PandoraPartyProject

SS詳細

赤散る海へ

登場人物一覧

エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
ルシ(p3p004934)
穹の天使

●あーいえば
 海洋という国は潮風が強い。海を名に冠する国であるのだから至って当然と言えばそうなのだろうけれど、覚悟はしていてもやはり潮風の香りには目を細めざるを得ない。青い海と果てなく広がる蒼穹、白い雲の絶景に赤を散らせば思わず歓声も漏れるというもの。海洋の港町近くは、今は絶好のお出かけ日和兼観光スポットなのである。
 そんな海洋を訪れたのがエレンシアとルシの二人である。一見すればデートのようにも見えるのだが、聞こえてくる声は友人の方が未だふさわしいか。そんな感じの賑やかかつあたたかい雰囲気なのである。
 興味本位と言うべきか、こんなお出かけの始まりも売り言葉に買い言葉だった。

「ふむ、海洋……」
 ルシの恩人たる海月の魔女はその名の通りディープシー。となれば海を愛するのも道理というもので。
 海洋近くのお出かけスポットに連れようとパンフレットを見ていたところを、エレンシアに見つかったのだ。
「なんだ、出かけるのか?」
「あなたには関係ないだろう」
「おいおい、そいつぁーちょっと冷たいんじゃないか?」
「じゃあ逆に、あなたは誰かを連れて出掛けよう等とは思うのかな? 私は勿論思うけれど、あなたのような荒々しい女性……いや、ちんちくりんは考えたこともなさそうだ」
「だーれーがーちんちくりんだ!! あたしくらい誰かと出掛けようって思ったことくらいあるぜ。姉貴とか」
「ほう、お姉さん?」
「おう。普段から迷惑かけてるから、何かこう……アネコーコー? できればいいなって」
「ふうん。そこまで考えられるなんて驚きでした」
「アンタ、何かとあたしを小馬鹿にするよな! ……っと、そこなんかいいんじゃないか? スイーツだって!」
 悠々と足を組みパンフレットを見ていたルシの手からパンフレットをもぎとったエレンシア。向かいの席に腰を下ろし、パンフレットをテーブルに広げて指し示す。
「スイーツ? エレンシアさんが食べたいだけでは?」
 瞬いたルシ。意地悪い笑みを浮かべて笑えば、エレンシアは慌てて首を横に振って。
「ち、ちげーよぅ! オンナノコってのはなぁ、甘いものがだいたい好きなんだぜ!」
「ふむ。ではそちらを視察してみるとするかな」
 すくっと立ち上がったルシは、服についた埃を払って進もうとした。が。
「おいおい、『オンナノコ』って言ったのが聞こえてねえのか? これだから単細胞は!」
「……ああ、聞いていたさ。あと単細胞ではない」
「そこであたしに名案があるんだが、聞いていくか?」

 今思い返せば少し頭に血が上っていたような、なんてルシは考えて小さくため息を。考え直しても今更どうしようもないから、諦めて傍らの少女の気が済むまで付き合ってやることにする。
「えーっと、どこだ……」
「早く貸して。あなたに任せていては日が暮れそうだからね」
「なんだとぉ!?」
「ほら、早く」
「くそぉ……」
「……なんだ、合ってるじゃないか。このまま真っ直ぐだ」
「お、そうか。じゃあいこーぜ!」
 探索マップと名付けられた、いくつかの観光スポットが取り上げられているであろうチラシを握ってエレンシアは先を行く。
「……あんまり先に行くと迷子になるけど」
 小さくため息を吐きながらも笑って、ルシはその背を追いかけた。

●こーいってたけど
「おお……!」
「なかなか絶景のようだ」
 エレンシアは歓声をあげ、ルシは満足げに頷いた。
 紅葉並木、左右対称にならんだ木々のアーチ。二人と同じように観光目的で来たのであろう人々も、二人と同じようにあんぐり口を開けていたりきゃあきゃあはしゃいでいたり。はらはらと散る紅葉を拾ってみれば、赤々とした葉はしっかり葉脈を広げていて。
「そういえば、なんで海洋なんだ? 幻想とか、深緑とか。そっちのほうがもっと落ち着いて見られそうだし……ちょっと風が寒い気がするぞ」
「まぁ、秋だからね。……私がつれて来たい人はディープシーなんだよ。だからきっと、海を見ながらの方が喜んでもらえるだろう?」
 ざぁざぁと押しては返す波の音。潮風が赤い葉を、金糸を攫えば、ルシはつられる様に海が見える方へと足を動かして。
「彼女が私を救ってくれたんだ。だから、彼女が喜んでくれるならなんでもしたい……あなたも似たようなものじゃないのかな?」
「……まぁな!」
 ルシが行くのならば。エレンシアもその隣に立ち、青い青い海を眺める。
「あたしが何やっても喜んでくれるとは思うけど、でもそんなんじゃなくて、もっとこう……」
「心から?」
「そう、心から! あっと言わせてやりたいよな……」
 ぷうぷう、なんて頬を膨らませたエレンシア。
 ルシは膨らんだ頬を指で突いて、笑って。
「おい、何するんだよ!」
「膨らんだ餅があったからつい。店が閉まる前に下見を済ませようと思うんだけど」
「っとそうだった、メインはそこだな。よし、ルシ、急ぐぞ!」

●甘めのひととき
「で、ここがお店か?」
「うん、そうだね。結構空いてるみたいだ」
 店内はあたたかみある木造建築。今はまだ冬ではないからと、レンガ造りの暖炉は灰だけを残している。
「おすすめメニューってのにしとくか?」
「ああ、そうしよう。飲み物はココアでいいかな」
「おう!」
 ルシが注文をすれば、程なくして注文したものが届いて。
「わ、パンケーキなんだな」
「こっちはワッフルだ。メープルの匂いがする」
「おいしそうだ……いただきます!」
「いただきます」
 エレンシアに届いたおすすめメニューは三層のパンケーキは薄めの層だ。ホイップクリームと様々なジャムをつけて楽しむ一品。ココアをすこしたらせば、また別の味わいに。
 ルシの元に届いたおすすめメニューはあたたかいクロワッサン生地のワッフルだ。となりにはキャラメルの混じったアイスクリーム。飴細工の殻を破って食べる食感がアクセントの一品。
「ワッフルおいしそうだ。一口くれよ」
「……嫌だが」
「ええ、じゃああたしのひとくちあげるからさ。ほら、あーん!」
「……はぁ」
 やれやれと肩を竦めて。あーんに応じれば、エレンシアも大きく口を開けてあーんを待つ。
「雛鳥みたいだな。親から餌を与えられる前の」
「それ、褒められてんのか? でもこれすげーおいしい! ありがとな、ルシ!」
「……別に」

 すっかり日も暮れて、夜が満ちて往く。
「今日はありがとな。これでなんとかなりそうだ!」
「こちらこそ。悪くなかったよ」
「ちぇ、素直じゃねーの! でもまあ、また日程が合えば出掛けような」
「別にいいけどね。それじゃ、帰るよ」
「あ、ちょ、待てってば!」
 ちぐはぐな二人のデートもどき。これにて一件落着。

  • 赤散る海へ完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2021年10月17日
  • ・エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881
    ・ルシ(p3p004934

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