PandoraPartyProject

SS詳細

それは目の醒めるような

登場人物一覧

ユリーカ・ユリカ(p3n000003)
新米情報屋
囲 飛呂(p3p010030)
点睛穿貫

●近くて遠い憧れ
 二親を旅人に持つ囲 飛呂は、生まれも育ちも再現性東京2010だった。
 召喚されるまでは希望ヶ浜学園のごく一般的な学生として、怪異とは縁遠い日々を過ごしてきた。
 日々通学し、友人達との日常に一喜一憂し。試験の度に成績と順位が気になる程度の学園生活を送っていたのだ。

 しかし、憧れはあった。
 この世界に来なければ出会わなかった、人間の父と蛇神の母。自分が産まれるまで二人が過ごしていたという、この東京の外のこと。幻想のこと。ローレットのこと。
 希望ヶ浜での日常からは想像もつかない冒険譚を夢見ては、いつしか自分も召喚されたい気持ちが日増しに強まっていたのは確かだ。いくら望んだところで、召喚されるとは限らないとしても。

 ――そして。その日は前触れもなく、唐突に訪れた。

●運命の日
 召喚直後に『空中庭園』で現状を確認して、ローレットへ案内される。
 親の話でしか聞いたことの無かったローレットへ来ただけでも興奮を覚えるのに、そこで詳細な説明を聞いていくとますますイレギュラーズとして活動することの実感が現実味を帯びてくる。
 イレギュラーズになるなら、ここを拠点に活動することになる――のだろうが。
(学校の勉強よりは楽しそうだし嬉しいけど、突然の召喚だったからな……誰かに心配かけてるかもしれねえし)
 現実として「練達の外でイレギュラーズとして生活する」ことを考えた時、頭に浮かんだのは実家と学園のことだ。イレギュラーズとして活動しながら通学を続ける事は可能らしいが、両親や教師、友人達はどう思うだろうか。
 ギルドを見回せば、頭を突き合わせて相談しているいくつかのグループがある。あれが『依頼』というやつなのだろうか。
「仕事ってなるとめんどくせえな……」
 ならば、イレギュラーズの使命を放棄して家へ帰るか。それなら何も問題は発生しないだろうが、それはそれで――。
『強力な魔獣が村を荒らしているので』
『集落から焼け出された人々が』
『生贄の風習がある場所で』
 漏れ聞こえてくる依頼の説明に、助けるべき人々の姿が見える。
「…………」
 そのような人が存在するとわかっていて放っておくのも気分が悪い。こういう時、我ながら仕方の無い性格だなと思ってしまう。面倒ごとは確かに好きではないのに、一度知ってしまうと他人事と割り切ることができないのだ。
「まー……仕事なら、金入るし。稼げるのは正直ありがたいし。
 やるか……イレギュラーズ……」
 『困っている人を放置して自分が後悔しないため』。動機としてはどちらかと言えば消極的な部類に入るのだろうが、そういうわけで彼はこの地でイレギュラーズの活動を始めることにした。
「ていうかさすがに、親父とお袋に連絡はしねぇと……ぜってぇ反対するだろうけどなぁ……」
 流石に事後承諾はいけないと思う。その辺りの筋は通すべきと思う程度の道理は自分にもあった。
 では、何と説明すべきか。まず、突然いなくなったことの説明についても触れなければ……いや、両親とも旅人ならその辺りは知っているかもしれない……知っているからこそ反対されるかもしれない……何と言えば説得出来るのか……。
 ――などと、思考が堂々巡りの最中にあった時。

「イレギュラーズの皆さん、新しいお仕事なのです!」

 ――それからしばらく、記憶が無い。
 悪戯っ子のような容姿と声。一対の白い翼は天使のよう。
 いや、あれは天使だ。青い髪の天使に違いない。あれが天使でないならこの世界に天使はいない。むしろ『天使』とは彼女のためにある言葉に違いない。
 思い切ってその天使に声をかけようとしたが、気が付けば天使はどこにもいなくなっていた。
「あっ、あのすみません! さっきのあの! 可愛い、天使みたいな子誰!?」
 何としてでも天使のことを知りたくて、近くにいた見知らぬ他人になりふり構わず尋ねてみる。しかしその人は怪訝な顔で逆に聞き返すばかりだった。「つい先程自分から挨拶をしていたのではないか」と。
「えっ……俺挨拶してた……? うっわ……うっっわぁ……」
 思わず頭を抱えてしゃがみ込む。あの第一声以外、本当に記憶にないのだ。それほどの衝撃だったのだ。あれは自分一人に向けられた声ではないし、自分に会いに来てくれたわけでもない。ただその他大勢に向けられたもので、自分もその他大勢の一人でしかなかった。
 本当にただ、それだけのことに――これほどまでに乱されるなど、初めてのことだった。
「すみません……ちょっと、ぼーっとしてたみたいで……」
 記憶が飛ぶ程度に頭が働いていなかったのは事実である。恥を忍んで、もう一度天使の情報を教えてもらった。
 名前はユリーカ・ユリカ。このギルドに所属するスカイウェザーの新米情報屋で、19歳――19歳!?
「あの天使が……俺より……年上? 二歳も!?」
 それなら敬語を使うべきか。少なくとも呼び捨てでなく「さん」は付けた方がいいかもしれない。何にせよ可愛い。年上だろうが何だろうが可愛いのは変わらない。
「決めた」
 そしてこの瞬間、他の何にも勝って優先される揺るがぬ目標ができた。
「親きっちり説得して、イレギュラーズの活動もやってやる」
 これだけは否とは言わせない。その為ならばどんな条件だって呑んでいい。
「それで活躍すれば、情報屋のユリーカさんに一目置いてもらえるかもしれねえ!」
 この人生初めての衝撃と興奮を何と呼ぶのか、この時の自分にはまだわからなかった。ただ、認めて欲しいとは思った。『その他大勢の一人』ではなく、『囲 飛呂』に向けて声を掛けて欲しいと思った。声を掛けたいとも思った。
 その後のことはまだわからない。今はただ、あの天使に認めてもらえることを始めたい。

「やってやろうじゃねえか!!」

 一人の少年が大真面目にイレギュラーズとして奮闘することを決めた、その一日目。
 彼を最終的に動かしたのは義侠心でも、使命感でもなく、ただ一人の天使への情熱だった。

  • それは目の醒めるような完了
  • GM名旭吉
  • 種別SS
  • 納品日2021年08月24日
  • ・ユリーカ・ユリカ(p3n000003
    ・囲 飛呂(p3p010030
    ※ おまけSS『それを恋と言うならば』付き

おまけSS『それを恋と言うならば』

●ユリーカさんマジ天使
 『イレギュラーズになりたいなら成績を落とすな』――その条件の下に両親を納得させ、晴れて正式にイレギュラーズの仲間入りを果たした囲 飛呂少年。成績を落とさないためには、当然学校の課題や試験をこなす必要がある。
 そんなわけで、試験勉強や課題が忙しい期間は比較的学業を優先させている。それでも追い付かない時は、申し訳ないがイレギュラーズの依頼を休んででも学業に集中する。そうしなければイレギュラーズの活動自体を止めざるを得ないからだ。そのように約束したのだから。彼は筋は通す男なのだ。
「それ『一目惚れ』じゃね?」
「ラブラブかよマジで!」
 今はまさに試験期間直前。休憩時間にクラスの友達と教科書を突き合わせながらローレットで出会った『天使』の話をしたところ、そのような反応が返ってきた。
「『一目惚れ』……これが……? マジで……? 姿も声もヤバいんだユリーカさんは……」
「ヤバいじゃわかんねーよ、可愛い系? 綺麗系?」
「ふざけんな、そんな枠に収まんねえんだよ天使は! ……敢えて言えば可愛い」
「どの辺が? 背が小さいとか?」
「まあ……小さい……小さいけど俺より年上……でもぱたぱたしてて……目が離せなくって……マジで天使でしかないじゃんあんなの……天使って実在するんだよわかるかお前らに……」
 半ば放心状態で教科書に突っ伏する飛呂少年。勉強どころではなさそうである。
 試験は大丈夫だろうか。
「天使が……実在する……ってことは……ローレットは……天国……? 俺は一度天国へ召された……? だから記憶が飛んでるのか……?」
「天国へ召される前に赤点で追試になったりしてな」
「追試になったらユリーカさんに会えねえ! 今から死ぬ気でやるからな、もう試験範囲完璧に覚える!」
 そう宣言して一度は大真面目に教科書の文章にラインを引き、内容を頭に叩き込み始める飛呂少年。しかしそう時間を置かないうちに、再び窓から遠くを見つめ始めてしまう。

「ユリーカさん…………マジ天使………………」

 一目惚れってこええ。
 飛呂少年の友人達は、変わり果てた少年の姿に面白さ半分、恐怖がその更に半分、残った気持ちで密かに彼を応援するのだった。

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