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ティシエール街、美味探訪〜つるとろWピーチパフェに、季節のフ

登場人物一覧

天閖 紫紡(p3p009821)
要黙美舞姫(黙ってれば美人)

●それは、残暑の味

 ティシエール街は、街の殆どがお菓子で構成された不思議な街だ。
その菓子を味わうのは長らくこの街の住人だけであったが、この所はある冒険者達の協力もあって、ティシエール街への観光客が着実に増えており、それに伴い、街も旅人をもてなす場も少しずつ増やしている。例えば、キラキラ輝くサイダーの海が美しい、シュガーハーバー。それを一望する事ができる、海沿いのカフェ『パフェスリー・カンロ』。
今日もまた、窓際の席で、海を見つめる女性が居た。その髪は白砂のように柔らかく揺らめいて、瞳はこれから時期を迎えるだろうマスカットや巨峰のような、美しい翡翠と紫を湛えている。その腰にある蝶の翅も相まって、まるでどこぞの貴婦人が陽射しを避けて一涼みに来たようにも見えただろう。
彼女の名は、天閖 紫紡。彼女もまた、この街に魅入られた旅人の一人だ。

「おまたせしました、こちら季節のパフェと紅茶のセットになります」

そこに、ウェイターが注文の品を持ってくる。待ってましたと手を叩けば、グラスタンブラーにたっぷり入ったアイスティーと、美しく何層にも盛り付けられたパフェが置かれた。

「わ〜いっ、いっただっきま〜っす!」

 その美しい人は思いの外天真爛漫にスプーンを手に取り、改めて目の前のスイーツと向き合う。
まず何よりも目を惹くのは、パフェの頂上に君臨する真っ白なソフトクリーム、そしてそれを挟むように位置する、半月に切られた黄桃と白桃。
更にその下には、陽光を透かし輝くゼリー。最下層には花火に煙る空を思わせる、仄かな紅のムースが居る。

まず最初の一匙は、当然ソフトクリームへと伸ばされる。
あむ、と口中に入ったそれは、キーンと冷たいばかりではなく、ほわっと口の中で溶けて広がり、ミルクの香りと甘さを伝えてくれる。

「おいひぃ〜! ふぇっ、前よりも美味しくなってる!?」
「ふふ、材料はいつも通り、シュガーハーバーで取れるお砂糖と、ホイップ川のミルクなんですけどね。アイスキャンディーのゴーレムさんが、新しい製法を監修してくれたんですよ」
「へえぇ〜……!」

このアイスを味わうのは勿論、桃にも早く齧り付きたいが、その前に紅茶で口の中をリセットする。スッキリした飲み口の琥珀色とともに、すっと鼻を抜けたのは、夏お馴染みのあの香りだ。

「これって……西瓜?」
「はい、今のシーズンはスイカのフレーバーティーを提供しております」

さて、このパフェの主役たる半月の桃は、匙で取るには少々頼りない。そこで、紫紡は匙をフォークへと持ち替え、まずは肉厚な黄桃へとその先端を突き刺す。そのずしりとした手応えに、ほうと思わず息が溢れた。噛み付いた黄桃の、ちゅるんとした喉越し。果汁とシロップは甘すぎず、しつこくなく、爽やかに口中を刺激してくれる。

続けて刺した白桃は、見るからに柔らかく、下手に扱えば潰れてしまいそうで。これは一口で行っては危ないと判断した紫紡は、取皿に桃を取り分けて、フォークで何分割かに切り分けていく。
そのうちの一切れを口に運んだなら、小さい一切れにも関わらず、とろりと舌の上で潰れて、広がって。

「ふぁぁぁ……とろけるぅぅぅ……」

まさに完熟と言っていいくらいに、最大級の甘さと柔らかさを発揮した桃。
シロップの染みた黄桃と食べ比べているうちに、あっという間に無くなってしまった。

濃厚なソフトクリーム、とろける桃に続く黄桃のゼリーは見た目涼しく、喉越しも良い一品だ。しかしよく見ると、そのゼリーも黄金の部分と、透明に近い部分の二層に分かれている。透明のゼリーにたどり着いた紫紡はあることに気づいた。

「んっ、なんか……ちょっとシュワッとする……」

この正体は何なのだろうと、ちょこちょこ食べては何度もあれこれ考えるが、外をみてはっと気がつく。
このカフェが立つシュガーハーバー。別名フルーツポンチの海。その海水は、夏に爽やかなサイダーで満たされていて。つまりこれは。

「そっか……食べてる人が飽きないように、わざと刺激のある味にしてるんだ……!」

最後に残された白桃のムースは、隠し味にレモン果汁をちょっとだけ。甘い物に満たされた舌がリフレッシュできるように、後味さっぱりとした一品であった。
終始、見た目の美しさと喉越しを重視した一品。濃厚な風味を押し出すだけでなく、さっぱりした後味で爽やかに締めくくる事ができた。
最後にぐいっと、夏の香りを飲み干して。

「ごちそうさまでしたっ!」

満足気な笑みとともに手を合わせれば、美しいその人は、カフェをあとにする。次はどんな美味に巡り会えるだろう?
ティシエールの季節は、これからも巡るのだ。

  • ティシエール街、美味探訪〜つるとろWピーチパフェに、季節のフ完了
  • NM名ななななな
  • 種別SS
  • 納品日2021年08月18日
  • ・天閖 紫紡(p3p009821
    ※ おまけSS『とあるカフェ店員の日誌より』付き

おまけSS『とあるカフェ店員の日誌より』

●次なる『美味しい』を、きっと

あの人は、美しい人だ。
初めてここに来た時は、思いの外……いや、かなりテンションが高くって、少しビックリはしたけれど。
美味しいものを素直に美味しいと言って、全身で喜びを噛み締めてくれる。そういうお客様は、店員としてもとても嬉しいんだ。

実際、『あの人と同じものを』と注文されるお客様も、これまでに何人かいた。
美味しい笑顔は、他の人の食べたいを引き出す最高の香辛料になる。

ティシエールの夏は、もうすぐ終わる。けれど夏が終わればじきに秋が来る。
ティシエールのお菓子は、いつも変わらぬ美味しさで僕達を喜ばせてくれるけれど、季節が変われば、また違った組み合わせを楽しむ事ができる。

だから、ああいうお客様がまた来てくれるように。
もっと多くのお客様が喜んでくれるように。僕達も、この街の美味しいものを伝えていこう。

さて、来たるべき秋には、どんなものを作ろうか。
見た目が楽しいだけでなく、皮までぷりっと美味しく味わえるような、葡萄やマスカットのパフェを作ってみようか。
あの娘がほっと癒やされるように、ほっこりサツマイモや、栗のスイーツを考えてみるか。

……またしばらくは、商品開発で忙しくなるぞ。

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