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SS詳細

『いつもの』はんなり旅行

登場人物一覧

音呂木・ひよの(p3n000167)
綾敷・なじみ(p3n000168)
猫鬼憑き
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
越智内 定(p3p009033)
約束

 ひよのと花丸が二人でPINEで連絡を取っていることを定は理解していた。
 勿論、その二人が一緒に出掛けようと誘ってくれて、なじみが一緒で。女子三人と「男? 俺一人!」になることだって分かっていた。
 希望ヶ浜中央市街で駅前で待ち合わせてクレープを食べたりパフェを食べたり、それこそゲーセンに行ったり……良く在る休日を過ごすのかと思いきや、集合時間が早い。
 朝7時に駅前で。
 そんな連絡にラジオ体操でもするのかよ、とぼやいたのは数分前のこと。
 少し大きめのバッグにお菓子を大量に詰めた花丸がやって来た後、ハンカチとティッシュを持っているのかとひよのに叱られているのを見たのはついさっき。
 そして――「やあやあ、皆! 今日は再現性京都に旅行に行くんだって? やったー、なじみさん行ってみたかったんだよね!」
 日帰り旅行に行く事を知ったのは、今である。

「え?」
「どうしたの? ジョーさん」
「待って。今、なじみさん何て言ってた?」
「え? なじみさん? 行ってみたかったんだよね!」
「違う。その前」
「やったー」
「違う! その前!」
「やあやあ、皆!」
「行きすぎ!」
「……今日は再現性京都に旅行に行くんだって?」
 茶番を繰り広げてしまうほどに、定は混乱していた。どうして混乱しているのかを分からないなじみも混乱している。
 何をそんなに騒いでいるのかと合点がいったひよのは「花丸さん」と傍らで朝ご飯代わりのサンドイッチを食べていた花丸を呆れた様子で一瞥する。
「定さんに伝えてないんですか? これから、何処に行くか……とか」
「あ!」
「あ、じゃないよ。酷いぜ、花丸ちゃんってやつは。僕にだってそれなりの準備は必要だとは思わないのかい? まあ、何となく予感はしてたから準備はしてるけどさ」
 なじみが何を着ていく? と質問してきたことや、おやつがかぶらないように連絡してきたことを考えれば遠方へ遊びに行く気はしていた。
 勿論、なじみがチョコレート系を選ぶというのだから定はキャンディーやガムを揃えた。それ以外はコンビニで適当に購入すれば良いだろうという考えだ。
「そうですね。行く場所は知らなくても準備万端っぽかったです」
「ひよのさんは割と軽装だよね? 聞かされてなかったのかい?」
「ああ、実は知り合いが居て。其方に必要なものを送付しておいたんです。まあ、何が必要かという話については後のお楽しみです。
 定さんは心しておいて下さいね。それでは早速電車に乗りましょう。なじみ、花丸さん、チケットは持っていますか?」
「「勿論!」」
「あ、定さんの分はこれです。定さんの事は心配してないんですが……なじみが切符を無くしてしまわないように注意してくださいね」
 定はひよのさんってお母さんみたいだな、なんていう感想を抱いたのだった。そんな『いつもの』四人組、再現性京都日帰り旅行の始まりである。
 案外、再現性都市同士の往来は行われているらしい。ひよのはルートをチェックし、引率係の先生のようになじみと花丸を着席させる。
 向かい合わせに変更した椅子に座った花丸は「楽しみだね!」と早速駅弁に手を掛けた。
「ちょ、早くない?」
「え? ジョーさん。朝ご飯だよ?」
「さっき、サンドイッチ食べてたじゃん。え、付いたらランチで古民家カフェとかじゃないっけ?
 僕楽しみにしちゃって、つい、待ち時間の間にコンビニでガイドブックを買ったレベルなんだけど」
 慌てる定の横から顔をひょこりと出して「ガイドブック見せてー」となじみが身を乗り出した。花丸の隣でおしぼりを用意するひよのはペットボトルを窓際に於いて車窓をぼんやりと眺めて居る。
「なじみ、立っちゃダメですよ。他の人に迷惑が掛りますから」
「はーい。あ、ひよひよのお知り合いの人ってどこら辺に住んでるんだっけ? ここって行ける?」
 定からガイドブックをひったくり済であったなじみが指さしたのはクリームソーダが美味しいと有名なカフェ。可愛らしく所謂『映える』として人気であるというそれが何処の店舗であるかをひよのはまじまじと眺めてから「行けますよ、でも……そんなに食べるんですか?」と応えた。
 勿論、そんなに食べたり飲んだり。どちらかと言えば花より団子ななじみと花丸。桜の季節ともなれば、風景を楽しみたいものだが――それを楽しむならカフェからでも良いじゃないかと言う気持ちが滲んでいる。
 なじみの隣でそのページをちら、と眺める定は京都のガイドブックって皆、着物を着て散策みたいなムーブメントなんだな――なんて考えていた。成程、『リア充イベント』ってやつはそう言う装いから変化するのだろう。女子三人と男子一人なんていうとんでもないバランスの一行なら着物を着る機会も屹度無い……何となく女子旅にお邪魔した気になって肩身が狭い定の口へと突然突っ込まれたのはカリフラワー。
「むぐ、」
「食べてー? 美味しい?」
 小さなサラダを適当に売店で購入していたなじみはぐいぐいと定の口へとカリフラワーを押しつける。箸に付いていたドレッシングが何となくしょっぱい。
 ひよのが嘆息しながら「なじみってカリフラワー嫌いなんですよ。あと、グリーンピース」と呟いたその言葉に「そうなんだ……」と呟くことしか出来なかった越智内定、青い春なのであった。

 ―――――――――
 ―――――

「ついに~~~!」
「着いた~~!」
 やったーと雲も掴めそうな程に伸ばした腕。なじみと花丸のテンションは急上昇。再現性京都に降り立って、案外近代的な駅舎の中を歩きながら定は「どこから行く?」と問うた。
「ああ、まずは私の知り合いの家に寄っても良いでしょうか?」
「え? あ、ああ、良いけど。荷物を送ってあるんだっけ」
「ええ。……知り合いの家が喫茶店もしてますので、よければコーヒーでも飲んでいきましょう。休憩です」
 地下鉄を乗り継いで行きましょうと提案するひよのに道案内を任せて、一行は進む。因みに、電車を降りるときになじみが切符をなくしたと騒ぐ為、可愛らしいマスコットのポーチに今後は仕舞って置くことに決めた。
 辿り着いたのはこじんまりとした喫茶店であった。「ひよちゃん、いらっしゃい」と京都訛りの言葉が聞こえてきて定は少しばかり感動した。聞き慣れない方言ほど嬉しいものはない。
「荷物、無事に届いとるよ。座敷開けてあるから、そこ使つこてね」
「はい。ありがとうございます。ああ、この子……男の子は置いていきますので、お手伝いでも何でも」
「え?」
 言ってることが違うと驚いた定はアイスコーヒーが提供されたが、暫くは女将さん(と、ひよのが呼んでいた)の話し相手になる事が決まった。
 女性陣は何をしているのだろうかと思いながらも言われなかったことを殊更に聞き出すのは野暮な気がして定は口を閉ざして実を堅くしているだけであった。
 少し時間が経ち、顔を出した花丸は華やかな赤と黒の混じった着物を着用して姿を現した。
「じゃーん、どうかな?」
「お、いいじゃん。馬子にも衣装っていうんだっけ?」
「そんなこと言う?」
 揶揄うように笑った定に花丸もくすくすと笑った。ひよのが着付けてくれたというそれはわざわざ音呂木の家からここまで郵送しておいたのだという。ひよのの実家である音呂木神社には浴衣や着物が余っている程なのだそうだ。一人娘であるひよのも普段着は洋服を好むが、外出着に着物を選ぶことがある。そうしている内にお下がりやら何やらで溜まりに溜まっていたらしい。つまり、風通ししておかねば良いものも悪くなる。再現性京都に遊びに行くなら折角なら着物を着ようというのが今回のテーマであったらしい。
「花丸ちゃんによく似合ってるよ。手袋はレースなんだ?」
「そう。着物に合うようにって。あと、靴は下駄じゃなくて歩くからブーツ。それから日よけの帽子も可愛いでしょ?」
「うん。良いと思う。着物の中に洋服を合わせてあるんだね。それならリュックを背負っても合いそうだ。和洋折衷ってやつ?」
 そんな風にコーディネート談義をして居れば、襖を勢いよく開けてなじみが飛び出してきた。彼女も着物姿である。どうやら、なじみの場合は尾がある都合ではだけても安心しようであるらしい。
 襦袢の代わりに黒いレースのブラウスを着用し、薔薇を描いた洋風の着物にスカートを合わせている。帯の代わりにベルトをしっかりと止め、なじみの尾が不自由ないようにしてあるようだ。足下も黒いブーツ、耳を隠すのはベレー帽だ。
「どうかな? どうかな? 似合う? 本当はひよひよみたいな普通の着物に憧れたんだけど、なじみさんってば尻尾があるからさ!」
「ええ。その尻尾ではだけてはしたない姿を見せるのならば最初からソレを許容するのが良いかと思いまして」
 奥から現われたひよのは桜のかんざしを飾り、レトロモダンな雰囲気の着物を着用していた。なじみの言うとおり、ひよのが一番基本に忠実である。
 下駄をからりと鳴らしたひよのは「なじみと花丸さんは慣れてないでしょうからね」とブーツの着用を促したのだろう。がま口バックを手にしたひよのに定は「うんうん、良いチョイスだよ」と誤魔化すように言った。
「でしょでしょ?」
「さ、ジョーさん。コメントは?」
「ほら、定さん。コメントは?」
 ――誰にですか、とは言わずとも理解していた。にんまりと微笑んだひよのと花丸がちらりと見遣ったのはどう考えたってなじみである。
 ひよのに可愛いだとか、花丸に可愛いだとか、そういうことを『女子』に言うだけでもハードルが高いと言うのに。定は「イイトオモイマス」とだけ小さな声で返した。

 早速の着物での古都巡り。寺社仏閣をのんびりと見て回り、それらしい雰囲気の場所で写真を撮る。
 それだけでも観光に来た気分で一杯だ。折角ならば古民家カフェでランチをしようとよさげな場所はガイドブックでもチェック済みだ。
「おばんざい? 季節の御膳? なんだかそう言うの食べたいよねえ」
「菜の花のおひたしとか?」
「あー。おばあちゃんちで食べる奴だよね。なじみさんちは東京周辺で完結してるけど」
「何だかソレっぽいものをソレっぽい場所で食べるだけでも気分が変わるんじゃないでしょうか」
 ああだこうだと言い合いながら、道を歩くだけでも楽しい。からん、ころん。下駄が小さく鳴った。ひよのの歩調に合わせて歩く花丸は「ひよのさん、あれって何かな?」と都度都度質問しているようである。
 どうやら、ひよのは再現性京都には慣れている。彼女自身は東京生まれなのは確かなのだろうが神社の娘である以上、様々な出張が重なって幼い頃から各地の文化に精通しているのだろう。対するなじみはと言えば物珍しさにあんぐりと口を開きっぱなしであった。定は彼女の顎が外れてしまうのではないかと心配になるほどに、なじみはずっとあんぐりと口を開いて虚空を眺めて居る。
「ねえ、定くん。すごいね、ここで昔人が死んだんでしょ?」
「まあ、偉人が死んだりそう言う伝承が残ると石碑が建つからね」
「なじみさんも死んだ場所に石碑とか建つかな?」
「どう……かな……」
 なじみが死んでしまうと言うショックよりも、石碑が建つのかを真面目に考えてしまった越智内 定、高校生男子である。
 流石に石碑は建たないと思うと言い辛くて「なじみさん、ほら、あそこだ。ほら、ご飯の店!」と慌てたように定は指さした。
 レトロな町家をカフェに改造してあるその店は平日であれど混合っていた。4人と伝えれば少しだけの待ち時間の後、店内に通される。
 靴を脱いで座敷へと通された。ふかふかとする座布団に腰掛けてなじみが「ほわあ」と小さく息を漏らす。
「疲れましたか?」
「んー。少しだけ。よく歩いたなって思って。こうやって座敷に座っちゃうと力抜けるよね」
 へらりと笑ったなじみに定は確かにと小さく笑った。運ばれてきたのはワンプレートのランチだ。ミニデザートを選択できると聞き、全員で別々のものを選んでおいた。
 ひよのはガトーショコラを、花丸は自家製プリンを選ぶ。なじみはと言えば、アイスクリームとチーズケーキで悩みに悩み、定が片方を頼むことに決めていた。
「コレ食べ終わったら次は何食べに行く?」
「次は、パンケーキのお店にいって……それからクリームソーダですっけ?」
「よく食べるね」
「女の子は甘いものは別腹なんだよ」
「花丸ちゃんは胃袋4つくらいありそうだけど」
 小さく呟いた定の言葉にひよのが噴き出した。花丸は「じゃあ、その勢いで食べちゃうから!」と胸を張る。
 胃袋4つを満たすが為に、何処に往こうかとガイドブックを頼りに歩き出す。折角ならば満喫したい。それは食だけではなく、目で見る風景もだ。
 ひよのさんと呼び掛ければ振り返った彼女がaPhoneの中で笑っている。そんな風に写真を集めて、後でアルバムを作ろうというのはひよのと花丸の約束だ。
「定くん、やあやあ、良いと思わないかい?」
「何が?」
「ああやって写真を撮るのが。ほらほら、ほら」
 ぐいぐいと引っ張るなじみに促されて彼女の写真を撮ってやれば嬉しそうに「君だけが撮ったなじみさんだ」と彼女は微笑んだ――そういうことを言ってきて、何の意味も無いのがなじみさんだよ、と定は言わずに「そうだね」とだけ返した。
 からん、ころん。下駄の音と共に廻るのはレトロな町家カフェに、自然豊かな古民家カフェ、商店街やお土産屋。そうした店先を覗き、回るだけでも楽しい。
 木材の香りを楽しみながら訪れたカフェはガイドブックで特集されていたわけではないが、観光がてら何となく立ち寄った場所であった。
 近くにある神社に併設されているカフェなのだろうか。レトロなテーブルと椅子が少しずつだけ置かれている小さなカフェだ。人気も少なくのんびり出来そうな空間である。
 壁には本棚が据え付けられており様々な本がずらりと並んでいる。どうやら、階段下収納を本棚にしているのだろう。本を目線で追いかけるひよのに倣ってから花丸はメニューを運んできてくれる店員に気付き礼を言った。
 デザートを見遣れば可愛らしい猫をモチーフにした物が幾つもあった。「見てみて、なじみさんだ」と嬉しそうに指さすなじみに「そうだね」と定は頷いて。猫をチョコレートソースで描いているパンケーキを二人でシェアすることを求められる。
 自然にシェアするひよのと花丸。だが、健全な男子高校生はシェアってそんな気軽にする物なのだろうかと茫然としたのだった。
「シェアしてあげてくださいよ。私は無理ですよ」
「ひよのさんは花丸ちゃんが食べるパフェの上に乗ってるクッキーを食べるんだって」
「美味しかったらお土産に買っていこうかと思って……」
 そんな話になっていたのかと苦笑しながらシェアを決定し、ガイドブックを開いた。随分と歩いて来た。日帰り旅行なら、そろそろ最終地点を決定してから帰る算段を立てなくてはならない。
「どうせならお泊まり出来れば良かったのにねえ」
「そうですね。ちゃんと計画してみても良いかもしれませんが……いいですかね?」
「それ、僕に聞くの?」
 女子三人とお泊まり旅行。そんな言葉に定は、う、と息を飲んだ。イレギュラーズならば仕事で一泊するくらい容易い。花丸にとっては対したことではないのだろう。ひよのも余りに気にしていない。ならば、なじみはと視線を動かせば「お泊まりいいねえ」とノリ気である。
 ひよのはと言えば、夜妖退治などで日常茶飯事の夜の過ごし方なのかもしれないが、なじみは完全に楽しいお泊まり会のノリである。流石に同じ部屋に泊まれないと小さく粒や行けば、矢張り彼女は不服そうだった。
「ふふ、まあ、学校で教室を借りて皆でお泊まりしてみるのとか楽しそうですよね」
「ひよのさん、それ、ついでに夜妖倒そうとか言わない?」
「……」
「言わない!?」
 ――言う。
 ちゃっかりとしているひよのに花丸は「いつもそうやって、楽しいことの『ついで』を用意するんだから」とぼやいた。確かに、ひよのはちゃっかりと何らかの副産物おまけを用意してくることが多い。
「でも、そう言うのならば気兼ねないでしょう?」
「……まあ」
 それなら気兼ねないのかも知れないと花丸は「今度ね」と呟いた。見下ろした腕時計の針が指し示した先が、余りにも進んでいる気がして。
 こんなにも楽しい一日がもうすぐ終わってしまうのだと思うと、何処か残念な気がしてしまったのだ。
 もう少し、着物姿で古都を満喫していたい。我儘なのかもしれないが、ひよのとなじみと、夜妖も関係なく遊べる時間が楽しくて。
「食べ終わったら、ここと、ここ、後此処も行こう!」
「お土産を買う時間が無くなりますよ?」
「ダッシュだよ、ひよのさん!」
 ね、と微笑んだ花丸が勢いよくパフェを食べ出したその横顔にひよのはひょいとクッキーをとりながら「ダッシュだそうですよ、定さん」と微笑みかけた。
 ――なじみがパンケーキを半分以上残したのは言うまでもなく。それを懸命に胃袋に収めたのは定であったことも……言うまでもないだろう。

 ――――――――
 ――――

 希望ヶ浜の灯りは、何時だって眩しい。喧騒の街に、ネオンライトがてらてらと揺れている。
 随分と遅い時間にはなったが、まだ眠る気のない此の街にやっとの事で降り立ったのだと溜息を吐けば慣れた排ガスの香りが鼻先を擽った。
「はあー、満喫したねえ。沢山食べたし、もうこんな時間だし」
「そうですね。花丸さんは思った以上に食べましたね」
 花丸は「そうかなあ」とaPhoneのメディアロールをチェックした。四人で撮った記念撮影や風景、旅の一コマに食べてきた料理達。
 甘味ばかりを食べ過ぎてしまっただろうかと頬に手を当てふに、と弄った花丸にひよのはくすくすと笑う。
「どうしたんですか? 太ったかなあって?」
「えっ、い、いやあ」
「大丈夫ですよ。花丸さんは丸くったって可愛いですからね」
 嘘だあ、と気の抜けた声を出す花丸に本当ですよ、とひよのが手を引いた。「ほら、レモネード飲みませんか」――そんな誘いに乗るわけ……が、あるのが花丸だ。
 東京には東京の。京都には京都の良さがある。レモネードを飲んで今日は解散にしようかと声を掛けるひよのになじみは頷いた。
「お腹いっぱいだから、なじみさんは先に帰るね」
「あ、なじみさん。近くまで送るよ」
 もう遅い時間だから、と。そう声を掛ける定も花丸とひよのに手を振って離れていく。慌てて追いかける彼の背中を眺めてから二人は顔を見合わせて笑った。
「此処にもか弱い乙女はいるんですけど」
「花丸ちゃんのことか弱い乙女って思ってなさそうだよね」
「私のことも」
「……そりゃあ、真性怪異おばけもびっくりして出てこない位だし」
 レモネードを購入数する列に並びながらひよのと花丸はぼそぼそと呟き合って、可笑しくなって噴き出すのだ。

「定くん、楽しかったね」
 ぽそりと、なじみが小さな声で漏らした。隣に立っていた定は話しかけられるとは思って居なかったと驚き、目を丸くする。
「そうだね、なじみさん。今日を満喫しちゃったぜ」
「なじみさんもだぜ。定くんも楽しかったのならよかった」
 にんまりと微笑んだなじみは定の手をぎゅっと握ってから「またね」と囁いてから離れる。
 どうして手を握ったのかと問う暇も無いままに、手を振って走って行く彼女は何処か楽しげであった。

  • 『いつもの』はんなり旅行完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2021年08月31日
  • ・笹木 花丸(p3p008689
    ・越智内 定(p3p009033
    ・音呂木・ひよの(p3n000167
    ・綾敷・なじみ(p3n000168

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