PandoraPartyProject

SS詳細

働き過ぎには要注意

登場人物一覧

九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影

「全く困ったものです」
 はぁ、と溜め息をついたのは『殉教者』九重ツルギ(p3x007105)だった。
 彼は仲の良い『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)と共に、出かけるための待ち合わせ場所へ向かう途中の事。
 ツルギは、R.O.Oの世界からログアウト出来なくなってしまったのだ。それも、原因不明。
 その事を心配したイズルに、ただログアウトできなくなっただけで、今までとこれからも変わらないという事を証明するために会って話そうと誘いをかけたのである。
 もちろん、立ち話では疲れてしまうであろうから、ちょっと小洒落たカフェでゆったりと飲み物でも飲みながら――と伝えている。
「……折角の楽しい時間です。溜息などついていては、余計に心配させるだけでしょう」
 疲れた顔を引き締めるように軽く頬を叩いて、ツルギは待ち合わせ場所へ急いだ。
「あ、ツルギさーん! こっちこっち」
 ツルギが待ち合わせ場所へ着くと、イズルが嬉しそうに微笑んで手を軽く振る。
 ――長く待たせてしまっただろうか、疲れていないだろうか。――心配、させすぎてしまっていないだろうか。
 そんな不安が過ると同時に視界はぐるりと回り、段々と暗くなっていく。おかしい。身体に異常なんて今まで出なかったのに、と思考する力も落ちていき、ツルギの耳に届いた最後の音はイズルの焦ったような、心配したような声の呼びかけだった。

「ツルギさんが倒れるなんて……一体どうしたら……とにかくこんなとこに寝かせちゃあ悪いから……あ、丁度いい所にベンチが。ここに寝かせて、っと」
 イズルは待ち合わせ場所へ着くなり倒れたツルギを抱え、近くの公園にあった少し大きめのベンチへ寝かせた。
 ――今までとこれからも変わらない、だからゆっくりお茶でもしながら話そう。と、ツルギは言っていた。
 突然、ログアウトできなくなったと聞かされた時は、顔には出さないよう努力しつつもどれだけ心配していたか、イズルは不安になって、握りこぶしを作り、痛いくらいぎゅっと握る。
「……このままにしておいちゃだめだな。とにかく医者か誰か呼ばない、と! ええと、近くに病院とかは……」
 と、口に出してからイズルは気づく。
「医者? いや、今は俺が医者じゃないか……」
 アバターになり切るのも忘れて、自分に対して呆れたように息を吐き出してイズルは処置を始めた。
 R.O.Oの世界では、自分は医者だ。自分に色々なことを教えてくれた、憧れの存在。だからこんなこと造作でもない。今はあいつを模しているのだから。
 けれど、大切な人が辛い時、苦しい時――咄嗟にその考えは浮かんでこない。現実での自分は――
「今は――今はツルギさんを治すことだけを考えよう」
 ふるふると顔を軽く振って雑念を振り払う。私は、早くあなたとゆっくり語らいたいのだと――その一心で、治療を続けたのだった。
 そうして賢明な治療ののち、ツルギの呼吸は穏やかになり、すやすやと眠っていた。
 ――倒れた原因は過労だったようだが。治療の段階に入って気づいたが、まさか過労で倒れるとは。無理はしないようにと口酸っぱく伝えていた筈なのに、とイズルは眉を顰めて穏やかに眠るツルギを見る。
「全く……心配かけさせて」
 いつも無理ばかりしているツルギのことだから、心配をしてしまうというのに、これでは理想としている『イズル』に成れないではないかと少し怒ったようにツルギの額をこつん、と叩いた。
「あんまり無茶ばかりすると、どこかに磔にでもしてどこにも行かせないからね」
 すっかり深い眠りに入ったツルギを膝の上に乗せてイズルはそっと頭を撫でながら、彼が目を覚ますその時まで、待つのだった。

「ん……ここは……」
「おはよう、ツルギさん。よく眠れた?」
 イズルの声にがばりと起き上がるツルギ。辺りを見渡すと公園のような場所で、イズルは芝生に座って鳥と戯れていた。
「あ、あぁ……いや! そうではなく、俺は眠っていたの……ですか?」
「待ち合わせ場所へ着くなりばったり倒れて、ね」
「それは……すみませんでした」
 くすりと笑いながら、イズルは倒れた原因を説明した。すると、ツルギは思い当たる節があるのか、もしかして。と平常心を保とうとしているイズルに話し始めた。
「過労の原因は、恐らく昼も夜もクエストに明け暮れていたから、でしょうね」
「昼も夜もなんて、どうして……」
「――正直、焦っていたんです」
 このまま一生、ログアウトできないまま現実のイズル――アーマデルと共に、冒険に出られなくなるのではないか、と。
 そんなのは嫌だ。R.O.Oの世界で会うのも嫌ではないが――やはり、きちんと現実世界の彼に会いたいのだと――そうツルギが伝えると、そっか。とイズルは嬉しそうに、どこか安心したように微笑んだ。
「それなら、今後は無理しないこと。いい?」
「ええ……身を以て知りましたから。この世界でも、無理は禁物だと」
 ところで、とツルギは不思議に思っていたことを訊ねる。
「起きる直前まで、枕か何かありましたか? とても夢見が良かったもので」
「あ。あー……鳥が持って行った」
「鳥が?」
「そう、鳥がこう……寝床に丁度いいって」
 無理のある誤魔化し方にツルギは思わず吹き出してしまうが――彼なりの照れ隠しなのだろう。そうですか、と納得したように答えてやると、イズルはほっとしたように息をついた。
 休息をとってすっかり回復したツルギは、少し身体を伸ばした後にイズルと本来行くはずであったカフェへ、改めて行こうと声を掛ける。
 まだ時間はたっぷりある。いつまでこのログアウトできない状態が続くのかはわからないが――きっと大丈夫だと信じて、ふたりはR.O.Oでの世界を過ごす。穏やかに、ゆったりと。ひと時の休息を楽しんだ。

 夜も更け、帰り道に着いたころ。イズルは改めてツルギに宣言した。
「絶対、無理しないでね。しっかり休んで」
「ええ。イズルも――よく寝るように」
 お互い見つめ合って、その瞳に約束を焼き付ける。
 早く異常事態が解決することを願って――互いのホームへと歩き出した。

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