PandoraPartyProject

SS詳細

Please crazy for me.

登場人物一覧

ノア=サス=ネクリム(p3p009625)
春色の砲撃
ノア=サス=ネクリムの関係者
→ イラスト

ーーねえ、ゼノ。私だめなの。このままじゃ、胸が張り裂けて、壊れちゃう。
……だから、早く、帰ってきて。そして、私を……。






 舗装の合間に生えた雑草を踏み、ざっざとビニル袋を揺らし、少年は歩く。その中身は、姉が『今日は絶対に呑むんだから!』とゴネていた、お気に入りの酒とそれに合わせたおつまみ各種。そんなに仕事で嫌な事があったのだろうか。
その姉はどうせ今頃、薄着でソファーに転がっているのだろう。そして帰ってきたゼノに『早くちょうだ〜い』等と言うのだろう。全く人の気も知らないで。
いつもの店は思いの外客が多く、気づけば街灯の点く時間帯。ちょっとした買い物が、想定以上に遅くなってしまった。姉が暢気なのはさておき、心配をかけるのは忍びない。そう思うと、家路を急ぐ足が早まった。

やがて見える姉弟の住処。しかし、今日は何かがおかしい。窓は閉まり、部屋には明かり一つもついていないのだ。
まだまだ部屋に暑く不快な空気が篭る季節だというのに。そして、世界は今まさに、夜に変わろうとしているのに。

「まさか、姉さんに何かあったんじゃ……!?」

急ぎ駆け出すゼノは、すぐに我が家のドアノブに触れる。鍵は掛かってない。不自然な傷も乱暴に開けられた形跡もない。姉のズボラさを考えるに、『俺が買い物行ってる間は鍵閉めててよね』という忠告をあっさり破った可能性も充分にあり得る。……となると姉は、空調を利かせるためにあえて窓を閉め、ドアをそのままに、ソファーで眠り込んでしまったのか?

「姉さん!」

とにかく、すぐにリビングに飛び込むゼノ。
その瞳に映ったのは、ソファーに身を横たえ、とろんと眠たげな目をゼノに向ける姉の姿だ。案の定と言うべきか、シャツ一枚にショーツという装いのノアは、彼の姿を見るなりゆっくり身を起こす。

「なんだ、寝てただけか……まったく。電気つけるよー」

心配して損した。安堵の息と共に、その手をスイッチに伸ばした時。

「だめ」

細い指が絡めて捉えて、彼の手首を引いていく。自分が元いたソファーに、導いていく。

「……姉さん?」
「こっちよ、ゼノ」

その目が、あまりに真っ直ぐ自分を見るものだから。追い詰められるかのようにソファーに背を預け、そう躾けられたかのように、そのまま座すしかなかった。かさり、ビニル袋が手から擦り落ちる。

「ねぇ、ゼノ」

その姿に、満足げに姉は笑う。そして、同じ血の流れる姉弟でありながら、確かな違い。自分よりも大きな手を、普段よりもずっと豊満に膨らんだその胸に、そっと押し当てて。

「おねえちゃんの胸、見て。触って……」

その言葉と共に、レースの境界線が、ゼノの太腿にのしかかる。逃さない、どこにも行かせない。
部屋に明かりは無くとも、妖しく淫靡に灯る宝珠が、物欲しげな表情を照らし出す。その輝きを掴むように、惹かれるように。ゼノは自ら、ノアの胸に手を伸ばした。

「ん、もっと下……」

その言葉通り丘陵を撫でれば、小さく漏れるは歓喜の音。その声と共に、一層強く姉の匂いが発せられたような気がして。
窓が開いていない分、香りは密にこの空間を満たしていき。姉のいない空気を吸う事などあり得ない。彼女の匂いから遠ざかる事など信じられない。そんな風に思ってしまう程に、理性を溶かし、脳髄さえも侵していく。

「おいで、ゼノ」

そう求められてしまったなら、たまらず彼は、蜜を求める虫のように、顔を近づけ頬を寄せる。その頭を、食虫植物のようにそっと包み、離さない。

「姉さん……」
「ねぇ、ゼノ」

不意に耳孔に投げかけられた甘い声。

「もっと、もっと。好きにしていいんだよ」

それがとどめとなって、弟の良心はいとも容易く崩れ落ちた。
膨らんだ期待を存分に貪るように、姉の願いを受け止めるように。その胸に口吻け、ときに吸い上げ、時折舐って。息荒く、呼吸を繰り返す。
触れて、揉んで、味わって。シャツ一枚の壁なんて脆いもの、

姉さんの、気持ち。姉さんの、匂い。俺の、俺だけの姉さん。全部俺のもの。誰にも渡したくない。どこにも行かないで……!

ーーああ、そんなに必死になってくれるなんて。なんて貴方はかわいいの。

暗がりの元、自身の顔よりも大きく実った果実へと埋め、姉を求めるその姿。
その姿が、あまりにも愛らしいものだから。

「ゼノ」

 姉の声に反応した一瞬。その隙をついて、彼の頭をソファーに押し付け、横たえる。姉が普段ソファーでだらけている時と体勢は似ているが、決定的に違う事が一つある。
腰に感じる熱と肉感。黒いレースの境界線、その頂に冠の如く刻まれた淫紋。……自分の知らない、姉の姿。指が白蛇のように、つ、とゼノの喉を、胸を這いずる。

「……今から、おねえちゃんのするとおりにしてくれる?」

じ、と何かを期待するように、彼を見つめる桃色の瞳。熱に浮かされた空色は、こくり、肯定だけを返す。
ゼノの回答に、にこっ、とノアは微笑む。天使、いや女神のような神々しささえ覚える笑顔。その下で、ぐりぐり、と。布越しに刺激する。

「あっ……」
「逃げちゃだーめ」

『やめて』と動いた口を封じるように、胸ごと顔に覆い被さる。
汗と唾液で湿った胸は、彼の頬から耳にまでぴとっと吸い付いて、谷間の奥まで柔らかく纏わりつく。

「じゃ、さっきの続き。『お願い』ね?」

そう声をかけたなら、再びゼノは、さながら母に甘える子のように、渇きの果てにようやくオアシスを得た旅人のように。最早ゼノを惹きつけるのは、姉の匂いだけではない。触れる度に漏れる吐息、暗がりの中でも確かにわかるボディライン、全てが、欲しくてたまらなくて、少しでも長くこの時間を長く続けたくて。

ーーああ、この子は本当に私の期待に答えようとしてるのね。本当に、いい子。

ご褒美に、下敷きとなった腰周りを撫でてやれば、それだけでひくんと肩が跳ねる。ノアの期待を、弟は一生懸命に溶かしていく。姉を見上げるゼノの視線は、今にも泣き出しそうな程に潤んでいる。……ここで本当に壊してしまうのは、容易いけれど。

ーー今日は、ここまでにしてあげましょう。でも、最後にこれだけ。

「ゼノ」
「何、姉さん……?」

震えた声に、微かに上下する喉仏。ああ、やはりこの子はかわいい。かわいいこの子がこんなに頑張ってくれたのだから、これは今日のお礼。

触れ合う唇。その感触は軽く、柔らかい。
その瞬間、何かのスイッチが切れたかのように、がくんと脱力。先程までの妖艶な表情が嘘のように、無となってゼノに重くのしかかった。

「えっ……ねっ、姉さん!?」

自分に全ての体重を預け、動かない姉。何か良くない状態なのではと、その肩を揺さぶって見ると。

ーーすう、すう。

「……寝てる?」

これまでのこの流れで? 嘘だろ?
軽く頬を叩いても見るが、やはり目覚める様子はない。

……もしかして、さっきまでのは最初から全部夢で。自分はそもそも買い物なんか行ってなくて、このクーラーが利いた涼しい部屋で休んでいたら、姉がやってきて。そのまま二人して眠ってしまったのだろうか?
妙に火照った自分の身体に反し、部屋の空気は涼しく乾いている。自分はいいけれど、薄着の姉は、このままでは風邪を引いてしまう。

何かかける物はないかと手を探り探り伸ばしてみれば、かさりとした感触に当たって。
引き寄せてみれば、姉の大好きな甘口の酒と、塩味の強い乾物おつまみ。そして、今日夕方の時間に刻字されたレシート。

……買い物に行ったのは、夢じゃなかった。
それじゃあ、どこから夢で、どこからが現実なんだ?
もしかして、全部が現実……?

そうやってぐるぐると自問自答を重ね、どれだけ経っただろう。
不意にガバっと、ノアが起き上がった。

「ふぁっゼノ!? ……っていうか暗っ! 今何時!?」
「まあ……夜だよ」
「やだ私ったら、こんな時間まで寝ちゃってたの!? あっ、頼んでたの、買ってきてくれたのね。ありがと〜! 後でこの分のお金渡すね!」
「別に……姉さんのためだったら」

望み通りのものをちゃんと買ってきた弟を、ノアはぎゅっと抱きしめる。頬を擦り寄せる。コロコロと表情を変える姉の姿は、普段と何も変わりない。先程はあんなに大きく張って見えた胸も、(それでも常人からすれば大きい部類に入るのだが)平素と変わりない、そこそこの大きさに思える。やはり、あれは夢だったのだろうか。

「……って、やだ、部屋ちゃーんと涼しくしてたのに。いつの間に汗かいてたの? ベッタベタ……気持ち悪い……ごめんゼノ、お姉ちゃんくっついちゃって!」
「……別にいいよ。それよりシャワー、浴びてきたら?」
「ん、そうする。じゃあゼノ、それ『お願い』ね!」
「姉さん」
「どうしたの、ゼノ?」

『さっきはなんで、あんなことしたの?』
『さっきの姉さん、普通じゃなかった。おかしいよ』
『俺にできることなら何でもするから。悩みとか、嫌な事があるなら話してよ』

本当ならは、これが聞きたかった筈だ。本来ならば、先程の姉と今の姉、その違いを確かめたかった筈だ。今目の前にいる姉と、先程自分を求めてきた姉の姿。顔は同じでも、そこには明らかに大きな違いがあった筈だ、けれど。

「……ううん、なんでもない」
「そう? じゃ、行ってきまーすっ!」

ペタペタ素足を鳴らして、シャワー室へとノアは駆け込む。
己の指で、唇の感触を確かめる。確かに、あの時感じた柔らかさ。しかし、どこか物足りなさを覚える。自分はなにか、失敗してしまったのだろうか。姉の期待通りに、動くことができたのだろうか?

「姉さん。今度はもっと、上手に応えるから」

どうか、俺のそばにいて。絶対、遠くに行かないで。
その呟きは、シャワーに流され、聞こえない。

おまけSS『I’m crazy for you.』

朝、目を開ける。
家には姉さんの匂いが、ほんの少しだけ残っている。
裏を返せば、これは早くに家を出た姉の残り香だ。

他の匂いに関しては大して変わらないが、この所は姉の匂いに、妙に敏感になってしまった。
姉が家のどこかにいるうちはいいけれど、

でも、大丈夫。

流石に犬のように、匂いを辿って姉を追いかける、とまでは行かないけれど。
姉が帰ってきて、ノブに手をかけるその刹那。

その戸が音を立てて開き、風を連れてくるその直前。匂いで分かってしまうのだ。
姉の帰りが、分かってしまうのだ。

例え自室で寝ていても、他の家事をしていても、何をしていても。

……姉さん、今日は遅かったけど大丈夫?
(今日はその匂いを、どこに振りまいてきたの)

ああそうだ。アレ、洗ってしまっておいたからね。
(俺以外の誰にも、それを感じて欲しくないのに)

全く、俺に家事を頼むのは別にいいんだけどね、姉さんも忙しいんだし。
(ねぇ、どこにも行かないでよ)

……ぐしゃってなってもいいから、ちゃんとバスケットなり洗濯機なりに突っ込んでよ?
(俺だけの、そばにいてよ)

ああそうだ、言い忘れてた。
(まあでも、これだけは言わなくちゃ)

……『姉さん、おかえり』。






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