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ビーチ・クライシス!
登場人物一覧
●しゃーく
夏。
太陽は眩しく、緑はここぞとばかりに伸び、生い茂る成長の季節。
人は厚い服を脱ぎ捨て、時に水着となり海と戯れる開放的な季節。
そう、今R.O.O.では夏真っ盛り。
そんな季節に、ひょんな事で社長になってしまった怒涛のボケ担当が何もしない訳はなく――
「という訳で鮫(SAME)の映画撮影をしようと思うんだが!」
「「何で」」
片手を上に、片手を横にしてかっこいいポーズを取りながら言ったナイトにツルギとスキャットは思わず素で突っ込んだ。いやほんと、何で?
「夏と言ったら鮫(SAME)だろ! 最近は頭(Head)が増えたり空を飛んだり(Fly)するんだろ? というか涼しさが欲しいしパニック映画とかいーじゃん(E-Jan)」
「いやいや。いやいや。というか主演男優ってサメ映画のですか? 無茶言わないで下さいよ、下手すると主演男優も死んでしまうんですよサメ映画って」
「えっそうなの? お父様ログアウトしちゃうの?」
「今からでも断れますか?」
「無理です(MURI)」
ナイトの腕に燦然と輝く「監督」の腕章。そう、彼は監督。でもサメ映画とか正直よく判んない。サメに男女が襲われて、危機を乗り越えてくっついたら其れで良いんじゃないかなって認識でいる。……。大体其れで間違ってないのがサメ映画の恐ろしい所なんだよなあ……
「既にキャスト(Cast)も呼んでいるからな。今更やめるってのはなし(No)だぜ」
「くっ……!」
ツルギは苦い顔をする。というか彼が何でここにいるかって言うと、気になるあの人にちょっとカッコイイ自分とか見せたかったからだ。主演男優として銃をぶっぱしたりバイクや車乗り回したりしてクールに決める自分をスクリーンで見てキュンってしてくれないかな? なんて考えていたのである。下心満載。
一方もう一人巻き込まれた人は存在がバグ。スキャットは美少女だが其の実は良い年した男性である。ナイトに完全に巻き込まれ半分諦め気味だ。何せ彼は満足するまで解放してくれないから。
「(グレモリーすまん……今日はそっちに行けそうにない……)」
心中で友人に謝るスキャットことベルナルド=ヴァレンティーノ。ナイトに捕まりさえしなければ、涼しいアトリエで友人と絵にいそしむつもりだったのに。まあ彼なら許してくれ……くれ……くれるかなあ……?
「取り敢えず、あとは秘書(Secretary)の報告を待つだけなんだが……」
「え? 脚本とか台本とかないんですか」
頭を抱えていた二人が顔を上げる。
え? って顔をするナイト。
は? って顔をするツルギとスキャット。
「鮫(SAME)映画って鮫(SAME)がいれば良いって聞いたんだけど」
「誰に言われたんだそんなのォ!!」
思わず突っ込むスキャット。そりゃそうだ、パニック映画は脚本があるから際立つのだ。これを絵画に置き換えるならラフなしで清書しろって言うようなものだよね。無理だよね、僕は無理。って、リアル友人グレモリー君なら言うと思う。
「脚本なしでどうやって進めるんだ!? というか鮫はどこやった、鮫は!」
「まあまあスキャット、落ち着いて」
「お父様もなんとか言って!」
「まあ、脚本がないのはかなりまずいと思うけど……相手を見てごらん」
あっ、ツルギが悟った目をしてる。
スキャットはナイトを見る。なんか飛び掛かる鷹みたいなカッコイイポーズをとってる。……ああなるほど、と得心した。何を言っても無駄(MUDA)。そういう事なのね、お父様……
「あっ、シャッチョ~~~!」
と、そこへ、ナイトの秘書(Secretary)が走ってきた。タイヘンダヨーとか言ってる。嫌な予感しかしない。
「どうした?」
「それが護送中の鮫を途中で取り逃しまして」
「……」
「……」
「……」
……。
「恐らくこのビーチに来るものかと思われマース」
わあたいへん。
●しゃーくはこわーいぞ
「まあ、でもこれでキャスト(Cast)は揃った訳だ」
何処からか取り出したメガホンをツルギとスキャットに向けるナイト。
「襲い来る鮫(SAME)から一般客(IPPANJIN)を保護せよ! この方向でいこうじゃないか!」
「明らかに今考えましたよねそれ」
「うん」
「まあでも、鮫が来るなら放ってはおけないな……死んでもサクラメントがあるから良いとしても……」
根は真面目なスキャットである。リアル友達との約束も気になるが、目の前の脅威を放っておく事も出来ない。
ツルギもいよいよ覚悟を決めたようで、はあ、と溜息を吐いた。其の様でさえ絵になるのだからまあ、主演男優としてはうってつけなのかもしれない。
「仕方ありません、やりましょう。ではまずは鮫の捜索かr」
「鮫が出たぞーーーー!!!!」
「……」
捜さなくて良かったね!
「よし! じゃあビーチ(Beach)で撮影といこう! スタッフ、カメラ(Camera)構えて!」
いつもマネキンみたいに立ってるスタッフだが、今回はカメラを構えてマネキンみたいに立ってるスタッフである。
3人は鮫が出たと思しき地点へ移動し始めた。
ビーチは大混乱であった。
例え仮想現実であっても怪我とかしたくない人、寧ろ鮫を獲ったどー! して戦果を挙げたい人。すわ、新規クエストか!? と実績解除を試みる人でいっぱい。
「(取り敢えず其れらしく演技を……)スキャット、俺から離れないで」
「はい、お父様!」
「良いね(Good)! 鮫に果敢に立ち向かう親子か……」
ちなみにツルギとスキャットは普段のアバターのままである。何故ならツルギは日焼けしたくなかったから。スキャットはめんどくさかったからである。つまりサマーな格好してるのはナイトだけって事だね。ナイトが主演男優すればよかったのでは……と思うが、彼の腕には監督の腕章がついているからな。腕章には勝てないな。
ツルギとスキャットは離れないように手を繋いで混乱のビーチを進む。しかし鮫らしき影は見えない。ツルギは女性を呼び止めると自慢の顔をすいっと近付けて問うた。
「失礼ご婦人、鮫はどちらに」
「(どきっ)えっ……確か空を飛んでいると……あっ、あそこ!」
「空?」
ツルギが空を見上げると、丁度その上をゆるりと魚が飛んでいくところだった。あれは何だ!? 鳥か!? 飛行機か!? いや違う! 鮫だ! 頭は一個! でも飛んでる! そうだね、此処は仮想現実。現実味のない事も現実になってしまうんだね。
「空を飛んでる……」
もうなんか絶望するしかないスキャット。
「スキャット、しっかりするんだ。追いかけ……あれ? あっちって確か、ナイトさんがいた方向……」
「……! も、戻ろう、お父様!」
二人は鮫を追って、慌てて来た道を戻る。鮫は放物線を描きながら徐々に大地に近付いていた。其の先には簡易椅子に座ったナイトがいる。
「しゃ、シャッチョサーン! こっち来てるヨー!」
「慌てるな秘書(Secretary)くん! カメラは止めるな! なぁに……たまたま犠牲が俺(ORE)だっただけのことさ……ツルギとスキャットが止めに来てくれる……君たちは逃げ」
「監督! 危ない!」
もぐぅ。
「「あっ」」
“崎守・ナイトさんがログアウトしました”
「「ああ……」」
「どうする? お父様」
「取り敢えず、鮫はお料理しておきましょうか。まだスタッフさんがご存命のうちに」
映画なら映画らしくね?
唇に指をあてるイケメンポーズでいうツルギに、スキャットは内心(こいつ、ナイトが食われてすっきりしてるな?)と悟った。
~鮫はスタッフがおいしく頂きました~
●撮影終了
「いやー、当初はどうなるかと思ったが、これはこれで良い画(Scene)が取れたんじゃないか?」
サクラメントから即ログイン(パッチ2でアップデートされたぞ!)して戻ってきたナイトは取れた画を見ながら笑った。
「主人公と娘が鮫(SAME)と戦おうとするも、虚しく出る犠牲(Sacrifice)……うん、悪くない」
「悪くないんですか?」
「まあ、映画を撮ろうとメガホンを獲ったら鮫に丸呑みされたというのは奇想天外感があって良いかもしれないけど……」
「俺が良いっていったら良い(Good)んだよ! 監督だからな。あとはそうだな……危機は去ったみたいなシーンが欲しいな。やれるか?」
「急に真面目にならないでくださいよ。其れくらいなら、ねえ? スキャット」
「はい、お父様。出来るよ、其れくらいなら」
なんか、やっと映画撮影らしい事が出来たね。
三人で笑いあった。そうしてツルギとスキャットは撮影のため浜辺へと向かう。
其れを見送るナイトだったが、後ろから秘書が声をかけてきた。
「ア、シャッチョサーン、大変ダヨー」
「どうした?」
「鮫の発注間違えて、ゼロを一つ付けてシマテタヨ」
「……。OH……」
ビーチに平穏は訪れるのか! 解散!