PandoraPartyProject

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新人Aの感想「えっと……なんか、赤かったです」

登場人物一覧

咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女

 特異運命座標、イレギュラーズ。彼ら彼女らは混沌世界を救う『可能性』を集めるべく召喚された……ある種、世界に選ばれたとも言える者達だ。
 大規模召喚直後、あるいはその以前こそ特別に重要視はされていなかったものの、もはや状況が違う。大魔種を打倒し。竜種を封じ。新天地を開拓したその成果は、イレギュラーズへの期待感を否応無しに膨れ上がらせた。
 結果として、このような企画が成り立つほどに。


「あー。そういう訳で、今回貴殿らに模擬戦を見せる運びとなった。拙者は咲々宮幻介と申す」
「私は茶屋ヶ坂戦神秋奈よ、よろしくね!」


 新人イレギュラーズ……中でも旅人や非戦闘員だった者達を集めての演習及び戦闘のレクチャーが行われる事となった。初期の頃には考えられなかった企画だが、今やイレギュラーズもかなりの大所帯。レベルもピンキリとくれば、このような機会が設けられても不思議では無いだろう。
 教官は現職のイレギュラーズが務める事となった。前線に立つ者の中でも特に上位に位置する者達の中から今回選ばれたのは『傷跡を分かつ』咲々宮幻介(p3p001387)と『奏でる記憶』茶屋ヶ坂戦神秋奈(p3p006862)であった。両者とも腕は立つが、若干癖のある人選。とはいえ、たまたま予定が空いていて、かつ引き受けてくれたのがこの二人なのだから仕方が無い。なんならもっと癖のあるメンツになった可能性を考えれば、幸運と考えておいた方が良いだろう。
 とはいえ、それは道理を理解した者にとっての判断であって、新人達から見れば不服のようだ。


「あんなチビと女がやり合ってるのを見せられたからってどうだって言うんだか……」
「もっと他に居なかったのかよ、ははは!」
「言ってやるなよ、言うほどの組織でも無いんだろ、ローレットっていうのも」


 確かに小柄な男女、しかも細身の二人の姿を見て、素人に強さを窺い知るのは難しいだろう。注意深く見れば、その危険さを感じ取れるものの……彼らには望むべくも無い。特に旅人、それも以前よりも実力を増す形でレベル1になった者の中にはその力に酔う者も少なくない。実際、レベル1でも一般人よりは格段に強いのだから。
 とはいえ、しっかりと現実を見てもらわなければならない。


「HAHAHA、なんだなんだ。ワラワラとぼっちゃん嬢ちゃんが居るかと思えば、面白そうな事やってんじゃねえか。なんでミーを呼ばねえんだか」
「あ? 誰が坊ちゃんだっ……て?」


 たまたま声を聞き、全能感に任せて文句をぶつけてやろうと思った新人Aの目の前に居たのはグラサンを付けた尋常ならざる体格のゴリマッチョ。彼は思わず言葉を引っ込めてしまった。


「おっと、ミー……じゃない、俺の事は気にするな。今日の俺はただのモブマッチョだ。それより向こうを見ときな。お前らじゃ分かんないだろうから、特別に暇してる俺が解説してやるよ」
「な、何を勝手な……!」
「いいから。黙って見ろ」


 言うが早いか、果敢に吠えかかった新人の頭をひょいと掴み上げると、無理矢理今日の主役達の方を向かせてしまった。


「う、動けない……っ!?」
「HAHAHA、他の連中は……コイツと違って賢明だよな?」


 幸いなことに、既に文句を言える状況では無いのを悟らなかった者は一人も居なかった。よく見れば周囲には同じような目に遭っている者達もチラホラと。どうやら暇を持て余したイレギュラーズが集まってきたようだ。酒瓶を抱えた者や見た目だけは楚々とした美少女、バイク等、メンツを見ればこの場に呼ばれなかった理由はお察しである。


「何故か新人達も落ち着いたようだし、そろそろ始めよっか?」
「そうさな。いつまでも呆けていては、仕事も終わらぬしな」


 両者、距離を取って各々の構えを取る。形式は闘技場と近いだろうか。ヨーイドンで始まる文字通り試し合いの形を取っている。
 携えた武器はどちらも刀。しかし趣きは大きく異なっている。未来的、西洋的な秋奈のそれとオーソドックスな幻介の日本刀とではとても同じ武器とは言い難い。その有り様もだが、むしろ違うのはその使い道だ。


「常の如く。先手は拙者が頂く」


 咲々宮幻介の強さは、何においてもその速力を旨とする。易々と対戦者を置き去りにする様は、彼を知る人物にすれば、見慣れた光景とも言える。
 踏み込みと同時に最高速。縮地の如き身のこなしで放つ、その名は虹の剣。虹光。袈裟かと思えば斬り上げ、構えれば払いに転ずる変幻自在の太刀筋。それらは間断なく連なり、秋奈の身を斬り裂いた。
 そして、振り抜いた次の瞬間には間合いから遥か向こうへと消え去っている。


「き、きったねえ……」


 一人の新人がそう呟いた。確かに幻介の戦術はお世辞にも堂々としたものではなかった。


「だが、強い。当たらなければ、届かなければ、如何なる攻撃もその意味を無くす」


 実戦は綺麗事では済まないという点を学ぶには、なるほど幻介は適材かもしれない。名より実を取るその戦法は、極めてリアリズムに則ったものだ。
 とはいえそれも、無敵というにはまだ足りない。果たして幾人が気づいたものか、“戦神”秋奈はやられっぱなしで終わらない。


「相変わらず、厄介なもので御座るな。羨ましき天賦だ」
「そういうあなたも、いつも通り速い速い。っていっても、私ちゃんだってタダじゃあやられてあげないけどね!」


 絶対に届かない? 否、絶対では無い。仮に追いつけずとも、互いに得物は刀と来ている。簡単な話だ。幻介が刀を振るうその時——必ず間合いは重なるのだから。
 幻介の太刀は才無き者が血の滲む努力の果てに握りしめた致命の一刺しならば、秋奈のそれは生まれ出た理由そのもの。争い、壊す者としての彼女の本質。その設計図に、間違いは無い。
 秋奈がその本能、執念で以って放った条件反射のカウンター。それは確かに幻介を捉えていた。
 秋奈と幻介の耐久性を比べたなら、圧倒的に彼女に軍配が上がる。深く踏み込めば踏み込むほどカウンターは威力を増し、幻介の体力を削るだろう。無論、後手に回り続けたならいつかは幻介が上回るだろう。しかし。


「たった一手のミステイクで、文字通り消し飛ぶぜ。あの手は幻介の奴にしても苦肉の策なのさ。脆いが故に、奴は速さを信じた」


 ならば、戦いは膠着するだろう。どちらにとっても勝敗が不確かならば、躊躇いが生まれる。
 新人達の予想は概ねコレだ。それも仕方が無いだろう。大半は流血すら見慣れぬ者ばかりなのだから。
 ——大馬鹿者、戦狂い、あるいはその自覚があるかも不確かな者達の考えなど、分かろうはずも無い。


「試し合いとはいえ、両者一太刀。……引けぬなぁ。引けぬよなぁ。戦神よ?」
「あたぼーじゃん。ニュービーの前だからって日和ってるのかなぁ、幻介ちゃんよぉ〜?」
「ぬかしたな?」
「ぬかしたとも!」


 千日手などクソ喰らえと言わんばかりに両者同時に刀を抜く。然して鍔迫り合いなど起ころう筈もない。それはそうだ、どちらも防ぐ手立てが無いのだから。
 袈裟掛けに胴を斬りつける幻介に、足を払うように秋奈。喉を突き狙うが浅く、逆に横腹を薙がれ。面を狙うが同様に面で返され後退し。小手を打てど骨に弾かれ、その隙をつけども胸に赤が一筋走るのみ。
 徐々に徐々に、“赤み”だけが増してゆく。


「HAHAHA、そうこなくちゃな! そら見ろ、楽しくなってきたぜ?」
「うぇ……マジかよ……」
「ヒィッ!? 血、こっちまで飛んできてんじゃねえか……っ!」


 幻介にしても秋奈にしてもノーガードでは無いが、どうあっても互いに削り合う他ない状況で、浅い傷を増やし続けている現状。実際には大きな損傷こそ追っていないものの、流れる血の量は一般人から見れば凄まじいの一言。
 口元を抑える者、目を背けようとしてモブマッチョに無理矢理視線を正される者、果ては卒倒する者まで出る始末で。
 ゲームやインターネット、映画やドラマで見る機会はあっても、やはり生で観るのは一味違う。同じ色の赤でも、まさに生々しい。


「そら、どうした! 戦神などと大層な名前の割りには大人しいで御座るなぁ!? なぁ!?」
「そっちこそ! 大した傷でも無い癖に! フラついてんのさっき見たわよ!」
「おっと、戦神殿の血で足が滑って候!」
「芋侍の血で手元が狂ってトドメ刺し損ねちゃったなぁ!」
「「…………」」
「「ははははははははは……斬り捨てる!!」」


 もはやどちらも新人の事など気にも留めていまい。大口を叩く元気はあるようだが、流石に限界が近く。その時は唐突に訪れた。当然、先手は咲々宮幻介が取り。


「——神断」


 敢えての懐。脚を止めての居合い抜き。ここまで来れば同等クラスのイレギュラーズでも見切るが至難の、正しく神速。紛う事なき必殺は確かに秋奈を斬り捨てた。……が。


「おのれ、戦神……」
「言ったでしょ、ただではやられない……ってね」


 戦神戦闘術は最後の最後まで幻介の脚に追い縋った。すれ違いざまの一太刀は、一人倒れる様を良しとせず、道連れの一打と相成り。
 結果は勝負無し。両方負けと見るか、両方勝ちと見るかは見る者の意見で分かれるだろう。


「……やれやれ、拙者とした事が熱くなりすぎたか」
「ややや! 本気を見せなきゃだしね、実戦演習でしょ? ほら、やっぱり迫力ってもんが大事じゃん!」
「……言われてみれば、その通りで御座るな」
「でしょでしょ! ねえ、新人のみんなもそう思うよね!?」


 パンドラ復活により意識を取り戻した両者。流血したためか、頭に上っていた血も落ち着いた様子だ。
 とはいえ、それも後の祭りであって。


「あれ、みんなは?」
「姿が見えないな?」
「新人どもなら帰っちまったぜ。付き合いきれねえってよ、HAHAHA!」
「「…………」」
「立案者のおっさんが頭抱えてたから後で謝っとけよな。え、俺? 俺関係ねえし? じゃあな、HAHAHA!」

  • 新人Aの感想「えっと……なんか、赤かったです」完了
  • NM名Wbook
  • 種別SS
  • 納品日2021年08月30日
  • ・咲々宮 幻介(p3p001387
    ・茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862
    ※ おまけSS『立案者の独白』付き

おまけSS『立案者の独白』

「いやね……私だってあの二人に任せたかった訳じゃなくてね……もっと正統派で常識的な子達に任せたかったですよ! でも出払ってたんだから仕方ないじゃ無いですか! これでも気を遣ったんですよ!? 残ってた中で一番まともだったのがこの二人だったんですよ! 二人とも見た目は威圧的じゃないし戦闘スタイルも比較的まともな部類だから、大丈夫だって思ったんですよ……!」

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