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SS詳細

ティシエール街、美味探訪〜10月の巻〜

登場人物一覧

天閖 紫紡(p3p009821)
要黙美舞姫(黙ってれば美人)

●疾風の如く駆ける師と、同じ門を叩く猫と、嵐に立ち向かう胡蝶と

 自らに厳しい鍛錬を課すようになってから、あっという間に月を跨いだ。
最初はひいひい泣いてついていくのがやっとだったけれど。近頃はそれにもすっかり慣れた。
けれど、慣れてからこそが本当の始まり。まずは師の動きをよく見て、自らに取り入れて、磨きをかけて、強くなって。
……強くなった暁には、まず、あの緑猫をギャフンと言わせてやろう。そうしよう。

しかし、沢山動けば、それだけお腹も空くわけで。一休みしようと舞を止めた足先は、ある場所に向いていた。

──こんな時は、もう、あそこに行くしかない!

●ラム酒香るモンブランパフェ&ほわ甘ほうじ茶ラテ

 窓から吹き込む香は、つい最近もティシエールで嗅いだばかりの金木犀の花。
収穫祭で楽しんだ甘く豊かなあの匂いと、喉を灼くようなあの刺激は今も忘れ難いが、今日の目的はそれではない。パフェスリー・カンロの、外がよく見えるいつもの席に通されて。紫紡は『いつもの』を待っていた。

「こちら、今月の限定メニューになります」
「えへへ、待ってましたあ〜!」

店員が銀のトレーに載せて運んできたのは、この時期誰もが口欲しくなる、幾層にも螺旋を描く優しいブラウンのクリームと、頂点に乗る、砂糖に照らされた甘栗のあの輝き。

「モンブランだあ〜!!」

『やっぱり秋はこれだよね!』とばかりに、紫紡のテンションと胸は高鳴る一方だ。
千の言葉を尽くすより、まずは一口食べてみよう。クリーム部分に豪快に匙を入れて、ぱくり!

口の中に広がるのは、秋の風物詩とも言える栗の風味とそれを引き立てるラム酒の風味、そしてそれとはまた違った、ほっこり心を和ませる優しい甘さ。
これはなんだろう? ずっしりパフェの詰まったジョッキを見てみれば、栗のペーストに隠された、夕日と見紛う程に鮮やかな、しっとりとしたオレンジのスポンジ。
スポンジだけを掬い取って食べてみると、その正体がよくわかった。

「もしかして、これ、南瓜のケーキですか?」
「その通りでございます。今回は頂上のモンブラン以外にも、栗と南瓜を存分に使っております」

なるほど、今月のテーマは栗と南瓜か!
宝探しの気分でスポンジの層を抜ければ、刻んだ栗の風味が楽しい、ふわふわで甘さ控えめのホイップクリームだ。
そこに今度は、南瓜の色をしたお手製クリームが続く。

「ブラウンに、オレンジに、白。綺麗なだけじゃなくって、こんなに美味しいとかもう……最高!!」

更にその下には、あのツヤツヤでプルプルで程よく硬い、南瓜のプリンがお目見えした。
しかし先日食べたものとは異なり、あえて南瓜の果肉をごろっと閉じ込めた、より素材の味が楽しめるものとなっていた。

さて、ここらで一休みと、ほんのり湯気を立てるマグカップに口づける。ほわっと泡立つミルクの甘みに、ほうじ茶の香りが加わった豊かな口当たり、それでいてけしてしつこくない味わい。
ほっこりするものをたっぷりと楽しめるように、それでいて重くなりすぎないように

それからジョッキの底の底まで、無駄なく中身を掬い取って。最後のひとくちを、あむ、っと味わったなら。

「ごちそうさまでした〜!」

幸せそうに手を合わせる紫紡につられるように、店員も笑みがよりいっそう深まった。

「お客様、良ければこちらもお受け取りください」

店員が持ってきたのは、ラッピングされた小さな小包。中には焼き菓子数種類。

「ええっと、これは?」
「はい、こちら新商品の試食になります。このところお客様が増えましたので、お持ち帰り用の商品を開発してるんですよ。そこで直接、お客様の声をお聞きしたいと思っておりまして……」

『また今度いらした時に、感想を聞かせてください』。そう言って、彼は控えめにはにかんだ。

思わぬ小さなお土産とともに、紫紡は家路を弾ませる。
確か、『彩色茶葉のクッキー』と言っていたか。改めて、その小袋の中身を見た。

先程飲んだほうじ茶のような、優しいブラウンのスコーン。
秋色に木の葉を染め上げたような、紅茶を練り込んだ
そして、深い緑の、猫を象ったクッキー。

「……うん、まだまだ、負けてられないよねっ」

秋風が彼女の背を押すように。弾むように軽やかに、紫紡はこの街を飛び立つのだった。

  • ティシエール街、美味探訪〜10月の巻〜完了
  • NM名ななななな
  • 種別SS
  • 納品日2021年10月06日
  • ・天閖 紫紡(p3p009821
    ※ おまけSS『とあるカフェ店員の日誌より』付き

おまけSS『とあるカフェ店員の日誌より』

今日のあの人は、この前よりも元気になったように見えた。……とても、ほっとした。
僕にはあの人が何と戦っているかはわからないけれど、そもそもあの人が本当に冒険者とかそういう種類の人なのか、ちゃんと確かめたわけではないけれど。
それでも、少しでも彼女の悩みが晴れたならとても良かったと思う。

試食品を是非ともあの人にも食べてほしいと思っていたから、今日彼女が来てくれて、本当によかった。
『美味しい』と言われるのが一番嬉しいけれど、生地と茶葉の配合に、作っていてとても悩んだ記憶がある。
大切なお客様からの貴重な意見なら、どんなものでも受け止めよう。

さて、秋はまだまだこれから。
来月もたっぷりと蜜の詰まった、美味しい秋の味を届けよう。

これからこの街を訪れるお客様に、ここを好きになってもらえるように。
この街を大好きでいてくれる人から、心からの笑顔で『美味しい』という言葉が貰えるように。

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