PandoraPartyProject

SS詳細

急募:「NO」を言える勇気

登場人物一覧

カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)
グレイガーデン
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号

 B.R.C(ブラック・レイン・カンパニー)。
 其れはR.O.O.内で崎守ナイトがうっかり切り盛りすることになってしまった会社の名前だ。
 社長になったのは成り行きだ。誘われて座った椅子が社長椅子だった、ただ其れだけの事。しかし経営は案外うまくいっており、成り行きで社員も増えている。
 カティアはそんなB.R.Cの社員に成り行きでなってしまった側だ。何せ彼は灰色で、白黒つけられない。NOと言える自分になりたいと思っていたら、社員になってくれといわれてYESと答えていた。
 どうして己はNOと言えないんだろう。今日もそんな悩みを溜息に代えていた、そんな時、社長が言った。

 ――現実で会わないか。

 と。
 昨今ではログアウト不可という恐ろしい現象が起こっているという。幸い、カティアは無難にログアウト出来る身だ。そして会おうという事は、社長もなのだろう。
 そんなご時世だ。社員の身に何かあったら、俺が助けになりたい。
 そう言う社長はなんだか妙に頼もしくて。だから思わずカティアはYESと言ってしまったのだ。
 言ってしまったのだった。



「……此処、だよね」
 呼び出された先は練達の一角、再現性歌舞伎町。夢の弾けた灰色の街で、あちこちに乱闘や混乱の跡が残っている。
 何処かの建設会社が物理的復興に乗り出したとも言うが、完全にこの歌舞伎町が夢を取り戻すには時間がかかるだろう。一度解けた魔法は、簡単にはかけ直せない。幻術で再びきらめきを取り戻したところで、何人が戻って来るか――とと、いけない。話が脱線してしまった。
 カティアは示された場所を目指して、歌舞伎町に踏み込む。こんな所にいるなんて、社長であるナイトの“中の人”とは一体どんな人なのだろう?
 例えば見た目通りの人かも知れない。筋肉質で……

 。〇(ほわんほわんほわん……)

『よう! 俺がナイトの中の人だぜ、宜しく!』
『宜しくお願いします』
『お前細っこいな! そんなんじゃ有事の際に困るぞ? ほら、今から筋トレだ! 其処の鉄棒で懸垂200回からだな!』
『え、えぇ!?』
『つべこべいわず筋トレだ! 筋肉は裏切らないぞぅ!』

 。〇(ほわんほわんほわん……)

「い、いやいやいや」
 ぶるぶるとカティアは頭を振った。確かにブッ飛んだ人ではあるけれども、筋肉が好きとか一言も言ってないじゃないか。寧ろあの人は技にダンスを使うくらいだから、ダンスが好きなんじゃないかな……

 。〇(ほわんほわんほわん……)

『ア~ラコンニチハ。貴方がグレイガーデン?』
『え!? あなたは……!?』
『アタシがナイトの中の人よ、宜しくね。じゃ、アタシと踊らない?』
『えぇ!?』
『出会ったからには情熱のダンスよ! 出会えた喜びをステップに込めるの! パッション! さあ貴方も一緒に!』
『そ、そんな! ダンスはゲームの中だけで充分だ!』

 。〇(ほわんほわんほわん……)

「い、いやいやいや」
 またもカティアは頭を振り、待ち合わせ場所であるというホストクラブの傍に着く。
 確かに社長はダンスをするけど、流石にオネエとは限らないだろ! 限らない……よね? だよね?
 続々と押し寄せて来る嫌な予感を振り払うように、カティアは周囲を見回した。
 そういえば――幻から解き放たれて廃墟になった店が多いなか、この店だけは妙に煌めいて見えた。幻術に頼らぬ経営をしていたのだろうか?
 立て看板は壊されているが、店頭に煌めくネオンが示す名は「シャーマナイト」。
「シャーマナイト、かぁ」
「そうだよ。兄さん、何か用か?」
「え?」
 ぼんやりと呟いたカティアにかかる声がある。こつ、こつ、と靴音がして、人が集まって来る。なんだかガラの悪い人たちだ。スーツを着ているという事は、此処の従業員だった人たちだろうか。
「あ、いえ、僕は待ち合わせを――」
 慌てて釈明する。怪しいものじゃないと。
 其れで信じてくれたら世の中荒れ果ててないんだよなぁ。すわ、乱闘の再開か密偵か、とガラの悪い男たちが値踏みするようにカティアを見る。
 値踏みするような視線には慣れているが、気持ちのいいものではない。
 と、其の時。
「お客様に失敬をしてはいけません。……ようこそおいで下さいました」
「!」
 きちり、と文字を並べるかのような整然とした声に思わず背筋が伸びた。
 ホスト達が道を開ける。其の真ん中を歩いてきたのは――

「待ち合わせは時刻通り。素晴らしい。ホストクラブ『シャーマナイト』店長、鵜来巣 冥夜。またの名を――崎守ナイトと申します」

 オールバックの黒髪に、高そうな眼鏡。高級な生地でしつらえられたろう黒スーツに、ピカピカの革靴。
「え」
 嘘だろ。
「えええ」

「えええええーーー!!!」

 こんな薄い本のモブリーダーにありそうなデザインの人が“あの”ナイト社長だなんて!!



 ――『シャーマナイト』店内。
 青を基調とした、きっと派手だっただろう空間は、今は荒れている。冥夜が言うにはこの店は(矢張り)幻術に頼らない経営を行っていたらしいが、先日ちょっと“揉め事”があったのだとか。
「大変なんですね」
「労いの言葉、ありがとうございます」
 ガラの悪い男――従業員の一人が二人に出したのはグラスに入った麦茶。アルコールは夜になってから、という事だろうか? カティアには判らない。
「あの……」
 伺うように冥夜に顔を向けたカティア。
「なんでしょう」
「本当に……崎守ナイト社長、なんですか?」
 だって、あんまりにも印象が違いすぎるから。寧ろさっきまで想像していた中の人像の方が近いんじゃないかってくらい、「崎守ナイト」と「鵜来巣冥夜」は違う世界に生きる人のように見えたから。
「……疑われるのも無理はないですね。ですが確かに崎守ナイトは私の一側面です。あのように楽しんで生きてみるのも、楽しいものです。証拠はあります」
「証拠、ですか?」
「お見せしましょう」
 言うと、冥夜は立ち上がる。テーブルが扇のように並ぶ中央に立つと、カツ、と革靴を一度鳴らした。――そして、ステップを踏み始める。
「……これは……!」
 カティアは知っていた。このステップを、この踊り方を知っている。
 “社長舞踏戦術”。ナイトが幾度となく研究を重ねていたあの下らな……じゃなかった、すごい踊りだ。
「さあ、カティア様も」
「え?」
「覚えておいででしょう、“社員舞踏戦術”」
 ステップを踏みながら言う冥夜。
 ――踊りません、と言えたらどんなに良かっただろう。
 しかしカティアはまたしても“きっと疑われているのだ”と、NOを言えなかったのである。渋々ながら立ち上がり、冥夜の傍へ行くとステップを踏み始める。
「ああ、そのステップ。確かにグレイガーデンのものですね」
「あ、ありがとうございます」

 ……これ、いつ終わるんだろう。

 二人でステップを踏みながら、カティアは思い返していた。
 あれ……? 僕が想像した中の人像、案外間違ってないところがあったりする? でも……外見は全く違えども、この人は間違いなくナイト社長だ。
 この後何をやらされるのだろうという不安と共に、カティアはそんな悲しい確信を抱いてしまったのだった。
 リアルまで握られたカティアの明日はどっちだ!

  • 急募:「NO」を言える勇気完了
  • GM名奇古譚
  • 種別SS
  • 納品日2021年10月30日
  • ・カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196
    ・鵜来巣 冥夜(p3p008218

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