PandoraPartyProject

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こんな俺なんてみとめないっ!

登場人物一覧

スキャット・セプテット(p3x002941)
切れぬ絆と拭えぬ声音
スキャット・セプテットの関係者
→ イラスト

●Scat and ...
 率直に言おう。
 ベルナルド=ヴァレンティーノ――もとい、スキャット・セプテットはご機嫌であった。うっかり性別とか間違えてしまっても、色々と判らないままに設定したお陰で美少女になってしまっても、其れでもログイン直後の彼女(本体は男性なのだが、便宜上彼女と呼ぶことにする)はご機嫌であった。
 何故なら現実世界で犯した罪が、此処では起こっていないというではないか。あらゆる可能性を内包した世界なら、自分はまた宮廷画家を目指しても良いのかもしれない。スキャットは初期地点に迷わず正義を選び、まずは存在しているらしい自分(ベルナルド)の事を徹底的に洗い出す事に決めた。

「……おかしいな」

 何かが決定的におかしいと思ったのは、正義での歴史資料をめくり暫くしたころである。絶対に見ると思った文字列が見当たらない。其の文字は“アネモネ=バードケージ”。
 天義で聖女とうたわれた彼女を再現しているなら、この正義でも――例え聖女でなくとも、歴史書に残るくらいの偉業を成していると思ったのだが。
 もしかしたら普通の少女として暮らしているのかもしれない。其れは其れで、彼女の幸せであろう。そう考えていた。
 勿論自分の名前もなかった。きっとまだ正義で大成していないのかもしれない。只管に絵に夢中になっている時期なのかもしれない。そう考えていた。
 ――甘かった。

 画材を集めるには、あくまで現実世界での感覚だが、伝承が一番だろう。そう考えたスキャットは、伝承の市場で画材を探していた。どうせなら今までやった事のない描き方もしてみたい。石を削りだして、絵具を作る。そこからやってみるのも面白いかも。あ、それからそれから、画家がやっているギルドがあるかも捜さなきゃ。そうしたら自分の情報を探り当てられるかも――あいたっ!
 どん、と何かにぶつかって、軽いスキャットの身体はころんと後ろに転げてしまった。女性の身体とはこんなに軽いのか。いたたた、と美少女のボイスで呟きながら、微動だにしない相手をスキャットは見上げる。
「……気を付けてくれよ。大事な画材がつぶれるところだった」
「は……は?」
 ぶつかっておいて、女性の心配もしないなんて! なんて男だ、とスキャットは睨みつけ……其の容貌に目を丸くした。

 自分だった。

 黒い癖っ毛に気だるげな瞳、何故かやや身ぎれいにしているところさえ除けば間違いなく自分、ベルナルド=ヴァレンティーノだった。間違いない。間違える訳がない!
「はああああああ!? なんで此処にいるんだ!?」
「……は?」
 思わず素で叫んでしまったスキャットに、ベルナルドは眉を寄せる。少女とぶつかったと思ったら“何故ここに”なんて言われたのだ、まあそりゃ訝しむのは当然である。
「アンタ、俺を知っているのか? 何処かの画廊か?」
「し、し、知っているもなにも……」
 本人だよと言いたい気持ちを抑える。落ち着け自分。何故“普通に生きてりゃ正義で画家をやってる筈”の自分が伝承にいるのかを、冷静に聞き出すんだ……
「……え、えっと、そうなんです! 実は貴方のファンなんですけどっ」
 おえー。
 演技としては完璧だが、ベルナルドは自分の首を締めたくなった。なんで女になってしまったんだろう。判らん。
「ど、どうして伝承にいるのかなー? って……」
「……アンタ、モグリだな。俺が伝承にいる事くらい、画家界隈じゃ常識だろ」
「え」
「というか、大丈夫なんだな? じゃ、俺はこれで」
「え、ま、ままま待って! 待って! 行かないで!」
 スキャットが怪我をしていない事を確認すると、するりと隣をすり抜けて行くベルナルド。スキャットは慌てて立ち上がり、其の後を追いかけた。


●Scat Art
「べ、ベルナルド……さんは、正義から伝承に来て、そこで画家をしていると……」
「アンタもしつこいな。そうだってさっきからいってるだろ」
 結局彼の家らしき建物の前までついてきてしまった。其処までの道程で聞きだせたのは以下の通り。

 ベルナルド=ヴァレンティーノは画家である。此処は変わらない。
 アネモネと共に正義から伝承へ引っ越してきた。ちょっと意味わかんない。
 今はアネモネの世話になりながら画家をやっている。ほんと意味わかんない。

 という事はアネモネとベルナルドの仲は悪くはないという事だろう。いや、現実でも悪いかというと多分そうでもないような……深く考えるのはやめよう。
 兎に角、ただ一つ判った事がある。

 こいつはヤバい。世間を知らな過ぎる。

 これはスキャットの勘だった。
 世間の荒波にもまれてこそ、絵というのは深みを増す。というか、絵を稼業にするためには下積みが必要で、否が応にもほかの仕事をしなければならないのがしばしばなのである。其の過程で得た苦労が絵の中にリアリティとして現れるのだ。
 其れがどうだろう。目の前の男はどうみても苦労してきたとは考えにくい顔をしているし、アネモネの事をそういう目で見てもいない。
 ……いや、まだ望みはある。
「あの……此処まで来たんですから、少し絵を見て行ってもいいですか?」
「勝手に付いてきたんだろ」
「そうですけどっ、思い出にしたいんです!」
 自分の説得というのもなかなか新鮮だと、スキャットは一周回って楽しくなってしまった。うるうると目に涙をためて見つめれば、分かったよ、とあっさりベルナルドは頷き、扉を開いて家に入る。扉は開いたまま。
 ――やった!
 思わずスキャットは美少女らしからぬガッツポーズをした。

 が。
「…………」
 スキャットは絶句していた。イーゼルに乗せられた絵が沢山。これは現実の彼のアトリエでもよく見る光景だ。絵を描いている途中に案が浮かんできて、別のキャンバスにメモだけする。そういう癖がある。
 けれど、このベルナルドは違う。絵に全く現実感がない。師匠に何て言われてるんだろう。この調子じゃ諦められているんじゃないだろうか。
 大事なもの、絵に込めるべき狂気のような感情が一切感じられないのだ。中には大ラフを描き切って、そのまま投げ出されたものもある。というか多い。多いぞラフ止まり。
 それはスキャットにとって、最も許しがたい事実だった。
「……」
「……俺のファンなんて、アンタも奇特だな。どうだ? 一枚買って帰るか?」
 誰が買うかこの野郎。
 そう言わなかった自分を、誰か本当に褒めて欲しい。一歩譲って宮廷画家でなかった事は許そう(許す許さないの問題ではないが)。百歩譲って伝承で暮らしている事も許そう(アネモネは多分幸せなのだろうし)。しかし、絵を遊びとして扱われるのは、非常に、大変、滅茶苦茶に!! 困るのだ。
「あのっ!!!!」
 半分怒りを乗せて、スキャットは振り返った。
 ベルナルドはちょっと驚いた顔をしている。もうこれしか手段がないんだ。頑張れ俺。そうスキャットは己に言い聞かせ――

「お願いです! 私を弟子にしてくださいッッ!!」

 頼む、アネモネの為にも自立しろ。
 頼む、絵を大事にしてくれ。
 頼む、俺をダメ人間にしないでくれ。

 そんなベルナルド……もといスキャットの願いがR.O.Oのベルナルドに届く日は、来るのだろうか。

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