PandoraPartyProject

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番のデート

登場人物一覧

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者

 拍手が鳴りやまないホール。演者だけでなく観客も含めてホール内の全員が仮面をつけて行われた演奏会は、この演奏会における陰謀を見事に暴いたとある飛行種の青年の演奏で幕を閉じたのであった。

 会場から少し離れた広場。この場所で飛行種の青年、ヨタカは自身のつがいともいえる人物、人呼んで武器商人と会う約束をしていた。
「遅かったじゃないか、小鳥。まさか我(アタシ)のことを忘れたりとかは……」
「そんなことはないよ、紫月……アンコールや挨拶まわりで少し遅れただけさ……それで、ラスは今日はどうしたんだ?」
「ラスヴェートなら我のギルドのほうで泊まり込みの授業だよ。だから、今日は二人きりでこの町を楽しもうじゃないか」
 軽口をたたきながら歩いていく二人。この場所は以前ヨタカが仮面演奏会のために訪れた街であり、最初に演奏会を運営していた豪商を追い出した街の住民たちが街を変えてくれた恩人としてヨタカを招待したのである。それを聞いた武器商人は商人ギルドとして視察と取引を行うついでに演奏会後のヨタカとデートをしようとしたわけである。
「そうだね……じゃあ、久しぶりに二人きりで行こうか。紫月」
 こうして二人の番のデートがこの街で行われることになった。

「それにしても、この街には楽器屋や服飾雑貨店が多いね……服飾雑貨についても仮面やマントなど顔や体を隠すのに持って来いのものが多いし、これも以前この街を牛耳っていた豪商の影響かねぇ」
 街を歩きながら、武器商人は呟いた。
「そうだね……そういう店が多ければ自然と自分の好みに合う演奏者が集まるとでも考えていたのかもね……」
 武器商人のつぶやきにヨタカは答えた。ふと、ヨタカは一点を見つめて停止する。武器商人も同時に立ち止まってヨタカに訊いた。
「どうしたんだい? 小鳥」
「いや、仕事用にこの仮面がいいと思ったんだけど……思ったより少し値段が高いね……」
「小鳥がそう思うのなら私が勝ってあげてもいいよ。なに、この程度の出費は痛くはないさ。遠慮しないでくれ、ヨタカ」
 彼女が独特の呼び方ではなく本名で呼んだときは甘やかしたい、甘えさせたいときの合図である。ヨタカはそれを汲み取り、この場は武器商人に買ってもらうことになるのであった。
 新しい仮面を買った後、二人は再度歩き始める。服飾や小物類を撃っている店が多く並んでいるその街で、武器商人はとある小物に目をつけた。その視線の動きに気づいたヨタカは少し笑いながら彼女に声をかける。
「どうしたんだい……? 紫月」
「……さっきの意趣返しかい? 小鳥」
 しかし先ほどとは打って変わって武器商人は前髪越しにヨタカを軽くにらんだ。だが、すぐに表情を和らげてこう答えた。
「まあ、小鳥が買いたいというのなら買わせてやっても構わないけどね」
「ふふ……素直じゃないな……」
 こうして二人はそれぞれに仮面と小物を買いあった。二人とも相応の稼ぎがあるからか、こうしてプライドなどのせめぎあいが起こってお互いにプレゼントを買いあうのも、このカップルではたまにある、のかもしれない。


 時間が過ぎていき、街が少し薄暗くなってきた頃。ヨタカと武器商人は自分たちに向けてくる視線に気づいていた。
「どうやら小鳥はこの街じゃモテているようだね。我も嫉妬しちゃうよ」
「そんなことはないさ、紫月……それはそうと、ここで一曲弾いてもいいかい……」
 そういうとヨタカは夜明けのヴィオラを取り出した。その瞬間、ヴィオラを出すのを狙っていた賊がヨタカに襲い掛かる。しかし……
「悪いけど、殺気がバレバレだよ」
 武器商人の攻撃が賊にヒットする。同時にヨタカのヴィオラから不安を煽るような旋律が響いてきた。この旋律を聞き、賊達の戦意は失われていき、そんなところから武器商人による攻撃で次々に賊達はダウンしていくのであった。
「まったく、折角の我たちのデートが台無しだよ」
「でも、紫月にはいい刺激になったんじゃない……?」
「この程度の相手じゃ肩慣らしにもならないよ。それにしても、何をしたらこんな奴らに襲われるんだい?」
 ヨタカは以前この街に訪れた時のことを細かく武器商人に伝えた。武器商人は少し考えた後で言った。
「はあ、この街も治安はいいとは言えないようだね……しょうがない、あとで我のほうからも支援してやるとするか。あとでラスヴェートと来たときに安心して回れるようにね」
 これにより、武器商人率いるサヨナキドリの助力もあってこの街の治安はさらに良くなっていくのはまた別の話。また、これを通じて武器商人がさらに強くなったことをヨタカが認識したのもまた別の話である。

 そんなトラブルもありながら、街の空も真っ暗になった。そんな夜空が広がる公園でヨタカと武器商人はふたりでベンチに腰かけていた。
「さて、どうだい……紫月はこの街を気に入った……?」
 ヨタカは武器商人に質問した。
「そりゃそうさ。じゃなきゃ、あとでラスヴェートを連れていこうとは思わないよ」
 武器商人の返しに、二人はそろってクスリと笑った。
「この街は一時期一人の豪商によって歪められていたらしいのだが、それ以前も普通に音楽活動が盛んな街らしくてね……だから、俺もたまに来て、こうやってコンサート帰りにデートなんかもしたりしてね……」
「けど、次は二人きりじゃなくてラスヴェートも一緒だ」
 武器商人が冗談も交えて返す。それからしばらくの静寂が訪れる。
「……そういえば、俺たちが召喚されてずいぶん長い月日が経ったな……」
 ふと、ヨタカが呟いた。
「そうだね。我たちも出会いや別れといろんな困難を乗り越えてきたものさ」
「それで、さ……最近新しい曲を自分で書いたんだ」
 突然、ヨタカは武器商人に曲のことを言った。
「そうかぃ……それで、その曲を我に聞いてほしいとでも?」
「そうだよ……一夜限り、一曲だけの、紫月だけのためのコンサートさ。聴いてくれるかい?」
 武器商人は微笑んで返事をした。ヨタカは夕暮れの時と同様に夜明けのヴィオラを構えて演奏を始めた。演奏する曲はただ一つ。その曲名は、『宙の子守歌』。

 演奏が終わり、武器商人は静かに拍手する。こうして一夜だけの、二人だけのコンサートは幕を閉じた。
「さて、そろそろ宿に帰ろうか」
「そうだね、もう夜遅いからね」
 二人は真っ暗な夜の道を二人きりで歩く。数年前に召喚され、いつしか番になった二人。この世界に元々いる人間と外部からの旅人の夫婦やカップルはイレギュラーズたちの中ではよくいる組み合わせだと思われる。だが、『番』という表現をするのはおそらくこのヨタカと武器商人の二人の組み合わせだけなのかもしれない。二人は、他からみれば少し変わったカップルかもしれない。だが、二人の想いは、たとえ片方が異形の存在になろうとも決して変わることのない、強いつながりであることを、忘れてはいけない。さて、二人には今後どのような困難や幸福が待ち受けるのか。それを知るのは神のみか、それとも……

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