PandoraPartyProject

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招かれた小さな客人

登場人物一覧

白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

「んじゃ仕事行ってくるから、頼むねスピ」
 白夜 希。彼女は小児病棟の見回りを済ませて副責任者に対して子供達の世話を言いつける。スピと呼ばれた少女は大袈裟に敬礼のポーズを取った。
「ハッ、スピネル・ブリリアントナイツにお任せあれ! ……なーんてね!」
 演技ぶった身振り手振りで、周囲に見送りに来ていた少年少女達の笑いを取る。希は溜め息を吐き、隣の微笑んでいる少女に対して忠告を一つ。
「オイリ。スピみたいな人になっちゃダメだよ」
「うん……わかった」
 冗談交じりのやり取りに「ひどーい!」と甲高い声が聞こえてから、オイリは思い出したようにスピネルの方に向き直った。
「……そうだ。楽器」
「もちろん、頼まれていた通り用意しておいたよ!」
 スピネルは得意げな顔をする――その手元にエレキギター。
「お前死――ゴホン、今回はオーケストだって伝えてたでしょう?」
 オイリ含めた子供達の手前、言い直す希。スピネルはテヘヘと笑いながら、オーケストラに相応の楽器をいくつか持って来た。
「フルートも可愛いけど、これが簡単そうかも。大きな音が出るし」
 オイリはトランペットを選んだようで、希はそれを見て頷く。オイリのような子が華やかなトランペットの奏者というのも見た目に映える。
「いいんじゃない?」
「おっけー。んじゃ見本を見せるから、指の動きとかとりあえず見ててね」
 そう言って、手本とばかりにトランペットを奏でるスピネル――途端、デスメタルばりの低音域を奏で始めた。爆音に耳を塞ぐ子供達。
「まじで死ねよお前」
 子供達が耳を塞いでいる内に言い放ってから、溜め息。
「……オイリこれ絶対真似したらダメだからね?」
 そもそも真似出来るようなモノなのか、そういった疑問はさておき。オイリはチラリと壁時計の方を見る。
「う、うん……ところでのぞみ、仕事時間大丈夫?」
「やーい遅刻魔」
 茶化すように振る舞うスピネル。希は誰のせいだと文句を言いたくなったが、その時間すら惜しい。
「……お前、後で覚えとけよ」

 場所は変わって、練達のローレットギルド支部。リトル・ドゥーの満面の笑みでギルドの面々に「オイリちゃんからオーケストラの観客に招待された」と自慢し回っている。

『リトルちゃんこんにちは! 先日一緒に劇を見にいったオイリです ≧ワ≦
今度、のぞみの領地の『魔女の楽団』が街の劇場でコンサートを開くことになり、トランペットの演奏を任されて、今死にそうなくらい練習してます
それでもしよかったら観にきませんか!! 場所は――』

「一人で大丈夫か?」
 自慢し回っている彼女に対して、そう尋ねるエディ・ワイルダー。リトルは胸を張って言い返す。
「うん! 大丈夫。何度か行った地域だもん。そうそう迷子にならないよ」
 あぁ、これはきっと迷子になる流れだ。獣人の勘がエディにそう囁いた。
 自分宛にも届いた手紙を見返す。差出人は白夜 希。
 以前、事件があった再現性帝都から彼女達へ演奏の依頼があったという事だ。未だあの区域の考え方については測りかねる部分もあるが、招聘された演奏者ならそう悪い扱いを受けないだろう。
「え、どう行く予定かって? 確か煉瓦の街をねー……あれ、違う?」
 リトルが道順に不確かな様子に、エディは不安そうにする。
「心配なのはむしろこっちだな」

 街灯の灯りが、赤煉瓦の道路を照らすように仄かにきらめく。夜の帳は降りているというのに、その灯りの下には着飾った人達の姿がチラホラと見える。
「まあ、よくこそ。」
「えっと……」
 その中にオイリや他の演奏者、それを出迎えた劇団のマネージャーが混じっていた。オイリのイデタチから外来人の演者というのが判然としているのだろう。周囲の市民からは、奇異の眼差しがチラ、ホラ。
「文句があろうものか。」
 そんな視線に対して睨みを利かせる現地の警官――清次郎とかいったか――彼がそういうと、周囲の人間はパッと蜘蛛の子を散らすように去って行った。
「またすごんでゐるのね。この人の癖よ。あれ以來ずつと。」
「外来人が怪我でもしたら恥となる。」
「その癖が恥と申しても恥にならないんですもの。」
 警官は以前の一件で紆余曲折の末にオイリと協力関係にあった人物だが……それだけに彼女が逆恨みで害されないか心配で仕方ない様子。清次郎はギロリと周囲を見回して、すぐにふてぶてしく人相を隠した怪しい男性を発見した。その男の傍らには――以前暴漢の被害に遭ったリトル・ドウ嬢が居るではないか!!
「また我々から錆を出すつもりか!」
「待ってくれ。違う。俺だ!」

 暫し問答、四苦八苦。

「で、なんであんなあからさまに怪しい格好してたの?」
「外来人だとバレて悶着があったら面倒だと……」
 叱られた犬のようなしょんぼり顔の怪しい男――もといエディ。一緒に劇場へ入場しながらそんな話を聞いて、希は呆れたように笑った。
「まったく、手紙で怪しい格好について忠告してあげたのに」
 それぞれに面識があったのが僥倖であったか、大した誤解は生まれずに済んだ。……あれだけ連携を組んだ清次郎が希の顔を忘れかけていたのは驚きだったが。
「気にしてはないか」
 席に着いたエディは希に話を振る。自身のギフトについて重荷に思った事はないか、と言いたげに。
「いいえ、ちっとも?」
 平然とそう言い切った希の心の内は、判然とせぬ。エディはそれ以上何か言うのは無粋と考え、神妙な顔で黙り込んで幕が上がるのを待った。
 幕が上がれば、ヒソヒソと談話し合っていた観客は一旦静まりかえる。外来人の幼き演奏家、オイリ。その可憐さに「ほう」と息を漏らす老婦人もいれば、目を細めて苦い顔をする人間もいる。その中でやたら攻撃的な人間が「あんな事件が遭った後に不謹慎だ!」――と叫ぼうとした直前

「オイリちゃんがんばれぇー!!」

 エディの隣に座っていた少女のハキハキとした声が罵声を掻き消した。大慌てで彼女の口を塞ぐエディ。
「こういう場では静かにしてなきゃダメなんだ」
「え、わかった!」
 微笑ましさ余りの笑みとも、嘲笑とも取れるクスクスとした声が周囲から漏れる。
 最中、オイリの奏でるトランペットが鳴った。今度こそ観客の皆が口を閉ざし、高い音とが二、三度続いて響いた。
 エディはチラリと周囲の観客達を見やる。その様子は十人十色だが、邪魔を企てようという者は一人も居ない。
(演奏を邪魔しないのが礼節とはいえ……オイリという少女も豪胆な)
 こうなる確信があったから希も最初から口出ししなかったのだろうか。
 演奏に合わせ、序詞を謳う者が舞台に出でた。
「威權相如く二名族が、處は花のヱローナにて――!」

「お疲れ様オイリちゃん!」
 劇が終わるなり、舞台袖の方に飛び入って来たリトル。彼女は「すごかった!」とか「誰におしえてもらったの?!」とか、矢継ぎ早に聞き立てた。
「スピネルって人に教えてもらって」
「優しい人?」
「あはは、たぶんそう。最初はその人や小児病棟の子達に観客をやってもらって――」
 お互いの近況について語らい合う。
 保護者達のおかげで大した不自由ない。食べ物も、着る物も、だから気になった。
「……オイリちゃん。演奏の報酬って何に使うのー? もしよければ“かんぱ”できるよ!」
「んっとね……ローレットの人に依頼しようと思って……」
 少女達の計画が、『アドラスティア』の一粒の命を救えるのかは……これから次第。

  • 招かれた小さな客人完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別SS
  • 納品日2021年09月08日
  • ・白夜 希(p3p009099

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