PandoraPartyProject

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たまにはそんな、彼との共闘

登場人物一覧

ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者


 幻想の森林地帯の深部、頭上を覆う枝葉により日の光も届かない薄暗闇の園。
 鳥や獣、虫の鳴き声が響き渡る中、がさがさと音を立てながら草木をかき分けて金髪の美女が森を進んで行く。
「おじさま! 大丈夫?」
 顔の高さの枝葉をその手に持つ剣で切り払い、美女──ルアナは後方に声をかける。
 その声に応えるように一人分の空白が開かれた鬱蒼とした道から初老の男、グレイシアが顔を出す。
「うむ、助かっている。すまないな」
「いいの、こういうのはわたしの得意分野だからね! わたしは凄腕の冒険者で──勇者なんだもん!」
 えっへん、などと言う声が聞こえてきそうな程その姿に似合わぬ幼い雰囲気を醸し出すルアナはその実、優れた冒険者でもあった。
 森林地帯に出る魔物の討伐依頼によってこの森にやって来た時、その自然の生命力の強さを目にしたルアナは普段の姿、幼い少女の姿からその身を『ルアナをそのまま大人にしたような』姿に変化させた。
 ギフト──混沌世界へと召喚された際に得た能力であるソレは、より正確に言えば『元の姿に戻る』ものだ。ルアナはこの無辜なる混沌に召喚された時にその精神と身体を幼児退行してしまっている。
 元の世界では『勇者』であったルアナは自分がかつて勇者であり、魔王を倒し世界を救うために冒険をしていた事を思い出しており、その一環としてこのような野外での行程にも一日の長がある。
 ……肝心の倒すべき『魔王』については幼児退行によって忘却してしまっているのだが、ここは混沌世界とルアナはあまり気にしていない。
 ギフトによって縮まった身長差を活用すべく文字通り『道を切り開いた』ルアナはあどけない笑顔で胸を張った。
「……そうであったな」
 複雑な思いをポーカーフェイスで隠したグレイシアは彼女の言葉に相槌を打つ。
 ルアナが楽しそうに進む中、ふとグレイシアが視線を前方のルアナから逸らし遠くを見るように目を細める。
「ふむ、近いな。そろそろ準備しておきなさい」
「わかった!」
 聞き返す事もなく不意打ちの警戒を強めて木々が薄い開けた場所を目指すように移動する。
 普段は保護者としてルアナを庇護している彼だが、こと依頼となればその関係は『孫の面倒を見ている初老の男』でも『■■と■■』でもなく『二人のイレギュラーズ』となる。
 ルアナが道行の消耗を抑え戦いやすい場所を探し、グレイシアが依頼の討伐対象を探る。
 各々の得意分野を活かしハイ・ルール、依頼の成功に尽力する二人は良く役割分担が出来ていた。

 それから数分後、獣道の先に進んで行くと二人は森の中の広場に出た。
 小川が流れる動物たちの水飲み場、それを見た二人は互いに目配せを交わし、どちらともなく頷いた。
 進もうとすれば生い茂っていた植物が障害となった小型動物の獣道とも違う。あたりを注意深く見渡せば見つかるのは大樹の二人の身長よりも高い位置に刻まれた爪痕。
 それは大型の、巨大な獣の痕跡に他ならず、この近辺に生息していて二人よりも巨大な獣となればそれは間違いなく討伐対象の魔獣だ。
 そして、ここまで来ればグレイシア程の探知能力を持たないルアナでもわかる。
 自分の顔よりも大きい新しい足跡、水辺の近くに散らばる他の獣の赤い血、そして──先程までの自分たち以上に強引に草木をかき分けて近付く音。

『GRAAAAAAAAAAAッ!』
「来たっ!」
 周囲の木々を震わす咆哮と共に広場に突撃を仕掛けて来たのは身の丈3mを超える巨熊。腕部の一部は硬質化しており鉄のような鈍色を帯びており、額からは赤い宝石のような角が伸びている。
 突進と共に振り下ろされる丸太のような腕をルアナがその剣で受け止める。
「よいしょー!」
 剣で受け止めた反動でそのまま素早く独楽のように一回転し、逆側から大剣を叩き付ける。
 自らより小さな獲物からの予想外の反撃に怯んだ巨熊の顔面に続けて魔力弾が叩き込まれる。
『GIAAA!?』
「ふむ、技巧もなくその力を振り回すのみであるな。とはいえ──」
「これは、すっごい頑丈なのかな?」
 不意の顔面への攻撃で巨熊は悲鳴を上げるが、その身にダメージは殆どないように見える。
 更に、ルアナが切り付けた左腕も浅く傷つける程度に留まっており、既に血も止まっている。
「フィジカル、単純に基礎能力に特化した類ということであろうな。少し長丁場になりそうだが……ルアナ、行けるな?」
 後方のグレイシアからの確認の声。普段は保護者としてルアナを孫のように庇護している彼だが、こと戦闘となれば話は変わる。
 前衛として──『勇者』として、中・後衛から攻撃を行うグレイシアの立ち位置を守る事がルアナの役割だ。
「──もちろんっ! 行くよ、おじさま!」
 信頼されている。信じられ、頼られている。
 これから行うのは命をやり取りする戦いだというのに、それを思うとつい頬が緩んで声にも喜色が混ざってしまう。
(行けない行けない、依頼主さんのためにも真面目に頑張らないとっ!)
 "それ"を気の緩みと捉えたルアナは一層目の前の巨熊に意識を集中させ、今度はこちらから一歩を踏み出した。
「てやぁー!」
『GUOOOOO!!』
 三度、大剣と巨腕が交差する。
 自らの倍近い大きさを持つ怪物を相手にしても、ルアナの瞳に恐れの感情は浮かんでいなかった。



 討伐対象と戦闘を始めて数十分。
 抉られたような傷跡の付いた小川、力任せに鋭い爪で切り倒された樹木。
 広場はまるで嵐に遭ったかのように荒れ果てていた。
『GRAAAAAA!!!』 
 破壊の中心で暴虐の主が咆哮する。身体の各所からは赤い血が流れ、その目は怒りに血走っている。
 だが、イレギュラーズの二人も無傷ではいられなかった。

「おじさま、まだ動ける? あとちょっとだと思うんだけど……」
「これ位、どうと言う事はない………が、そろそろ終わりにしたいところだ」
 致命傷こそ避けているものの、攻撃の余波によって生じた礫によって大小様々な傷を受けている。
 それは前衛のルアナだけでなく、後衛のグレイシアも同様だ。対格差により防ぐことが出来ない突進などは予備動作の段階でお互いに呼びかけもしているが、それでも全てを完璧にいなすことは出来なかった。
 二人と巨熊の最大の違いはタフネスであり、これ以上の長期戦は難しい。
 とはいえ、勿論二人とも闇雲に消耗戦を仕掛けていた訳ではない。
「ふぇぇしんどいよぅ……んー、どこか弱点みたいなとこないかなぁ」
「そうだな……先程から、頭部の宝石のような角の部分だけは攻撃を受けないようにしているようだが……」
 ルアナの声に後方から観察をしていたグレイシアが応える。
 彼は魔弾で牽制や頭部などの重要部位への攻撃を行いながらも巨熊の様子を観察していた。それは見上げながら巨熊の繰り出す攻撃に対応し続けていたルアナだけでは出来ないことだ。
「ふむ、秘宝種の自動修復のようなものだろうか。再生能力の起点というだけではなくコアである可能性は高いな」
 見上げ続けている視線を更に上げた先にあったのは濃茶の毛皮の上で血のように脈打つ赤い一本角。
 ギフトで身長を伸ばしていなかったら首が疲れちゃったかも、と思いながらもその目標を確認したルアナはグレイシアの提案に即決した。

「よし。じゃあわたしがもう一度手を弾くから、そこに一緒に攻撃しよ!」
 返事も聞かず、一瞬だけ目を閉じて息を整える。
『WOOO!』
 それを隙と認識した巨熊の凶腕が迫る。無防備に受ければたちまちに人体を引き裂く爪はしかし──
「はぁっ!」
『RUA!?』
 最高のタイミングで目を見開いたルアナの剣戟によって今まで以上の勢いで弾かれていた。
 アーリーデイズ。全盛の──『勇者』の力を能動的に引き出したのだ。
 反撃の声と共に踏み込んだルアナは跳躍、自分の身長よりも高く飛び驚愕の表情を浮かべている巨熊の頭部に迫る。
 剣に力を籠めて渾身の一撃を赤角に向け、
 その身を貫かんと迫る角を見た。

『GR──』
 弱点であると同時に人一人を串刺しにするのに十分な凶器。
 回避も腕で頭を庇うのも間に合わないと判断した野生の闘争本能が成せる起死回生の反撃の一手を前に、しかしルアナは動揺も恐怖もなかった。

「黒顎──」
 角が美女を串刺しにする直前、横合いから黒い魔力弾が飛来しその勢いを留めた。
 これまでと同じ魔力弾と思っていた巨熊はその威力にたたらを踏み、魔力弾はその形状を球状から大顎のように変化させた。
 犠牲者を貪るように闇の大顎が閉じるその時、
「──魔王」
「リーガルブレイド!」
 ルアナの剣が同時に直撃し、巨熊の赤角を粉砕した。

  • たまにはそんな、彼との共闘完了
  • NM名レイティス
  • 種別SS
  • 納品日2021年09月30日
  • ・ルアナ・テルフォード(p3p000291
    ※ おまけSS『おまけSS『偽りだらけの彼の思い』』付き

おまけSS『おまけSS『偽りだらけの彼の思い』』


「おじさま! やったねー!」
 土と葉と血に汚れながらもその輝きを曇らせずに己が下に駆け寄って来る『勇者』の姿を見て、『勇者に殺される使命にある魔王』であるグレイシアは小さく息を吐いた。
 今は依頼であり、共にイレギュラーズであらば元の世界の関係ないとはいえ、つい考えてしまうのだ。

(まさか、『勇者』と『魔王』が共闘をするとはな)
 『魔王』として理想の最期を遂げる。そのために記憶を失くし幼児退行していたルアナを保護してからのこれまでは、理想のために精進し続けた『魔王』の日々とは違うもののまた違う遣り甲斐を感じている。
 かつての『魔王』の領地の者たちが見ればなんと言うだろうか、答えの出ない問いを棚に上げてグレイシアは己の援護を一寸の疑いもなく突撃を敢行した『勇者』へと足を向けた。
「ローレットに帰還するまでが依頼だ。周囲の警戒を怠ってはいけない」
「ぶー。おじさまのけちー」
 小言を言いつつもその距離感はこの四年間で慣れたもの、二人は並んで森を後にするのであった。


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