者のメモ書き』

氏名:○○○○くん

【状況】 
 XXXX年、7月17日16時頃
 野球の試合で怪我をしたということで緊急搬送された。
 レントゲンの結果、肘関節内側側副靭帯が断裂していることが判明した。
 日常生活は支障なく送れるだろうが、今後も野球ができるかと言われると、絶望的な状況だろう。
 本人としては「自分が選んだこと」と言ってはいるが、その顔はとても暗い。
 今まで打ち込んでいたものが奪われた後だ。当然の反応だろう。
 今後は彼に鬱症状、当時を思い出してのパニック発作などが起こらないよう、気を付けて様子を見たいと思う。
 

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