PandoraPartyProject

SS詳細

4Seasons

登場人物一覧

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし

●4月の夢
 ちくたく、ちくたく。逆さま時計は知っている。
 月光蝶々の魔女にはヒミツがいっぱい。
 あの気まぐれ屋が、ある日をさかいにお土産をたんと買いはじめただとか。
 ノピンペロディの箱庭ほどは大きくないけど、同じくらい素敵な宝箱をもっているだとか。
 甘くてちいさな想い出たちを、善き月の晩にこっそり広げているだとか。
 お味見された木の葉に子どものおえかき。
 それからカラフルなひづめが踊る、はじめてのお手紙。
 安楽椅子の傍らには紫砂糖のインクと宵梟の羽ペン。それから、どこにでもある花が刻印された封蝋。
 ふわふわのケープを肩にかけて、月の光を浴びながら、ゆらゆらきらきら、幸せに耽る。
 長い時間を過ごしてきた精霊種にとって時間の尺度など不透明で、生命の期限など蝶のはばたきの間に過ぎない。
 だからこそ愛おしい。
 薔薇の杖から蝶が飛び立つ。
 夢の続きを視るために。
 扉のむこうで眠る、彼女のために。

●子供の夢
 キュー、キュー!
 外から自分を呼ぶげんきな子供の声に、とんがり帽子が扉を開けた。
「えるまぁ、えるまぁー。しかの、ただいまよー!」
「やあ鹿ちゃん、ようやく帰ってきたね。どう? 何か楽しいものはあったかな」 
「あのね。もりのなかは、いっぱい、いっぱいよ」
 仔鹿の成長は早いものだ。
 前よりも高い位置になった頬っぺたを両手で包みこみ、桜色の鼻先をあわせるご挨拶。
「それから、箱庭のおねーさまのところは、いつもおいしいと、ありがとうで、いっぱいねぇ」
「ふふふ、良かったわね」
 森をよく知るエルマー・ギュラハネイヴルだけれど、森の中で気ままな一人暮らしをはじめたかわいこさんの次なる行動だけはわからない。
 見知らぬ森ですやすや眠る、恐れ知らずの豪胆さといったら!
『貴女はあの子の教育方針を再考したほうが良いのではなくて!? 特に恐怖心はしっかりと! しっかりと!! 教えておきなさい!!』
 とっても大事なことなので、或る魔女なんか月光蝶を通じて怒鳴り込んできた。
(綿毛ちゃんがノピンペロディの裏側をみつけた時は気が気でなかったけど、あの時のミシェルの顔といったら。うふふ、いま思い出しても茶のお供になりそうだわ)
「さぁさぁ、手を洗っておいで。今からお茶の時間にしよう。ケーキもお菓子も、たんと焼いてあるからね」
「じつのところ、しかはエルマーのつくる、ふわふわケーキがだいすきなのよ。ナイショだけど、とくべつに、おしえてさしあげます」
「おやおや、かわいこさん。そんな大人びた言葉づかい、どこで覚えたんだい?」
 手をつないで家の中へ。エルマーは駒鳥のようにくつくつ笑い、子鹿もよく分からないけれど一緒に笑った。
 その時の魔女は「一人の暮らしの練習だよ」と言っていたけれど、薄々、彼女は理解していたのかもしれない。
 いつしかこの無邪気な少女が空中神殿へ召喚されることを。
 いつしか自分の手を離れ、人の中で、人として生きる日が来ることを。
 その過程でどんなに辛い事が待ち受けていようとも、自分は手を出さず、そっとポシェティケトの成長を見守ろうと決めていたのだろう。
 子供の季節が終わりを告げようとしていた。

●灰の夢
『エルマー……寂しいな。帰ろうかしら』
「よし、ふわふわちゃんを迎えに行こうそうしよう」
「落ち着きなさい、魔女エルマー・ギュラハネイヴル」

 椅子を蹴って立ち上がった無表情の魔女は、名前を呼ばれて再び人形のように座った。
 手を出さないとは決めたけど、心配しないとは言ってない。
 世界の崩壊を防ぐ特異運命座標として、人の住む街で一人暮らしをはじめたポシェティケトは慣れない環境に戸惑っていた。
 何から何まで違うことばかり。
 人の住む灰色の世界は想像よりも忙しくて、冷たくて。毎日がグルグルと目まぐるしい。
 もちろん楽しいこともたくさんある。新しいことも、ビックリすることもたくさんある。
 でも街では「人らしさ」を求められてばかり。どうして、ポシェティケトはポシェティケトでいちゃいけないの?
 ぐったりして家にもどると扉のむこうにあるのは真っ暗なお部屋と埃の匂い。
 それが冷たくて、寂しくて。温かな巣に帰りたいと願ってしまうのだ。
 ポシェティケトはベッドの上で膝をかかえると、小さな雪山のようにこんもりと顔をうずめた。

『森では一人でも寂しくなかったのに。今はたくさんに囲まれているのに。前よりもずっとずっと一人だわ。おかしいわねぇ。変だわねぇ』
「よし、ミルクちゃんを迎えに行こうそうしよう」
「正気に戻りなさい、魔女エルマー・ギュラハネイヴル」

「う〜〜っ、僕だって分かってはいるのよ!?」
 友人たちの前では取り繕う余裕もないらしい。ここまで感情を表に出すエルマーは珍しく、今日も今日とて月光蝶々に囲まれた彼女は水晶を覗きこむ。
「その、はべらせている物騒な使い魔の数を減らして欲しいのですけれど」
「みんな鹿ちゃんが心配なのよ。仕方が無いわ」
 同意するように上下に揺れる神秘的な蝶々に、茶会の女主人は紅茶を含んだまま呆れ半分の眼差しを向けた。
「それは、まぁ、そうですけれど」
 僕が鹿ちゃんの所に行きかけたら止めてくれないか、と真剣な顔で箱庭を訪れた昔馴染みを、魔女たちは受け入れた。
『……ううん、でも、頑張ってみるって言ったのは、ワタシだもの……』
 水晶玉から聞こえてきたか細い声に、魔女連の皆さんはバッと振り返る。
「偉い!」
「さすがはウチの子!」
 森の魔女たちにとってポシェティケトは孫にして娘のような存在アイドルである。なにせよちよち歩きの四足歩行から見守っているのだ。心配していないはずがない。
 遥か遠い森からの激励は届かない。けれどポシェティケトはピクリと耳を動かした。

●小さな手紙の夢
 ちくたく、ちくたく。ほらふき笛が4月の夢を連れてくる。
 お友達を連れて実家に帰省したポシェティケトが語ったベッドタイムストーリーは鹿の過去ナーサリーライム
「それでね。完全に街で暮らすのは鹿には少し難しかったの。それで月の半分を街の下宿で、もう半分を森で暮らすようにしたの。クララと出逢ったのもちょうどこの頃だったかしら」
 そのとおり、と金色砂妖精は肯定の挙手をした。その手を組むとしみじみと頷いて宙へ浮き上がった。
「ニュッ、ニューニュニュ、ニュッニューニュ……」
訳:あのころは大変だったよ。ポポちゃんったら、まだぜんぜん精霊語がつうじないんだもの。それどころか、人間としてもピカピカの新人さんでね。いくら『ポポちゃん、ごはんは葉っぱ以外も食べたほうがいいよ!』って言っても「あらあ、どうしたのクララ。お腹いっぱいで嬉しいのかしら」っておっとり言うものだから、そりゃあもう、どれだけ心配したことか!!
「最近はちゃんと、分かるようになったものねぇ」
 やはりおっとりと、しかし上品な仕草でポシェティケトは紅茶のカップに口をつけた。
「クララと出逢って、外の世界にも慣れてきて。色んなところへ冒険へ出かけるようになったわ。ううん、それだけじゃなくて外の世界にも冒険に出かけるようになった」
 ポシェティケトはパッチワークキルトに埋もれたメロンソーダ色の髪の毛を梳きながら綺麗に微笑んでみせた。
「境界世界の人たち。森から出て、特異運命座標になったからこそ出逢えた人たち」

 変わり者の神さま、動物とまぜこぜな人たち、可愛いおともだち。
 あの世界で出会えた大切な人たち。

 涙屋さんのお月さま、おやすみなさいを半分こ、ワタシの大好きのあの子。
 ずっと一緒にいたい、大切な大切なお友達。この世界で出会えた大切な人たち。

「みんなみんな、住む場所は違っても、いつも幸せでいてほしいわ」
 いつの間にか聞こえてきたのは、すぅすぅという寝息。
「……あら、眠っちゃったのね。おやすみなさい、テック」
 
 大好きをたくさん見つけた森の子。
 足取りはかろやか、ふわふわ。
 これはヒトであり、鹿であるポシェティケトの物語。

  • 4Seasons完了
  • NM名駒米
  • 種別SS
  • 納品日2021年10月02日
  • ・ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802
    ※ おまけSS『もしもし、境界世界ですか?』付き

おまけSS『もしもし、境界世界ですか?』

「おや、ご機嫌だね。テック。何かいいことあったのか?」
「あ、ラーラさま。実はポシェティケトさまに、境界世界が好きだと仰っていただけたのが嬉しくて」
「ふぅん? よくわかんないけど、そりゃあ良かったじゃないか」

「あら人形。機嫌が良さそうで超ムカつくわ」
「マーレボルジェさま! 実はポシェティケトさまが境界世界が好きだと仰ってくれて嬉しくて」
「あの鹿か……確かに良い毛皮だった。再訪するなら罠でも仕掛けておくか」
「ダメですー!」
「いま? ポシェティケト? と確かに聞こえましたわ!!」
「境界案内人、ポポちゃんに会うなら良い本が手に入ったって言っといてくれる?」
「別に用はありませんが余った鹿角で香水ができたから取りに来いと伝えなさい」
「胴長の犬はお元気でしょうか……」

「よっ、あいかわらず暇そうだね」
「こんにちは、くらやみさま、天つ神さま。今日はポシェティケトさま、いらっしゃいませんよ」
「……」
「でも、くらやみさまには先日『おたんじょうびおめでとう』との、ご伝言をお預かりしております」
「!!」

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