PandoraPartyProject

SS詳細

残滓であれ、なんであれ。

登場人物一覧

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
エーミール・アーベントロートの関係者
→ イラスト
エーミール・アーベントロート(p3p009344)
夕焼けに立つヒト

 とある日、ランドウェラは境界図書館で依頼を受けて依頼先へと出向いたのだが、指定の時間よりも早く到着したために暇になっていた。 

「あれ、早く着きすぎたかな?」

 誰もいない現場。まだ開始までに時間があるようなので、ちょっとだけ周囲の散策をしてみることに。
 今日の依頼は討伐依頼。大きな熊が道を塞いでいるのでそれを討伐して欲しい、という簡単な依頼。なので位置取りやらなんやらを考えながら周囲を歩いて回っていた。

 そこへふらふらとうろつく金髪の男を見つけた。彼の姿を見たランドウェラは最初、誰だったかなと記憶を手繰り寄せ、つい最近同じ依頼に出向いたこと――なんか、わーいわーい言いながら彼や他の仲間と追いかけっこしたことがあったなぁ、と思い出す。

「あれは……エーミーrあっコケた」

 あれはエーミールじゃないか? と口にしようとした瞬間、遠くにいたエーミールは派手に転んだ。足元に石があることに気づいていなかった様子だ。
 もう一度起き上がって辺りをキョロキョロしているエーミール。ランドウェラにはその様子が何をしているのかよくわかっていなかったが、もう少し彼を観察してみることにした。

「何してるんだ、エーミール……」

 よく観察してみても、彼が転ぶ理由がわからなかった。ただの足元の注意不足にも見えたが、それにしたって注意散漫すぎじゃあないか? と。
 というか、ここで怪我されたらこの後が困るんじゃないか? と気づいたランドウェラ。最後に転んだ瞬間に近づいて、彼の手を取ってあげた。

「大丈夫か?」
「おや、ランドウェラさん。すみません、なんか」
「これから仕事なのだし、怪我はしないほうがいいよ?」
「いやぁ……こればっかりは、兄さんが悪いというか……」
「兄さん?」

 話を聞いてみると、エーミールは時折兄の姿が見えるのだが……その兄を追いかけようとすると、必ずと言っていいほど小さな不幸が訪れるという。
 それがギフトの影響であることは彼も重々承知。けれど大好きな兄がそこにいたら、色々と話をしたくて追いかけざるを得ないとのことで、小さな不幸があっても足を伸ばしてしまうのだと。

「だからってふらふらし過ぎじゃあないか? あの時もそうだったような気がするんだが」
「夢見鳥華の時……ですね。おっしゃるとおりです……」

 少しだけ恥ずかしそうにしたエーミール。いい大人が台無しだぞ、と小さく笑ったランドウェラはポケットからこんぺいとうを取り出して、食べる? と聞いてきた。
 甘いものが好きなのか、エーミールは喜んでと彼からこんぺいとうをもらって、食べる。砂糖の甘さが口いっぱいに広がって、美味しい。

 ふとランドウェラはなんでエーミールがここにいるんだろうか、と考えたが……ここにいるのなら同じ依頼を受けたのではないか? と思い出し、それとなく聞いてみることに。

「そういえば、エーミールも同じ依頼受けてなかったっけ?」
「あ、そうですそうです。ランドウェラさんが先に向かったから、合流しろって言われてて」
「へえ。じゃあそろそろ時間になるし、向かおうか?」
「そうですね。またよろしくお願いします」

 そうして2人はお互いの戦闘方法を話し合い、適度な連携を取って熊の討伐依頼を手早く終わらせる。



「よーし、終わったな!」
「お疲れさまです。ランドウェラさんがいなかったら、どうなってたことか……」

 熊の討伐依頼を終わらせた2人は境界図書館に戻り、境界案内人へと依頼完了の報告を行っていた。
 エーミールの近距離戦闘、ランドウェラの遠距離攻撃による連携は熊を圧倒させることは簡単だったが……如何せん、エーミールのギフトの発動が稀に起こってしまうものだから、少々手間取ったりした。
 それでもしっかりと討伐が出来たのは、2人の実力の賜物というものだろう。 

 報告を済ませた後は別れるだけ……だったのだが、エーミールがある境界案内人と目を合わせて動かなくなる。全く身動きのないエーミールに、ランドウェラは声をかけた。

「おーい、エーミール?」

 顔の前で手をぶんぶんと振って、彼の意識を引き戻す。
 ハッとした様子のエーミールは、白眼をキラキラと輝かせてランドウェラに向き直り、まるで子供のように言った。

「兄さんがいます! やっと会えました!」
「え、でもそれって」

 そう言って一歩、エーミールが前に踏み出したところ――何も起こらない。
 先程ギフトの条件を聞いてはいたが、彼が一歩踏み出したところで何も起きないということは、そこにいる『兄さん』は彼のギフトによるものではないということになる。

 どういうことなのだろう? と首を傾げたランドウェラの目に映ったのは……境界案内人の1人、エーリッヒ・アーベントロートの姿。
 そういえばそんな奴いたなぁぐらいにしか思えなかったが、エーミールの知り合いだとわかるとなんとなく意識して見ることが出来た。

「……えーと、関係性がわからないけど……」

 エーリッヒとエーミールを眺めるランドウェラ。
 エーミールがしきりにエーリッヒを『兄さん』と呼んでいることから、エーリッヒがエーミールの兄であることはなんとなくわかった。

「あっ、兄さん、紹介しますね。こちらランドウェラさんです。ちょっと前に薬草取りのお仕事で一緒になったんですよ!」
「なるほど? はじめまして、エーリッヒと申します」
「あ、どうも。ランドウェラです」

 自己紹介をされたので、軽く挨拶を返しておいたランドウェラ。兄弟とは言っているが似てないし、普通の案内人だよなぁぐらいに思っていたが……エーリッヒの目がなんとも、内面を見てきそうで少々怖い気もした。

 そうしてしばらく、3人で会話しよう! とエーミールが立案。椅子を持ってきて、3人で輪になって会話をし始めた。
 あんなことがあって、こんなことがあって、とエーミールが喋る中で、ランドウェラはぽりぽりとこんぺいとうを食べつつ話に耳を傾ける。エーミールの問いかけに答えたりもするが、基本は聞き専のランドウェラだった。

「信じてもらえないかもしれないんですが、私は兄さんのコピーなんです。だから、兄さんのために色々とやったりしてるんですよねー」
「コピー? ……実験とか?」
「はい。……あ、ええと、何か気に触る感じでしょうか?」
「ああ、いいや。やっぱり結構いるんだなあ、と思ってね」
「えっ……?」

 似た境遇の人をたくさん見てきたんだよ、とぼかしたランドウェラ。
 自分が同じ境遇であることは決して口にしない。だって、自分はもう『ランドウェラ』という個体。
 クローンとして生まれたことは覚えていても、自分からひけらかすことは決して無いのだ。

 そんなランドウェラに驚いているエーミール。
 どれだけのコピーを見てきたんだ……!? という表情で彼を見つめていた。

「そんなに驚くことかな?」
「そう、ですね……驚きます。まさかあの依頼で出会った方が似た境遇の方々を知っているとは……」
「まあ、確かにアレが初の顔合わせだったもんねぇ、僕たち……」

 夢見鳥華の事件を思い返してみれば、確かにお互いのことなんて知る機会はまったくなく、むしろわーいわーいしか言ってなかったので境遇に驚くのも無理はない。
 というか、わーいわーいしか言えない環境でどう語れと言うのだろうか……。


「その事件は、楽しかったですか?」

 そんな2人に向けて、エーリッヒは問いかけた。
 なんてことはない、ただの問いかけなのだが……少々気になってランドウェラはエーリッヒに聞き返した。

「なんでそんな事を?」
「ああ、いえ。エーミールが楽しそうにしているところを、あまり見たことがなかったもので」
「……あれ?? 兄さん……」

 エーミールが首を傾げた。何かがおかしいと思ったのか、今度はエーミールがエーリッヒに色々と問いかける。
 いつが楽しかったか、どこで何をして楽しんだか、色々と言っているのだが……どうにも、エーリッヒの回答の歯切れが悪い。

 幾度かの問答の後、エーミールは確信したようだ。これは現在の兄ではない、と。
 それに対するエーリッヒの言葉は、そうです、とだけ。

「私はいわゆる、残滓なんです。ここには存在しない、過去の存在……となりますね」
「そういう者もいるのか」

 なんだか珍しい感じだなぁ、とこんぺいとうを食べ終えて追加のこんぺいとうを口にするランドウェラ。
 彼はこれまで幾人かの境界案内人に出会ってきたが、こういうのは初めてのようだ。

 対するエーミールは……少し、ショックを受けている。
 やっと会えた兄が現代の者ではないと知って、少しばかり物寂しそうにしていた。

 しょぼくれたエーミールに対し、ランドウェラはこんぺいとうを差し出してエーリッヒを指差しつつ、色々と諭してあげた。

「なあ、エーミール。残滓は残滓であり本物ではないぞ?」
「ええ、はい。そうですね。……幻影と、割り切ったほうがいいんでしょうか?」
「そうだねぇ。残滓と幻影、同じようなものじゃあないか」

 ――そこにいるけれど、そこにいない。まるで造られた者のようだ。
 ……そう言おうとしてランドウェラは言葉を飲み込む。
 その言葉はクローンである自分にも、コピーであるエーミールにも突き刺さるような気がして。

 ぱりん、とこんぺいとうを噛み砕くランドウェラ。
 次に繋げる言葉はどうしようかと悩んだが、先程のキラキラ輝くエーミールの笑顔を思い出して、ああ、と1つだけ言葉を選んで彼に言ってあげた。

「まあ、でも『そこにいる』のは確かなんだし、今は純粋に喜んでもいいと思うよ?」

 自分らしくはないなと思いつつも、エーミールに優しく伝えたランドウェラ。
 後に彼は、しばらくエーミールの語りに付き合ってあげたのだという……。

おまけSS『だいたい2時間後。』

「エーミール、まだ話すの??」
「はい! だって、私の兄さんはすごいんですから!!」

 エーミールが語り終わったと思ったら、また追加のエピソードが出てきてあれやこれやとまくしたてる。
 いつになったら終わるのかなぁとぼんやり眺めていたランドウェラだが、ふとエーリッヒの返答がないことに気づいた。

「……エーリッヒ?」

 問いかけてみても返答はない。
 もしや聞き専に回ったか? そう思ってよく観察してみる。

「……zzzz」
「ね、寝てる……!?」

 糸目のエーリッヒだからこそ出来る、聞き専のふりをした居眠り。
 これには流石のランドウェラもびっくりした。糸目であることをこういう場所で活かすとは、なかなか侮れない……と。

 そうやって兄が寝ていることなんてつゆ知らず、エーミールは延々と兄の良さを語り続けていた。

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